〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

文字の大きさ
31 / 61
2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

17話:少し早めのサプライズハロウィーン

しおりを挟む
流石に、屈辱だと感じる感性はあるらしい。

今までセーブしていたけれど、もう構うものか。だいたい、ここで会ったのはいい機会だったのよ。この際だわ。言わせてもらおうじゃない。

「先日のお話、お聞きしてよ。……レオナルドは、聖女様のお気に召しました?」

「レオナルド、ああ、あなたの弟ね?とても可愛らしいわね。少し抱きしめただけで赤く──」

「弟は屈辱だったそうですわよ。よりによって、あなたに触れられた、というのは」

レオナルドは、ハッキリそう言ってなかったが、嫌がっていたのは間違いない。私が多少アレンジして言うと、セリーナの顔がぽかんとした。
 
「……は?」

「可哀想に。屈辱・・で顔が赤くなってしまったのね。レオナルドには悪いことをしたわ。聖女様がカミロと良い仲でさえなければ、レオナルドも悪感情は抱かなかったでしょうに」

「なっ……!私が悪いと言いたいの!?」

「悪いでしょう」

何を当然のことを、と私はハッキリと言った。セリーナの目が見開かれる。

「だから、最終試験でお披露目した魔道具……魔法のカメラは今、審議に入っているのですわ。なぜ陛下はこの件を保留にしていると思っていらっしゃるの?魔道具が本物だった場合、あなたに罰を与えなければならないからよ」

「──」

セリーナが目を見開く。
驚くのはこちらの方だわ。

(まさか本気で、自分には何の非もないと思っているの?)

あの魔道具が本物だと認められる、ということは即ち、あのセリーナの暴言も実際にあったと証明されることになる。
それだけではない。彼女が婚約者のいる紳士と親密な関係であったことを裏付けるものにもなるのだ。

彼女には聖女としての利用価値がある。
だからこそ、立場まで奪われることはないだろうけれど、今のような自由はもう許されなくなるだろう。
聖女の権威の失墜は、王家としても避けたいところのはず。だからこそ、これが真実だと知れたらそれこそ王家は、こんなことが二度と起きないようにセリーナを幽閉するだろう。

私は笑みを消して、彼女を見た。
首を傾げると、表情のない私が気味悪かったのか、セリーナは一歩後ずさった。

「ねえ、聖女様」

「な、何よ……」

「あなたは確かに聖女という立場にありますけれど……それは、薄氷の上だと知っていて?」

トン、と彼女の胸元を指で触れた。
ちょうど、心臓の上あたり。
突然触れられたことにセリーナは驚きに息を呑んだ。そして、彼女は不穏な言葉に顔を上げた。
呆気に取られているようだった。

「【聖女】なんて、あなたが逃げないように国に縛り付ける首輪に過ぎないのに。そのお詫び・・・に、あなたには様々な特権が与えられている。だけど」

そう言うと、私は手を離す。
すると、まるで見えない糸で縛られていたように硬直していたセリーナが、ハッとしたように身じろいだ。顔をひきつらせる彼女を見て、私はにっこり笑みを浮かべた。

「あまりオイタをしていると、その首輪。酷いものになりましてよ?見えない首輪が、見える首輪に変わるのは……聖女様もお嫌でしょう?」

「なっ……なっ……!!」

セリーナは、返す言葉がないようだった。おどろおどろしい言い方は十分に彼女の恐怖心を煽ったのだろう。咄嗟に首に手をやっているあたり、相当怖かったらしい。

少し早いハロウィンということで、良かったじゃない。楽しめたでしょう?

私は笑みを浮かべたまま、言葉を続けた。

「今は【貢献】という形ですけれど。それがいつか【搾取】に変わらないといいですわね。まあ、これも、聖女様の行い次第、というところでしょうか」

「──っ……!」

豊穣祭ハロウィンが近いでしょう?悪しき魔物に魅入られないよう、僭越ながら私から忠告ですわ」

にっこりと、意図的に睨むようにしながら微笑みを浮かべれば、セリーナの顔はみるみるうちに顔面蒼白となった。もはや白を通り越して青白い。彼女は微かにくちびるを震えさせたが、それは言葉にはならなかった。

私は、完全にセリーナを無力化したと判断して、白けた思いで彼女から視線を外した。

そして、その時、思い出した。
そういえば、この場には私とセリーナ以外に、ルーズヴェルト卿もいるのだったわ……と。

ルーズヴェルト卿を見ると、彼は女同士の(というか、私の)苛烈な口撃に若干引いているようだった。でも、構わない。
私は笑みを浮かべ、ルーズヴェルト卿に声をかけた。

「聖女様はお務めに戻れるそうですわ。行きましょうか」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

処理中です...