〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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4.伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

7話:ファーストネームだけで呼ぶ名誉

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あの夜会から一週間。
私は魔法管理部にいた。

まだ取調べの最中だけど、カウニッツ伯爵家の有罪はほぼ確定とみていいだろう。
私は 魔導杖ルーン・ロッドを一振すると、短く息を吐く。

(当然だわ。あの証拠品は偽造などではないもの)

それに、カウニッツ伯爵邸を創作したところ、地下から作りかけの違法魔道具がたくさん出てきたのだとか。つまり、カウニッツ伯爵家は、違法魔道具の密造も行っていたのだ。
カウニッツ伯爵は容疑を否定しているらしいけれど、実物が出てきてしまった以上、言い逃れは難しいと思う。

そんな有様なので、もちろん私とカミロの婚約も先方の有責で破棄された。つまり、今の私は自由だ。もう、誰にも縛られることは無い。

(だけどまさか、セリーナに魅了の違法魔道具使用の疑いがかけられていたのも、ただエルヴァニアの社交界が腐っていただけなんて)

つまり、権力に吸い寄せられて集まっていただけだったのだ。王太子殿下の言う通り、この城にはやる気のある無能か、やる気のない凡人しかいないらしい。
クララの元婚約者のダミアンに至っては、純粋にセリーナの外見が好みだったという。もはや目も当てられない事の顛末だった。
もちろん、クララも、ダミアンと婚約破棄をした。

あの夜会以降、目まぐるしく日々は過ぎていった。

あれ以来、私は次の仕事、つまり、無効化の魔道具の実用化に向けて研究を進めていた。王太子殿下のご命令だ。
作業が一段落ついたところで私は魔導杖を机に置いた。共同で研究を進めているルーズヴェルト卿が気が付いて、こちらを見る。
それに、私はふと先程考えたことを口にした。

「先日の夜会の話ですけど。まさかセリーナの使用していた違法魔道具が、損壊扱いとなっていただけで実は脱走していたなんて、思いもしませんでしたわ」

私の言葉に、ルーズヴェルト卿は突然の話に驚いたようだったが、瞬きを繰り返した後、静かに答えた。

「ああ……塩水ブラインをかけられて損壊したように見せかけていた、というやつですね。実際は人の目を盗んで逃げていたとか」

セリーナが使用していた、砂時計の腕輪。
管理番号を第KGJL*OKAM番。記録を辿るに当時、砂時計の腕輪は使用者の作った塩水をうっかり被ってしまったのだとか。使用者は、肉の保存のために塩水を作っていたのだ。
それで大打撃を受けた違法魔道具は死んだふりをしたらしい。
違法魔道具の聞き取り調査によると、一時仮死状態にあったとのことだった。
だけどその後、持ち直した違法魔道具は、人間が自身を損壊したものと処理していることを知ると、スタコラサッサとお暇したのだ。

セリーナとの出会いは、逃げ出した違法魔道具が次のターゲットを探している時に偶然出会ったそう。
そして、セリーナに適性を見出した違法魔道具は、彼女に契約をもちかけた……という経緯だった。

セリーナの後見人であるザウアー公爵は、セリーナの違法魔道具使用に関して何も知らないの一点張りらしいが、それも難しいだろう。
何より、ザウアー公爵には余罪がある。ザウアー公爵はカウニッツ伯爵家と繋がっていたのだ。

夜会の前、ルーズヴェルト卿が言った【古狸一掃の手段】とは、カウニッツ伯爵家を調査したことで得た、思わぬ副産物によるものだった。
カウニッツ伯爵家を調べたところ、見つかったのだ。ザウアー公爵の関与を示す手紙が。

(カウニツッツ伯爵の詰めが甘かったせいで、巻き添え、というところね)

そんなことを考えながら、私はぽつりと言った。

「砂時計の腕輪……。あの違法魔道具の取り調べに、私も携わりたかったですわ」

本来の形状は腕輪らしいが、セリーナは足首につけていた。つまり、形状が変化するのだろう。そんなの聞いたことない。あれは、あの違法魔道具だけのオリジナリティなのかしら……!?
気になることは他にもある。
例えば、思考回路は違法魔道具によってみな違うものなのか、とか。
ターゲットはどうやって選別しているのか、とか。聖水で壊れないと聞いたけど、それは本当なのかしら?とか。
重しをつけて沈めてみてもだめ?とか。

ああもう……気になることが多すぎる!
思わずうずうずしてしまう。許されるなら、私も聞き取り調査に同席したかったわ……!!

