43 / 61
3.伯爵令嬢リンシアは共同戦線を張る
5話:エルドラシア一の天才
しおりを挟む少し考えて、私は彼女に尋ねた。
「……では、本物のマリア先生は魔法学院におられるのですね?」
「ええ、そうです。あなたは必ずエルドラシアに来るだろうと予測して、用意しておいたのです。これはあなたの魔力に反応して起動する仕掛けになっています」
「また、とんでもないものを発明なさいましたわね……」
「何を言います。魔法式の構造さえ分かれば、あなたも作れますよ」
「理解するのに年単位で時間が必要そうですわね……」
マリア先生はあっさり言うが、私は知っている。
(その魔法式の構造、理解するだけでとんでもなく時間がかかるわ!!)
その上、それを自分で再構築?
気が遠くなる思いだった。本来なら、マリア先生の開発した魔道具は、専門職の人間が一生をかけて作れるかどうか、という代物である。それをあっさり造ってしまうのだから……本当にマリア先生は、あちこちから妬みを買いそうなくらいの秀才だ。
相変わらずのマリア先生の様子に、お元気そうでよかったわ、と肩をなでおろした時だった。ルーズヴェルト卿とクラインベルク様から、困惑した視線を感じた。
「……レディ・リンシア、あなたは誰と会話をしているのですか?」
尋ねたのは、ルーズヴェルト卿だ。
それで、マリア先生の姿は私にしか見えないのだと知る。説明を求めて彼女を見ると、マリア先生も驚いたようだった。
「あら。予想がひとつ外れたわ。私はてっきり、リンシア。あなた一人で来ると思っていたのよ」
「その予定だったのですが……予想外の出来事が起きましたの。マリア先生の予想は正しいですわ。私は当初、一人で来る予定でしたもの」
「そうよね。あなたはそういう子だわ。……ともかく、この姿はあなたにしか見えていません。と、いうのも、これは登録した魔力の持ち主にだけ見えるよう設定しているからです。申し訳ないけど、リンシア。あなたを守る騎士様には、あなたから説明してもらえるかしら?」
「騎士ではありませんわ。この方は……いえ。とにかく、ご要件をお伺いしても?再会の挨拶を言うためだけに仕掛けたのでは無いのでしょう?」
私が尋ねると、マリア先生は驚いた様子だった。
それから、またにこりと笑う。慈しみを感じる、柔らかな表情だった。
「また、一つ予測が外れました。これはいい予兆です、リンシア。私の目的がわかったのですね。ええ、正解ですとも。あなたもご存知の通り、私の予測は外れたことがありません。ですが本日二回、既に予測が外れている。私の知らない間に随分成長しましたね、リンシア」
「……マリア先生」
恩師に褒められるのはこそばゆい。私が先を促すと、マリア先生はうんうん、と頷いた。まるで、分かっている、とでも言うように。
「今、あなたは船着場にいるでしょう?すぐそこに、人をやっています。魔道具を持たせていますから、すぐにこらちに来られるでしょう」
こちら、というのはもしかして魔法学院を指しているのだろうか。
それに気がついた私は、思わず彼女に尋ねていた。
「まさか、転移系の魔道具ですの……!?」
「使い勝手は悪いのですけれどね。そのまさか、です。時空に干渉する魔道具は制約があって面倒ですね。しばらく触りたくありません」
その言い方はまるで、
『高速の運転で疲れたからしばらく車の運転したくないわ~~』
とでも言うような軽い口調である。しかしその内容に、私は唖然とした。
どうやら、恩師が規格外なのは変わらず……のようだ。お元気そうで、何よりだわ。
そう思うことで、私は思考放棄することにした。まともに考えたら、理解が追いつかないからだ。
マリア先生との会話が終わると、それを待っていたのだろう。一人の女性が進み出てきて、私に包みを持たせた。布を開けると、そこには……
「私?」
ピンクの髪に同色の瞳の、布で出来た人形が出てきた。その人形の顔はにっこりと笑っているようだ。可愛らしい、という感想が先に出る。
「……あなたのようですね」
と、ルーズヴェルト卿が言い、
「本当ですね」
同様に私の手元を覗き込んだクラインベルク様がそう答えた。
その後、女性の案内で彼女が泊まっている宿に向かうこととなった。男性二人は、女性の部屋を訪ねることに渋っていたが、女性がさっさと先をいってしまうので、仕方なく追いかけたのである。
(もしかして、この女性……)
ふとある可能性が過ぎったが、ひとまず今は、彼らへの説明だろう。そう思った私は、歩きがてら、先程話していた相手はマリア先生だと説明した。
魔道具の説明を受けたルーズヴェルト卿と、クラインベルク様はそれぞれ驚いたらしい。
「話には聞いていたが……グルーネヴァルト教授の才能は本物だな。現在進行形でその場を映し出す魔道具なんて、存在するのか……。それを投影魔法で?いや、物理的には可能だが、実現出来るものなのか?だとしたら、魔法式には何を掛け合わせている……?」
ルーズヴェルト卿は構成している魔法式を考えたのか、独り言を言っている。混乱しているのだろう。
だけど、彼の気持ちも分かるわ……。
投影魔法の魔道具なんて、魔法大国エルドラシでも存在しない代物だ。
エルヴァニアは、というとそもそも投影魔法の魔法式自体が我が国には浸透していない。
私の魔法のカメラが、あれだけ様々な意味を持って効果を発揮したもの、魔道具どころか、投影魔法自体がエルヴァニアでは認知されていないからだ。
「マリア先生は規格外ですわ。学生時代は、毎日驚きの連続でしたもの……」
女性の泊まる一室に向かうと、しかしそこは全く生活感がなかった。泊まっているなら、荷物が多少あるはずなのに、それがない。
先程抱いた可能性が強くなったことを感じていると、そこで女性が口を開いた。
「私の案内はここまでです。その人形は、魔力を込めることで発動します。以上、魔法式の発動を終了します」
そう言った瞬間、ポン!と軽快な音がして、煙が蔓延した。
「きゃあっ!?」
「うわっ」
「わっ……」
それぞれ驚きの声をあげ、次の瞬間──煙が収まると、もう女性の姿はどこにもなかった。それに、私は推測が正解であることを悟った。
消えた女性を見て唖然とする2人に、私は声をかける。
「……恐らく、今のもマリア先生の魔道具ですわ」
「今の!?今の女性が!?どう見ても人だったが……!?」
驚きのあまり、フランクな物言いでルーズヴェルト卿が私に尋ねてくる。よほど驚いたのだろう。
まあ、そうよね。初めて見た時は、私も腰を抜かしそうになったというものだ。マリア先生はニコニコ笑っていたけど。
「今のは、マリア先生お手製の魔道具人形ですわ。以前は、泥みたいに溶け落ちて、そのまま消える仕組みだったのですが……きっと、私があまりに怖がったからですわね。方法を変更したようですわ」
私の冷静なコメントに、二人は絶句した後、顔を見合せていた。
1,966
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる