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1.伯爵令嬢リンシアが幸せになるには
8話:最終試験
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私が記憶を取り戻すきっかけになったのは、帰国してすぐの夜会。
つまり、カミロに置いていかれ、クララに兄を紹介してもらって事なきを得たあの夜のことだ。
会場に入ると、それぞれ挨拶回りがあるのでクララのお兄様とは別れ、そこで私は見つけたのだ。
私の婚約者のカミロと、貴族令息たちに囲まれる女性──恐らくあれが、セリーナだろう。
瞬間、私は思った。
(わぁっ!まるで乙女ゲーみたいだわ!)
と。
そして次の瞬間、首を傾げたのだ。
あら?乙女ゲーって何かしら?
怒涛のように記憶が流れ込んできた。それはさながら走馬灯のようだった。
幸い、と言っていいのかしら……。
壁の花と化している私に話しかけてくる紳士もおらず、私は十分に記憶の整理を行うことができた。
そして、記憶を整理し、落ち着いた頃、私は内心ため息を吐く。
(セリーナは乙女ゲーヒロインじゃないわ……)
乙女ゲーのヒロインはみな、優しくておおらかで、心が広い。決して、セリーナのような悪評高い女ではない。
乙女ゲーのヒロインは、つまり、ユーザー自身なのだ。
自己投影しやすいように、感情移入しやすいようにと、あらゆる企業努力を重ねたヒロイン像である。
(あんな女性受け悪いヒロインがいてたまるかっていうのよ……!!)
元乙女ゲー愛好家としてそう思う。
つい、男性陣に取り囲まれてらキラキラしている様子から、瞬間的に乙女ゲーと連想づけてしまったが、彼女は違うだろう。
前世の記憶を取り戻したことで、私は最大の悩み事──つまり、カミロの件に対して、今までとは違う感情を抱いていた。
(こんなに馬鹿にされて、邪険にされてまで、耐えなければならない理由って、何かしら?)
前世の記憶を取り戻したが、以前の私の記憶が完全になくなってしまったわけではない。
私にはこんなにやりたいことがある。
夢があるし、希望がある。
記憶を取り戻した夜から、私はお父様に文官登用試験を受けたいと掛け合うよになった。
そして最終的にはお父様が折れた。受験を承認してくれたのだ。認めてくれなければ、家を出ると豪語したのが大きかったのかもしれない。
(文官登用試験にさえ合格してしまえば、ひとりで生きていくくらい何とかなるもの)
何せ、城勤めの文官のお給金はとてもいい。
贅沢しなければ、問題なく市井で暮らしていける金額だ。
そうやって漕ぎ着けた文官登用試験。
毎年、魔法管理部の合格者は片手の数にも満たないらしい。
文官登用試験の筆記テストは問題なくクリア出来ても、その後の検証テストで躓くという。
そしてこの検証テスト。
国の重鎮である錚々たるメンバーが揃うのだ。
魔法管理部というのは、国の魔法技術を預かる部署だ。国防を担うこともある。
国益に大きく影響を与える部署なので、最終試験である検証テストでは、試験監督として国王陛下からびに、各大臣が揃う。
そして、魔法管理部の最終試験は、見物が可能である。
(ちなみに陸軍や海軍の最終試験も見物可能だ。そちらの見学もとても人気である)
競技場に向かうと、そこには、既にたくさんの見物人がはいた。
伯爵令嬢が魔法管理部の最終試験にまで進んだ例が過去になかったというのもあり、みな興味津々なのだろう。
中には、顔見知りの令嬢の姿もあり、私と目が合うと手を振ってくれた。
(あら、クララもいるわ)
彼女は、兄ふたりと一緒のようで、私と目が合うとにっこり笑ってくれた。
頑張って!と励ましの声が聞こえてくるような気がする。
それに私は頷きを返して──見物席から少し離れた、要職の席を確認する。