「どうして取り調べに関われないのかしら。私も、魔法管理部の一員なのに……!新人だから?新人だから許されないのかしら?」

思わず、悔しい気持ちが口に出てしまう。それに、ルーズヴェルト卿が苦笑する。

希望を出してもだめだったのだもの。本来、違法魔道具の取り調べは代々、大法官と魔法管理部長の二名と決まっているらしい。未だに悔しさに悶えていると、気遣ってくれたのだろう。彼が言った。

「担当はローゼンベルク女史ですし、彼女はあなたに一目置いている。もしかしたら後ほどお声がけがあるかもしれません」

そこで、私は顔を上げた。

「…………ルーズヴェルト卿は、興味ありませんの?私はものすっごく気になりますわ。そもそも、違法魔道具に自我があること自体、ロマンがあると思いません?」

「え!?ロマン?いや、思ったことはないですね。驚きはしましたが……」

至極真っ当な意見である。
それに、私は首を傾げた。

「前々から思っていましたが……ルーズヴェルト卿は、エルドラシア魔法学院に在籍していたにしては、随分常識人ですわね……」

誉めているのか褒めていないのか分からない、私の微妙な言葉にルーズヴェルト卿が困ったように微笑んだ。
エルドラシア魔法学院に入学したものはみな、程度の差はあれ変人だ。……私も恐らくその枠に収まっているのだと思う。だけどその線でいくと、やはりルーズヴェルト卿は常識人過ぎると思うの。

(あれかしら。やっぱりご自分がエルフだから??ご自身が神秘的な存在だから、あまりテンションが上がらないのかしら?)

そんなことを考えていると、ルーズヴェルト卿がサラリと言った。

「レディ・リンシア。あの言葉を覚えていますか?」

「……………。え?」

ルーズヴェルト卿の言葉に、目を瞬かせる。あの言葉……あの言葉──といえば。

「あっ」

思わず声を上げる。私の反応に、思い出したことを察したのだろう。
ルーズヴェルト卿が微笑みを見せた。
つまり、あれである。妻とか、伴侶とか。そういうお話のこと……よね!?
動揺する私に、ルーズヴェルト卿が言った。

「待つと言いましたが、忘れられている気がしたので」

「ご……ごめんなさい!その、忘れていたわけではありませんのよ?ただ、色んなことがあって、それに気を取られていたと言いますか」

それを人は【忘れていた】というのである。
しどろもどろに言い訳を繰り返す私に、ルーズヴェルト卿が言う。

「責めているわけではありません。ですがどうか、考えてみてほしいのです。あの男と婚約破棄をした今、あなたを縛るものは何もないはずだ。望み薄なら……そう言って欲しいのです」

ルーズヴェルト卿はハッキリとそう言った。
その時、ふと、私は気になったことがあって、顔を上げる。
ルーズヴェルト卿を見つめて、私は尋ねた。

「……もし、お断りしたら。ルーズヴェルト卿はどうなさいますの?」

ルーズヴェルト卿とは、同じ職場で働く同僚である。職場恋愛は拗れるとややこしくなる可能性がある。私の質問に、ルーズヴェルト卿が苦笑した。

「あなたが本当に嫌だと思うなら諦めます。ですから、気を使う必要はありません」

そう言った後、彼は「ですが」と続けた。

「少しでも可能性があるのなら──諦めたくない。レディ・リンシア。あなたをファーストネームだけで呼ぶ名誉を、私にくださいませんか」

真っ直ぐな言葉だった。
ルーズヴェルト卿も、緊張しているのだろうか。彼の声はいつもよりずっと固く強ばっていた。
私は手にしていた無効化の魔道具を机に置いて、席を立つ。それから、彼に向き直った。
何を言おうか考えて、思考を中断する。思ったことをそのまま話そうと決めたから。
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