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魔女の森
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「ほんっっっとにゴメンって。この通り謝るからさ、機嫌なおしてよスズネ」
瞳を閉じ、腕を組み、頬を膨らませるスズネ。
それをミリアが必死になって宥めている。
一方のクロノはというと…まだ激痛の後遺症が残っているらしく、頭を押さえ苦悶の表情をしている。
「ちょっとクロノ、アンタからも謝んなさいよ」
「クソッ…完全に忘れていた。久しぶりのこいつはマジでキツいな。フゥ~・・・悪かったよ、もうこんな事はしない」
猛反省をしてかなり疲弊した様子の二人を見て、それまで沈黙を続けていたスズネがやっと口を開く。
「二人ともちゃんと反省した?ある程度のケンカは仕方がないけど、仲間同士で殺すとかそういうのは絶対にダメだからね!!」
「「はい・・・」」
「分かったなら良し。この件はこれで終わり」
スズネはパンッと手を叩くと笑顔で終結を告げた。
そして、この一連の騒動を隣で見ていたロマリオは、苦笑いを浮かべつつも改めて話の続きを話し始める。
「いや~なかなか面白いもんを見させてもらったよ。それじゃ、一先ず落ち着いたところで話を戻すぞ」
「「はい。お願いします」」
「さっきも話した通り、ラーニャは優秀な魔法師なんだが、なぜそんなに優秀なのかっていうと、噂によると西の森に住む魔女の弟子っていう話だ。その西の森っていうのは、ここモアの街から西に行ったところにある森で通称”魔女の森”と呼ばれている」
「「”魔女の森”・・・」」
「なんでも、ここら周辺でまだいざこざがあった大昔の頃から生きている不老不死の魔女が住んでるんだとよ。まぁ~あくまでも噂だけどな。今じゃ冒険者でも気味悪がって近づきもしないような場所さ」
一通りロマリオの話を聞き終えた三人は、それぞれの意見を述べつつ相談を始めた。
自分たちパーティの現状、対象であるラーニャ本人の問題、冒険者も近寄らないという”魔女の森”、検討すべきことは多々あるが、背に腹は変えられないという思いもある。
「戦力的には申し分ない・・・っていうか超欲しい。でも、性格に難ありか~、スズネはどう思う?」
「不老不死の魔女。誰も近寄らない森。カッコイイ~。魔女のお弟子さんか~、しかも十歳でしょ、可愛いのかな~。クロノはどう思う?」
「性格が悪かろうが、年齢がいくつだろうが関係ない。強さこそが全てだ!!」
まさに三者三様。
それぞれが自分の意見を言い合ってはいるが、全くと言っていいほど進展しない。
はたして話し合いになっているのかさえ疑わしい状態である。
そんな状況を見兼ねたロマリオが気まずそうに助言をしてきた。
「え~っと、お前さんらの言い分は分かったんだが、このままだと一向に話が進まない。いろいろと思うところはあるだろうが、”魔女の森”に行くことに抵抗がなく、ラーニャ本人に少しでも興味があるんだったら、とりあえず会いに行ってみらいいんじゃね~かな」
ロマリオからの至極真っ当な意見に三人とも深く頷くのだった。
「それもそうね。とりあえず会いに行ってみましょう」
「魔女さんには会えるのかな~」
「フンッ。不老不死の魔女か、どれ程のものかこの俺が見てやろう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ザザーーーッ ───── 。
ザザーーーッ ───── 。
ロマリオからの情報を得た翌日、さっそく三人は魔女が住むと言われている通称”魔女の森”へと足を運んでいた。
まず訪れた三人の目に飛び込んできたのは、その異様な光景であった。
