〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

13話:適任では、ないわよね

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余程、心外なのだと思う。彼の様子から、王太子殿下の言葉は真実なのだと悟る。

セリーナは面食いだ。
そして、彼女のお眼鏡に叶う美青年イケメンで、かつ、ザウアー公爵が認める高位貴族となれば──

(フェルスター卿とルーズヴェルト卿の二名に絞られるわね、うん!)

フェルスター卿はあの通り、女性の扱いに慣れていそうだ。
だけど──。
私はルーズヴェルト卿に視線を向けた。うんざりした様子の彼と目が合う。

「……お困りですの?」

私の質問に、ルーズヴェルト卿は虚をつかれたように目を瞬いた。それから、ハッと我に返ると、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「……いえ、そんなことは」

「お困りでしょう!どう見ても!!今じゃあどっちが取り巻きをやってんだか分かんないくらい追い回されてるのに、よく言うよねぇ」

肩を竦めて、王太子殿下が言った。
それに、私は目を丸くした。そんなことになってるとは知らなかったからだ。

(私が社交界への出入りを控えている間にそんなことが……)

今まで言い寄っていた方が、追いかけ回されているのだ。それは……かなり社交界の注目を引いていることだろう。
同時に、セリーナの株は急暴落していそうだ。彼女は、カミロと良い仲でありながら、ルーズヴェルト卿に言い寄っているのだから。

(通りで先日、クララからお手紙をいただいたわけだわ。『楽しいお話があるからぜひティーパーティーに招待したい』……とのことだったけど)

間違いなくこのことだったのだろう。
【面白いこと】にされたルーズヴェルト卿は不憫だけど。

恐らく彼は、色仕掛けの経験などないのだと思う。

(まあそれが当然よね。ていうか公爵令息が色仕掛けをするって言う方が、そもそもがおかしいのよ!)

そう思っていると、言われっぱなしではいられなかったのだろう。ルーズヴェルト卿が渋い顔で言った。

「……あれは、ヴィンセント。あなたに取り次げと言われてるだけだ」

「そうかな?だとしても、叔父上の狙いは君だと思うけどな。ルシアン、これでも私はね、悪いと思っているんだ」

王太子殿下はそういうと、ため息を吐いた。

「人には適材適所というものがある。君に色仕掛けは向いてない。それを知っていたのに、焦った私は君にそれを命じてしまった。後悔してるんだよ、これでもね」

「…………」

沈黙するルーズヴェルト卿に、王太子殿下が言葉を続けた。

「無理してるでしょ。君、かなり」

その言葉にルーズヴェルト卿は、返答できなかったようだ。恐らくその通りなのだろう。

「君のその顔色の悪さ、寝不足のせいだけじゃないよね。これでも、君とは長い付き合いだからね。分かるんだよ」

その言葉に、ルーズヴェルト卿はため息を吐いた。困ったように。ぐしゃりと前髪をかき乱す。

「……無理はしていない。ただ、向いていない……というのはそうだな。お前の言う通りだと思う」

「うん。悪かった」

王太子殿下は、あっさりと謝罪した。王族がそう易々と謝罪したことに驚いたが、恐らく彼らの関係は主従より、友人という方が強いのだろう。

それに──

(……まあ、向いてないわよね)

ルーズヴェルト卿は、色仕掛けに向いている人選ではない。
それくらい、王太子殿下も自分で言った通り焦っていたのだろう。時間が無い、と言ったのは誇張ではなさそうだ。

そもそも、ルーズヴェルト卿は言葉数が少ないタイプだ。そんな人に色仕掛けは、酷だと思う。
向いているのはやはり、お喋りが得意そうなフェルスター卿とか……。

私がそう考えたところで、王太子殿下がパンッと手を叩いた。

「だからさ、休養がてら行っておいで。聖女も流石にエルドラシアまで追いかけられないから」

そして王太子殿下は今度は私の方を見て、片目をつむって見せた。

「どうかな。かなり役に立つよ、ルシアンは。いないよりよっぽどマシだと思う」

王太子殿下の気持ちも分かる。休養を取らせたい、というのも、セリーナから引き離したい、というのも。

だけど──私はハッキリと答えた。

「ですが私は一応、婚約者がいる身です。婚約破棄は決定事項とはいえ……こちらの過失になるような真似はしたくありませんわ」

私の言葉に、王太子殿下は首を傾げて答えた。サラリと、彼の金髪が揺れる。

「ああ、それなら問題ない。あなたとルシアンは、魔法管理部の──つまり文官として行ってもらうことになる。だからこれは公務だ」

私は、正式に文官となり、魔法管理部に在籍している。今は特別任務──つまり、王太子殿下の命で動いているが、これが解決すれば、他の文官と同じように通常業務にあたる。

文官が公務で国外に赴くのは、あまりないが、全くないわけでもない。

だけど──

(やっぱり、婚約者のいる身で他の異性と……っていうのが引っかかるわ)

私の様子から、気が進まないのを読み取ったのだろう。王太子殿下は困ったなぁ、というように顎に指を当てた。
それから彼は思案した様子を見せ──とんでもないことを口にしたのだ。
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