そこには何人かの大臣の姿が見えた。
開始時刻まで、あと十分。
顔を上げると、澄み渡った鮮やかな青い空が目に入った。清々しい、秋の空だ。
席に向かうと、対面の席には魔法管理部長のレイチェル・ローゼンベルクが座っていた。
柔らかな銀髪を後ろでひとつに括っている女性だ。彼女は私と目が合うと、頷いて見せた。
リラックスして、ということだろう。
前世でも、こんな場面は沢山あった。例えば、就活とか、卒論とか、プレゼンとか。
あれに比べれば、何を話せばいいのかハッキリしているし、魔法学は得意分野だ。
問題があるとしたら──
ひとつ息を吐いたところで、魔法管理部長が、開始時刻になったことを伝える。
「では、今から検証テストを始めます。リンシア・リンメル。まずは、自己紹介からお願いできますか?」
顔を上げると、席には王太子殿下と、その補佐であるフェリクス・フェルスター。
そして先日お会いしたルシアン・ルーズヴェルトもいた。
私は、他の人には気づかれない程度に、彼に笑みを見せた。
ルーズヴェルト卿は気がついたようで、僅かに目を見開いたのが、見て取れた。
「……お初にお目にかかります。リンシア・リンメルと申します。去年、エルドラシア魔法学院を卒業しました。本日、私がお持ちした魔道具は【光景を記録すること】が可能です。こちらを、ご覧ください」
(さあ、ショーのスタートよ)
お父様が婚約破棄に乗り気でないなら……
カミロが婚約破棄したくないなら……
正攻法での婚約破棄は諦める。
(その変わり、ちょっと乱暴な手段になってしまうのは、許してちょうだいね)
私はそう思いながら、魔道具に魔力を込めた。
瞬間、淡い光がその場にほとばしる──。
スクリーンのように、その場に現れたのは、先日の王城での出来事だった。
カミロとセリーナが私を罵倒し、婚約破棄してやる!と意気込むところまでバッチリ、記録されている。
そんなものが突然流れたのだから、会場の空気は混乱に陥った。
「きゃあああ!」
「止めろ!ひとまずあれを止めさせろ!」
「何あれ!?聖女様は一体……!」
最悪なことにその場には、国の重鎮たる大臣や陛下、そして貴族の姿まであるのだ。
令嬢たちも多いので、明日には社交界中の噂になっていることだろう。
つまり、カミロに置いていかれ、クララに兄を紹介してもらって事なきを得たあの夜のことだ。
会場に入ると、それぞれ挨拶回りがあるのでクララのお兄様とは別れ、そこで私は見つけたのだ。
私の婚約者のカミロと、貴族令息たちに囲まれる女性──恐らくあれが、セリーナだろう。
瞬間、私は思った。
(わぁっ!まるで乙女ゲーみたいだわ!)
と。
そして次の瞬間、首を傾げたのだ。
あら?乙女ゲーって何かしら?
怒涛のように記憶が流れ込んできた。それはさながら走馬灯のようだった。
幸い、と言っていいのかしら……。
壁の花と化している私に話しかけてくる紳士もおらず、私は十分に記憶の整理を行うことができた。
そして、記憶を整理し、落ち着いた頃、私は内心ため息を吐く。
(セリーナは乙女ゲーヒロインじゃないわ……)
乙女ゲーのヒロインはみな、優しくておおらかで、心が広い。決して、セリーナのような悪評高い女ではない。
乙女ゲーのヒロインは、つまり、ユーザー自身なのだ。
自己投影しやすいように、感情移入しやすいようにと、あらゆる企業努力を重ねたヒロイン像である。
(あんな女性受け悪いヒロインがいてたまるかっていうのよ……!!)
元乙女ゲー愛好家としてそう思う。
つい、男性陣に取り囲まれてらキラキラしている様子から、瞬間的に乙女ゲーと連想づけてしまったが、彼女は違うだろう。
前世の記憶を取り戻したことで、私は最大の悩み事──つまり、カミロの件に対して、今までとは違う感情を抱いていた。
(こんなに馬鹿にされて、邪険にされてまで、耐えなければならない理由って、何かしら?)
