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さん
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「どうしたの、デイジー。ひとり?」
レイモンドが、デイジーの背後を確認する。
すると、そこには侍女がひとりいて、彼はため息を吐いた。
「だめだよ、デイジー。きみは伯爵令嬢なのだから、きちんと騎士もつけなければ。夫人が心配する」
(……いつまで経っても、レイモンドは私を大人として見てくれない)
今の心配も、婚約者にするもの、というより、危なっかしい子供にする注意のよう。
彼の中で、デイジーは今も尚、子供のまま。
それを感じ取った彼女は一瞬沈黙してから、にこりと笑った。
「騎士なら、すぐそこにいるわ。私、あなたに会えたのが嬉しくてつい、駆け出しちゃったの。……ほら」
デイジーが振り向くと、焦ったように騎士が駆けてきた。
侍女に咎められるような視線を向けられている。
道中、彼は上司に偶然会い、合流が遅れたのだ。
それを見て、レイモンドは眉を寄せてため息を吐いた。
「……心配だな。いくら王城とはいえ、気を抜いてはいけないよ。分かった?」
「……ええ。ごめんなさい、レイモンド」
「分かったならいいんだ。きみは可愛いから、心配なんだよ。それで?夜会のことだっけ」
レイモンドの言葉は、保護者のそれだ。
彼と言葉を交わす度に、デイジーはそれを痛感する。
デイジーはパッと顔を上げた。
きらきらとした、眩しい笑顔を向けて。
「そう!そうなの。ねえ、今日のドレスはね、菜の花色にしたのよ。あなたの髪色によく似ている色になったの。だからね──」
そこで、デイジーは言葉を切る。
演技では無く、頬が赤く染まる。
恥じらいながら彼女は言った。
「ドレスにあう髪留めを……選んでくれないかしら。少しはやく来て下さるだけでいいの。だめ?」
「髪留め……」
レイモンドは少し考え込んでから、首を横に振る。
「すまない、直前まで仕事が入っているんだ。髪留めは、何でもいいと思うよ。きみなら、何だって似合うと思う」
「──そう」
デイジーは、言葉を飲んだ。
それから、全く気にしていない、というように振る舞って、とびきりの笑顔を見せる。
「それなら良いの!お気に入りのものをつけるから。あなたがくれた、シトリンの髪留めよ」
「ああ、あれ。でもあれは──」
レイモンドは何か言いかけたが、そこで微笑んだ。
「……うん、よく似合うと思う」
でもあれは、の続きは、何?
そう聞きたいのに、勇気のないデイジーは聞けない。
だって、彼女は怖い。
彼の愛が、自分にないと知ることが、怖い。
レイモンドが、デイジーの背後を確認する。
すると、そこには侍女がひとりいて、彼はため息を吐いた。
「だめだよ、デイジー。きみは伯爵令嬢なのだから、きちんと騎士もつけなければ。夫人が心配する」
(……いつまで経っても、レイモンドは私を大人として見てくれない)
今の心配も、婚約者にするもの、というより、危なっかしい子供にする注意のよう。
彼の中で、デイジーは今も尚、子供のまま。
それを感じ取った彼女は一瞬沈黙してから、にこりと笑った。
「騎士なら、すぐそこにいるわ。私、あなたに会えたのが嬉しくてつい、駆け出しちゃったの。……ほら」
デイジーが振り向くと、焦ったように騎士が駆けてきた。
侍女に咎められるような視線を向けられている。
道中、彼は上司に偶然会い、合流が遅れたのだ。
それを見て、レイモンドは眉を寄せてため息を吐いた。
「……心配だな。いくら王城とはいえ、気を抜いてはいけないよ。分かった?」
「……ええ。ごめんなさい、レイモンド」
「分かったならいいんだ。きみは可愛いから、心配なんだよ。それで?夜会のことだっけ」
レイモンドの言葉は、保護者のそれだ。
彼と言葉を交わす度に、デイジーはそれを痛感する。
デイジーはパッと顔を上げた。
きらきらとした、眩しい笑顔を向けて。
「そう!そうなの。ねえ、今日のドレスはね、菜の花色にしたのよ。あなたの髪色によく似ている色になったの。だからね──」
そこで、デイジーは言葉を切る。
演技では無く、頬が赤く染まる。
恥じらいながら彼女は言った。
「ドレスにあう髪留めを……選んでくれないかしら。少しはやく来て下さるだけでいいの。だめ?」
「髪留め……」
レイモンドは少し考え込んでから、首を横に振る。
「すまない、直前まで仕事が入っているんだ。髪留めは、何でもいいと思うよ。きみなら、何だって似合うと思う」
「──そう」
デイジーは、言葉を飲んだ。
それから、全く気にしていない、というように振る舞って、とびきりの笑顔を見せる。
「それなら良いの!お気に入りのものをつけるから。あなたがくれた、シトリンの髪留めよ」
「ああ、あれ。でもあれは──」
レイモンドは何か言いかけたが、そこで微笑んだ。
「……うん、よく似合うと思う」
でもあれは、の続きは、何?
そう聞きたいのに、勇気のないデイジーは聞けない。
だって、彼女は怖い。
彼の愛が、自分にないと知ることが、怖い。
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