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崩壊
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ゴルザの取引も無事に終わり、その後に食事を堪能したスズネたちはモアの街へ向けて出発していた。
そして、商業都市ロコンへ来る途中にも見かけた林が再びその姿を現し全員が警戒を強めていた。
「な…なんか毎回緊張するっすね」
「出て来たらアタシの剣で切り伏せてやるわ」
「気を抜かずに集中してください」
荷台から降りて荷馬車の周囲を固めるミリア・マクスウェル・シャムロムの前衛組三人。
一度通っているということもあり、前回と比べて気の抜けた部分があるようにも思える。
そして、スズネたちが護衛する荷馬車は今回も無事に林の前を通過した ───── かと思われた。
「はぁ~今回も何もなかったわね」
「何もなくて良かったよ」
「わっちはお腹いっぱいで眠いのじゃ」
何事もなく通過できたことに安堵するスズネたち。
メンバー全員が警戒を解こうとした時、最後まで周囲を見て回っていたマクスウェルが声を上げる。
「ちょっと待ってください」
「何よマクスウェル、何もないじゃない」
「いや、先程林の中で何かが動いたような気配が・・・」
「どうせ風の悪戯か、小動物でもいたんじゃないの」
マクスウェルの警告に対してミリアが気の抜けた返答をした、その時 ───── 。
林の中から五つの黒い影が飛び出した。
「漆黒の狼です!!五頭の漆黒の狼がこちらに向かって来ます」
マクスウェルの声に呼応し、すぐさま臨戦態勢をとる“宿り木”。
迫り来る五頭の漆黒の狼に対して準備は万端である。
「フン、今更五頭の漆黒の狼程度に遅れをとるアタシたちじゃないわ。チャチャっと片付けるわよ」
「今回は護衛ですからね。依頼主と荷馬車には傷ひとつ付けさせてはいけませんよ」
「分かってるわよ」
「来るっすよ」
そうこうしている内に五頭の漆黒の狼が荷馬車に追いつく。
相対するミリアたちはいつでも戦える状態である。
しかし、おかしなことに漆黒の狼たちは一向に襲ってこない。
グゥ~と唸り声を上げながらただただグルグルと荷馬車の周りを回っているだけなのだ。
その状況に荷台を引く二頭の馬も怯えて歩みを止める。
「何なのよコイツら」
「何かおかしいですよ。襲うというより、僕たちをここから逃がさないようにしているような・・・」
マクスウェルの感じた通り五頭の漆黒の狼の役割は足止めであった。
完全に足の止まった荷馬車。
周囲をグルグル回りながら睨みつけ威嚇するだけの漆黒の狼。
そして、その状況に混乱し、どうしたらいいか分からず手を拱いている冒険者パーティ。
これらを十分に楽しんだかのように笑みを溢した野盗の集団が林の中から姿を現した。
その数二十名。
そして、何よりもスズネたちを驚かせたのが、野盗団の後ろから現れた一体の巨大なトロールであった。
「な…何よ、あのデカいやつは!?」
「あれはトロールっす。知能は高くないっすけど、怪力と打たれ強さが特徴の魔物っす」
「まさか、この漆黒の狼がテイムされていたとは・・・。野盗の中に“調教師”がいますね」
突然現れた野盗団を前に慌てだす“宿り木”。
そんなスズネたちの様子を見た野盗団はさらに余裕を見せる。
全員がヘラヘラとした表情をしながら一切警戒することなくどんどん近づいてくる。
「おい、新米冒険者ども、大人しく積荷と金品を全部置いてけ。そしたら怪我なくお家に帰してやるよ」
野盗団のリーダーらしき男が不敵な笑みを浮かべながら言い放つ。
「ふざけんじゃないわよ!!アンタたちこそ、痛い目に遭いたくなかったらさっさと失せなさい」
「カッカッカッ。気の強ぇ嬢ちゃんだな」
野盗団のリーダーからの警告に対して、ミリアが強気な姿勢で応戦する。
まさに売り言葉に買い言葉。
“宿り木”の中でも特に正義感の強いミリアは、こういった理不尽な暴力を見過ごすことが出来ないのであった。
「引く気がないんじゃしょうがねぇ。野郎ども、やっちまえ!!」
リーダーのひと声により野盗団のメンバーたちが一斉に襲いかかってきた。
相対する“宿り木”は、いつも通り前衛にミリア・マクスウェル・シャムロムを配置し、スズネとラーニャが後方から支援する形をとる。
