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最強の男
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国王より告げらえた思いもよらない事実を前に、スズネたちは驚きを隠せずにいた。
その驚愕の事実とは、スズネの祖母であるロザリーがガルディア王国国王であるレオンハルトと聖騎士長であるアーサーの魔法の師匠であり、さらには元ガルディア王国筆頭魔法師であったということなのである。
「王国筆頭魔法師なんて…いわば王国最強の魔法師ってことでしょ。ロザリーさんって、とんでもない人だったんだね・・・スズネは知ってたの?」
「ううん。昔は冒険者をやったり、一時期王都にも住んでたっていうのは聞いたてたけど・・・」
いつも優しくて強いおばあちゃん。
そんな憧れの存在であった祖母の過去を知り、スズネは改めて誇らしく思う気持ちと嬉しさのあまり頬を緩めるのだった。
「なんだ、あのババア強いのか?帰ったら一戦交えてみるか」
強いと聞くと戦ってみたいという純粋な闘争本能を抑えきれないクロノは、とても嬉しそうに笑みを浮かべる。
「はぁ~アンタ馬鹿?強いに決まってんでしょ。王国筆頭魔法師よ、アンタなんかの想像を遥かに超えるくらい強くて凄い人よ」
「確かに…ババアが作る料理もお菓子も美味い。この魔王クロノが認めてやろう。アイツは凄いやつだ!!」
毎度のことながら話の噛み合わなさに頭を抱え、溜め息混じりに呆れるミリアなのであった。
そんな中、この場にいる者の中でクロノと同様に最も俗世に疎いであろうラーニャが不思議そうな顔をしてスズネに問いかける。
「スズネのおばあ様は凄い魔法師なのか?」
「う~ん、なんかそうみたい」
自身もまだまだ完全に理解しきれていない状態であり、興奮した気持ちに頭が追いついていないスズネは、少し引き攣ったような笑みを浮かべながら答える。
魔法の探求に目が無く、その他(魔法とクロノ以外)のことに関しては一切無頓着なラーニャにとって、自身のレベルを上げる可能性がある人物は無視出来ない存在なのである。
「うおぉぉぉ。そうなのか、そうなのか~。またしても、わっちを高みへと導く者が・・・。よし、こんな雑魚共の相手にも飽きてきたところじゃし、さっさと帰るのじゃ」
今回なぜ王城まで連れて来られたのか全く理解していないラーニャからすると、これまでの一連の流れは全て無意味で退屈な時間であったようだ。
「クハハハハ。さすがはあの御高名なマーリン様の弟子なだけはある。言うことが豪快であるな」
「なんじゃ貴様、お師匠様を知っておるのか」
ラーニャの言葉遣いに対し、またもや大臣が口を挟もうとしたが、国王によって制止される。
「それはもちろん知っておるとも。この地に住む者でマーリン様のことを知らぬ者などおりはせんよ。すまぬがラーニャ殿、我はもう少々クロノ殿と話をせねばならんのだが、其方が今後もクロノ殿と行動を共にしたいのであれば少し待っていてもらえんか?」
国王は優しく子供をあやすように、柔らかく穏やかな口調で声を掛けた。
「う~む、そういうことであるならば仕方ない。良かろう、続けろ」
「心遣い感謝する」
クロノの為であるなら仕方がないと渋々折れたラーニャとは別に、国王に対するラーニャの態度と言動にヒヤヒヤしっぱなしのスズネとミリアはドッと疲れた様子を見せた。
「それではクロノ殿、我としては充分に楽しんだことだしこのまま帰らせてもいいんだが、一国の王としてはそういう訳にもいかんのだ」
ガルディア王国国王レオンハルトと魔王クロノ。
両者は視線を交えたまま数秒間沈黙する。
「ロザリー先生とサーバインの校長からの報告では、貴殿はこちらに召喚されてから殺しはおろかこの国に対しての敵対行動すら一切行っていないそうだが、真か?」
ラーニャを宥める時とは打って変わり、レオンハルトは王の顔を見せる。
そして、クロノはその質問に対しはぁ~と大きく溜め息を吐いてから返答した。
「質問の意味が分からん。事実もなにも、そもそもなぜ俺がそんな事をしなくちゃいけないんだ」
そう答えたクロノにふざけている様子はない。
