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無事に王都メルサからモアへと帰ってきたスズネたち。
国王レオンハルトからクロノの目付役として押し付けられた?聖騎士見習いのマクスウェルを加え、さらにパーティを強化することとなった。
旅から戻ったスズネたちは、王都からやって来たマクスウェルの住まいについて話し合いをしていた。
そんな中、スズネの祖母であるロザリーから一つの提案が出される。
それは、以前ロザリーが使っていた一軒家があり、そこをスズネに譲りパーティメンバー全員で住むというものだった。
「みんなでシェアハウスって、どうしよう」
「え~なんか楽しそう。お金もかからないし、いちいち集まらなくていいし、最高じゃない」
突然の提案に困惑するスズネ。
そんなスズネをよそにミリアはノリノリのようだ。
「まぁ~ミリアの言うことも一理あるけど…。ラーニャちゃんとマクスウェル君はどう思う?」
「わっちは旦那様と一緒であれば、他はどうでもよい。はっ!!新居ということは…部屋も同室を所望するのじゃ」
───── ガッ!! ─────
「勝手に所望してんじゃねぇ~よ」
ラーニャの頭を鷲掴みしながらクロノは目を見開き凄むのだったが・・・。
「本当に旦那様は照れ屋さんじゃのう」
ラーニャには効果が無いようだ。
「僕は意見を言えるような立場ではないので、住む場所があるのであればそれだけで有り難いです」
他の者たちが好き勝手意見を述べる中、マクスウェルだけは恐縮した様子であった。
「そんな…立場なんてここには無いよ。私たちはみんな同じパーティの仲間なんだから」
「・・・」
「ん?マクスウェル君、大丈夫??」
「は…はい。ありがとうございます」
純粋無垢な瞳で真っ直ぐ笑顔を向けてくるスズネに心奪われ見惚れてしまったマクスウェルは、慌てて返事をするのであった。
「意見は纏まったかい。パーティを組んだのなら、遅かれ早かれホームは用意するもんだからね。早めにお互いのことを知り、チームワークを向上させておくことも大事なことさね」
ロザリーの話を聞き終えると、スズネは改めて全員の顔を見回した。
そんなスズネに対し、メンバー全員が静かに頷き返し賛成の意を示す。
「よし。それじゃ、みんなで楽しくホームで暮らそう!!」
「「「お~~~」」」
新メンバーのマクスウェルを加え、新たにホームにて共同生活をすることを決めたスズネたちは、心も新たに団結心を高めたのであった。
「さぁ今日はもう遅いから、実際に家を見に行くのは明日にしよう。マクスウェル、あんた今日はうちに泊まっていきな。クロノと同じ部屋を使うといいよ」
「なっ、ババアテメェー、なんで俺がこんなやつと ───── 」
「ん?なんだい、文句でもあるのかい?ここは私の家だ、家主のいうことは絶対さね。まぁ~アンタがどうしても外で寝たいって言うんなら止めやしないよ」
「クッ…なんてババアだ」
「これ以上文句を言うなら、夕食も抜きにしちまうからね」
さすがの年の功とでもいうべきか。
いくら最強の魔王といえど、まだ生まれて二十年やそこらでは経験という部分においてロザリーの足元にも及ばない。
まさに一枚どころか、五枚も六枚もロザリーの方が上手である。
「マクスウェルもそれでいいね」
「はい。異論はありません」
いつも以上に背筋をビシッと伸ばしたマクスウェルは、ロザリーとクロノによる一連のやり取りから、絶対に逆らってはいけない人物が誰なのかをしっかりと心に刻み込んだのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
───── 翌日 ─────
前日にロザリーから提案を受け、パーティメンバー全員で暮らすこととなったスズネたち。
新たにホームとなるのは、以前ロザリーが使っていたという街外れにある一軒家である。
事の詳細を家族に説明するために一度家に帰ったミリアも合流し、馳せる思いを抑えつつ、いざ新たなるホームへ。
「さぁ全員揃ったね。それじゃ出発するよ」
ロザリーの号令と共にスズネたち一行は新たなホームに向けて出発したのだった。
