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巣ごもりオメガと運命の騎妃
1.ふたりの朝
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大国ナハルベルカの王宮には、白い花を咲かせる樹木がいたるところに植わっている。愛らしい小さな花弁は甘く匂い、風が吹くとその香りは王宮中に広がる。それは王が寝起きする寝所の中庭にもあり、花が咲く時期にはその香りで目が覚めることもあるほどだ。
深く瞼を閉じて眠っていたミシュアルが目覚めたのも、匂いとともに舞い込んだ花弁が頬に落ちたからだった。
寝ぼけまなこのまま軽く頬に触れると、小さな花弁がベッドの上に落ちる。視界に舞い落ちたそれにゆっくりと瞬きをしたミシュアルは、ふわあとあくびをした。
もう少し寝ていたいが、二度寝をしては朝の日課である鍛錬の時間がなくなる。それは避けたい。
起きるか、と自分を叱咤して体を起こそうとしたミシュアルだったが、その決意はいつのまにか後ろから腰にかけられていた手によって阻まれた。
「う……ん」
腰を抱き、上掛けのかかった腹の前でだらりと垂れているのはミシュアルの手ではない。けれど、その相手が誰かは問うまでもないことだ。
ここは王宮の最奥にして、入る人間が限られた場所。王の寝室だ。そこに眠るのだから、つがいであるミシュアルのほかにはナハルベルカ王――イズディハール・カリム・ナハルベルカ以外はありえない。
朝から鍛錬をするミシュアルと違い、イズディハールはまだ眠っていていい時間だ。ただでさえ忙しい彼を起こしてしまったか確認したいが、大柄なミシュアルが動けば寝台は揺れるし、それで起こしてしまうかもしれない。でも、このままだと鍛錬に行けない。
ぐるぐると考え込んで体を動かせずにいると、だらりともたれたままだった手が意識を持ってぐいとミシュアルの腹を抱き寄せた。
「……朝か」
低く掠れた声と、背中にすり寄せられる額の感覚にぞくぞくする。それだけでも清涼な朝の空気にそぐわないというのに、脚が絡みつき、腰が押し当てられる。固いものが薄手のズボンをはいただけの尻の間をえぐった。
「朝です。陛下はまだお休みになっていてください、俺は鍛錬に……」
このままでは流されかねない。
下半身をがっちりと拘束されながらとっさにミシュアルが声をあげると、ううんと唸り声があがり、それから背中に唇の感触が落ちた。
「鍛錬はなしだ。忘れたのか? 今日は朝から忙しいぞ」
「えっ……ああっ」
言われてようやく思い当たったのだから、ミシュアルの頭はまだ寝ていたのかもしれない。
すっかり頭から抜け落ちていたが、今日は大切な日だ。
思わず声を上げたミシュアルを合図にしたように、固く閉ざされた寝室の扉がこんこんと叩かれ、「お目覚めでしょうか」と少しばかり焦ったような世話役たちの声がした。
「はい! 陛下、起きましょう。準備をしなければ」
イズディハールが言ったように、今日は朝から忙しい。なにせ、これから朝食を終えたら衣装を着つけてもらったり、来客を迎えなければならない。
今日は、縁起のいい星の日を選んでようやく決めた、晴れやかな婚約の日なのだから。
-------------
前作『巣ごもりオメガは後宮にひそむ』から少しだけあとの話です。
脇役も増え、舞台もナハルベルカだけではなくなります。
ミシュアルの成長と振り回されるイズディハール、新たに出てくるキャラたちを楽しんでいただければ嬉しいです!
深く瞼を閉じて眠っていたミシュアルが目覚めたのも、匂いとともに舞い込んだ花弁が頬に落ちたからだった。
寝ぼけまなこのまま軽く頬に触れると、小さな花弁がベッドの上に落ちる。視界に舞い落ちたそれにゆっくりと瞬きをしたミシュアルは、ふわあとあくびをした。
もう少し寝ていたいが、二度寝をしては朝の日課である鍛錬の時間がなくなる。それは避けたい。
起きるか、と自分を叱咤して体を起こそうとしたミシュアルだったが、その決意はいつのまにか後ろから腰にかけられていた手によって阻まれた。
「う……ん」
腰を抱き、上掛けのかかった腹の前でだらりと垂れているのはミシュアルの手ではない。けれど、その相手が誰かは問うまでもないことだ。
ここは王宮の最奥にして、入る人間が限られた場所。王の寝室だ。そこに眠るのだから、つがいであるミシュアルのほかにはナハルベルカ王――イズディハール・カリム・ナハルベルカ以外はありえない。
朝から鍛錬をするミシュアルと違い、イズディハールはまだ眠っていていい時間だ。ただでさえ忙しい彼を起こしてしまったか確認したいが、大柄なミシュアルが動けば寝台は揺れるし、それで起こしてしまうかもしれない。でも、このままだと鍛錬に行けない。
ぐるぐると考え込んで体を動かせずにいると、だらりともたれたままだった手が意識を持ってぐいとミシュアルの腹を抱き寄せた。
「……朝か」
低く掠れた声と、背中にすり寄せられる額の感覚にぞくぞくする。それだけでも清涼な朝の空気にそぐわないというのに、脚が絡みつき、腰が押し当てられる。固いものが薄手のズボンをはいただけの尻の間をえぐった。
「朝です。陛下はまだお休みになっていてください、俺は鍛錬に……」
このままでは流されかねない。
下半身をがっちりと拘束されながらとっさにミシュアルが声をあげると、ううんと唸り声があがり、それから背中に唇の感触が落ちた。
「鍛錬はなしだ。忘れたのか? 今日は朝から忙しいぞ」
「えっ……ああっ」
言われてようやく思い当たったのだから、ミシュアルの頭はまだ寝ていたのかもしれない。
すっかり頭から抜け落ちていたが、今日は大切な日だ。
思わず声を上げたミシュアルを合図にしたように、固く閉ざされた寝室の扉がこんこんと叩かれ、「お目覚めでしょうか」と少しばかり焦ったような世話役たちの声がした。
「はい! 陛下、起きましょう。準備をしなければ」
イズディハールが言ったように、今日は朝から忙しい。なにせ、これから朝食を終えたら衣装を着つけてもらったり、来客を迎えなければならない。
今日は、縁起のいい星の日を選んでようやく決めた、晴れやかな婚約の日なのだから。
-------------
前作『巣ごもりオメガは後宮にひそむ』から少しだけあとの話です。
脇役も増え、舞台もナハルベルカだけではなくなります。
ミシュアルの成長と振り回されるイズディハール、新たに出てくるキャラたちを楽しんでいただければ嬉しいです!
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