その様子からは、相手を騙すとか欺くといった意図は無さそうである。
しかし、クロノが魔王の座に就いてからの十数年、それまでの魔族による侵攻と比べて、少しずつではあるが確実にその苛烈さが増していた。
それだけに召喚以降のクロノの姿しか知らない王宮の者たちとしては、言葉通りに受け取ることは難しく、疑いの目を向けずにはいられなかった。
そして、そんな彼らの思いを代弁するかのように大臣が声を上げる。
「ふざけるな!!貴様が魔王となって以降、我らが領地への侵攻が年々増しておるではないか。王である貴様が知らんとは言わさんぞ」
溢れ出る感情のままに声を荒げる大臣に対し、クロノは《またコイツか・・・》という表情を見せた後で面倒くさそうに語り始めた。
「知らん…とは言わんが、それは俺の意図するところではない。まぁ~信じてもらえるとは思わんがな」
「当たり前だ。いったいどれだけの民の命が奪われたと思っている。王は貴様であろう」
大臣の怒りは収まるところを知らず、ますます熱を帯びていき、顔は赤らんでいる。
「本当にうるさいジジイだな。だが、まぁ~お前の言う通りだ。先程の話に戻るが、どのような覇道を持ち、どれ程の覇気を身に纏おうとも、無知では王は務まらん。そういう意味でいうと、俺は王としての責務を全く果たせていない愚か者だと言わざるを得ん」
いつもは常に強気な言動をするクロノも、この時ばかりは己を悔い改めているようであった。
そして、一連の様子を注意深く眺めていた国王が口を開く。
「フム、魔族側も決して一枚岩という訳ではないということか。力が全ての魔族において、魔王が絶対の独裁体制だとばかり思っておったが・・・」
「いや、その認識で間違ってはいない。歴代の魔王は皆そうであった。ただ単に俺が未熟で好き勝手させただけの話だ」
先程から歯切れの悪い言葉が続くクロノを見て、国王は“何か”を察したようであった。
そして、どこか嬉しそうな表情を見せるのだった。
「誰しも大なり小なり悩みを抱えているものだが、最強の魔王とて例外ではないということだな」
「フン。目下最大の悩みは、このちんちくりんだがな」
そう言うと、クロノは隣で跪いているスズネの頭をわしゃわしゃと掻き乱した。
「ちょ、ちょっと止めてよクロノ。なんで、私が悩みなの~?」
困り顔をしながら乱れた髪を整えるスズネ。
そんなスズネの様子を横目で見ながらクロノはクスリと笑みを浮かべた。
「クハハハハ。我が王国最大の脅威と目されている魔王クロノ最大の悩みが、まさかこのようないたいけな少女とはな。実に愉快」
どこかしら満足そうな表情を見せる国王レオンハルト。
今回、周囲からの猛反対を押し切ってまでも、自ら魔王であるクロノと相対した甲斐はあったようである。
「クロノ殿、最後にあえて聞かせてもらいたい」
「何だ?」
「貴殿は我らがガルディア王国に対して、攻撃及び敵対する意思はないのだな」
一瞬にして場の空気が変わる。
ピリッとヒリヒリした空気がこの場にいる全ての者たちの肌を撫でる。
そして、国王の問い掛けに対するクロノの返答を全員が固唾を飲んで見守っている。
フゥー
クロノは大きく息を吐き出す。
「何度も言わせるな。なぜこの俺がそんな事をしなくちゃいけないんだ。これまでも、そしてこれからも、そんな気など微塵もない」
嘘をついてはいない…が、用心しておく必要ありといったところか。
一個人としては、言葉通りに受け取っても悪くはないが、一国の王としては、安易に処する訳にもいくまい。
それら全てを承知した上で、国王レオンハルトはクロノに対し法的処分を行わないことを決めたのだった。
───────────────────────────────────
「良かったよ~クロノ~」
「最後にまたアンタが余計なこと言わないかヒヤヒヤしたわよ」
「わっちは何ひとつ心配などしておらんかったのじゃ。旦那様の決定に従うのみじゃ」
クロノを取り囲むようにして、スズネ、ミリア、ラーニャの三人は各々言葉を掛ける。
召喚されてから一ヶ月ちょっととはいえ、力で全てを従わせようとする者の周りにこのような光景が生まれるはずもない。