ミリアとマクスウェルは、漆黒の狼との戦闘の最中にその隙を突いてくる野盗たちの攻撃も捌きながら応戦する。
一方のシャムロムは一番の大物であるトロールを相手に攻防を繰り広げており、その周辺に群がってくる者たちをラーニャが魔法攻撃にて近寄らせないにしている。
そして、全体を指揮するスズネが回復とバフを状況に応じてメンバーに施していく。
キーン ───── 。
キーン ───── 。
一見すると何の問題もなさそうに見えるが、その中で明らかに動きの悪い者が一人。
それは、意外にもミリアであった。
「ミリア、さっさと片付けないと次々来ますよ」
「うっさいわね。分かってるわよ」
一体どうしたのだろうか。
いつもであれば誰よりも率先して敵を打ち倒していくのに、今回は誰が見ても動きが悪い。
他のメンバーたちも気掛かりとなっている中、野盗団のリーダーがミリアの心情を代弁する。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだ?」
「ホント、ムカつく野郎ね。ぶった斬ってやる」
「あんまり無理すんなよ、可愛いお嬢ちゃん。お前 ───── 人を斬ったことないだろ」
野盗団のリーダーから発せられた言葉を聞き、図星を突かれたミリアは驚愕の表情と共に動きが止まってしまう。
「ミリア・・・」
その様子を見ていたスズネが心配のあまり親友の名をポロリと溢す。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
「お~い、大丈夫か?顔色が悪いようだが、そろそろ降参すっか?」
気持ちとは裏腹に身体が言うことを聞かず、余計に焦り呼吸を乱すミリア。
そんなミリアの様子を見てより一層の挑発を行う野盗団のリーダー。
「うおぉぉぉぉ」
ザンッ ─────── 。
悪い流れを断ち切るかのように“気合い”と共に野盗を切り伏せたマクスウェル。
他のメンバーたちを鼓舞するかのように、普段見せている穏やかな青年の姿ではなく、心を鬼にして次々と野党を薙ぎ倒していく。
そして、自身の周りに群がっていた二頭の漆黒の狼と五人の野盗を討ち取ると、ミリアに向けて大声を上げた。
「ミリア!!生きるか死ぬかの瀬戸際ですよ。こいつらが僕たちを見逃すわけがないでしょ」
─────── !? ───────
マクスウェルの声に驚き、身体をビクッとさせたミリアは正気を取り戻す。
「難しいなら殺す必要はありません。行動不能にすればOKです」
「クソッ。アンタに説教されるなんて屈辱よ」
マクスウェル方の檄に対して悔しさを露わにするミリア。
しかし、その表情に先程までの焦燥感はなく、目の前に立つ敵を打ち倒さんとする戦士の顔付きとなっていた。
「さぁ~ここからよ」
先程までの劣勢が嘘のように善戦する“宿り木”。
スズネたちも確かな手応えを感じながら目の前の敵と交戦していた。
このまま押し切れるかと思われたが、その状況を快く思わない者によるひと言で戦局が一変する。
「おい、デク。お前一体いつまでその小っこいのに手間取るつもりだ。また躾が必要か?」
見るからに不慣れな護衛をしている新米冒険者に対する手下たちの手間取りっぷりに、いよいよ怒りが収まらなくなってきた野盗団のリーダーによる深く暗い怒りに満ちた言葉を聞き、シャムロムと相対していたトロールが怯えた様子を見せる。
そして、その恐怖を振り払うように手に持っていた棍棒を力任せに叩き付けた。
ドゴーーーン。
「うわぁぁぁ ───── 」
あまりの衝撃に吹き飛ばされるシャムロム。
それによって拮抗していた戦局が一気に崩れる。
シャムロムが守っていた側から野盗たちが一気に荷馬車へと駆け寄っていく。
他の野盗を相手にしているミリアとマクスウェルは手が離せず援護に回れない。
そして、ラーニャの魔法でも迫り来る野盗たち全員を仕留めることは出来そうにない。
そうこうしている内に野盗たちが荷馬車まで到達し襲いかかる。
荷台にはスズネとラーニャの魔法師しかいないが、そんなことお構いなしに五人の野盗が剣を片手に攻撃してきた。
まさに絶体絶命と思われたが、次の瞬間攻撃したはずの野盗たちが逆に弾き飛ばされたのだった。
何が起こったのか理解出来ず唖然した表情を見せる野盗たち。
