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3.白魔道士カレン、始動です!
あなたの人生はあなただけのものなのだから
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「あなたに会いに行く。それなら良いだろう?」
私はマシュー様の言葉の意図を測り損ねて、首を傾げる。
それを見て、彼が焦ったように言った。
「今のままでは、あなたが俺を見てくれないことは理解した。だから、出直してくると言ったんだ」
「出直す……。いえ、マシュー様は再婚に向けて社交に励んだ方がよいと思いますわ」
マシュー様は若くして公爵位を継ぎ、まだ子がいない。
三年、白い結婚していた私が言うのもなんだけど、早急に跡継ぎを設けるべきだろう。
今、彼の身に何かあったらサザランド公爵家の直系は失われてしまう。
王家、神殿としても前公爵の早世は予想外だったはずだ。この際、婚外子でも構わないから早く子を設けて欲しいと彼らも思っているはず。
私が指摘すると、執事長が渋い顔をしながらも、同意するようにマシュー様を見た。
どうやら、執事長からもせっつかれていたようである。
マシュー様は私の言葉に、バツの悪そうな顔になった。
「それは……」
「それに、出直す……と仰いましたが、具体的には何を?」
「もっと立派になってから、あなたを迎えに行く」
マシュー様はハッキリキッパリスッパリと、そう答えた。
対して、私はその言葉に瞬きを繰り返す。
(う、う~~ん…………)
申し訳ないのだけど、彼の言葉は、何とも薄っぺらく聞こえた。
具体的に、と問われて、彼は『立派になったら』と答えたけど。
果たして、何を指して立派と言うのかしら……。
私は、ちら、と執事長を見た。
彼はさらに渋い顔になっていた。
さながら梅干しでも食べたかのような顔である。
私は、マシュー様に気付かれないように細くため息を吐いた。
「……差し出がましいことを言いますが」
「ん?」
「恋人関係にあったとはいえ、ひとりの人間の言葉を鵜呑みにしてろくに調査せず」
「う゛っ」
マシュー様は呻いた。
しかし、手加減せずにそのまま言葉を続けた。
もう、明日からは他人の身。
上辺だけを取り繕ってお別れすることも、もちろんできる。
できるけど。
私は、最後くらい本音で話したかった。
どうせ明日からは会わないのだから、この際、言いたかったことを言おうと思ったのだ。
私は、マシュー様を見上げてはっきりと言った。
「取り交わした契約のことをそもそもお忘れになっていて、当日、言われて、思い出された」
「…………」
グサグサと言葉が突き刺さるのが見える。
私は、スピカを抱き直すと言葉を続けた。
「しかも、お互いに合意した内容だと言うのに契約を不履行にしたいと仰る」
「…………」
マシュー様は項垂れてしまった。
背後からの執事長の視線がビシビシと刺さって痛いのだろう。
控える侍女やメイドたちの視線も気遣わしげなものになっていて、気の毒だ。
しかし、手は緩めない。
私は彼の目を見てハッキリと言った。
「しょ~~じきにお伝えします!脇が、甘すぎますわ!!」
「いや……そんなことは……」
「ないと言いきれますか?グレースさんの嘘を信じ、私との契約をお忘れになっていたのに?マシュー様はお若くして公爵位を継がれました。ですから……もっとしっかりとなさってください!」
でないと、足をすくわれますよ!!
完全に出すぎた物言いであると自覚していたものの、誰かが言わなければきっとマシュー様はずっとこのままだ。
こんな調子じゃ、いずれまた甘い言葉にそそのかされて、騙されるに決まっている。そうなったら、彼に待っているのは破滅の道だ。
最後通告、または檄を飛ばすつもりで、私はマシュー様に言った。
「私がどう、とかではありません。私を判断基準にするのではなく、サザランド公爵閣下としてふさわしい振る舞いをなさってください!そうすれば、自然と立派な方になるはずです」
ね?と執事長に視線を向ける。
彼は、いつの間にかハンカチを取りだし目元を拭っていた。
どうやら、私と同意見なようで、ホッとした。
公爵閣下に向かって、ずいぶんな物言い、あまりに不遜な態度だと理解していたから。
「さようなら、マシュー様。明日から私たちは他人となりますが──あなたはあなたのために、生きてください。自分の人生を他人に委ねるなんて、勿体なさすぎます」
今の彼を見るに、どうやらマシュー様は私に心残りがあるようだった。
だから、私は彼に別れの言葉を告げる。
彼が、私に思いを残さないように。
他人に執着したところで、いいことなんて何もない。
それなら、自分の未来を見据えて、何がしたいか、何をすべきかを考えた方が、ずっと有意義だ。
そう思ったからこその言葉なのだが、マシュー様は驚いたように目を見張った。
そして──彼は、なにか言おうと口を開いた、のだけど。
彼の口から零れたのは言葉ではなく。
「ックシュン……!!」
──クシャミだった。
「あ……!」
ハタと気が付き、慌てて彼から距離を取るが、もう遅い。
既にマシュー様の目元は赤く染まり、目は充血している。
彼も慌ててハンカチを取り出して口元を覆っているが、あまり効果はないようだ。
マシュー様は、猫へのアレルギー反応を起こしていた。
「で……では、失礼します!皆様、お元気で!!」
早いところ、この場から去らなければ。