ロザリーが所有する一軒家があるのは、モアの街と先日スズネたちがラーニャを勧誘するために赴いた大魔法師マーリンの住む森、通称“魔女の森”のちょうど中間地点にある“ザグレスの森”の中にあるらしい。
同じ森とはいっても、その大きさは“魔女の森”と比べるとその半分にも満たないほどであり、猛獣や魔獣の類いも滅多に現れないため、新人や低ランク冒険者が薬草採集や動物の毛皮や角などのアイテムを入手するのに使われることも多い比較的安全な場所なのである。
“ザグレスの森”に到着した一行は、ロザリーの案内の下、森の中へと足を踏み入れる。
「私たちも何度かクエストで来たことあるよね」
「そうね。薬草の採取や素材集めなんかで来たのよね。誰かさんは一切何もしなかったけどね」
クエスト達成に苦労したのか、ミリアは嫌味たっぷりな言葉と共に目を細め怒りを含んだ視線をクロノへと向けた。
「なんだ、お前たちの無能さを俺のせいにするな。そもそも魔王であるこの俺がなぜ雑草やガラクタ集めをしなくちゃいけないんだ」
「はぁ~?アンタはスズネの召喚獣でしょ。もっと召喚主であるスズネに協力しなさいよ」
「だ…誰が召喚獣だ!!」
また始まった。
みんなこの状況にも慣れたものである。
加入してまだ数日のラーニャでさえ気にする素振りを見せない。
しかし、前日に加入したばかりのマクスウェルだけは違う。
目の前で繰り広げられる光景の異様さに混乱せずにはいられない。
他の面々が一切気にする様子もなく、スズネに至ってはニコニコと微笑みを浮かべながら見守っている。
その状況がマクスウェルをさらに混乱させる。
「えっ!?えっ!?これは大丈夫なんですか?」
「ん?まぁ~いつものことだからね。仲良いでしょ」
「「良くない!!」」
困惑しっぱなしのマクスウェルをよそに、スズネの言葉に対し声を揃えて否定する二人。
「あはははは。ほら、息ピッタリ」
理解が追いつかない。
目の前にいるのは魔王クロノで間違いない。
ガルディア王国に生きる全ての者にとって恐怖の対象である魔族。
その魔族を統べる魔王。
そして、その魔王の中でも歴代最強とも言われる男 ───── 。
王国最強と謳われ、自身の剣の師匠でもある聖騎士長アーサーをして、サシでは分が悪いと言わしめるほどである。
そんな男が自身と同じ十六歳の少女と口喧嘩。
少女は一切怯むことなくグイグイと口撃している。
───── 《こんな奴が本当に皆が恐れる魔王なのか?》 ─────
「思っていたのと違ったかい?」
不思議そうな顔をして二人のやり取りを見ていたマクスウェルにロザリーが声を掛ける。
「えっ!?いや、別にそういう訳では・・・」
「あっはっはっ。本来であれば討ち取るべき魔王がこんな調子じゃ、拍子抜けもいいところだろ」
「まぁ~そう思わなくもないですが」
恐縮しっぱなしのマクスウェル。
目の前にいるのは、国王レオンハルト、そして自身の師であるアーサーに魔法を教えた人物であり、元王国筆頭魔法師でもあるのだ。
そんなロザリーに対し畏敬の念すら抱くほどであった。
そんなやり取りをしていると、ミリアとの小競り合いを終えたクロノが口を挟んできた。
「ほ~う。この俺を討ち取るだと?お前のような半人前の色ガキがね~。寝言なら寝て言えよ」
まだまだ実力不足。
そんなことは自分自身が一番分かっている。
クロノの言葉に対し返す言葉も実力も無いことに、マクスウェルは悔しさのあまり唇を噛むのだった。
「そんなことは本人が一番理解しているさね。これから強くなるんだから、あんまり若いもんを苛めるんじゃないよ」
「なんだよババア、ちょっとからかってやっただけじゃね~か。まぁ~気長に待っといてやるよ」
クロノのあまりにも余裕たっぷりな態度に改めて力の差を実感し、“強くなろう”と心に誓うマクスウェルなのであった。
そうこうしている内に、一行は目的地である以前ロザリーが住んでいたという家に到着した。
「さぁ~着いたよ。ここが今日からお前さんたちのホームさ」
今日からホームで暮らし、冒険と生活の両方をメンバー同士で助け合い協力しながら更なる高みへと駆け上がっていく ───── 。
そんな想いを胸に訪れたスズネたちであったが、目的の家を目にし言葉を失う。