そして、その視線の先には荷台の上で腕を組み仁王立ちしているクロノの姿があった。
どうやらスズネたちが護衛する荷馬車には、元々クロノの魔法によって結界が張られていたようである。
そんなクロノによる事前準備によって難を逃れたスズネたち。
しかし、荷台に立つクロノは明らかに機嫌が悪そうである。
スズネたちの杜撰な警護に対してかなりお怒りの様子。
「風刃」
クロノによって放たれた魔法により残っていた漆黒の狼と巨大なトロールの首が一瞬の内に斬り落とされる。
ドシーーーン。
「うわぁぁぁ」
「一体どうなってんだ!?」
倒されるはずがないと思っていたトロールの首が斬り落とされ、その巨体が無惨にも大地に倒れ込む様を見せられ野盗たちが慌てだす。
「お…お前、何者だ」
「黙れ!!今俺は機嫌が悪いんだ。お前ら全員殺すぞ?」
唐突に現れた一人の男によって一気に戦局が塗り変えられ、瞬く間に従えていた最大戦力の魔物を殺されたことにより、ずっと余裕を見せていた野盗団のリーダーもパニックとなり声を荒げる。
しかし、その叫びはクロノに一喝され、虚しくも消し去られてしまったのだった。
─────── ドサッ、ドサッ、ドサッ。
怒りを滲ませたクロノの殺気が一帯を包み込む。
そのあまりのプレッシャーと息苦しさに野盗たちが次々と絶望しながら膝をついていく。
この場からは逃げられない。
自分たちは触れてはならないモノに触れてしまった。
そんな思いを胸に野盗たちは生きることを諦めたのだった。
「な…な…なんでお前みたいな化け物がこんな新米パーティにいるんだよ。ふざけんな、クソが!!」
絶対的強者を前にし、もはやどうすることも出来ないと悟った野盗団のリーダーが最後の虚勢を張る。
しかし、そんなものは目の前にいる男には何の効果もない。
「俺は黙れと言ったんだ。貴様らもそこに転がっているゴミ同様に皆殺しにしてやろうか?」
「待っ…待ってくれ。金なら言い値で払う。だから、命だけは ───── 」
野盗団のリーダーが震えを抑えながら懸命に懇願する。
「まさかとは思うが、貴様らは殺される覚悟もなく襲ってきたわけじゃないだろうな。それに、俺がわざわざその願いを聞いてやる義理がどこにあんだよ。もう目障りだから死んどけ」
そう言うと、クロノはゆっくりと右手を前に伸ばした。
「クロノ!!」
ガシッ ─────── 。
一連のやり取りを見ていたスズネが後方からクロノに抱きつく。
力の限り目一杯にクロノを抱き締める。
クロノにとっては何の障害にもならない小さな力。
振り払おうと思えばいつでも振り払える。
しかし、クロノはそうしようとはしない。
そして、瞳を閉じ俯き加減で首を左右に振ると、大きく溜息を吐いた後に魔法を発動させた。
「麻痺」
こうして残っていた野盗は全員捕縛され、冒険者ギルドへ引き渡されることとなった。
「いや~助かったわ、クロノ」
「クロノ、本当にありがとね」
「マジで助かったっす」
「さすがは旦那様なのじゃ」
「・・・・・」
一先ず目の前の脅威が無くなり安堵の表情を見せる“宿り木”のメンバーたち。
しかし、マクスウェルだけは悔しさを滲ませ、口を開こうとはしなかった。
「黙れ、役立たずの愚図ども」
事の重大さを理解していないような振る舞いを見せるスズネたちに対して吐き捨てるように言い放つクロノ。
その言葉に反論する者はなく、一様にして押し黙ったが、クロノは口撃を止めない。
「お前ら全員学校だか何だか知らんがそこで一から鍛え直してこい!!」
これまでにない強い口調でスズネたちを叱責するクロノ。
しかし、それはまだまだ終わらない。
「相手が同族になった途端に役立たずになる剣士、あんなただデカいだけの魔物一体まともに止められない大盾使い、近接戦闘になったら何も出来ない魔法師。 ───── お前らなんかには何ひとつ守れやしね~よ」
クロノから浴びせられる言葉にただただ沈黙を返すしか出来ないスズネたち。
そんな重苦しい雰囲気を振り払うかのようにゴルザが助け舟を出す。
「まぁまぁ少しは落ち着けよ兄ちゃん。今回は何事もなかったんだ。みんな反省もしてるし、その辺にしといてやんな」
「フンッ」
こうして何とか野盗の襲撃を退けたスズネたちは、重苦しい空気感を残しつつ、再びモアへと出発したのだった。
