〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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4.伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

3話:魔力増幅の違法魔道具

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その時、私は気がついた。
セリーナの魔力を感じない。今まで、その場を圧倒するような彼女の強い魔力を感じていたのに今は全く感じないのだ。
そこで私は思い直す。

(まったくってわけでもない。だけどほんの僅かだわ。これでは──)

とてもではないが、聖女を名乗れないだろう。聖女を証明する水晶、つまり魔力測定器を今の彼女に渡しても恐らく八段階中、下から一番か二番あたりの色しか示さないと思う。聖女は、魔力測定器に触れて魔力を込めれば光り輝くと決まってる。
今まで彼女からは溢れるほどの魔力を感じていた。だけど今の彼女からはそれを、感じない。

(なぜ……?もしかして私は、根本的な間違いをしている、のでは……)

老婆となってしまったセリーナを見ながら唖然としていると、ルーズヴェルト卿が声を張り上げた。

「セリーナ・ザウアーを拘束しろ!彼女には違法魔道具使用の罪がある!!」

そして彼は、逃げようとする違法魔道具を足で踏みつけた。……踏みつけた!?
ルーズヴェルト卿が、何らかの魔法を唱える。恐らく無効化魔法だろう。

『ギエエエッ!!』

一際大きな悪魔の悲鳴が聞こえ、それは瞬く間に金の輪になった。

(アンクレットだと思ったけど……腕輪?伸縮するタイプなの?違法魔道具なら、そういうことも有り得るのかしら……?)

その時、今度はセリーナの悲鳴が聞こえてきた。

「ぎゃっ、ぎゃああああああ!!!!」

ようやく、自身の姿に気がついたのだろう。彼女は自身の手のひらを見つめている。その手は、間違っても十代のものとは思えない。歳を経た、老婆のものだ。

「いやああああああ!!これは何っ!ほれはっ、あ、ゲホッ、ゴホッ、う、ああああ!?」

その時、セリーナは噎せた。何かが口に入り込んだ様子だった。絶句していると、彼女は直ぐに手のひらに何かを吐き出した。それは、十数本の──歯。

「いやあああああ!!いやああああああ!!!!」

セリーナはその場で悲鳴をあげた。私も彼女と同じ状況に陥ったら、困惑するだろう。突然、自分は老婆になって、しかも歯が抜け落ちてしまうなんて。抜け落ちた歯の数を見るに、今残っているのは十本程度だろう。
彼女は自身の頭を掴み、首に触れ、それが皺だらけだと知ると、その場で卒倒した。

バタンッと倒れた彼女に、慌てて衛兵が飛んでくる。近衛騎士も駆けつけ、てんやわんやだ。
もはや、夜会の空気ではない。急に殺伐とした雰囲気になったそこは、犯行現場のような緊張感がある。
白目を向いたセリーナを抱え起こした衛兵が、まず脈を確認している。高血圧でショック死していないかの確認だろう。
場は騒然としたが、フェルスター卿が困ったように肩を竦めた。

「あちゃー……色々聞きたかったんだけど気絶したね」

「お……落ち着いてますわね、フェルスター卿?」

私は未だに混乱と衝撃で頭が追いついていない。
尋ねると、彼は疲れたように苦笑した。

「いや、これでもかなり驚いてるよ。でも、まあ……違法魔道具に手を出すってことはつまり、こういうことだからね。ある程度は、予想していたかな」

「セリーナの使用していた違法魔道具は、魅了ではなかった……?もしかして……」

「魔力増幅、ですね」

そこでルーズヴェルト卿が答え合わせをするように言った。老女だからだろう。丁重に衛兵に連れていかれるセリーナを見て、ルーズヴェルト卿が記憶を辿るように言葉を続けた。

「王家が管理しているリストに記載がありました。管理名は【砂時計の腕輪】。効果は魔力増幅。代償は使用者の寿命の使用。……ピッタリ、今の状況にあてはまります」

砂時計の腕輪。その管理名に私も思い出した。以前、ルーズヴェルト卿に見せてもらったリストの中に、確かそんな名前の違法魔道具があったはずだ。

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
管理番号:第KGJL*OKAM番
管理名:砂時計の腕輪
効果:魔力増幅
代償:使用者の寿命を使用する
管理状態:損壊(自壊)
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

私は顔を上げて、ルーズヴェルト卿に尋ねた。

「だけどあれには、損壊、と書かれていましたわ」

「そのあたりは確認が必要だね。だけど、効果と代償からして、砂時計の腕輪である可能性は高い」

フェルスター卿が冷静に言った。いつも軽薄な笑みを浮かべている彼だが、この時ばかりは真面目な顔をしていた。どのような経緯で彼女が損壊したはずの違法魔道具を入手したのかは後々、取り調べをすればわかってくるだろう。

私はふたたび沈黙して考え込むと、ぽつりと感想を口にした。

「寿命の使用、というのは突然心臓が止まるわけではなくて、身体年齢が老いる、という形での進行だったのですね……。彼女もこれは予想外だったみたいね……」

ともあれ、本来なら契約満了時(つまり寿命を使い尽くした時)に、最期を迎えていたのだろう。しかし今回は中途半端な形での契約終了になったので、まだ寿命が残っていたということなのだと思う。
だから、セリーナは突然老婆になってしまったのだ。残された時間はあと数年、あるかどうか、といったところかしら……。

「リンシア!」

そこで、突然私の名が呼ばれた。
聞き覚えのある声だ。思わず顔を顰めそうになった私だが、気合いでそれを隠して振り返る。
そこには予想通り、私の婚約者であるカミロがいた。まるで、会場中探しました、と言わんばかりに肩で息をしていた。
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