そんなメンバーの中でただ一人クロノだけが口を開く。
「ボロボロだな」
さすがは唯我独尊の魔王。
一切の遠慮も気遣いもなく、見たまま思ったままを口にする。
「ちょっ、アンタね」
「はっはっは。いやいや、いいんだ。クロノの言う通りさね。スズネと暮らすようになってからだから、もう十年以上も放置しっぱなしだったからね」
久しぶりに訪れたかつての我が家は、以前住んでいた頃とは変わり果てた姿をしていた。
しかし、そんな現状を前にしても、ロザリーは気にする素振りもなく豪快に笑い飛ばすのであった。
そして、ロザリーの笑い声が響き渡った後、数秒間の沈黙が生まれる ───── 。
「えっと…どうしよっか」
スズネが困った様子で他のメンバーに問い掛ける。
さすがにこのまま住むということは無理そうである。
ざっと見ても傷んでいる箇所、腐敗が進んでいる箇所がチラホラ見て伺える。
「ホント掃除や片付けしてどうこうってレベルじゃないわね」
「わっちは壊すことくらいしか出来んのじゃ」
「僕も力仕事なら役に立てるとは思いますが・・・」
各々が言葉を振り絞るが、はっきり言って全員がお手上げという状態であった。
「いや~本当にみんなには悪いことしちまったね。わざわざこんな所まで連れて来といて…。街に帰ったら、知り合いに頼んでなるべく早く新しい家を建ててもらうようにするよ」
自分から提案しておいてのこの有様に、ロザリーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな…おばあちゃんの所為じゃないよ。元々は私たちの問題だし、今度こそ自分たちの力でなんとかしてみるよ」
「そうですよ、ロザリーさん。アタシたちだって冒険者なんですから、自力でなんとかしてみせますよ!だから頭を上げてください」
頭を下げるロザリーの姿を見て、スズネとミリアは慌ててフォローする。
それでも現状がこの様では問題が振り出しに戻っただけであり、また一から解決策を考えなければならない。
いったいどうしたものかと一同は頭を悩ませる。
「で、お前らは何を悩んでいるんだ?」
悩める一同を見てクロノが不思議そうに質問した。
「はぁ?アンタここまでの話聞いてなかったの。目的の家がこの状態じゃ住むのも難しいから、これからどうしようかってみんなで考えてんでしょ」
こういう時にはっきりとものが言えるミリアの存在が頼もしい。
質問の意図が全く理解出来ないスズネたち全員の思いを代弁するように、質問者であるクロノに若干キレ気味で答える。
「おいババア。ここがスズネのものになるってことは、好きにしていいってことだよな」
前日にロザリーがこの家をスズネに譲ると言っていたことを覚えていたクロノは、改めてそのことを確認する。
「ああ、この土地も家もスズネに譲ったから、どこをどうしてもらっても構いやしないよ。それこそ全部壊してもらったっていいさね」
こうして改めてロザリーからの言質をとったクロノは、満足気な顔をスズネたちへと向ける。
「だそうだ。これで問題解決だな」
「どこがよ!!さっぱり分かんないわ」
「えっと、クロノ。好きにするにしても、肝心の家がこの有様じゃ・・・」
いつもの様に自分だけが理解し淡々と話を進めていくクロノ。
それに対し、これまたいつもの通りミリアがキレて、スズネが説明を求める。
「いやいや、今ババアが口にした通りだろ。今ここでこのボロ家をぶっ壊して、新しいのをぶっ建てるんだよ」
───── はぁ?? ─────
いつも以上にぶっ飛んだことを言うクロノに、スズネたちの理解が追いつかない。
しかし、ラーニャだけは全く理解出来ていなくとも目をキラキラと輝かせ喜んでいる。
「本当にそんなことができるの?クロノ」
「はぁ?この俺を誰だと思ってる。こんなボロ家を壊して新しくするくらい三十分もかからん。もう面倒だからお前らは黙って見てろ」
そう言うと、クロノは『邪魔だから退いてろ』と言わんばかりに手をひらひらとさせる。
そして、スズネたちはクロノからの指示通りクロノの後ろへと下がるのだった。
こうして、クロノによる『サクッと簡単♪♪新居作り』が始まる ───── 。
