〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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1.伯爵令嬢リンシアが幸せになるには

6話:婚約は破棄しましょう?

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しかも、カミロは勝手知ったる我が家と言わんばかりに、勝手にサロンに向かってしまったらしい。

「今からでも追い返しますか……?」

恐縮しながら言うフローラだが、その目は本気だ。
止めなかったら彼女は本気でやる。そう思った私はため息を吐いて彼女に言った。

「いいわ。でも、私にも支度があるもの。時間がかかるのは仕方ないわよね」

私の言葉に、フローラは何度もうんうんと頷く。

「お嬢様はお優しすぎるのですわ。カウニッツ伯爵令息は確かに見目麗しい方ですが……私は嫌いです」

「フローラ」

誰に聞かれるともしれない廊下だ。婚約者の悪口を言ったと知られれば、彼女の立場が悪くなる。私が咎めると、フローラは口を噤んだ。

「あの方は、いつもお嬢様を悲しませてばかり。ドタキャン常習犯ですし……」

「そうね。私もそれはどうかと思うの。……だから、大丈夫よ。ちゃんと考えているわ」

私の言葉に、フローラはパァッと明るい顔をした。それから、ハッとなにかに気がついたように悲しげな顔になる。

彼女は、くるくるとした茶髪をシニヨンにまとめ、キラキラとしたエメラルドのような緑の瞳をしている。
可愛らしい顔立ちには薄いソバカスが目立つが、くるくると変わる表情は親しみがあって、私は彼女──フローラが好きだった。

昔から、フローラは自分の事のように私のことを喜んだり、悲しんだりしてくれた。
カミロのことだってそうだ。

フローラは、眉尻を下げて私に言った。

「お嬢様……。お嬢様はとってもお可愛いらしいですわ!それにあのエルドラシア魔法学院を一年で卒業された才女でもあります!!引く手あまたですわ。あんな、持ちあげてもらわないと気持ちよくなれない男などお嬢様の方から捨ててしまえばよろしいのです!」

「フローラ……!シーッ!」

どんどん声が大きくなるフローラに慌てて、私は口元に人差し指を当てた。
それから、苦笑して彼女に答える。

「ありがとう。嬉しいわ」

魔法学院を一年で卒業した──それも、カミロからしたら、マイナスにしかならないらしい。
『鼻持ちならない女』と貶されたのは記憶に新しい。

貴族の娘が魔法学など学んでどうするのか、と彼は言った。

(賢しらげな女は嫌いなのですって。……そんなの知ったこっちゃないけど)




そのまま、自室に戻り支度を整えてからサロンに向かうと、案の定カミロは腹を立てていた。

彼は私の姿を認めると、すぐに席を立ち、怒鳴りつけてきた。

「遅い!何をしていたんだ!?」

「何って、支度だけど?」

「何時間待たせる気だ!?僕の時間を無駄にする気か!?」

「先触れもなく、突然訪問したのはそちらでしょう?こちらにも都合というものがあるわ」

ピシャリと言い返すと、想定外だったのかカミロは目を丸くした。
それから得体の知れないものを見るような目を私に向けてくる。

「……何?」

「だから、私にも都合があるわ。当然でしょう?それで、本日のご要件は何かしら」

彼の対面に腰を下ろすと、私はカミロを見つめた。

フローラの言う通り、カミロは綺麗な顔立ちをしている。
お母様譲りなのか、まつ毛は長いし、目も大きくぱっちりとしている。
夕日をそのまま落とし込んだかのような、赤い髪の毛に、同色の瞳。
彼の性格を知らない令嬢たちはカミロに恋焦がれ、あからさまに私に敵対心を見せてくることもあった。
欲しいなら、熨斗をつけて差し上げるというものだけど。
私の冷たい眼差しに、カミロは一瞬怯んだらしい。
だけど直ぐに持ち直したようで、舌打ちをして、話を切り出した。

「セリーナに意地の悪いことを言ったらしいな」

「何の話?」

もしかして先程の、追放してやるという話だろうか。
そもそも私、彼女とまともに話したことすらないのだけど。
私の素っ気ない反応に、カミロは苛立った様子を見せた。
だけど私も、いつものようにご機嫌伺いをする気はなかった。

「平民の成り上がり者、と蔑んだと聞いているが?」

「ふたつ、よろしいかしら」

どうやら、結婚式のウェディングドレスの打ち合わせは方便だったらしい。
用件は、ただの抗議か。

(……くだらない)

来るんじゃなかったわ。フローラの言うように追い返すことは難しくとも、仮病を使ってしまえばよかった。
そう思った私は「まず1つ目に」と人差し指を立てた。

「仮に、私がそう言ったところでなにか問題が?彼女が平民だったのも、平民から公爵令嬢まで成り上がったのも、事実じゃない」

「ッ──!!言い方に悪意が!!あると言ってるんだよ!」

「そう。それであなたは、彼女に泣きつかれて、抗議しにきたのね。あなたは、『恋人を泣かせるな』、と婚約者の私に、仰るのね?」

関係性を明確化すれば、流石のカミロも押し黙った。
だけど彼は直ぐに、責任転嫁した。もちろん私にだ。

「君が悪いんだろう!?これで何回目だ!?何回言えば、お前は分かるんだ!!セリーナを悲しませるなと言ってるだろう!」

そして彼は、セリーナが恋人であることを否定しなかった。
それを聞いた私はひとつ、ある案を思いついた。
首を傾げ、彼に問い返す。

「何回目?それは私が聞きたいわね。一体、いつまで私はこの馬鹿げた演技にお付き合いすればいいのかしら。ねえ、カミロ。ちょうどいいわ。私もあなたにお話があるの」

当主からの婚約解消、あるいは破棄の打診が望めないなら──婚約者本人をけしかけるのは、どうかしら?

ふと閃いた案だったけど、試すのは悪くない気がした。
そう思った私は、そのままにっこりと笑みを浮かべ、彼に尋ねた。

「そんなにも彼女が好きなら、私との婚約は破棄しましょう?」

「…………は?」

カミロの目が見開かれた。

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