〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

文字の大きさ
55 / 61
4.伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

4話:あなたに感謝を、そして破滅を

しおりを挟む
(……今更、何にしにいらっしゃったのかしら?)

笑みを浮かべて彼を見れば、なぜかカミロはホッとした様子を見せた。何を安心しているのかしら?

「ちょうど良かった。あなたにお話があったのよ、カミロ」

まさかセリーナが【魔力増幅】の違法魔道具を使用しているとは思わなかった。思わぬ番狂わせだわ。

だけど、こうなったらもうここで全て終わらせよう。
そのためのカードは既に揃っている。
私はカミロを見て言った。

「カミロ、あなた──」

と、私が最後まで言い切る前に、またしても予想外の乱入者が現れた。

「カミロ・カウニッツ!!卑劣な罪人め!今ここで貴様の罪を明らかにしてやる!」

「はっ…………」

私とカミロ、そして周囲の視線がそちらに向く。そこには──

(お、お父様~~~~!?!?)

振り向いた先にいたのは、書類を錦の御旗のごとく手に持つお父様だった。

(はあああぁ!?)

もしかしてそれ、告訴状!?告訴状じゃないわよね!?それは最終手段って私言ったわよね、お父様!!
違うと信じたい。唖然としてそちらを見ると、お父様は私を見て、任せろ、という顔になった。待ってちょうだい。何も任せられない。何をしようとしているの。何をしようとしてるんですの……!?!?
お父様は続けて、カミロを見ると厳しい顔つきになった。不安だわ。不安しかない。とても不安……!!
ハラハラしながら、私はお父様とカミロを交互に見る。

「これに、見覚えはないかい」

カミロは怪訝そうにお父様の手に持つ書類に視線を向けた。そして彼は、息を呑んだようだ。
それに、お父様が満足そうに頷いた。

「覚えは、あるようだね」

お父様の言葉に、しかしカミロは笑って見せた。せせら笑うように、彼が答える。

「さぁ?私は何も答えていません。伯爵の早とちりでは?いけませんね、伯爵。このような場で、そんな信ぴょう性の薄い・・・・・・・・ものを出すなんて。リンシアがどう見られるか、あなたは分かっていない」

「ふん。何を言うか。君のその顔が、何よりの証拠だ!」

(それは証拠とは言えないのよ…………お父様!!)

思わず天を仰ぎたくなった。
恐らく、お父様の持つものは証言の類なのだろう。そっと視線を向けると、そこにはいくつかの署名があるように見えた。
カミロが何か答えるより先に、カウニッツ伯爵が姿を現した。

「こんばんは、リンメル伯爵。レディ・リンシア。この騒ぎは一体?」

カウニッツ伯爵は人の良さそうな笑みを浮かべて、私たちに挨拶をした。しかし、その目は決して笑っていない。その余裕綽々といった様子に、お父様は煽られたのだろう。我慢できない、といったように父様が息を呑んだ。
私はそれぞれ、お父様、カミロ、カウニッツ伯爵、そして招待客の面々に素早く視線を向けた。視界の先には、クラインベルク様の姿が見える。それなら、あとはタイミング次第だわ。

(この騒ぎだもの。なかったことには出来ない)

つまり、失敗は許されない。どこで介入すべきか、慎重にタイミングを見計らっていると、お父様がカウニッツ伯爵を睨みつけて言った。

「カミロ・カウニッツ、そしてカウニッツ伯爵!!君たちは詐欺罪および偽造罪の疑いで、集団告訴されている」

「集団告訴……」

その言葉に、目を瞬いた。
お父様は手に持った紙を、今度はカウニッツ伯爵にも突きつける。しかし、そこは食えないカウニッツ伯爵だ。息子とは違い、彼は顔色ひとつ変えなかった。

「これを見るといい。この集団告訴の中には、元貴族もいる。覚えているかい?きみが法外な借金を吹っかけて身を持ち崩した子爵だ。彼の足元を見て、随分法外な契約を持ちかけたようだね?可哀想に、彼は妻子に見限られて、今やその日暮らしをする毎日だ」