─────── モアに到着 ───────
「お父さん、今回は本当にすみませんでした」
「まぁまぁ今回は初めてだったんだし何事もなかったんだから、あんまり気にし過ぎんなよ。次もお願いするからよ、その時はまた頼むな」
「はい。ありがとうございます」
気落ちしているスズネたちを気遣うゴルザ。
しかし、その言葉をそのまま受け取れる者は一人としていなかった。
ゴルザと別れた後、スズネたちはその足で今回のクエスト報告をするためにギルドへ向かう。
そして、報告を終えたスズネたちはホームヘ帰るも、みな無言のままただただ時間だけが過ぎていくのであった・・・。
そして、商業都市ロコンへ来る途中にも見かけた林が再びその姿を現し全員が警戒を強めていた。
「な…なんか毎回緊張するっすね」
「出て来たらアタシの剣で切り伏せてやるわ」
「気を抜かずに集中してください」
荷台から降りて荷馬車の周囲を固めるミリア・マクスウェル・シャムロムの前衛組三人。
一度通っているということもあり、前回と比べて気の抜けた部分があるようにも思える。
そして、スズネたちが護衛する荷馬車は今回も無事に林の前を通過した ───── かと思われた。
「はぁ~今回も何もなかったわね」
「何もなくて良かったよ」
「わっちはお腹いっぱいで眠いのじゃ」
何事もなく通過できたことに安堵するスズネたち。
メンバー全員が警戒を解こうとした時、最後まで周囲を見て回っていたマクスウェルが声を上げる。
「ちょっと待ってください」
「何よマクスウェル、何もないじゃない」
「いや、先程林の中で何かが動いたような気配が・・・」
「どうせ風の悪戯か、小動物でもいたんじゃないの」
マクスウェルの警告に対してミリアが気の抜けた返答をした、その時 ───── 。
林の中から五つの黒い影が飛び出した。
「漆黒の狼です!!五頭の漆黒の狼がこちらに向かって来ます」
マクスウェルの声に呼応し、すぐさま臨戦態勢をとる“宿り木”。
迫り来る五頭の漆黒の狼に対して準備は万端である。
「フン、今更五頭の漆黒の狼程度に遅れをとるアタシたちじゃないわ。チャチャっと片付けるわよ」
「今回は護衛ですからね。依頼主と荷馬車には傷ひとつ付けさせてはいけませんよ」
「分かってるわよ」
「来るっすよ」
そうこうしている内に五頭の漆黒の狼が荷馬車に追いつく。
相対するミリアたちはいつでも戦える状態である。
しかし、おかしなことに漆黒の狼たちは一向に襲ってこない。
グゥ~と唸り声を上げながらただただグルグルと荷馬車の周りを回っているだけなのだ。
その状況に荷台を引く二頭の馬も怯えて歩みを止める。
「何なのよコイツら」
「何かおかしいですよ。襲うというより、僕たちをここから逃がさないようにしているような・・・」
マクスウェルの感じた通り五頭の漆黒の狼の役割は足止めであった。
完全に足の止まった荷馬車。
周囲をグルグル回りながら睨みつけ威嚇するだけの漆黒の狼。
そして、その状況に混乱し、どうしたらいいか分からず手を拱いている冒険者パーティ。
これらを十分に楽しんだかのように笑みを溢した野盗の集団が林の中から姿を現した。
その数二十名。
そして、何よりもスズネたちを驚かせたのが、野盗団の後ろから現れた一体の巨大なトロールであった。
「な…何よ、あのデカいやつは!?」
「あれはトロールっす。知能は高くないっすけど、怪力と打たれ強さが特徴の魔物っす」
「まさか、この漆黒の狼がテイムされていたとは・・・。野盗の中に“調教師”がいますね」
突然現れた野盗団を前に慌てだす“宿り木”。
そんなスズネたちの様子を見た野盗団はさらに余裕を見せる。
全員がヘラヘラとした表情をしながら一切警戒することなくどんどん近づいてくる。
「おい、新米冒険者ども、大人しく積荷と金品を全部置いてけ。そしたら怪我なくお家に帰してやるよ」
野盗団のリーダーらしき男が不敵な笑みを浮かべながら言い放つ。
「ふざけんじゃないわよ!!アンタたちこそ、痛い目に遭いたくなかったらさっさと失せなさい」
「カッカッカッ。気の強ぇ嬢ちゃんだな」
野盗団のリーダーからの警告に対して、ミリアが強気な姿勢で応戦する。
まさに売り言葉に買い言葉。
“宿り木”の中でも特に正義感の強いミリアは、こういった理不尽な暴力を見過ごすことが出来ないのであった。
