〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

10話:曖昧な条件では絞り込めません

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王太子殿下が目を瞬いて私に尋ねた。

「……随分と早いね?あなたの魔法管理部への合格が決まってからまだ一ヶ月だ。すぐに手紙を出したとしても、まだ向こうに着いたあたりのはず。……魔道具が関連しているのかな?エルドラシアは、魔法大国だしね」

好奇心を刺激されるのだろう。王太子殿下は目を煌めかせている。それに私は頷いて答えた。

「はい。魔法学院でお世話になった教授……マリア先生は、魔道具科の専門。つまり、王太子殿下のお言葉をお借りすると『その道のエキスパート』ですわ」

私はイタズラっぽく言った。
彼は私をプロフェッショナルと言ったが、とんでもない。

私がプロなら、マリア先生は雲の上の存在、仙人のような人だ。

魔法大国エルドラシアでもっとも知識と技術が集結する場所、それが魔法学院だ。
マリア先生はその魔道具科の教授だった。

(私が思うに、おそらく彼女の知識と技術の高さは、エルドラシアでも1、2を争うわ)

彼女は、世界でも屈指の魔法使いである。
マリア先生は発想と閃きの天才である。その上、それを形にするだけの技術を持つ。

(エルドラシアは、西の果てにある小さな島国。エルヴァニアとエルドラシア間の手紙は本来、片道一ヶ月くらいかかる。だけど……)

マリア先生に限れば、そんなの関係なかった。

彼女発案の、魔力の流れを利用した手紙の送信機は早くて三十分、遅くても数時間以内に相手の手に届く。相手が、どこにいても関係なく、だ。

これが世に広まれば、大きく文明は進歩することだろう。それくらい、画期的な発明だった。

(つまり、前世風で言うメール……なんだけど)

前世の記憶がある私には親しみ深いが、本来、手紙のやり取りには時間がかかるものだ。それが共通認識のこの世界の住人にとって、これは革命的だろう。

それを、マリア先生は前世の記憶アドバンテージもなしにやってのけたのである。
真の天才だ。
私は、魔法学院でお世話になった彼女の顔を思い出した。

(……でも、マリア先生は魔道具の申請はしないのよね)

何でも、魔道具作成以外に労力を割きたくないのだとか。

流石に王家には話を通しているらしいけれど……大々的に発表しないのは、彼女の強い意向だそうだ。

私は、既に目を通した手紙に視線を落とすと、続けて王太子殿下の顔を見た。

「違法魔道具の件ですが……彼女の手紙では、心当たりがある、とのことです」

私の言葉に、王太子殿下とルーズヴェルト卿は弾かれたように顔を上げた。それに、私は肩を竦めて答える。

「……百件ほど」

「ハッ!?……百!?」

王太子殿下は唖然としている。ルーズヴェルト卿も驚いているようだった。

(まあ、驚くわよね~~)

頷きながら、私は続けて説明する。

「それっぽいかも?と思ったものを対象とソートした結果、そうなったそうですわ」

そう言いながら、私は自分の手でそれぞれLのような形を作り、それを合わせ、4角を示してみせる。
マリア先生が天才だ、というのは何も魔道具作りのことだけを指しているのではない。

彼女は、一度目にしたものを忘れないのだ。

(本当に、どんな脳の構造をしているのかしらね?)

凡人に過ぎない私からしたら、心底羨ましいというものだ。
私は所詮、魔道具造りが好きな一般人に過ぎない。そのため筆記試験も必死で暗記、復習を繰り返したものだ。
それでようやく九割をもぎ取ったのだけど……

(マリア先生なら、一度資料に目を通しただけでオール満点ね……)

とことん、天才というものが羨ましいわ……。
私も、折角転生したのだから、どうせならチート機能とか……!そういうのが欲しかった……!!ないものねだりだけどね!
前世の記憶を取り戻しただけで十分アドバンテージなのに、贅沢にも私はそんなことを考えた。

そして、私は、すっと手紙を指し示す。

「マリア先生曰く
『違法魔道具というのはとても繊細な生き物・・・で一口には言えない』
とのことです。……こちらの手紙に目を通していただけますか?」

そういうと、王太子殿下が頷いて答えた。

そして「失礼」と断り、手紙を手に取った。既に封が切られている封筒の中から、便箋を取り出し、目を通し始める。

「──」

最後まで読み終わったのだろう。彼は目を見開いた。

読み終わった頃合いを見計らって、私はルーズヴェルト卿に声をかける。

「卿も読んでくださいませ」

続けて、ルーズヴェルト卿が手紙を読み始めた。
そして、最後まで目を通したのだろう。王太子殿下と同じように、息を呑んだ。
2人とも手紙を読んだことを確認し、私は2人に言った。


「お手紙に書いてあるとおり、私はエルドラシアに行こうと思います」


私は、恩師からの手紙に視線を向けた。マリア先生からの返事は、実に彼女らしいものだった。




『親愛なるリンシアへ。

秋も深まり、朝夕はめっきり涼しくなってまいりましたね。

さて、ご無沙汰いたしておりますが、学びの日々はいかがお過ごしでしょうか。
あなたが魔法管理部に合格されたとのこと、心よりお喜び申し上げます。

お手紙に書いてあった【魅了効果のある違法魔道具】の件ですが、私に心当たりがあります。数にして、およそ百。
あなたもお分かりかと思いますが、違法魔道具というのはとても繊細な生き物です。一口には言えません。

条件は?対象範囲は?寿命は?強さは?

それが分かれば、ある程度は絞りこめるでしょう。ですが、リンシア。
大変申し訳ないのですが、私にはそうするだけの時間がありません。

ですから、真実あなたがこの件を解明したいと思うのなら、エルドラシア魔法学院に来なさい。

学長には話を通しておきます。
地下の禁書室を調べれば、真実が見えてくるでしょう。

あなたの近況をお聞きできる日を楽しみにしております。

敬具
マリア・フォン・グルーネヴァルト』




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