広大な森を形成する木々のその一本一本がとにかくデカい。
その幹幅は、細い物でも半径が十メートルを超えるほどで、高さは百メートルにも及ぶのではないかというものばかりである。
それ故、森の中に一歩足を踏み入れると陽の光も届き難く、たまに風に揺られた木々の隙間から差し込む程度であった。
「ヒィィィィィ~~~ッ。なんで日中なのにこんなに暗いのよ、この森は」
「木の一本一本がめちゃくちゃ高いし太いもんね。噂だとこの森に住んでるっていう魔女さんの魔力に影響を受けて成長したんだとか」
「どんな噂よ!!仮にそうなんだとしても成長し過ぎでしょ」
「この程度の事でいちいち狼狽えるなよ、鬱陶しい。何なら森ごと焼き払ってやろうか」
「「いやいや、それはダメでしょ…」」
森に入ってから二時間くらい経っただろうか。
慣れない環境と何時魔物が襲ってくるかも分からない状況に、気を張り続けていたスズネとミリアは疲労の色を隠せないでいた。
さらに十五分ほど歩いた三人は、程よく地面から盛り上がった木の根を見つけると、そこに腰掛けて休憩を取ることにした。
「あ~疲れた~」
「結構歩いたもんね。はい、お水だよ」
ゴクッゴクッゴクッ ────── 。
「ぷはぁ~~~。ありがとう、スズネ。生き返る~」
ザザーーーッ ───── 。
ザザーーーッ ───── 。
三人が”魔女の森”に入ってから随分と時間が経ったが、この森は”得てして妙”である。
足を踏み入れたその時から、気味が悪いほどの静けさがずっと続いているのだ。
三人が森に入ってから二時間以上経ったが、ここまでの道中において木々を揺らす風は起これど、魔獣はおろか動物や昆虫の類いすらも見かけていないのだ。
「それにしても気味が悪い森よね。静かっていうか…静か過ぎ?」
「確かロマリオさんも普段から滅多に誰も近寄らないから、魔獣も多く住み着いてるって言ってたもんね。なんでいないんだろ?・・・って、出て来られても困るんだけどね」
ミリアの不安に対して苦笑いを交えつつ返答するスズネ。
そんな二人の不安をよそに、クロノは済ました顔をしながら朝にロザリーから渡された焼き菓子を一心不乱に食べている。
「ちょっとクロノ!?アンタそれ一人で食べる気?」
「あ?これはババアが俺によこした物だ。俺が全部食べて何が悪い。言っておくが、一個たりともやらんぞ」
「はぁ~。ホント…アンタのその食い意地と能天気さには呆れるわ」
コレは自分の物だと言わんばかりに、抱え込むようにして焼き菓子を守るクロノ。
その姿にもはや口論する気さえも無くなったミリアは、溜め息混じりに呆れ顔を見せたのだった。
「まぁまぁ、落ち着いてよミリア。おばあちゃんからもう一袋もらってるから私たちも食べよ」
「えっ本当に!?こんな奴ほっといて食べよ食べよ」
「フン、どっちが食い意地はってんだか」
ご機嫌な顔で焼き菓子を頬張る二人には聞こえないほど小さな声でクロノは悪態をつくのだった。
「ところでクロノ、さっきミリアとも話してたんだけど、森に入ってから魔獣とかに全く会わないし、それどころか他の動物なんかにも合わないのって変だと思わない?」
スズネは自分たちが先ほどから不安に思っていることを素直にクロノに質問した。
「はぁ?そんなの理由は簡単だろ」
「「えっ!?」」
二時間以上もの間不安と緊張を抱えながら過ごしてきた二人は、クロノの”何を今更…”とでも言いたげな返答に驚きを隠せないでいた。
「えっ…ちょっと待って。もしかして、この森には魔獣とか動物がいないの?」
明らかに動揺した様子のミリアがテンパりながらクロノに質問する。
「いや、この森には魔獣も動物もウジャウジャいるぞ」
「そ、そ、それなら、なんでアタシたちは一匹にも出くわさないのよ。もうかれこれ二時間以上もこの森にいるのよ。全く会わないなんておかしいじゃない」
