〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

文字の大きさ
2 / 61
1.伯爵令嬢リンシアが幸せになるには

2話:機嫌は自分で取るもの

しおりを挟む
証拠は撮れた。
私は魔道具を切った。

これは、前世の記憶を取り戻してから作った、いわゆる動画ビデオである。

この世界では、動画を撮るのはかなり手間がかかる。
まず初めに、魔法のカメラとそれに応じたレコードを用意しなければならない。
そして、魔法のカメラで動画を撮り、音声はレコードで回収する……という、超絶めんどくさい仕様なのである。

記憶を取り戻した私が一番に思ったのは、まず、初めに証拠作り!!である。

我が国に突如として現れた聖女、セリーナ。
彼女の魅力に、高位貴族令息はすぐにメロメロになった……らしい。

彼女の出現時期(こう言うとモンスターのようだけど)、私は他国にいたので実際目にした訳では無い。

(だけど、友人の話によると、セリーナはあっという間に紳士方を虜にしてしまったらしいわ。既婚未婚問わず)

結果として、今のような状況──つまり、セリーナの爆モテブームに繋がるのである。
元々彼女は、平民だった。
平民女性が、聖女の力を見出され、さらには公爵家の養女にまでなった。

何それ、どこかで聞いたようなお話ね、というのが初見の感想。

そして、帰国したその日。
婚約者はかなり気難しい顔で私を迎えに来たけれど、セリーナの話を持ち出した途端、彼の機嫌はさらに急降下を迎えた。

そしてあろうことか、

『君と話していると気が滅入る。今日はこれで失礼するよ』

と、会場に着いた途端、私を放置したのである。

放置したのよ!?
信じられる?少なくとも私は信じられなかった。

想定外の事態に直面した私は狼狽えたし、これからどうすべきか困惑もした。
泣きそうになっているところを、通りすがりの令嬢クララに助けられのだ。

話によると、彼女も似たような事情で婚約者に放置されたらしい。

『もう信じられないったら。こんなところでハイ、さようなら、なんて有り得る!?』

彼女は可愛らしくプンスカしていたが、その怒りは深いように見えた。
当然だわ。
こんなところで放ったらかしにするなんて、周りからどう思われるかも、彼らは考えていないのだ。

しかし、可愛らしく怒る彼女とは対照的に、私は自身の失態を咎められているような気持ちになった。

(私が至らなかったために、カミロは怒ってしまったんだわ……)

と自省する始末だった。
記憶を取り戻して思った。

(いい大人なら、約束くらい守りなさいよ!途中で放置なんて有り得ないわ!感情を優先して動くなんて、あなた本当に成人した大人なの!?)

少なくとも社会人なら有り得ない身勝手さである。
同伴エスコートを請け負っていたのに、気分を害したからはいさよなら……って、勝手すぎるにも程がある。
私はさらに思った。

(自分の機嫌すら自分で取れない人と一緒にいたって疲れるだけじゃない!!どうして私がそこまで面倒見なきゃならないのよ!?いい大人でしょあなた!!赤ちゃんじゃあるまいし!!)

バブーバブー泣く赤子なら分かる。
赤ちゃんは癇癪を起こして泣くのが仕事みたいなものだ。

だけど成人を迎えてなお、自分の機嫌ひとつ取れずに約束を反故にするのは、人としてどうなのかしら……!?

今でこそそう思うが、当時の私は自分に非があると思っていたので──メソメソしながら、彼女の兄にエスコートを担当してもらった。
クララには兄が2人いるのだ。

聖女がどうとかではない。
彼女はあくまできっかけに過ぎなかった。

どうせ、セリーナの件がなくても、カミロは似たようなことをしただろう。

第二のセリーナ、第三のセリーナが現れるだけだ。
前世の記憶を取り戻した私は、カミロと一緒になる未来なんて絶対に嫌だった。

一生、接待生活が約束されたようなものだもの。

私の人生は、私のものだ。
誰かに良いように使われるためのものでは無い。

カミロとの未来を考えただけで、強いストレスを覚える。

だからこそ、私は彼との婚約解消のため、証拠作りに必要なこの魔道具を開発した、のだけど──。

チラ、と隣に立つ男性を見る。

ルシアン・ルーズヴェルト。
雪のような銀髪と、青灰色の瞳が神秘的で、かつ目尻の黒子が色っぽいと、貴族令嬢やご婦人方から大変人気な公爵令息である。

(ま、聖女の取り巻きなんだけどね)

