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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい
8話:お返しは何倍にもして返すのが礼儀です
しおりを挟む登城すると、執務室にいたのはルーズヴェルト卿1人だった。
王太子殿下は不在のようだ。ルーズヴェルト供は本棚の前に立って、分厚い冊子を手にしている。
彼は私に気がつくと、軽く会釈した。
そして、パタンと冊子を閉じながら言った。
「王太子殿下であれば、まだ仮眠中です。あと十分程度で起きてくると思いますが……起こしますか?」
「いいえ。お疲れなのでしょう?お忙しい時に押しかけてしまって申し訳ありません」
「気にしないでください。多忙なのはあなたも同じでしょう」
ルーズヴェルト卿は短くそういうと、顔を上げた。
「では、ちょうどいいので例の件の報告をしてもいいでしょうか?」
「……進捗がありましたの?」
私の問いかけに、ルーズヴェルト卿は頷いて答えた。そして、その手に持っていた冊子を私に手渡してくる。
例の件──とは、ひとつしかない。
私が王太子殿下に依頼し、彼がルーズヴェルト卿に調査を命じた、例のアレだ。
私は冊子を受け取るとページを捲った。
(なっ……)
思わず、目を見開く。顔を上げると、ルーズヴェルト卿が眉を寄せ、難しそうな顔をしていた。さながら、常習的に現れる万引き犯に手を焼いている店主のような顔である。
「これ──」
書類に書かれた内容を示すと、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。
「軽く調査しただけでこれです。出るわ出るわ、汚職の数々。今までこんなにも見逃していたのかと思うと頭が痛くなる思いですよ」
(そりゃあそうよね)
そう思ったが、まさか同意するわけにもいかない。
なぜなら彼に手渡された冊子には、カウニッツ伯爵家の関与が疑われる犯罪が、リストとして記載されているからだ。
カウニッツ伯爵は、悪どいことをしているどころか、かなりの極悪人だったようだ。
(賄賂、脱税、密売……ええ!?嘘でしょう!?)
カウニッツ伯爵家は叩けば叩くほどホコリが出る有様で、人身売買にまで関わっているようだった。最悪すぎる。
ルーズヴェルト卿の言う通り、こんなものを目にしたら普通の文官ならまず卒倒するだろう。その後始末を考えただけで、胃痛を覚えるというものだ。
(まあ、余罪があるのは予想通り、だけど)
でも流石にこの数は、想定外だわ……。
私は、リスト化された犯罪疑義の数々に、思わず顔を引き攣らせた。
悪どい手段を使って、リンメル伯爵家を貶めたカウニッツ伯爵家。その手口は実に鮮やかだったわ。まるで、手馴れているかのように。
だから、思ったのだ。
カウニッツ伯爵家の詐欺まがいの行為は、今回が初めてではないのではないかしら?って。
そう考えた私は、王太子殿下に進言したのだった。
『それと──王太子殿下。とても恐れ多いことなのですか私からもひとつ、よろしいでしょうか』
先日、執務室で私が彼に伝えた言葉。
それは──
『カウニッツ伯爵家を調べてくださいませ。カウニッツ伯爵は、相当悪どいことをしているはずですわ』
そう言って、私はその後、リンメル伯爵家とカウニッツ伯爵家の間で結ばれた契約書の話をした。
やたら長い契約書の最後に、極小の文字で書かれた変動型の金利率。
カウニッツ伯爵は意図的に文字を小さくし、分かりにくくしたのだろう。そして、見落としを狙って、最下部に段階金利契約の文言を記載した。
(……まあ、気付かないお父様もお父様なのだけどね!!)
そんな甘ちゃんでよく今まで、騙されずに来たものだと思う。もっと早くにカウニッツ伯爵と知り合っていたら、今頃お父様は爵位どころか命以外の全てを奪われ、明日をもしれぬ生活を送っていたことだろう。
タイミングが良かったのか、悪かったのか……。
カウニッツ伯爵の手口はあまりに悪質で、そして手馴れていた。
間違いなく、他にも被害者がいるはずだ。
そう思って、王太子殿下に掛け合ったのだけど──思った以上に早く、ルーズヴェルト卿はカウニッツ伯爵の尻尾を掴んだようだった。
顔を上げると同時に、ルーズヴェルト卿が言葉を続けた。
「今は裏取りの最中ですが、この数です。王族でも、この数を完全にもみ消すのは難しい。物的証拠も、すぐに出てくると思いますよ」
「ありがとうございます。流石、王太子殿下の側近ですわね。短期間でここまで掴むなんて、驚きましたわ……」
正直な気持ちを吐露すると、ルーズヴェルト卿が苦笑した。
「散々こき使われてますからね。この手のことには慣れています。明確な期限が決められていない分、気も楽ですしね」
彼の、本気とも冗談ともつかない言葉に、私は曖昧に笑みを返した。
それから彼に冊子を返す。
「……では、これを宮廷裁判所に提出するのは、もう少しだけ待っていただけませんか?」
私の言葉に、ルーズヴェルト卿が目を丸くした。
それから、訝しむように私を見る。
「……理由をお聞きしても?」
「物事には最良のタイミング、というものがあるからですわ。私はこれを最大限有効活用するために、絶好の場でこれをお披露目します。そう、あなたにお約束しますわ」
私はにっこりと笑って見せた。
(エリオノーラを金蔓扱いしたんですもの。相応の報いは、受けてもらおうじゃない?)
簡単に終わらせるはずがない。
妹を無碍に扱い、モノ扱いしたのだ。
姉として、相応のお返しはしなければならない……というものでしょう?
きっと、今の私は令嬢らしからぬ顔をしている。子供に見られたら「怖い!」と泣かれるような、そんな目付きになっていることだろう。
(自覚はあるわ。だって、お父様に何度となく言われてきたもの)
目に力を込めるとどうしても私は、相手を威圧するような、そんな凄みが出てしまうらしい。つまり、目つきが悪いのだろう。
だから今まで私は(カミロ相手には特に)気をつけてきたのだけど──もう、取り繕うことはできなかった。
私の言葉に、ルーズヴェルト卿は困惑した様子だった。
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