先程までの疲労はどこへやら。
大興奮のミリアとは対照的に、クロノはテンパるミリアを冷静な眼差しで見つめながら淡々と答える。
「だから理由はシンプルだ」
「その理由って何なのよ!!」
理解が追いつかず語気を強めるミリア。
その隣でスズネは静かにクロノからの答えを待っていた。
「俺がいる」
クロノはそう一言だけ告げた。
自分たちが期待した答えとは掛け離れた回答によりさらに理解が遠のいた二人は、頭の上に大きな?マークを作りぽかんとした表情をしている。
「ごめんね…クロノ。もうちょっと私たちにも分かるように説明してもらっていいかな?」
質問に対する答えを教えたにも関わらず全く理解出来ていない様子の二人を見たクロノは、やれやれ…と言わんばかりに大きく息を吐いた。
「例えば、大型の猛獣が現れると小型の動物たちは一目散にその場を離れ身を隠すだろ。それと同じだ。今この森において圧倒的強者であるこの俺が、一切魔力を抑えることなくこうしているんだからな。一歩足を踏み入れた瞬間に森の奥深くへと逃げて行ったようだ」
クロノの説明を受けた二人は否応なしに納得させられた。
そして、自分たちの不安の種が無くなり安堵の表情を見せるのであった。
「だが、まぁ~そういう奴ばかりでもないようだな。どうやらお前たちが待ちに待った待望の客が来たようだぞ」
「えっ!?えっ!?どこどこ?魔物??」
クロノの一言によって二人の表情は一気に強張り、周囲をキョロキョロと見回す。
すると、前方に立つ一際太く大きな木の上から声がした。
「おい、貴様ら!!この森にいったい何の用じゃ」
パッと声のする方へと目をやる三人。
そして、飛び込んできた意外な光景に目を丸くする。
大木の幹から分かれた太く立派な枝の上で、腕を組み仁王立ちしているその者は ───── 全身が紫黒色の装いで統一されており、まさに魔女を彷彿とさせる。
が…しかし、明らかにおかしな点がある。
大きすぎるマントは端の部分が地面に擦れて汚れており、被っている鍔の広い帽子はぶかぶかで目元まで隠れてしまいそうなほどである。
そう…三人の前に現れたのは、魔女の姿をした紛うことなき少女であった。
「おーい、そんな高い所に登ったら危ないよー。怪我するといけないから降りておいでー」
目の前に現れた少女の姿に、完全に思考が停止し固まっているクロノとミリアをよそに、スズネは少女に向けて声をかける。
「貴様~~~、わっちを子供扱いするなー。この天才であるわっちを馬鹿にするとは笑止千万。いずれ大魔法師となるわっちの魔法をとくと味わうがよい」
そう言うと、少女は魔法を発動させる。
「吹き荒びし風よ、以下省略 ───── 風刃」
スズネたちに向けて三つの鋭い風の刃が放たれる。
唐突に放たれた攻撃にスズネとミリアはパニック状態。
「撃ってきたーーー」
「えーっ!?どうしよう、どうしよう」
「はぁ~面倒だな。───── 風刃」
やや面倒くさそうに放たれたクロノの魔法により少女より放たれた攻撃は相殺される。
少々驚いた表情を見せた少女は、やり甲斐のある相手を前に気持ちが昂ったのか、目を大きく開き、両方の口角を上げ、何とも嬉しそうな笑みを浮かべた。
「クックックッ…なかなかやるようじゃが、わっちの力はこんなものではない」
すると、少女の持つ杖の先端に見る見るうちに魔力が集まっていく。
それを目にしたスズネとミリアは先程以上に慌てふためく。
「ちょっとちょっと、いったい何なのよあの子。殺る気満々じゃない」
「なんか凄い魔力が集まってるけど・・・どうしようか」
「フン。今さら後悔しても遅いのじゃ」
少女の言葉に呼応するかのようにさらに魔力が集まっていき、あっという間に巨大な火の玉へと姿を変えた。