国王レオンハルトからクロノの目付役として押し付けられた?聖騎士見習いのマクスウェルを加え、さらにパーティを強化することとなった。
旅から戻ったスズネたちは、王都からやって来たマクスウェルの住まいについて話し合いをしていた。
そんな中、スズネの祖母であるロザリーから一つの提案が出される。
それは、以前ロザリーが使っていた一軒家があり、そこをスズネに譲りパーティメンバー全員で住むというものだった。
「みんなでシェアハウスって、どうしよう」
「え~なんか楽しそう。お金もかからないし、いちいち集まらなくていいし、最高じゃない」
突然の提案に困惑するスズネ。
そんなスズネをよそにミリアはノリノリのようだ。
「まぁ~ミリアの言うことも一理あるけど…。ラーニャちゃんとマクスウェル君はどう思う?」
「わっちは旦那様と一緒であれば、他はどうでもよい。はっ!!新居ということは…部屋も同室を所望するのじゃ」
───── ガッ!! ─────
「勝手に所望してんじゃねぇ~よ」
ラーニャの頭を鷲掴みしながらクロノは目を見開き凄むのだったが・・・。
「本当に旦那様は照れ屋さんじゃのう」
ラーニャには効果が無いようだ。
「僕は意見を言えるような立場ではないので、住む場所があるのであればそれだけで有り難いです」
他の者たちが好き勝手意見を述べる中、マクスウェルだけは恐縮した様子であった。
「そんな…立場なんてここには無いよ。私たちはみんな同じパーティの仲間なんだから」
「・・・」
「ん?マクスウェル君、大丈夫??」
「は…はい。ありがとうございます」
純粋無垢な瞳で真っ直ぐ笑顔を向けてくるスズネに心奪われ見惚れてしまったマクスウェルは、慌てて返事をするのであった。
「意見は纏まったかい。パーティを組んだのなら、遅かれ早かれホームは用意するもんだからね。早めにお互いのことを知り、チームワークを向上させておくことも大事なことさね」
ロザリーの話を聞き終えると、スズネは改めて全員の顔を見回した。
そんなスズネに対し、メンバー全員が静かに頷き返し賛成の意を示す。
「よし。それじゃ、みんなで楽しくホームで暮らそう!!」
「「「お~~~」」」
新メンバーのマクスウェルを加え、新たにホームにて共同生活をすることを決めたスズネたちは、心も新たに団結心を高めたのであった。
「さぁ今日はもう遅いから、実際に家を見に行くのは明日にしよう。マクスウェル、あんた今日はうちに泊まっていきな。クロノと同じ部屋を使うといいよ」
「なっ、ババアテメェー、なんで俺がこんなやつと ───── 」
「ん?なんだい、文句でもあるのかい?ここは私の家だ、家主のいうことは絶対さね。まぁ~アンタがどうしても外で寝たいって言うんなら止めやしないよ」
「クッ…なんてババアだ」
「これ以上文句を言うなら、夕食も抜きにしちまうからね」
さすがの年の功とでもいうべきか。
いくら最強の魔王といえど、まだ生まれて二十年やそこらでは経験という部分においてロザリーの足元にも及ばない。
まさに一枚どころか、五枚も六枚もロザリーの方が上手である。
「マクスウェルもそれでいいね」
「はい。異論はありません」
いつも以上に背筋をビシッと伸ばしたマクスウェルは、ロザリーとクロノによる一連のやり取りから、絶対に逆らってはいけない人物が誰なのかをしっかりと心に刻み込んだのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
───── 翌日 ─────
前日にロザリーから提案を受け、パーティメンバー全員で暮らすこととなったスズネたち。
新たにホームとなるのは、以前ロザリーが使っていたという街外れにある一軒家である。
事の詳細を家族に説明するために一度家に帰ったミリアも合流し、馳せる思いを抑えつつ、いざ新たなるホームへ。
「さぁ全員揃ったね。それじゃ出発するよ」
ロザリーの号令と共にスズネたち一行は新たなホームに向けて出発したのだった。
ロザリーが所有する一軒家があるのは、モアの街と先日スズネたちがラーニャを勧誘するために赴いた大魔法師マーリンの住む森、通称“魔女の森”のちょうど中間地点にある“ザグレスの森”の中にあるらしい。
