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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい
1話:過労死目前
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「魅了?」
王太子殿下の言葉を繰り返してから、私はある推測に至り、絶句した。
(まさか、セリーナが所持してると思われる違法魔道具って……)
目を見開くと、先程同様、私の推測を察したのだろう。王太子殿下が頷いて答えた。
「我々は、彼女が所有、ないし使用している違法魔道具の効果を【魅了】の類だと思っている。それも、特定の相手に対してのみ、発動するような。……聞いたことは無い?」
「ありませんわ……。私はエルドラシアで魔道具作りを専門に学んでおりましたが、管理はまた別ですもの」
答えると、王太子殿下はため息を吐いた。
「そうか……。ま、そう簡単にはいかないだろうなとは思ってたけど」
それから、彼は思い出したようにフェルスター卿に言った。
「ああ、そうだ。すまない、お茶の用意すらしてなかったね。フェリックス、淹れてあげて」
「えっ」
その言葉に驚いたのは私だ。
(公爵令息手ずから淹れるの…….!?)
お茶を!?公爵令息が!?
貴族が自らお茶を淹れるなんて聞いたことがない。よほどの変わり者か、凝り性くらいのものだ。
フェルスター卿はそのどちらも当てはまらないような気がする。
戸惑っていると、指名を受けたフェルスター卿は慣れたように席を立った。
そして、軽い口調で私に尋ねる。
「いいよ~~。レディ・リンシア。あなたは苦手なものはある?酸っぱいのは嫌、とか」
フェルスター卿とは、今までまともに話したことがなかったのに、それを感じさせない砕けた声色だった。目を瞬いていると、フェルスター卿の隣で、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。
「レディ・リンシア。すみません。彼は誰に対してもこうなんです。お気になさらず」
「え、ええ……」
「レディ・リンシア。長いよね。リンシアって呼んでいい?」
「フェリックスが彼女の次の婚約者になるならいいんじゃない?」
(は……!?)
トントン拍子で会話が進み、言葉を差し込む暇もない。
だけど王太子殿下の今の言葉は、水を向ける、というより、牽制しているようだった。
責任も取れないのに、令嬢の名を気安く呼ぶな、という類の。その言外のメッセージをしっかり受け取ったのだろう。
フェルスター卿は肩を竦めて答えた。
「やめやめ!彼女と僕じゃ釣り合わないからね。レディ・リンシアは高嶺の花だし。……というわけで、レディ・リンシア?苦手なものは?」
「あ、ありませんけど……」
「よし。じゃあローズヒップティーにしよう。女の子に人気なんだよね、あれ」
フェルスター卿はうんうんと頷くと、そのまま従僕に茶葉を用意するよう命じた。それを横目に、ため息交じりに王太子殿下が言った。
「……私は苦手なんだけど」
「王太子殿下たるもの、好き嫌いは良くないですよ~」
またしても間延びした返事をするフェルスター卿を見て、私は面食らう。
社交界で見るこの3人は、もっとしっかりした印象だったけど……思ったより……
(自由……?)