「森に仇なす不届き者め。業火に焼かれ灰となれ!!火球」
そして、少女の掛け声と共に巨大な火の玉がスズネたち目掛けて一直線に飛んできたのだった。
瞳を閉じ、腕を組み、頬を膨らませるスズネ。
それをミリアが必死になって宥めている。
一方のクロノはというと…まだ激痛の後遺症が残っているらしく、頭を押さえ苦悶の表情をしている。
「ちょっとクロノ、アンタからも謝んなさいよ」
「クソッ…完全に忘れていた。久しぶりのこいつはマジでキツいな。フゥ~・・・悪かったよ、もうこんな事はしない」
猛反省をしてかなり疲弊した様子の二人を見て、それまで沈黙を続けていたスズネがやっと口を開く。
「二人ともちゃんと反省した?ある程度のケンカは仕方がないけど、仲間同士で殺すとかそういうのは絶対にダメだからね!!」
「「はい・・・」」
「分かったなら良し。この件はこれで終わり」
スズネはパンッと手を叩くと笑顔で終結を告げた。
そして、この一連の騒動を隣で見ていたロマリオは、苦笑いを浮かべつつも改めて話の続きを話し始める。
「いや~なかなか面白いもんを見させてもらったよ。それじゃ、一先ず落ち着いたところで話を戻すぞ」
「「はい。お願いします」」
「さっきも話した通り、ラーニャは優秀な魔法師なんだが、なぜそんなに優秀なのかっていうと、噂によると西の森に住む魔女の弟子っていう話だ。その西の森っていうのは、ここモアの街から西に行ったところにある森で通称”魔女の森”と呼ばれている」
「「”魔女の森”・・・」」
「なんでも、ここら周辺でまだいざこざがあった大昔の頃から生きている不老不死の魔女が住んでるんだとよ。まぁ~あくまでも噂だけどな。今じゃ冒険者でも気味悪がって近づきもしないような場所さ」
一通りロマリオの話を聞き終えた三人は、それぞれの意見を述べつつ相談を始めた。
自分たちパーティの現状、対象であるラーニャ本人の問題、冒険者も近寄らないという”魔女の森”、検討すべきことは多々あるが、背に腹は変えられないという思いもある。
「戦力的には申し分ない・・・っていうか超欲しい。でも、性格に難ありか~、スズネはどう思う?」
「不老不死の魔女。誰も近寄らない森。カッコイイ~。魔女のお弟子さんか~、しかも十歳でしょ、可愛いのかな~。クロノはどう思う?」
「性格が悪かろうが、年齢がいくつだろうが関係ない。強さこそが全てだ!!」
まさに三者三様。
それぞれが自分の意見を言い合ってはいるが、全くと言っていいほど進展しない。
はたして話し合いになっているのかさえ疑わしい状態である。
そんな状況を見兼ねたロマリオが気まずそうに助言をしてきた。
「え~っと、お前さんらの言い分は分かったんだが、このままだと一向に話が進まない。いろいろと思うところはあるだろうが、”魔女の森”に行くことに抵抗がなく、ラーニャ本人に少しでも興味があるんだったら、とりあえず会いに行ってみらいいんじゃね~かな」
ロマリオからの至極真っ当な意見に三人とも深く頷くのだった。
「それもそうね。とりあえず会いに行ってみましょう」
「魔女さんには会えるのかな~」
「フンッ。不老不死の魔女か、どれ程のものかこの俺が見てやろう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ザザーーーッ ───── 。
ザザーーーッ ───── 。
ロマリオからの情報を得た翌日、さっそく三人は魔女が住むと言われている通称”魔女の森”へと足を運んでいた。
まず訪れた三人の目に飛び込んできたのは、その異様な光景であった。
広大な森を形成する木々のその一本一本がとにかくデカい。
その幹幅は、細い物でも半径が十メートルを超えるほどで、高さは百メートルにも及ぶのではないかというものばかりである。