それくらいのことは、国王でなくとも、その場にいる全ての者に理解することが出来た。
「さて、そろそろ帰るか」
少し疲れた様子を見せながらクロノがそう告げる。
それを聞いた国王は、まるで忘れ事を思い出したかのように声を掛けた。
「おっと、申し訳ないがクロノ殿、最後に一つだけ良いか」
「ん?なんだ、まだ何かあるのか」
「ああ、まぁ~何だ。王国として法的な処分をしないことにはしたんだが、なにぶん国民の目というものがあってだな、悪いが目付役を一人付けさせてもらいたい」
目付役。
すなわち監視役というわけだ。
「は?目付役?誰を付けるっていうんだ。隣にいる男でも付けるのか」
「クハハハハ。なんだ、アーサーをご指名か?しかし、すまんな。アーサーは王国聖騎士団の総長にして、我がガルディア王国“最強の男”だからな。おいそれと首都を離れる訳にはいかんのだ」
「あ?そうなのか?それじゃ、そこに雁首並べたやつらの誰かか?」
「おや?魔王クロノ殿も我がガルディア王国が誇る十二名の“十二の剣”が気になるか」
「いや…全く興味は ───── 」
「そうかそうか、そこまで言うなら紹介してやろう」
「いや、俺は何も ───── 」
相手の事などお構い無しにどんどん話を進めようとする国王。
クロノは全く噛み合わない会話に困惑と苛立ちをみせるが、勢いに乗った国王が止まることはない。
その様子を見ていたスズネたちは呆気に取られているが、王宮の者たちは《また始まった》と言わんばかりの表情を見せている。
そんな周囲のことなど一切気にも留めることなく、国王は意気揚々と話を進めるのであった。
「それでは、我がガルディア王国が誇る聖騎士団の団長たち、“十二の剣”を紹介しよう」
=========================
聖騎士長 アーサー
第一席 ランスロット
第二席 トリスタン
第三席 ケイ
第四席 ガウェイン
第五席 パーシヴァル
第六席 ラモラック
第七席 ベディヴィア
第八席 ガレス
第九席 モードレッド
第十席 グリフレット
第十一席 エクター
第十二席 ガラハッド
=========================
“十二の剣”の面々を紹介し終えた国王は満足げな顔をしている。
どうやら紹介と言いつつ、ただただクロノに対して自国が有する精鋭たちを自慢したかっただけのようである。
国王の意図を察したクロノは、やっと終わったと言いたげな顔をして呆れている。
そしてスズネとミリアは、自分たちの住む王国において最高戦力とされる者たちということもあり、興味津々で耳を傾けている。
ラーニャはというと ───── いつも通り全く興味を示さず退屈そうに欠伸をしている。
「陛下、お戯も程々にそろそろ本題に入ったほうが宜しいかと」
「おお、それもそうだな」
クロノたちの反応も含めてその場を楽しむ国王であったが、聖騎士長であるアーサーに促される形でやっと話を進める。
「ここまで紹介しておいてなんだが、“十二の剣”も目付役ではない。しかし、安心せよ、クロノ殿にピッタリの有望な人材を用意しておる」
「もう何でもいいよ。まぁ~俺としては、王国最強の男にこの俺を謀った報いを受けさせてやりたかったけどな、残念だ」
イタズラっぽく笑みを浮かべながら、クロノは軽い殺気をアーサーへと飛ばした。
「はっはっはっ、ご冗談を。噂に名高い魔王クロノを相手にするなど…。その首スパッと綺麗に切り落として差し上げましょうか? ────── なんてな」
クロノの殺気を軽くいなし、一切怯むことなく、むしろ余裕すら感じさせる。
さすがは王国最強と言われるだけのことはある。
恍けたように飄々としてはいるが、その佇まいに全く隙は無い。
「おいおいアーサー。せっかく纏まった話を壊してくれるなよ」
「ハッ、失礼しました。陛下」
まるで友と話すように砕けた物言いをする国王であったが、今は多くの家臣たちもいる公の場である。
アーサーは王国聖騎士団総長として、あえて畏まった返答を見せる。
その様子に、国王はやれやれといった表情を見せるのであった。
「アーサー、それでは呼んでくれ」
「ハッ。入って来い、マクスウェル」
「ハッ!!」
大きな返事が部屋中に響き渡る。
