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商人の街
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「あの~すみませんが ───── 」
「おっと、これは失礼致しました。私、この商業都市ロコンで市長及び商業ギルドのギルド長をしております、フッガーと申します。後ろにいるのは秘書のフィリップです。以後、お見知りおきを」
そう言うと、男性は右手を胸に当て軽く会釈をする。
そして、それに合わせるように後ろの男性も頭を下げた。
「あの…アタシたちに何か用ですか?」
「いやいや、急にお声がけしてしまい申し訳ありません。ちょうど商業ギルドに戻ったところお見かけしましたので、声を掛けさせて頂いた次第ですよ」
急に声を掛けてきた見知らぬ男性に対し疑いの目を向けるミリア。
そんなミリアに対しても優しい笑顔と紳士的な態度で接するフッガーであった。
「ところで、フッガーさんはどうして私たちのことを知っているんですか?」
「ホッホッホッホッホッ。私たち商人にとって“情報”は最大の武器なんですよ。冒険者パーティ“宿り木”のリーダースズネさん」
初対面にも関わらずスズネたちの素性を言い当てたフッガーは優しい笑みを向ける。
そして、その不適な笑みにスズネたちが気圧されしていると ───── 。
「おい、なんだこの商品は!!装飾の部分に傷がついてんじゃね~か」
多くの人が行き交い賑わいを見せる大通りに一際大きな怒号が響き渡る。
「なんだと!!うちの商品にケチつけようってのか?」
どうやらアクセサリー類を販売している露天の商品に対して、冒険者らしき五人の男たちがクレームを入れているようだ。
「うちは三十年以上ここで商売やってんだ。取り扱う商品には細心の注意を払ってんだぞ。下手な事言ってんじゃねー」
五人がかりで凄む冒険者たちを前にしても、店主である男性は一切引く気配を見せず毅然とした態度で対応する。
「商人風情が調子に乗ってんじゃねーぞ!!俺たちはCランクの冒険者だ。痛い目見ないと分からねぇようだな」
バコン ────── ガシャーーーン。
店主の態度に怒りが収まらず、店先に並ぶ商品の棚を蹴り飛ばす冒険者の男。
さらに凄みを増し五人がかりで店主に食ってかかろうとする。
「ちょっと、アイツら ───── 」
冒険者たちのあまりにも横柄な態度を目の当たりにし、我慢の限界を迎えたミリアが怒りを露わにしながら一歩踏み出す。
その時、フッガーがミリアの方にそっと手を掛けて歩みを止めたのだった。
「何ですか?あんな奴らを見過ごせって言うんですか?」
「いえいえ、そんなつもりは毛頭ありません。ただ、みなさんのお手を煩わせるほどの事ではありませんので」
そう言うと、フッガーは再び優しい笑みを見せる。
「ちょっと、アレを見てください」
慌てたように声を上げるマクスウェル。
そして、スズネたちがマクスウェルの指差す方へと目を向けると、そこには怒れる冒険者たちを取り囲むように他のお店の店主たちがゾロゾロと集まってきていたのだった。
「な…何だお前ら、商売しかしてないような奴らが俺たち冒険者に勝てるとでも思ってんのか」
十数人に囲まれながらも強気な姿勢を崩さない冒険者たち。
武器を所持している自分たちに対して、取り囲んでいる商人たちは全員素手である。
その事も相まって彼らの強気な姿勢に拍車をかけることとなる。
「毎日毎日商売しか出来ないような商人風情が冒険者様に逆らうとどうなるか、たっぷりと思い知らせてやるよ」
すると、冒険者たちは意気揚々と武器に手を掛け、商人たちに対して余裕を見せながら臨戦態勢をとる。
「おいおい、Cランク程度で勘違いしてんじゃねーぞ」