私からしたら、聖女に想いを寄せているという時点でマイナスである。

そのまま視線を逸らして、踵を返そうとすると──パッと手首を掴まれた。

「……!?」

驚いて声を上げそうになったけれど、すんでのところで押しとどめる。
向こうにはまだ、愛を語らうカミロとセリーナがいるからだ。

驚いて顔を上げると、ルーズヴェルト卿がちらりと向こう──2人がいるところとは反対の方向を視線で示した。

(ついてこい、ってことかしら……?)

それにしても止め方が乱暴だ。
このまま無理に振り払ってもいいけれど……。

(彼が何を思って乱入しなかったのかは気になるし……)

何より、声を出されたら困る。

今はまだ、彼らに気づかれるわけにはいかないのだから。
セリーナはただの貴族令嬢ではない。
彼女は聖女だ。
降って湧いた聖女の存在に、この国は沸き立っている。

(現場を抑えるだけでは甘いわ。言い逃れできない物的証拠と、それを是正する場が必要)

務めて冷静にそう考えた私は、ルーズヴェルト卿の誘いに乗ることにした。

そして、彼に促されてついていった先は回廊をぬけた先の裏庭だった。

穴場なのか、人気ひとけはない。

ルシアンが振り返り、私に問いかけた。

「なぜ、黙って見ておられたのです?割って入っていかなかったのですか?」

「私もお聞きしたいですわ。ルーズヴェルト卿。あなたは聖女の取り巻……んんッ、聖女様をお慕いしていらっしゃるのでしょう?あの場面を見て、何とも思いませんの?」

これは純粋な疑問だった。
首を傾げると、彼はあからさまに嫌そうな顔をする。
それから、短くため息を吐いて、答えた。

「あなたは、思っていたよりずっと冷静な人なのですね。もっと取り乱すかと思っていた」

「質問の答えになっていなくてよ」

さらに尋ねると、ルーズヴェルト卿の視線は、私の手元に落ちた。つまり、魔道具である。

「その質問に答える前に、聞いても?」

「何かしら」

「それは、魔法管理部に届けのあった記録機ですね。あなたは先程、それを使っていたように見えるが」

「……それを聞いて、卿はどうなさるの?」

「承認の降りていない魔道具の使用は王国法で禁じられています。上長に確認する必要がある」

杓子定規の言葉に私は肩を竦めた。
どうやら、ルーズヴェルト卿はお堅い人らしい。

「ご心配なく。こちらは、次の検証テストで提出する予定ですわ。あの場面を撮ってしまったのはただの偶然。私もびっくりしました」

流石にわざとらしいだろうか。

今日私は、カミロから約束を一方的にキャンセルされたので、その時間を使って魔道具申請に来ていたのだ。
それなのに、まさか城でカミロとセリーナの逢い引きを見てしまうとは……。

(もはやツイてるのかツイてないのか分からないわね……)

記憶を取り戻す前ならきっと、ツイていないと思っていただろう。
だけど、証拠集めやるべきことがある今は、幸運だったと思う。

私がそう思っていると、何か考え込んでいたらしいルーズヴェルト卿がふと顔を上げた。
彼の青灰色の瞳が私を見つめる。

「では、リンメル伯爵令嬢。あなたの才を見込んで、ひとつ提案があります」

「……何でしょう?」

再び首を傾げる。
すると、ルーズヴェルト卿は思ってもみないことを口にした。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

処理中です...