マシュー様がますます辛くなるだけだ。
そうして、私は慌ただしく、愛猫スピカを抱いたまま馬車に乗り込んだのだった。
私はマシュー様の言葉の意図を測り損ねて、首を傾げる。
それを見て、彼が焦ったように言った。
「今のままでは、あなたが俺を見てくれないことは理解した。だから、出直してくると言ったんだ」
「出直す……。いえ、マシュー様は再婚に向けて社交に励んだ方がよいと思いますわ」
マシュー様は若くして公爵位を継ぎ、まだ子がいない。
三年、白い結婚していた私が言うのもなんだけど、早急に跡継ぎを設けるべきだろう。
今、彼の身に何かあったらサザランド公爵家の直系は失われてしまう。
王家、神殿としても前公爵の早世は予想外だったはずだ。この際、婚外子でも構わないから早く子を設けて欲しいと彼らも思っているはず。
私が指摘すると、執事長が渋い顔をしながらも、同意するようにマシュー様を見た。
どうやら、執事長からもせっつかれていたようである。
マシュー様は私の言葉に、バツの悪そうな顔になった。
「それは……」
「それに、出直す……と仰いましたが、具体的には何を?」
「もっと立派になってから、あなたを迎えに行く」
マシュー様はハッキリキッパリスッパリと、そう答えた。
対して、私はその言葉に瞬きを繰り返す。
(う、う~~ん…………)
申し訳ないのだけど、彼の言葉は、何とも薄っぺらく聞こえた。
具体的に、と問われて、彼は『立派になったら』と答えたけど。
果たして、何を指して立派と言うのかしら……。
私は、ちら、と執事長を見た。
彼はさらに渋い顔になっていた。
さながら梅干しでも食べたかのような顔である。
私は、マシュー様に気付かれないように細くため息を吐いた。
「……差し出がましいことを言いますが」
「ん?」
「恋人関係にあったとはいえ、ひとりの人間の言葉を鵜呑みにしてろくに調査せず」
「う゛っ」
マシュー様は呻いた。
しかし、手加減せずにそのまま言葉を続けた。
もう、明日からは他人の身。
上辺だけを取り繕ってお別れすることも、もちろんできる。
できるけど。
私は、最後くらい本音で話したかった。
どうせ明日からは会わないのだから、この際、言いたかったことを言おうと思ったのだ。
私は、マシュー様を見上げてはっきりと言った。
「取り交わした契約のことをそもそもお忘れになっていて、当日、言われて、思い出された」
「…………」
グサグサと言葉が突き刺さるのが見える。
私は、スピカを抱き直すと言葉を続けた。
「しかも、お互いに合意した内容だと言うのに契約を不履行にしたいと仰る」
「…………」
マシュー様は項垂れてしまった。
背後からの執事長の視線がビシビシと刺さって痛いのだろう。
控える侍女やメイドたちの視線も気遣わしげなものになっていて、気の毒だ。
しかし、手は緩めない。
私は彼の目を見てハッキリと言った。
「しょ~~じきにお伝えします!脇が、甘すぎますわ!!」
「いや……そんなことは……」
「ないと言いきれますか?グレースさんの嘘を信じ、私との契約をお忘れになっていたのに?マシュー様はお若くして公爵位を継がれました。ですから……もっとしっかりとなさってください!」
でないと、足をすくわれますよ!!
完全に出すぎた物言いであると自覚していたものの、誰かが言わなければきっとマシュー様はずっとこのままだ。
こんな調子じゃ、いずれまた甘い言葉にそそのかされて、騙されるに決まっている。そうなったら、彼に待っているのは破滅の道だ。
最後通告、または檄を飛ばすつもりで、私はマシュー様に言った。
「私がどう、とかではありません。私を判断基準にするのではなく、サザランド公爵閣下としてふさわしい振る舞いをなさってください!そうすれば、自然と立派な方になるはずです」
ね?と執事長に視線を向ける。
彼は、いつの間にかハンカチを取りだし目元を拭っていた。
どうやら、私と同意見なようで、ホッとした。
公爵閣下に向かって、ずいぶんな物言い、あまりに不遜な態度だと理解していたから。
「さようなら、マシュー様。明日から私たちは他人となりますが──あなたはあなたのために、生きてください。自分の人生を他人に委ねるなんて、勿体なさすぎます」
今の彼を見るに、どうやらマシュー様は私に心残りがあるようだった。
だから、私は彼に別れの言葉を告げる。
彼が、私に思いを残さないように。
他人に執着したところで、いいことなんて何もない。
それなら、自分の未来を見据えて、何がしたいか、何をすべきかを考えた方が、ずっと有意義だ。
そう思ったからこその言葉なのだが、マシュー様は驚いたように目を見張った。
そして──彼は、なにか言おうと口を開いた、のだけど。
彼の口から零れたのは言葉ではなく。
「ックシュン……!!」
──クシャミだった。
「あ……!」
ハタと気が付き、慌てて彼から距離を取るが、もう遅い。
既にマシュー様の目元は赤く染まり、目は充血している。
彼も慌ててハンカチを取り出して口元を覆っているが、あまり効果はないようだ。
マシュー様は、猫へのアレルギー反応を起こしていた。
「で……では、失礼します!皆様、お元気で!!」
早いところ、この場から去らなければ。
マシュー様がますます辛くなるだけだ。
そうして、私は慌ただしく、愛猫スピカを抱いたまま馬車に乗り込んだのだった。
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