〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

文字の大きさ
42 / 61
3.伯爵令嬢リンシアは共同戦線を張る

4話:旅は過酷なものですわ

しおりを挟む
ガタゴト、という振動で目が覚める。

「ん……」

どうやら私は、盛大に爆睡していたようだった。夢も見なかったわ……。
体を起こすと、対面の座席にはルーズヴェルト卿とクラインベルク様がいた。二人とも、既に起きているようだ。
先に目が合ったのは、クラインベルク様だった。

「おはようございます、レディ・リンシア。よく眠れましたか?」

「おはようございます、クラインベルク様。お陰様でよく眠れましたわ。ですが、ごめんなさい。私、あの後すぐ眠ってしまいましたのね」

「お疲れだったのでしょう。魔道具調整で五日間も城に詰めておられましたから。少しでも回復されたなら良かった」

クラインベルク様の言葉に、私は曖昧な笑みを浮かべて答えた。

(魔道具調整もそうだけど、トドメはまた別なのだけどね……!!)

それから、私は大事なことを思い出した。
そうだわ!!呑気に寝こけている場合ではなかった。

「ルーズヴェルト卿!!早駆けの腕輪は──」

「それなら、問題ありません。確かにあれは、吸われる魔力量が規格外ですね。多少気分が悪くなりましたが、今は全く」

「問題ない……!?結構な魔力を持っていかれたはずですわ。気分が悪いとか、倦怠感があるとか、発熱があるとか……そういうのはありません!?」

「はい」

私の勢いに、ルーズヴェルト卿が苦笑して答えた。

(ほ、本当に~~~~!?)

思わず、ルーズヴェルト卿をまじまじと見つめてしまう。

フェルスター卿と王太子殿下の魔力量が豊富、というのは分かるわ。魔力というものはよほど薄くなければ、その流れが視認できるもの。だから、二人の魔力量の高さも教えられなくとも知っていた。もちろん、セリーナの魔力量も高い。流石は聖女様である。

だけど……

(ルーズヴェルト卿はあまり魔力量が高いと思わなかったのよね……)

失礼かしら。失礼よね。
だから本人には直接尋ねなかったのだ。

でもそうとしか思えない。魔力の流れが薄いとか、魔力量が極端に少ないとかそういうわけではない。
ただ、平均的なのだ。ルーズヴェルト卿もクラインベルク様も、魔力の高さはごくごく一般的……のように感じられた。

だから、魔力が高いというルーズヴェルト卿の自己申告には驚かされたし、少し半信半疑だった。
彼から魔道具の調整を依頼された時、念を押して確認したのもそれが理由だ。

でも、これで証明された。今のルーズヴェルト卿は、無理をしているようには見えない。顔色も悪くはなさそうだ。
それならルーズヴェルト卿は早駆けの腕輪に、エルヴァニア国民の平均魔力量を持っていかれても問題ないということになる。その程度には魔力量に余裕があるということだろう。

それなら今度は『どうして魔力量の高さが視覚できないのかしら?』という疑問が湧いてくるが、今は放っておくことにする。

(ひとまず体調に問題ないようでなによりだわ……)

あの疲労困憊は、二度と味わいたくないくらいには酷いもの。
私がそう思っていると、ルーズヴェルト卿が短くため息を吐いた。

「確かに一度、酷く体調を崩しましたが……休憩を取ったら落ち着きました」

「回復したのなら良かったですわ」

早駆けの腕輪で吸われた魔力は、本来僅かな休憩では回復しない。それこそ数日間はグロッキーになることが約束されている。
そう思ったが、黙っておいた。根掘り葉掘り深く聞かれても、ルーズヴェルト卿も困るだろう。それに、エルドラシアに向かうにあたって、特別重要なことでもなかった。

私が適当に相槌を打っていると、ルーズヴェルト卿が首を傾げて、今度は私に問いかけてきた。

「しかし、本当にものすごい量を持っていかれるのですね。弱った人が使ったら、一発であの世行きになるのでは?」

「……なるほど。確かにそういう使い方もありますわね」

もはや殺人兵器のような扱いをされる早駆けの腕輪だが、その一方で私は意外な用途に目を瞬いた。しかしすぐに懸念点に気がつく。

「ですが、弱っているなら私でもトドメをさせそうですわ……。わざわざ魔道具を起動させるのは効率が悪いかと思います」

「それもそうですね」

今度はルーズヴェルト卿が納得したように頷く。
クラインベルク様だけが困惑顔で

「ご令嬢が手を下す必要はないかと思いますが……」

と突っ込みを入れた。それにハッとした。淑女が話す内容ではなかったことに気がついたのである。まだ睡眠が足りていないのかもしれない。
その後、私はもう一眠りしよう、と決めると、カーテンの隙間から窓の外を覗いた。もう陽はすっかり高くなっていた。

ここから、一週間かけて港に向かう。
そこからは十日の船旅だ。








一週間かけて港に到着した私たちは、タイミングよくその日の定期船に乗ることが出来た。

乗船初日の夜。個室のベッドで横になった私は、クッションを抱いて、今後の予定を頭の中で確認していた。

(エルドラシアの港で降りたら、そこからまた十日の馬車旅……)

良いクッションを用意したので臀部に痛みはないが、前回は苦労した。主に、お尻が痛くて。あんなに馬車旅が体に負担をかけるなんて、知らなかったのよ……。これでも私は、箱入り娘だったのだから。

だけど今回は、前回の反省を活かして、最大限心地良さを追求した。おかげさまで、腰も臀部も悲鳴をあげていない。
やはり、クッション。柔らかなクッションが決め手だったのだ。

船旅も、前回は船酔いしてしまって目も当てられない惨状だった。トイレの住人と化していたのは言うまでもないだろう。
今回は対策をして、あらゆる魔道具と薬を持ち込んでおいた。そのため、多少気分は悪いものの、前回に比べれば雲泥の差である。

(早く寝ましょう。寝てしまえば、あっという間だわ……)

とは言っても、まだあと九日あるのだけどね!!

そうして、船酔いと戦いながら、ようやく九日が経過した。その間、私は全く使い物にならなかったことは言うまでもないだろう。








エルドラシアの港に到着し、船を降りると、そこには思いがけない人が私を待っていた。

「待っていましたよ、リンシア。よく来てくれましたね」

「マリア先生……!?」

船着場のスロープを降りてすぐ、荷降ろしをしていると、声をかけられたのだ。振り向けば、そこにいたのはエルドラシア魔法学院でお世話になったマリア先生……の、生霊ドッペルゲンガーがそこにいた。
彼女の姿は薄く透けていて、影もない。正しく生霊のようだ。こんな昼間から活動する生霊は嫌だけど。

「ドッペルゲンガー、ですの……?」

私が恐る恐る尋ねると、マリア先生の笑みが深くなった。

「私を超常現象扱いとは、面白いことを言いますね、リンシア。これは投影魔法の1つですよ。私が開発したものです」

凄いことをあっさり言ってのけるが、彼女が規格外なのはいつものことだ。





しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

処理中です...