「何を得意げになって武器抜いてんだ?たかが冒険者ごときがこの“商人の街”でデケェ面してんなよ」
「ハッハッハッ。それじゃ、冒険者様の力ってやつを見せてもらおうか」
武器を手にした冒険者たちを前にしても一切怯む気配を見せない商人たち。
それどころか時折笑みを浮かべながらどんどん距離を詰めていく。
その思いもよらない状況に、むしろ先程まで凄んでいた冒険者たちが怯みだしているように感じる。
そうこうしている内に冒険者たちを中心にして出来ていた円が徐々に小さくなっていき、両者がいつ激突してもおかしくない距離となっていた。
「商人どもがナメやがって・・・よっぽど死にたいらしいな。お前ら手加減はいらねぇ、冒険者に逆らうとどうなるかたっぷりと味わわせてやれ!!」
リーダーらしき男の掛け声と共に五人の冒険者たちが一斉に商人たちへと襲いかかる。
スズネたち宿り木のメンバーが心配そうに見つめる中、その心配をよそにこの争いはあっさりと決着がつくこととなる。
先に仕掛けたのは冒険者たち。
手にした武器を大きく振り上げた状態で商人たちへと迫り、一切躊躇することなく打ち下ろす。
──────── ガシッ 。
「おいおい、そんなチンタラした包丁捌きじゃ活きのいい魚は捌けねぇぞ」
振り下ろそうとした腕を掴まれ、冒険者たちの攻撃はあっさりと止められてしまう。
そして、力いっぱい握り締められた拳が身動きの取れなくなっている冒険者たちの顔面へと飛ぶ。
ドゴッ!!
ボォファ~~~ ───── 。
商人たちによる強烈な鉄拳をお見舞いされた冒険者たちは血飛沫を撒き散らしながらその場に倒れ、そのまま意識を失ったのだった。
目の前で繰り広げられた一連の騒動とその結末に言葉を失うスズネたち。
自分たちよりもランクが上の冒険者たちが何もさせてもらえず、圧倒的な実力差で完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
そのあまりにも衝撃的な光景にただただ唖然とすることしか出来なかった。
「ホッホッホッ、少々驚かせてしまいましたかな?」
驚きを隠せないスズネたちを見て、心配というよりむしろ楽しんでいるような様子を見せるフッガー。
「いや…はい。ビックリしちゃいました」
「ビックリっていうか、強過ぎでしょ!!ホントに商人なの!?」
「ホッホッホッ、大丈夫ですよ。我々は歴とした商人です」
スズネたちがそんな会話をしていると騒ぎを聞きつけた衛兵たちが現れ、商人たちと会話をした後、完全に意識を失っている冒険者たちを連れて行ったのだった。
「正直、僕も商人の方々がここまで強いとは思ってもみませんでした」
「ウチ…絶対に負けるっす。絶対に商人には逆らわないっす」
「嘘じゃ!!あいつらは商人の皮を被った冒険者に違いないのじゃ」
俄には信じがたいことではあるが、実際に見てしまった以上この事実を受け入れるしかない。
自分たちもそこそこ強くなってきたと思っていたが、世の中にはまだまだ自分たちの知らない世界があり、上には上がいることを痛感した“宿り木”なのであった。
「ホッホッホッ。ここは商業都市ロコン。我々“商人の街”です。この街で好き勝手な振る舞いは決して許しません。たとえそれが王族や冒険者であったとしても ─── です」
強い信念を持って語るフッガー。
それまでの穏やかな空気感から一変し、少し息苦しさを感じるようなピリッとした気を放つ。
しかし、最後には再び穏やかな笑みをスズネたちに向ける。
そして、そこにフッガーたち商人たちの“誇り”を感じ取ったスズネたちなのであった。
「フッガー様、そろそろお時間です」
「ホッホッホッ、もうそんな時間ですか。若い方々とのお喋りに夢中になってしまいました。それに ───── 」