大学のサークルのような緩い雰囲気がある。
戸惑っていると、ルーズヴェルト卿と目があった。彼は肩を竦めて苦笑した。
「フェリックスは軟派な男ですが、仕事はちゃんとする男なんですよ、これでも。じゃなきゃ縁を切っています」
「これでもってなんだよ?酷いなぁ」
「そうだね……君ほど誤解されやすい人を私も知らない。ファルクの役に立ちたいからと、実際はかなりの家族思いなのにね?」
苦手な紅茶を淹れられるから、その仕返しだろうか。王太子殿下はいたずらっぽくフェルスター卿を見た。
(ファルク──そういえば、フェルスター卿のお兄様の名前が、そんなだった気がするわ……)
まあ、と口に手を当てると、からかわれたと思ったのか、フェルスター卿が肩を竦めた。
「さあ、どうかな。そんなことより、レディ・リンシア。聖女の件について何か聞きたいことは?」
水を向けられて、私は先程から引っかかっていた疑問を思い出した。
フェルスター公爵家兄弟の話も気になるが、今はそれよりも重要なことがある。
私は頷くと、王太子殿下を見て尋ねた。
「では……王太子殿下、ひとつ、質問をよろしいですか?」
「何かな?なんでも聞いてくれて構わないよ」
なんでも……というのは、一体どこまでを指すのだろう。
ひとまず、これくらいは構わないでしょう、と考えながら私は王太子殿下の瞳を見つめて尋ねた。
「王太子殿下は、聖女様を疑っていらっしゃるようですが……なにか、そう思わせるようなことがあったのですか?」
セリーナを疑うようになった、その背景が気になる。
平民が公爵家の養女となる。
その時点でだいぶ怪しいし、裏があるのでは、と考えてもおかしくない。
(けど、だからといって違法魔道具に結びつけるのは、少し飛躍しているように思えるわ……)
だから、何かあると思ったのだ。
セリーナを疑わざるを得ない、決定的な出来事が。
私の言葉に驚いたのか、王太子殿下は僅かに目を見開いた。
「鋭いね、レディ・リンシア」
「これくらいは、誰でも気になることだと思いますわ」
「そうかなぁ。あなたは、私が考える以上の人材だよ。いやーほんと、ルシアンはいい仕事をしてくれた!ね」
にっこりと笑みを浮かべる王太子殿下に、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。うんざりしたように。
「……あのな、ヴィンセント。城にはやる気のある無能か、やる気のない凡才しかいないんだ。それが問題なんだよ」
「私の代では何とかしたいよね。父上も頭を抱えている」
「……あの」
私の質問が置き去りにされているようで、声をかけると、王太子殿下がパッとこちらを向いた。それから困ったように笑い、彼は言った。
「ああ、すまない。誤魔化してるわけじゃないんだ。あなたには知る権利がある。何せ、あなたは晴れて聖女対策本部の一員になったのだから」
(ああ……最初に言ってた、過労死目前ってやつの……)
い、嫌すぎる……。嫌すぎるわ……!!
過労死目前の対策本部って何かしら!?
思わず、顔がひきつった。王太子殿下は間違いなく気がついているはずなのに、こんな時ばかりスルーした。
王太子殿下の言葉を繰り返してから、私はある推測に至り、絶句した。
(まさか、セリーナが所持してると思われる違法魔道具って……)
目を見開くと、先程同様、私の推測を察したのだろう。王太子殿下が頷いて答えた。
「我々は、彼女が所有、ないし使用している違法魔道具の効果を【魅了】の類だと思っている。それも、特定の相手に対してのみ、発動するような。……聞いたことは無い?」
「ありませんわ……。私はエルドラシアで魔道具作りを専門に学んでおりましたが、管理はまた別ですもの」
答えると、王太子殿下はため息を吐いた。
「そうか……。ま、そう簡単にはいかないだろうなとは思ってたけど」
それから、彼は思い出したようにフェルスター卿に言った。
「ああ、そうだ。すまない、お茶の用意すらしてなかったね。フェリックス、淹れてあげて」
「えっ」
その言葉に驚いたのは私だ。
(公爵令息手ずから淹れるの…….!?)
お茶を!?公爵令息が!?
貴族が自らお茶を淹れるなんて聞いたことがない。よほどの変わり者か、凝り性くらいのものだ。
フェルスター卿はそのどちらも当てはまらないような気がする。
戸惑っていると、指名を受けたフェルスター卿は慣れたように席を立った。
そして、軽い口調で私に尋ねる。
「いいよ~~。レディ・リンシア。あなたは苦手なものはある?酸っぱいのは嫌、とか」
フェルスター卿とは、今までまともに話したことがなかったのに、それを感じさせない砕けた声色だった。目を瞬いていると、フェルスター卿の隣で、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。
「レディ・リンシア。すみません。彼は誰に対してもこうなんです。お気になさらず」
「え、ええ……」
「レディ・リンシア。長いよね。リンシアって呼んでいい?」
「フェリックスが彼女の次の婚約者になるならいいんじゃない?」
(は……!?)