すると、謁見の間の扉がゆっくりと開き、一人の騎士が姿を現したのだった。
その驚愕の事実とは、スズネの祖母であるロザリーがガルディア王国国王であるレオンハルトと聖騎士長であるアーサーの魔法の師匠であり、さらには元ガルディア王国筆頭魔法師であったということなのである。
「王国筆頭魔法師なんて…いわば王国最強の魔法師ってことでしょ。ロザリーさんって、とんでもない人だったんだね・・・スズネは知ってたの?」
「ううん。昔は冒険者をやったり、一時期王都にも住んでたっていうのは聞いたてたけど・・・」
いつも優しくて強いおばあちゃん。
そんな憧れの存在であった祖母の過去を知り、スズネは改めて誇らしく思う気持ちと嬉しさのあまり頬を緩めるのだった。
「なんだ、あのババア強いのか?帰ったら一戦交えてみるか」
強いと聞くと戦ってみたいという純粋な闘争本能を抑えきれないクロノは、とても嬉しそうに笑みを浮かべる。
「はぁ~アンタ馬鹿?強いに決まってんでしょ。王国筆頭魔法師よ、アンタなんかの想像を遥かに超えるくらい強くて凄い人よ」
「確かに…ババアが作る料理もお菓子も美味い。この魔王クロノが認めてやろう。アイツは凄いやつだ!!」
毎度のことながら話の噛み合わなさに頭を抱え、溜め息混じりに呆れるミリアなのであった。
そんな中、この場にいる者の中でクロノと同様に最も俗世に疎いであろうラーニャが不思議そうな顔をしてスズネに問いかける。
「スズネのおばあ様は凄い魔法師なのか?」
「う~ん、なんかそうみたい」
自身もまだまだ完全に理解しきれていない状態であり、興奮した気持ちに頭が追いついていないスズネは、少し引き攣ったような笑みを浮かべながら答える。
魔法の探求に目が無く、その他(魔法とクロノ以外)のことに関しては一切無頓着なラーニャにとって、自身のレベルを上げる可能性がある人物は無視出来ない存在なのである。
「うおぉぉぉ。そうなのか、そうなのか~。またしても、わっちを高みへと導く者が・・・。よし、こんな雑魚共の相手にも飽きてきたところじゃし、さっさと帰るのじゃ」
今回なぜ王城まで連れて来られたのか全く理解していないラーニャからすると、これまでの一連の流れは全て無意味で退屈な時間であったようだ。
「クハハハハ。さすがはあの御高名なマーリン様の弟子なだけはある。言うことが豪快であるな」
「なんじゃ貴様、お師匠様を知っておるのか」
ラーニャの言葉遣いに対し、またもや大臣が口を挟もうとしたが、国王によって制止される。
「それはもちろん知っておるとも。この地に住む者でマーリン様のことを知らぬ者などおりはせんよ。すまぬがラーニャ殿、我はもう少々クロノ殿と話をせねばならんのだが、其方が今後もクロノ殿と行動を共にしたいのであれば少し待っていてもらえんか?」
国王は優しく子供をあやすように、柔らかく穏やかな口調で声を掛けた。
「う~む、そういうことであるならば仕方ない。良かろう、続けろ」
「心遣い感謝する」
クロノの為であるなら仕方がないと渋々折れたラーニャとは別に、国王に対するラーニャの態度と言動にヒヤヒヤしっぱなしのスズネとミリアはドッと疲れた様子を見せた。
「それではクロノ殿、我としては充分に楽しんだことだしこのまま帰らせてもいいんだが、一国の王としてはそういう訳にもいかんのだ」
ガルディア王国国王レオンハルトと魔王クロノ。
両者は視線を交えたまま数秒間沈黙する。
「ロザリー先生とサーバインの校長からの報告では、貴殿はこちらに召喚されてから殺しはおろかこの国に対しての敵対行動すら一切行っていないそうだが、真か?」
ラーニャを宥める時とは打って変わり、レオンハルトは王の顔を見せる。
そして、クロノはその質問に対しはぁ~と大きく溜め息を吐いてから返答した。
「質問の意味が分からん。事実もなにも、そもそもなぜ俺がそんな事をしなくちゃいけないんだ」
そう答えたクロノにふざけている様子はない。
その様子からは、相手を騙すとか欺くといった意図は無さそうである。
しかし、クロノが魔王の座に就いてからの十数年、それまでの魔族による侵攻と比べて、少しずつではあるが確実にその苛烈さが増していた。