それ故、森の中に一歩足を踏み入れると陽の光も届き難く、たまに風に揺られた木々の隙間から差し込む程度であった。
「ヒィィィィィ~~~ッ。なんで日中なのにこんなに暗いのよ、この森は」
「木の一本一本がめちゃくちゃ高いし太いもんね。噂だとこの森に住んでるっていう魔女さんの魔力に影響を受けて成長したんだとか」
「どんな噂よ!!仮にそうなんだとしても成長し過ぎでしょ」
「この程度の事でいちいち狼狽えるなよ、鬱陶しい。何なら森ごと焼き払ってやろうか」
「「いやいや、それはダメでしょ…」」
森に入ってから二時間くらい経っただろうか。
慣れない環境と何時魔物が襲ってくるかも分からない状況に、気を張り続けていたスズネとミリアは疲労の色を隠せないでいた。
さらに十五分ほど歩いた三人は、程よく地面から盛り上がった木の根を見つけると、そこに腰掛けて休憩を取ることにした。
「あ~疲れた~」
「結構歩いたもんね。はい、お水だよ」
ゴクッゴクッゴクッ ────── 。
「ぷはぁ~~~。ありがとう、スズネ。生き返る~」
ザザーーーッ ───── 。
ザザーーーッ ───── 。
三人が”魔女の森”に入ってから随分と時間が経ったが、この森は”得てして妙”である。
足を踏み入れたその時から、気味が悪いほどの静けさがずっと続いているのだ。
三人が森に入ってから二時間以上経ったが、ここまでの道中において木々を揺らす風は起これど、魔獣はおろか動物や昆虫の類いすらも見かけていないのだ。
「それにしても気味が悪い森よね。静かっていうか…静か過ぎ?」
「確かロマリオさんも普段から滅多に誰も近寄らないから、魔獣も多く住み着いてるって言ってたもんね。なんでいないんだろ?・・・って、出て来られても困るんだけどね」
ミリアの不安に対して苦笑いを交えつつ返答するスズネ。
そんな二人の不安をよそに、クロノは済ました顔をしながら朝にロザリーから渡された焼き菓子を一心不乱に食べている。
「ちょっとクロノ!?アンタそれ一人で食べる気?」
「あ?これはババアが俺によこした物だ。俺が全部食べて何が悪い。言っておくが、一個たりともやらんぞ」
「はぁ~。ホント…アンタのその食い意地と能天気さには呆れるわ」
コレは自分の物だと言わんばかりに、抱え込むようにして焼き菓子を守るクロノ。
その姿にもはや口論する気さえも無くなったミリアは、溜め息混じりに呆れ顔を見せたのだった。
「まぁまぁ、落ち着いてよミリア。おばあちゃんからもう一袋もらってるから私たちも食べよ」
「えっ本当に!?こんな奴ほっといて食べよ食べよ」
「フン、どっちが食い意地はってんだか」
ご機嫌な顔で焼き菓子を頬張る二人には聞こえないほど小さな声でクロノは悪態をつくのだった。
「ところでクロノ、さっきミリアとも話してたんだけど、森に入ってから魔獣とかに全く会わないし、それどころか他の動物なんかにも合わないのって変だと思わない?」
スズネは自分たちが先ほどから不安に思っていることを素直にクロノに質問した。
「はぁ?そんなの理由は簡単だろ」
「「えっ!?」」
二時間以上もの間不安と緊張を抱えながら過ごしてきた二人は、クロノの”何を今更…”とでも言いたげな返答に驚きを隠せないでいた。
「えっ…ちょっと待って。もしかして、この森には魔獣とか動物がいないの?」
明らかに動揺した様子のミリアがテンパりながらクロノに質問する。
「いや、この森には魔獣も動物もウジャウジャいるぞ」
「そ、そ、それなら、なんでアタシたちは一匹にも出くわさないのよ。もうかれこれ二時間以上もこの森にいるのよ。全く会わないなんておかしいじゃない」
先程までの疲労はどこへやら。