秘書のフィリップから次の予定を告げられると、フッガーは名残惜しそうな表情を見せた後でクロノへと視線を向けた。
「あ?何だよ。俺のことも商人総出で討ち取ってみるか?」
視線を向けられたクロノは不敵な笑みを見せる。
「ホッホッホッ。まさか、ご冗談を。魔王クロノ、あなたがその気になればこのロコンの街…いや、ガルディア王国ごと消し去ることすら容易いでしょう。そんな藪をつつくような馬鹿はしませんよ」
「もし俺がこの街を襲ったとしてもか?」
クロノからの挑発を笑い飛ばし軽く受け流すフッガーであったが、クロノは追い打ちをかけるように挑発を重ねる。
そして、余裕の笑みを見せる両者の間に沈黙が流れる ───── 。
「コラ!!絶対にダメだよ、クロノ。もし、そんな事したら ───── 」
踵を上げて小さな身体を懸命に伸ばしながらクロノへと迫るスズネ。
「冗談だよ、冗談。そんなつまんねぇ事やらね~よ」
いつものように迫り来るスズネに対して、面倒くさそうな様子であしらうクロノ。
そんな二人の様子を見ていたフッガーが思わず吹き出してしまう。
「プッ、フォホホホホ。いや~噂には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると言葉を失ってしまいますね」
「やっぱり商人の間でも噂されてるんですね・・・」
フッガーの様子を見たミリアが苦笑いをしながら声を漏らす。
「ホッホッホッ。先程も言いましたが、商人にとって“情報”は最大の武器ですからね。魔王クロノの召喚・そして、その魔王を従える魔法師の話は我々の間でも有名ですよ」
「いえ、別に私が従えているとかそんなんじゃないです」
フッガーの話を聞いて慌てだすスズネ。
一方のクロノは、“もう好きにしてくれ”と言わんばかりに諦めた表情をしている。
「いやいや本当に楽しい時間でした。次を待たせておりますので、ここらで失礼させて頂きます。またロコンにお立ち寄りの際には、ぜひ商業ギルドにもお越しください」
そう言って一礼すると、フッガーは商業ギルドへと入っていった。
「いや~なんか豪快というか、掴み所のない人だったわね」
「そうかな?凄く丁寧で優しい人だったよ」
突然現れて嵐のように去っていったフッガーについてスズネたちが話をしていると、商談を終えたゴルザが合流する。
そして、スズネたちは当初の予定通り食事へと向かい、ゴルザお薦めの食事処でテーブルに並べられた数々の料理に舌鼓を打ったのだった。
─────────────────────────
「いや~食った食った。オヤジ良い店知ってるな」
「おうよ。兄ちゃんもいい食いっぷりだったぜ」
食欲を満たされご機嫌なクロノ。
普段誰かと馴れ合うことをしないクロノであったが、なぜかゴルザとは気が合うようで、肩を組みながら楽しそうにしている。
「本当にお父さんと仲良いね」
「ホント謎だわ。何かしら通じ合うものがあるのかしらね」
「クソ~、わっちもあんな風にしたいのじゃ~」
ラーニャの嫉妬に苦笑いを見せつつ、スズネたちは馬車へと乗り込み、モアへ向けて出発したのだった。
「さぁ~あと半分だよ。モアに着くまでしっかりやりきろう!!」
「「「「 おーーー 」」」」
再び馬車に揺られる旅が始まり、見張り役のシャムロムを除く他のメンバーたちは荷台でロコンの街についての話に花を咲かせていた。
前半の道中で少し慣れてしまったのか、食事を終えたばかりでホッとしてしまったのか、明らかに気が抜けているように感じる。
「報告っす。来る時にも通った林が右前方に見えたっす。みんな警戒をお願いするっす」
シャムロムからの報告を受けて準備をする他のメンバーたち。
一度通った時に何もなかったこと。
馬車が通る道と林までに少し距離があること。
そこに合わせて先程の空気感である。