それだけに召喚以降のクロノの姿しか知らない王宮の者たちとしては、言葉通りに受け取ることは難しく、疑いの目を向けずにはいられなかった。
そして、そんな彼らの思いを代弁するかのように大臣が声を上げる。
「ふざけるな!!貴様が魔王となって以降、我らが領地への侵攻が年々増しておるではないか。王である貴様が知らんとは言わさんぞ」
溢れ出る感情のままに声を荒げる大臣に対し、クロノは《またコイツか・・・》という表情を見せた後で面倒くさそうに語り始めた。
「知らん…とは言わんが、それは俺の意図するところではない。まぁ~信じてもらえるとは思わんがな」
「当たり前だ。いったいどれだけの民の命が奪われたと思っている。王は貴様であろう」
大臣の怒りは収まるところを知らず、ますます熱を帯びていき、顔は赤らんでいる。
「本当にうるさいジジイだな。だが、まぁ~お前の言う通りだ。先程の話に戻るが、どのような覇道を持ち、どれ程の覇気を身に纏おうとも、無知では王は務まらん。そういう意味でいうと、俺は王としての責務を全く果たせていない愚か者だと言わざるを得ん」
いつもは常に強気な言動をするクロノも、この時ばかりは己を悔い改めているようであった。
そして、一連の様子を注意深く眺めていた国王が口を開く。
「フム、魔族側も決して一枚岩という訳ではないということか。力が全ての魔族において、魔王が絶対の独裁体制だとばかり思っておったが・・・」
「いや、その認識で間違ってはいない。歴代の魔王は皆そうであった。ただ単に俺が未熟で好き勝手させただけの話だ」
先程から歯切れの悪い言葉が続くクロノを見て、国王は“何か”を察したようであった。
そして、どこか嬉しそうな表情を見せるのだった。
「誰しも大なり小なり悩みを抱えているものだが、最強の魔王とて例外ではないということだな」
「フン。目下最大の悩みは、このちんちくりんだがな」
そう言うと、クロノは隣で跪いているスズネの頭をわしゃわしゃと掻き乱した。
「ちょ、ちょっと止めてよクロノ。なんで、私が悩みなの~?」
困り顔をしながら乱れた髪を整えるスズネ。
そんなスズネの様子を横目で見ながらクロノはクスリと笑みを浮かべた。
「クハハハハ。我が王国最大の脅威と目されている魔王クロノ最大の悩みが、まさかこのようないたいけな少女とはな。実に愉快」
どこかしら満足そうな表情を見せる国王レオンハルト。
今回、周囲からの猛反対を押し切ってまでも、自ら魔王であるクロノと相対した甲斐はあったようである。
「クロノ殿、最後にあえて聞かせてもらいたい」
「何だ?」
「貴殿は我らがガルディア王国に対して、攻撃及び敵対する意思はないのだな」
一瞬にして場の空気が変わる。
ピリッとヒリヒリした空気がこの場にいる全ての者たちの肌を撫でる。
そして、国王の問い掛けに対するクロノの返答を全員が固唾を飲んで見守っている。
フゥー
クロノは大きく息を吐き出す。
「何度も言わせるな。なぜこの俺がそんな事をしなくちゃいけないんだ。これまでも、そしてこれからも、そんな気など微塵もない」
嘘をついてはいない…が、用心しておく必要ありといったところか。
一個人としては、言葉通りに受け取っても悪くはないが、一国の王としては、安易に処する訳にもいくまい。
それら全てを承知した上で、国王レオンハルトはクロノに対し法的処分を行わないことを決めたのだった。
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「良かったよ~クロノ~」
「最後にまたアンタが余計なこと言わないかヒヤヒヤしたわよ」
「わっちは何ひとつ心配などしておらんかったのじゃ。旦那様の決定に従うのみじゃ」
クロノを取り囲むようにして、スズネ、ミリア、ラーニャの三人は各々言葉を掛ける。
召喚されてから一ヶ月ちょっととはいえ、力で全てを従わせようとする者の周りにこのような光景が生まれるはずもない。
それくらいのことは、国王でなくとも、その場にいる全ての者に理解することが出来た。
「さて、そろそろ帰るか」
少し疲れた様子を見せながらクロノがそう告げる。
それを聞いた国王は、まるで忘れ事を思い出したかのように声を掛けた。