大興奮のミリアとは対照的に、クロノはテンパるミリアを冷静な眼差しで見つめながら淡々と答える。
「だから理由はシンプルだ」
「その理由って何なのよ!!」
理解が追いつかず語気を強めるミリア。
その隣でスズネは静かにクロノからの答えを待っていた。
「俺がいる」
クロノはそう一言だけ告げた。
自分たちが期待した答えとは掛け離れた回答によりさらに理解が遠のいた二人は、頭の上に大きな?マークを作りぽかんとした表情をしている。
「ごめんね…クロノ。もうちょっと私たちにも分かるように説明してもらっていいかな?」
質問に対する答えを教えたにも関わらず全く理解出来ていない様子の二人を見たクロノは、やれやれ…と言わんばかりに大きく息を吐いた。
「例えば、大型の猛獣が現れると小型の動物たちは一目散にその場を離れ身を隠すだろ。それと同じだ。今この森において圧倒的強者であるこの俺が、一切魔力を抑えることなくこうしているんだからな。一歩足を踏み入れた瞬間に森の奥深くへと逃げて行ったようだ」
クロノの説明を受けた二人は否応なしに納得させられた。
そして、自分たちの不安の種が無くなり安堵の表情を見せるのであった。
「だが、まぁ~そういう奴ばかりでもないようだな。どうやらお前たちが待ちに待った待望の客が来たようだぞ」
「えっ!?えっ!?どこどこ?魔物??」
クロノの一言によって二人の表情は一気に強張り、周囲をキョロキョロと見回す。
すると、前方に立つ一際太く大きな木の上から声がした。
「おい、貴様ら!!この森にいったい何の用じゃ」
パッと声のする方へと目をやる三人。
そして、飛び込んできた意外な光景に目を丸くする。
大木の幹から分かれた太く立派な枝の上で、腕を組み仁王立ちしているその者は ───── 全身が紫黒色の装いで統一されており、まさに魔女を彷彿とさせる。
が…しかし、明らかにおかしな点がある。
大きすぎるマントは端の部分が地面に擦れて汚れており、被っている鍔の広い帽子はぶかぶかで目元まで隠れてしまいそうなほどである。
そう…三人の前に現れたのは、魔女の姿をした紛うことなき少女であった。
「おーい、そんな高い所に登ったら危ないよー。怪我するといけないから降りておいでー」
目の前に現れた少女の姿に、完全に思考が停止し固まっているクロノとミリアをよそに、スズネは少女に向けて声をかける。
「貴様~~~、わっちを子供扱いするなー。この天才であるわっちを馬鹿にするとは笑止千万。いずれ大魔法師となるわっちの魔法をとくと味わうがよい」
そう言うと、少女は魔法を発動させる。
「吹き荒びし風よ、以下省略 ───── 風刃」
スズネたちに向けて三つの鋭い風の刃が放たれる。
唐突に放たれた攻撃にスズネとミリアはパニック状態。
「撃ってきたーーー」
「えーっ!?どうしよう、どうしよう」
「はぁ~面倒だな。───── 風刃」
やや面倒くさそうに放たれたクロノの魔法により少女より放たれた攻撃は相殺される。
少々驚いた表情を見せた少女は、やり甲斐のある相手を前に気持ちが昂ったのか、目を大きく開き、両方の口角を上げ、何とも嬉しそうな笑みを浮かべた。
「クックックッ…なかなかやるようじゃが、わっちの力はこんなものではない」
すると、少女の持つ杖の先端に見る見るうちに魔力が集まっていく。
それを目にしたスズネとミリアは先程以上に慌てふためく。
「ちょっとちょっと、いったい何なのよあの子。殺る気満々じゃない」
「なんか凄い魔力が集まってるけど・・・どうしようか」
「フン。今さら後悔しても遅いのじゃ」
少女の言葉に呼応するかのようにさらに魔力が集まっていき、あっという間に巨大な火の玉へと姿を変えた。
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