表面的には警戒してはいるものの、内なる部分では全員に油断があった。
そして、それを察したかのように林の中から魔獣を引き連れた野党の集団が姿を現したのだった。
「おっと、これは失礼致しました。私、この商業都市ロコンで市長及び商業ギルドのギルド長をしております、フッガーと申します。後ろにいるのは秘書のフィリップです。以後、お見知りおきを」
そう言うと、男性は右手を胸に当て軽く会釈をする。
そして、それに合わせるように後ろの男性も頭を下げた。
「あの…アタシたちに何か用ですか?」
「いやいや、急にお声がけしてしまい申し訳ありません。ちょうど商業ギルドに戻ったところお見かけしましたので、声を掛けさせて頂いた次第ですよ」
急に声を掛けてきた見知らぬ男性に対し疑いの目を向けるミリア。
そんなミリアに対しても優しい笑顔と紳士的な態度で接するフッガーであった。
「ところで、フッガーさんはどうして私たちのことを知っているんですか?」
「ホッホッホッホッホッ。私たち商人にとって“情報”は最大の武器なんですよ。冒険者パーティ“宿り木”のリーダースズネさん」
初対面にも関わらずスズネたちの素性を言い当てたフッガーは優しい笑みを向ける。
そして、その不適な笑みにスズネたちが気圧されしていると ───── 。
「おい、なんだこの商品は!!装飾の部分に傷がついてんじゃね~か」
多くの人が行き交い賑わいを見せる大通りに一際大きな怒号が響き渡る。
「なんだと!!うちの商品にケチつけようってのか?」
どうやらアクセサリー類を販売している露天の商品に対して、冒険者らしき五人の男たちがクレームを入れているようだ。
「うちは三十年以上ここで商売やってんだ。取り扱う商品には細心の注意を払ってんだぞ。下手な事言ってんじゃねー」
五人がかりで凄む冒険者たちを前にしても、店主である男性は一切引く気配を見せず毅然とした態度で対応する。
「商人風情が調子に乗ってんじゃねーぞ!!俺たちはCランクの冒険者だ。痛い目見ないと分からねぇようだな」
バコン ────── ガシャーーーン。
店主の態度に怒りが収まらず、店先に並ぶ商品の棚を蹴り飛ばす冒険者の男。
さらに凄みを増し五人がかりで店主に食ってかかろうとする。
「ちょっと、アイツら ───── 」
冒険者たちのあまりにも横柄な態度を目の当たりにし、我慢の限界を迎えたミリアが怒りを露わにしながら一歩踏み出す。
その時、フッガーがミリアの方にそっと手を掛けて歩みを止めたのだった。
「何ですか?あんな奴らを見過ごせって言うんですか?」
「いえいえ、そんなつもりは毛頭ありません。ただ、みなさんのお手を煩わせるほどの事ではありませんので」
そう言うと、フッガーは再び優しい笑みを見せる。
「ちょっと、アレを見てください」
慌てたように声を上げるマクスウェル。
そして、スズネたちがマクスウェルの指差す方へと目を向けると、そこには怒れる冒険者たちを取り囲むように他のお店の店主たちがゾロゾロと集まってきていたのだった。
「な…何だお前ら、商売しかしてないような奴らが俺たち冒険者に勝てるとでも思ってんのか」
十数人に囲まれながらも強気な姿勢を崩さない冒険者たち。
武器を所持している自分たちに対して、取り囲んでいる商人たちは全員素手である。
その事も相まって彼らの強気な姿勢に拍車をかけることとなる。
「毎日毎日商売しか出来ないような商人風情が冒険者様に逆らうとどうなるか、たっぷりと思い知らせてやるよ」
すると、冒険者たちは意気揚々と武器に手を掛け、商人たちに対して余裕を見せながら臨戦態勢をとる。
「おいおい、Cランク程度で勘違いしてんじゃねーぞ」
「何を得意げになって武器抜いてんだ?たかが冒険者ごときがこの“商人の街”でデケェ面してんなよ」