同じ森とはいっても、その大きさは“魔女の森”と比べるとその半分にも満たないほどであり、猛獣や魔獣の類いも滅多に現れないため、新人や低ランク冒険者が薬草採集や動物の毛皮や角などのアイテムを入手するのに使われることも多い比較的安全な場所なのである。
“ザグレスの森”に到着した一行は、ロザリーの案内の下、森の中へと足を踏み入れる。
「私たちも何度かクエストで来たことあるよね」
「そうね。薬草の採取や素材集めなんかで来たのよね。誰かさんは一切何もしなかったけどね」
クエスト達成に苦労したのか、ミリアは嫌味たっぷりな言葉と共に目を細め怒りを含んだ視線をクロノへと向けた。
「なんだ、お前たちの無能さを俺のせいにするな。そもそも魔王であるこの俺がなぜ雑草やガラクタ集めをしなくちゃいけないんだ」
「はぁ~?アンタはスズネの召喚獣でしょ。もっと召喚主であるスズネに協力しなさいよ」
「だ…誰が召喚獣だ!!」
また始まった。
みんなこの状況にも慣れたものである。
加入してまだ数日のラーニャでさえ気にする素振りを見せない。
しかし、前日に加入したばかりのマクスウェルだけは違う。
目の前で繰り広げられる光景の異様さに混乱せずにはいられない。
他の面々が一切気にする様子もなく、スズネに至ってはニコニコと微笑みを浮かべながら見守っている。
その状況がマクスウェルをさらに混乱させる。
「えっ!?えっ!?これは大丈夫なんですか?」
「ん?まぁ~いつものことだからね。仲良いでしょ」
「「良くない!!」」
困惑しっぱなしのマクスウェルをよそに、スズネの言葉に対し声を揃えて否定する二人。
「あはははは。ほら、息ピッタリ」
理解が追いつかない。
目の前にいるのは魔王クロノで間違いない。
ガルディア王国に生きる全ての者にとって恐怖の対象である魔族。
その魔族を統べる魔王。
そして、その魔王の中でも歴代最強とも言われる男 ───── 。
王国最強と謳われ、自身の剣の師匠でもある聖騎士長アーサーをして、サシでは分が悪いと言わしめるほどである。
そんな男が自身と同じ十六歳の少女と口喧嘩。
少女は一切怯むことなくグイグイと口撃している。
───── 《こんな奴が本当に皆が恐れる魔王なのか?》 ─────
「思っていたのと違ったかい?」
不思議そうな顔をして二人のやり取りを見ていたマクスウェルにロザリーが声を掛ける。
「えっ!?いや、別にそういう訳では・・・」
「あっはっはっ。本来であれば討ち取るべき魔王がこんな調子じゃ、拍子抜けもいいところだろ」
「まぁ~そう思わなくもないですが」
恐縮しっぱなしのマクスウェル。
目の前にいるのは、国王レオンハルト、そして自身の師であるアーサーに魔法を教えた人物であり、元王国筆頭魔法師でもあるのだ。
そんなロザリーに対し畏敬の念すら抱くほどであった。
そんなやり取りをしていると、ミリアとの小競り合いを終えたクロノが口を挟んできた。
「ほ~う。この俺を討ち取るだと?お前のような半人前の色ガキがね~。寝言なら寝て言えよ」
まだまだ実力不足。
そんなことは自分自身が一番分かっている。
クロノの言葉に対し返す言葉も実力も無いことに、マクスウェルは悔しさのあまり唇を噛むのだった。
「そんなことは本人が一番理解しているさね。これから強くなるんだから、あんまり若いもんを苛めるんじゃないよ」
「なんだよババア、ちょっとからかってやっただけじゃね~か。まぁ~気長に待っといてやるよ」
クロノのあまりにも余裕たっぷりな態度に改めて力の差を実感し、“強くなろう”と心に誓うマクスウェルなのであった。
そうこうしている内に、一行は目的地である以前ロザリーが住んでいたという家に到着した。
「さぁ~着いたよ。ここが今日からお前さんたちのホームさ」
今日からホームで暮らし、冒険と生活の両方をメンバー同士で助け合い協力しながら更なる高みへと駆け上がっていく ───── 。
そんな想いを胸に訪れたスズネたちであったが、目的の家を目にし言葉を失う。
そんなメンバーの中でただ一人クロノだけが口を開く。
「ボロボロだな」
さすがは唯我独尊の魔王。
一切の遠慮も気遣いもなく、見たまま思ったままを口にする。
「ちょっ、アンタね」