お父様の言葉に、カウニッツ伯爵はまじまじとその紙面を見た。そして──数秒の沈黙の後、彼は高らかに笑い出した。

「ハッ……ハハハハハハ!!突然何を言い出すかと思えば!!リンメル伯爵、これは何かの余興ですか?悪いことは言いません。全く面白くない。あなたにはその才能はないようです。今回限りにされるとよろしい」

内心舌打ちをする。カミロはともかく、やはり、カウニッツ伯爵は食えない人物だ。彼はお父様の言葉を一蹴することで、荒唐無稽の偽りだと表明してみせた。言い負かされては、今度はリンメルが一方的な言いがかりをつけたことになってしまう。
一笑に付したカウニッツ伯爵は、今度は目を眇めてお父様を見た。そして、警告するように言う。

「陛下の主催する夜会でこの騒ぎ……。責任を追求されても知りませんよ?」

カウニッツ伯爵の挑発に、お父様はカッとなったらしい。売り言葉に買い言葉のごとく、カウニッツ伯爵に噛み付いた。

「なっ……貴様、しらばっくれる気か!?告訴状は既に受理されている!悪事は必ず白日の下に晒される。笑っていられるのも今のうちだな!」

しかし、カウニッツ伯爵はお父様の言葉をまともに取り合わない。彼はわざとらしく肩を竦めてみせた。

「……全く、お労しい。今度は何を吹き込まれたのです。あなたはいつもそうだ。自分に都合のいいように物事を受け取る側面がある。常々言っているでしょう。思い込みでの行動は身を滅ぼす……と。昔のよしみで大目に見ていましたが、これ以上はいけませんね」

「大目に見ていた?バカを言うな。お前は我が伯爵家を食い物にしていただけだろう!!」

「はぁ。頭が足りない男で、なんとも情けない。こんなのが父親とは、あなたも苦労しますね、レディ・リンシア」

お父様では相手にならないとでも思ったのか、カウニッツ伯爵は矛先を変えることにしたようだ。
仕掛けるなら、今。そう判断した私は、にっこりと笑みを浮かべた。

(……随分とまあ、お父様をこき下ろしてくれたものね)

しかもこんな、衆目の場で。
だけど、だからこそ、なのだろう。
ここでお父様を言い負かせれば、周囲の招待客たちはお父様の勘違いだと考える。カウニッツ伯爵の狙いはそれだ。
ここで面子を潰されるわけにはいかない。リンメル伯爵家の名誉に関わるもの。

(とはいえ、狙いを私にしてくださったことには感謝しますわ。私が介入できる隙を用意してくださってありがとう)

紳士の話に淑女が口を挟むのは顔をしかめられる行いだ。そのため、タイミングを見計らっていたのだけど、まさかカウニッツ伯爵直々にその場を設けていただけるなんて。そのご厚意には感謝しなければならないわ。相応のお礼をしてさしあげなければね。
私は笑みを浮かべると、何食わぬ顔で淑女の礼を執った。

「ご無沙汰しておりますわ。カウニッツ伯爵」

「あなたはなかなかの才女だとか。このように訳の分からないことを言う父君を何とかして欲しいものだ」

「あら……。訳の分からない、とは何ですの?全部、身に覚えがあるのではございません?」

私が仕掛けると、カウニッツ伯爵の笑みが深くなった。

「……きみは知らないのかもしれないけれど、証言というものは、とても曖昧で信ぴょう性に欠けるものだ。それだけでは有効な証拠、とは言えないんだよ?ご存知かな、レディ・リンシア?」

その言葉に、私は顎に手を当てた。それから、ゆっくり首を傾げてカウニッツ伯爵を見つめた。

「ふふ。そうですわね、カウニッツ伯爵の仰る通りです。では、信ぴょう性の薄い直接証拠ではなく、裁判でも有用な状況証拠ではいかがでしょう?例えば、あなたが血眼になって探していらっしゃる、契約書の原本だったり、取引のお手紙なんか、どうかしら」

射るように見つめると、流石に目的のものが私の手元にあるとは思いもしなかったのだろう。カウニッツ伯爵の顔色が変わった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

処理中です...