トントン拍子で会話が進み、言葉を差し込む暇もない。
だけど王太子殿下の今の言葉は、水を向ける、というより、牽制しているようだった。
責任も取れないのに、令嬢の名を気安く呼ぶな、という類の。その言外のメッセージをしっかり受け取ったのだろう。
フェルスター卿は肩を竦めて答えた。
「やめやめ!彼女と僕じゃ釣り合わないからね。レディ・リンシアは高嶺の花だし。……というわけで、レディ・リンシア?苦手なものは?」
「あ、ありませんけど……」
「よし。じゃあローズヒップティーにしよう。女の子に人気なんだよね、あれ」
フェルスター卿はうんうんと頷くと、そのまま従僕に茶葉を用意するよう命じた。それを横目に、ため息交じりに王太子殿下が言った。
「……私は苦手なんだけど」
「王太子殿下たるもの、好き嫌いは良くないですよ~」
またしても間延びした返事をするフェルスター卿を見て、私は面食らう。
社交界で見るこの3人は、もっとしっかりした印象だったけど……思ったより……
(自由……?)
大学のサークルのような緩い雰囲気がある。
戸惑っていると、ルーズヴェルト卿と目があった。彼は肩を竦めて苦笑した。
「フェリックスは軟派な男ですが、仕事はちゃんとする男なんですよ、これでも。じゃなきゃ縁を切っています」
「これでもってなんだよ?酷いなぁ」
「そうだね……君ほど誤解されやすい人を私も知らない。ファルクの役に立ちたいからと、実際はかなりの家族思いなのにね?」
苦手な紅茶を淹れられるから、その仕返しだろうか。王太子殿下はいたずらっぽくフェルスター卿を見た。
(ファルク──そういえば、フェルスター卿のお兄様の名前が、そんなだった気がするわ……)
まあ、と口に手を当てると、からかわれたと思ったのか、フェルスター卿が肩を竦めた。
「さあ、どうかな。そんなことより、レディ・リンシア。聖女の件について何か聞きたいことは?」
水を向けられて、私は先程から引っかかっていた疑問を思い出した。
フェルスター公爵家兄弟の話も気になるが、今はそれよりも重要なことがある。
私は頷くと、王太子殿下を見て尋ねた。
「では……王太子殿下、ひとつ、質問をよろしいですか?」
「何かな?なんでも聞いてくれて構わないよ」
なんでも……というのは、一体どこまでを指すのだろう。
ひとまず、これくらいは構わないでしょう、と考えながら私は王太子殿下の瞳を見つめて尋ねた。
「王太子殿下は、聖女様を疑っていらっしゃるようですが……なにか、そう思わせるようなことがあったのですか?」
セリーナを疑うようになった、その背景が気になる。
平民が公爵家の養女となる。
その時点でだいぶ怪しいし、裏があるのでは、と考えてもおかしくない。
(けど、だからといって違法魔道具に結びつけるのは、少し飛躍しているように思えるわ……)
だから、何かあると思ったのだ。
セリーナを疑わざるを得ない、決定的な出来事が。
私の言葉に驚いたのか、王太子殿下は僅かに目を見開いた。
「鋭いね、レディ・リンシア」
「これくらいは、誰でも気になることだと思いますわ」
「そうかなぁ。あなたは、私が考える以上の人材だよ。いやーほんと、ルシアンはいい仕事をしてくれた!ね」
にっこりと笑みを浮かべる王太子殿下に、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。うんざりしたように。
「……あのな、ヴィンセント。城にはやる気のある無能か、やる気のない凡才しかいないんだ。それが問題なんだよ」
「私の代では何とかしたいよね。父上も頭を抱えている」
「……あの」
私の質問が置き去りにされているようで、声をかけると、王太子殿下がパッとこちらを向いた。それから困ったように笑い、彼は言った。
「ああ、すまない。誤魔化してるわけじゃないんだ。あなたには知る権利がある。何せ、あなたは晴れて聖女対策本部の一員になったのだから」
(ああ……最初に言ってた、過労死目前ってやつの……)
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