「ハッハッハッ。それじゃ、冒険者様の力ってやつを見せてもらおうか」
武器を手にした冒険者たちを前にしても一切怯む気配を見せない商人たち。
それどころか時折笑みを浮かべながらどんどん距離を詰めていく。
その思いもよらない状況に、むしろ先程まで凄んでいた冒険者たちが怯みだしているように感じる。
そうこうしている内に冒険者たちを中心にして出来ていた円が徐々に小さくなっていき、両者がいつ激突してもおかしくない距離となっていた。
「商人どもがナメやがって・・・よっぽど死にたいらしいな。お前ら手加減はいらねぇ、冒険者に逆らうとどうなるかたっぷりと味わわせてやれ!!」
リーダーらしき男の掛け声と共に五人の冒険者たちが一斉に商人たちへと襲いかかる。
スズネたち宿り木のメンバーが心配そうに見つめる中、その心配をよそにこの争いはあっさりと決着がつくこととなる。
先に仕掛けたのは冒険者たち。
手にした武器を大きく振り上げた状態で商人たちへと迫り、一切躊躇することなく打ち下ろす。
──────── ガシッ 。
「おいおい、そんなチンタラした包丁捌きじゃ活きのいい魚は捌けねぇぞ」
振り下ろそうとした腕を掴まれ、冒険者たちの攻撃はあっさりと止められてしまう。
そして、力いっぱい握り締められた拳が身動きの取れなくなっている冒険者たちの顔面へと飛ぶ。
ドゴッ!!
ボォファ~~~ ───── 。
商人たちによる強烈な鉄拳をお見舞いされた冒険者たちは血飛沫を撒き散らしながらその場に倒れ、そのまま意識を失ったのだった。
目の前で繰り広げられた一連の騒動とその結末に言葉を失うスズネたち。
自分たちよりもランクが上の冒険者たちが何もさせてもらえず、圧倒的な実力差で完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
そのあまりにも衝撃的な光景にただただ唖然とすることしか出来なかった。
「ホッホッホッ、少々驚かせてしまいましたかな?」
驚きを隠せないスズネたちを見て、心配というよりむしろ楽しんでいるような様子を見せるフッガー。
「いや…はい。ビックリしちゃいました」
「ビックリっていうか、強過ぎでしょ!!ホントに商人なの!?」
「ホッホッホッ、大丈夫ですよ。我々は歴とした商人です」
スズネたちがそんな会話をしていると騒ぎを聞きつけた衛兵たちが現れ、商人たちと会話をした後、完全に意識を失っている冒険者たちを連れて行ったのだった。
「正直、僕も商人の方々がここまで強いとは思ってもみませんでした」
「ウチ…絶対に負けるっす。絶対に商人には逆らわないっす」
「嘘じゃ!!あいつらは商人の皮を被った冒険者に違いないのじゃ」
俄には信じがたいことではあるが、実際に見てしまった以上この事実を受け入れるしかない。
自分たちもそこそこ強くなってきたと思っていたが、世の中にはまだまだ自分たちの知らない世界があり、上には上がいることを痛感した“宿り木”なのであった。
「ホッホッホッ。ここは商業都市ロコン。我々“商人の街”です。この街で好き勝手な振る舞いは決して許しません。たとえそれが王族や冒険者であったとしても ─── です」
強い信念を持って語るフッガー。
それまでの穏やかな空気感から一変し、少し息苦しさを感じるようなピリッとした気を放つ。
しかし、最後には再び穏やかな笑みをスズネたちに向ける。
そして、そこにフッガーたち商人たちの“誇り”を感じ取ったスズネたちなのであった。
「フッガー様、そろそろお時間です」
「ホッホッホッ、もうそんな時間ですか。若い方々とのお喋りに夢中になってしまいました。それに ───── 」
秘書のフィリップから次の予定を告げられると、フッガーは名残惜しそうな表情を見せた後でクロノへと視線を向けた。