「はっはっは。いやいや、いいんだ。クロノの言う通りさね。スズネと暮らすようになってからだから、もう十年以上も放置しっぱなしだったからね」
久しぶりに訪れたかつての我が家は、以前住んでいた頃とは変わり果てた姿をしていた。
しかし、そんな現状を前にしても、ロザリーは気にする素振りもなく豪快に笑い飛ばすのであった。
そして、ロザリーの笑い声が響き渡った後、数秒間の沈黙が生まれる ───── 。
「えっと…どうしよっか」
スズネが困った様子で他のメンバーに問い掛ける。
さすがにこのまま住むということは無理そうである。
ざっと見ても傷んでいる箇所、腐敗が進んでいる箇所がチラホラ見て伺える。
「ホント掃除や片付けしてどうこうってレベルじゃないわね」
「わっちは壊すことくらいしか出来んのじゃ」
「僕も力仕事なら役に立てるとは思いますが・・・」
各々が言葉を振り絞るが、はっきり言って全員がお手上げという状態であった。
「いや~本当にみんなには悪いことしちまったね。わざわざこんな所まで連れて来といて…。街に帰ったら、知り合いに頼んでなるべく早く新しい家を建ててもらうようにするよ」
自分から提案しておいてのこの有様に、ロザリーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな…おばあちゃんの所為じゃないよ。元々は私たちの問題だし、今度こそ自分たちの力でなんとかしてみるよ」
「そうですよ、ロザリーさん。アタシたちだって冒険者なんですから、自力でなんとかしてみせますよ!だから頭を上げてください」
頭を下げるロザリーの姿を見て、スズネとミリアは慌ててフォローする。
それでも現状がこの様では問題が振り出しに戻っただけであり、また一から解決策を考えなければならない。
いったいどうしたものかと一同は頭を悩ませる。
「で、お前らは何を悩んでいるんだ?」
悩める一同を見てクロノが不思議そうに質問した。
「はぁ?アンタここまでの話聞いてなかったの。目的の家がこの状態じゃ住むのも難しいから、これからどうしようかってみんなで考えてんでしょ」
こういう時にはっきりとものが言えるミリアの存在が頼もしい。
質問の意図が全く理解出来ないスズネたち全員の思いを代弁するように、質問者であるクロノに若干キレ気味で答える。
「おいババア。ここがスズネのものになるってことは、好きにしていいってことだよな」
前日にロザリーがこの家をスズネに譲ると言っていたことを覚えていたクロノは、改めてそのことを確認する。
「ああ、この土地も家もスズネに譲ったから、どこをどうしてもらっても構いやしないよ。それこそ全部壊してもらったっていいさね」
こうして改めてロザリーからの言質をとったクロノは、満足気な顔をスズネたちへと向ける。
「だそうだ。これで問題解決だな」
「どこがよ!!さっぱり分かんないわ」
「えっと、クロノ。好きにするにしても、肝心の家がこの有様じゃ・・・」
いつもの様に自分だけが理解し淡々と話を進めていくクロノ。
それに対し、これまたいつもの通りミリアがキレて、スズネが説明を求める。
「いやいや、今ババアが口にした通りだろ。今ここでこのボロ家をぶっ壊して、新しいのをぶっ建てるんだよ」
───── はぁ?? ─────
いつも以上にぶっ飛んだことを言うクロノに、スズネたちの理解が追いつかない。
しかし、ラーニャだけは全く理解出来ていなくとも目をキラキラと輝かせ喜んでいる。
「本当にそんなことができるの?クロノ」
「はぁ?この俺を誰だと思ってる。こんなボロ家を壊して新しくするくらい三十分もかからん。もう面倒だからお前らは黙って見てろ」
そう言うと、クロノは『邪魔だから退いてろ』と言わんばかりに手をひらひらとさせる。
そして、スズネたちはクロノからの指示通りクロノの後ろへと下がるのだった。
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解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
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