「おっと、申し訳ないがクロノ殿、最後に一つだけ良いか」
「ん?なんだ、まだ何かあるのか」
「ああ、まぁ~何だ。王国として法的な処分をしないことにはしたんだが、なにぶん国民の目というものがあってだな、悪いが目付役を一人付けさせてもらいたい」
目付役。
すなわち監視役というわけだ。
「は?目付役?誰を付けるっていうんだ。隣にいる男でも付けるのか」
「クハハハハ。なんだ、アーサーをご指名か?しかし、すまんな。アーサーは王国聖騎士団の総長にして、我がガルディア王国“最強の男”だからな。おいそれと首都を離れる訳にはいかんのだ」
「あ?そうなのか?それじゃ、そこに雁首並べたやつらの誰かか?」
「おや?魔王クロノ殿も我がガルディア王国が誇る十二名の“十二の剣”が気になるか」
「いや…全く興味は ───── 」
「そうかそうか、そこまで言うなら紹介してやろう」
「いや、俺は何も ───── 」
相手の事などお構い無しにどんどん話を進めようとする国王。
クロノは全く噛み合わない会話に困惑と苛立ちをみせるが、勢いに乗った国王が止まることはない。
その様子を見ていたスズネたちは呆気に取られているが、王宮の者たちは《また始まった》と言わんばかりの表情を見せている。
そんな周囲のことなど一切気にも留めることなく、国王は意気揚々と話を進めるのであった。
「それでは、我がガルディア王国が誇る聖騎士団の団長たち、“十二の剣”を紹介しよう」
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聖騎士長 アーサー
第一席 ランスロット
第二席 トリスタン
第三席 ケイ
第四席 ガウェイン
第五席 パーシヴァル
第六席 ラモラック
第七席 ベディヴィア
第八席 ガレス
第九席 モードレッド
第十席 グリフレット
第十一席 エクター
第十二席 ガラハッド
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“十二の剣”の面々を紹介し終えた国王は満足げな顔をしている。
どうやら紹介と言いつつ、ただただクロノに対して自国が有する精鋭たちを自慢したかっただけのようである。
国王の意図を察したクロノは、やっと終わったと言いたげな顔をして呆れている。
そしてスズネとミリアは、自分たちの住む王国において最高戦力とされる者たちということもあり、興味津々で耳を傾けている。
ラーニャはというと ───── いつも通り全く興味を示さず退屈そうに欠伸をしている。
「陛下、お戯も程々にそろそろ本題に入ったほうが宜しいかと」
「おお、それもそうだな」
クロノたちの反応も含めてその場を楽しむ国王であったが、聖騎士長であるアーサーに促される形でやっと話を進める。
「ここまで紹介しておいてなんだが、“十二の剣”も目付役ではない。しかし、安心せよ、クロノ殿にピッタリの有望な人材を用意しておる」
「もう何でもいいよ。まぁ~俺としては、王国最強の男にこの俺を謀った報いを受けさせてやりたかったけどな、残念だ」
イタズラっぽく笑みを浮かべながら、クロノは軽い殺気をアーサーへと飛ばした。
「はっはっはっ、ご冗談を。噂に名高い魔王クロノを相手にするなど…。その首スパッと綺麗に切り落として差し上げましょうか? ────── なんてな」
クロノの殺気を軽くいなし、一切怯むことなく、むしろ余裕すら感じさせる。
さすがは王国最強と言われるだけのことはある。
恍けたように飄々としてはいるが、その佇まいに全く隙は無い。
「おいおいアーサー。せっかく纏まった話を壊してくれるなよ」
「ハッ、失礼しました。陛下」
まるで友と話すように砕けた物言いをする国王であったが、今は多くの家臣たちもいる公の場である。
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俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
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