「あ?何だよ。俺のことも商人総出で討ち取ってみるか?」
視線を向けられたクロノは不敵な笑みを見せる。
「ホッホッホッ。まさか、ご冗談を。魔王クロノ、あなたがその気になればこのロコンの街…いや、ガルディア王国ごと消し去ることすら容易いでしょう。そんな藪をつつくような馬鹿はしませんよ」
「もし俺がこの街を襲ったとしてもか?」
クロノからの挑発を笑い飛ばし軽く受け流すフッガーであったが、クロノは追い打ちをかけるように挑発を重ねる。
そして、余裕の笑みを見せる両者の間に沈黙が流れる ───── 。
「コラ!!絶対にダメだよ、クロノ。もし、そんな事したら ───── 」
踵を上げて小さな身体を懸命に伸ばしながらクロノへと迫るスズネ。
「冗談だよ、冗談。そんなつまんねぇ事やらね~よ」
いつものように迫り来るスズネに対して、面倒くさそうな様子であしらうクロノ。
そんな二人の様子を見ていたフッガーが思わず吹き出してしまう。
「プッ、フォホホホホ。いや~噂には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると言葉を失ってしまいますね」
「やっぱり商人の間でも噂されてるんですね・・・」
フッガーの様子を見たミリアが苦笑いをしながら声を漏らす。
「ホッホッホッ。先程も言いましたが、商人にとって“情報”は最大の武器ですからね。魔王クロノの召喚・そして、その魔王を従える魔法師の話は我々の間でも有名ですよ」
「いえ、別に私が従えているとかそんなんじゃないです」
フッガーの話を聞いて慌てだすスズネ。
一方のクロノは、“もう好きにしてくれ”と言わんばかりに諦めた表情をしている。
「いやいや本当に楽しい時間でした。次を待たせておりますので、ここらで失礼させて頂きます。またロコンにお立ち寄りの際には、ぜひ商業ギルドにもお越しください」
そう言って一礼すると、フッガーは商業ギルドへと入っていった。
「いや~なんか豪快というか、掴み所のない人だったわね」
「そうかな?凄く丁寧で優しい人だったよ」
突然現れて嵐のように去っていったフッガーについてスズネたちが話をしていると、商談を終えたゴルザが合流する。
そして、スズネたちは当初の予定通り食事へと向かい、ゴルザお薦めの食事処でテーブルに並べられた数々の料理に舌鼓を打ったのだった。
─────────────────────────
「いや~食った食った。オヤジ良い店知ってるな」
「おうよ。兄ちゃんもいい食いっぷりだったぜ」
食欲を満たされご機嫌なクロノ。
普段誰かと馴れ合うことをしないクロノであったが、なぜかゴルザとは気が合うようで、肩を組みながら楽しそうにしている。
「本当にお父さんと仲良いね」
「ホント謎だわ。何かしら通じ合うものがあるのかしらね」
「クソ~、わっちもあんな風にしたいのじゃ~」
ラーニャの嫉妬に苦笑いを見せつつ、スズネたちは馬車へと乗り込み、モアへ向けて出発したのだった。
「さぁ~あと半分だよ。モアに着くまでしっかりやりきろう!!」
「「「「 おーーー 」」」」
再び馬車に揺られる旅が始まり、見張り役のシャムロムを除く他のメンバーたちは荷台でロコンの街についての話に花を咲かせていた。
前半の道中で少し慣れてしまったのか、食事を終えたばかりでホッとしてしまったのか、明らかに気が抜けているように感じる。
「報告っす。来る時にも通った林が右前方に見えたっす。みんな警戒をお願いするっす」
シャムロムからの報告を受けて準備をする他のメンバーたち。
一度通った時に何もなかったこと。
馬車が通る道と林までに少し距離があること。
そこに合わせて先程の空気感である。
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