前世の記憶を取り戻したが、以前の私の記憶が完全になくなってしまったわけではない。
私にはこんなにやりたいことがある。
夢があるし、希望がある。
記憶を取り戻した夜から、私はお父様に文官登用試験を受けたいと掛け合うよになった。
そして最終的にはお父様が折れた。受験を承認してくれたのだ。認めてくれなければ、家を出ると豪語したのが大きかったのかもしれない。
(文官登用試験にさえ合格してしまえば、ひとりで生きていくくらい何とかなるもの)
何せ、城勤めの文官のお給金はとてもいい。
贅沢しなければ、問題なく市井で暮らしていける金額だ。
そうやって漕ぎ着けた文官登用試験。
毎年、魔法管理部の合格者は片手の数にも満たないらしい。
文官登用試験の筆記テストは問題なくクリア出来ても、その後の検証テストで躓くという。
そしてこの検証テスト。
国の重鎮である錚々たるメンバーが揃うのだ。
魔法管理部というのは、国の魔法技術を預かる部署だ。国防を担うこともある。
国益に大きく影響を与える部署なので、最終試験である検証テストでは、試験監督として国王陛下からびに、各大臣が揃う。
そして、魔法管理部の最終試験は、見物が可能である。
(ちなみに陸軍や海軍の最終試験も見物可能だ。そちらの見学もとても人気である)
競技場に向かうと、そこには、既にたくさんの見物人がはいた。
伯爵令嬢が魔法管理部の最終試験にまで進んだ例が過去になかったというのもあり、みな興味津々なのだろう。
中には、顔見知りの令嬢の姿もあり、私と目が合うと手を振ってくれた。
(あら、クララもいるわ)
彼女は、兄ふたりと一緒のようで、私と目が合うとにっこり笑ってくれた。
頑張って!と励ましの声が聞こえてくるような気がする。
それに私は頷きを返して──見物席から少し離れた、要職の席を確認する。
そこには何人かの大臣の姿が見えた。
開始時刻まで、あと十分。
顔を上げると、澄み渡った鮮やかな青い空が目に入った。清々しい、秋の空だ。
席に向かうと、対面の席には魔法管理部長のレイチェル・ローゼンベルクが座っていた。
柔らかな銀髪を後ろでひとつに括っている女性だ。彼女は私と目が合うと、頷いて見せた。
リラックスして、ということだろう。
前世でも、こんな場面は沢山あった。例えば、就活とか、卒論とか、プレゼンとか。
あれに比べれば、何を話せばいいのかハッキリしているし、魔法学は得意分野だ。
問題があるとしたら──
ひとつ息を吐いたところで、魔法管理部長が、開始時刻になったことを伝える。
「では、今から検証テストを始めます。リンシア・リンメル。まずは、自己紹介からお願いできますか?」
顔を上げると、席には王太子殿下と、その補佐であるフェリクス・フェルスター。
そして先日お会いしたルシアン・ルーズヴェルトもいた。
私は、他の人には気づかれない程度に、彼に笑みを見せた。
ルーズヴェルト卿は気がついたようで、僅かに目を見開いたのが、見て取れた。
「……お初にお目にかかります。リンシア・リンメルと申します。去年、エルドラシア魔法学院を卒業しました。本日、私がお持ちした魔道具は【光景を記録すること】が可能です。こちらを、ご覧ください」
(さあ、ショーのスタートよ)
お父様が婚約破棄に乗り気でないなら……
カミロが婚約破棄したくないなら……
正攻法での婚約破棄は諦める。
(その変わり、ちょっと乱暴な手段になってしまうのは、許してちょうだいね)
私はそう思いながら、魔道具に魔力を込めた。
瞬間、淡い光がその場にほとばしる──。
スクリーンのように、その場に現れたのは、先日の王城での出来事だった。
カミロとセリーナが私を罵倒し、婚約破棄してやる!と意気込むところまでバッチリ、記録されている。
そんなものが突然流れたのだから、会場の空気は混乱に陥った。
「きゃあああ!」
「止めろ!ひとまずあれを止めさせろ!」
「何あれ!?聖女様は一体……!」
最悪なことにその場には、国の重鎮たる大臣や陛下、そして貴族の姿まであるのだ。
令嬢たちも多いので、明日には社交界中の噂になっていることだろう。
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