「引く気がないんじゃしょうがねぇ。野郎ども、やっちまえ!!」
リーダーのひと声により野盗団のメンバーたちが一斉に襲いかかってきた。
相対する“宿り木”は、いつも通り前衛にミリア・マクスウェル・シャムロムを配置し、スズネとラーニャが後方から支援する形をとる。
ミリアとマクスウェルは、漆黒の狼との戦闘の最中にその隙を突いてくる野盗たちの攻撃も捌きながら応戦する。
一方のシャムロムは一番の大物であるトロールを相手に攻防を繰り広げており、その周辺に群がってくる者たちをラーニャが魔法攻撃にて近寄らせないにしている。
そして、全体を指揮するスズネが回復とバフを状況に応じてメンバーに施していく。
キーン ───── 。
キーン ───── 。
一見すると何の問題もなさそうに見えるが、その中で明らかに動きの悪い者が一人。
それは、意外にもミリアであった。
「ミリア、さっさと片付けないと次々来ますよ」
「うっさいわね。分かってるわよ」
一体どうしたのだろうか。
いつもであれば誰よりも率先して敵を打ち倒していくのに、今回は誰が見ても動きが悪い。
他のメンバーたちも気掛かりとなっている中、野盗団のリーダーがミリアの心情を代弁する。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだ?」
「ホント、ムカつく野郎ね。ぶった斬ってやる」
「あんまり無理すんなよ、可愛いお嬢ちゃん。お前 ───── 人を斬ったことないだろ」
野盗団のリーダーから発せられた言葉を聞き、図星を突かれたミリアは驚愕の表情と共に動きが止まってしまう。
「ミリア・・・」
その様子を見ていたスズネが心配のあまり親友の名をポロリと溢す。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
「お~い、大丈夫か?顔色が悪いようだが、そろそろ降参すっか?」
気持ちとは裏腹に身体が言うことを聞かず、余計に焦り呼吸を乱すミリア。
そんなミリアの様子を見てより一層の挑発を行う野盗団のリーダー。
「うおぉぉぉぉ」
ザンッ ─────── 。
悪い流れを断ち切るかのように“気合い”と共に野盗を切り伏せたマクスウェル。
他のメンバーたちを鼓舞するかのように、普段見せている穏やかな青年の姿ではなく、心を鬼にして次々と野党を薙ぎ倒していく。
そして、自身の周りに群がっていた二頭の漆黒の狼と五人の野盗を討ち取ると、ミリアに向けて大声を上げた。
「ミリア!!生きるか死ぬかの瀬戸際ですよ。こいつらが僕たちを見逃すわけがないでしょ」
─────── !? ───────
マクスウェルの声に驚き、身体をビクッとさせたミリアは正気を取り戻す。
「難しいなら殺す必要はありません。行動不能にすればOKです」
「クソッ。アンタに説教されるなんて屈辱よ」
マクスウェル方の檄に対して悔しさを露わにするミリア。
しかし、その表情に先程までの焦燥感はなく、目の前に立つ敵を打ち倒さんとする戦士の顔付きとなっていた。
「さぁ~ここからよ」
先程までの劣勢が嘘のように善戦する“宿り木”。
スズネたちも確かな手応えを感じながら目の前の敵と交戦していた。
このまま押し切れるかと思われたが、その状況を快く思わない者によるひと言で戦局が一変する。
「おい、デク。お前一体いつまでその小っこいのに手間取るつもりだ。また躾が必要か?」
見るからに不慣れな護衛をしている新米冒険者に対する手下たちの手間取りっぷりに、いよいよ怒りが収まらなくなってきた野盗団のリーダーによる深く暗い怒りに満ちた言葉を聞き、シャムロムと相対していたトロールが怯えた様子を見せる。
そして、その恐怖を振り払うように手に持っていた棍棒を力任せに叩き付けた。
ドゴーーーン。
「うわぁぁぁ ───── 」
あまりの衝撃に吹き飛ばされるシャムロム。
それによって拮抗していた戦局が一気に崩れる。
シャムロムが守っていた側から野盗たちが一気に荷馬車へと駆け寄っていく。
他の野盗を相手にしているミリアとマクスウェルは手が離せず援護に回れない。
そして、ラーニャの魔法でも迫り来る野盗たち全員を仕留めることは出来そうにない。
そうこうしている内に野盗たちが荷馬車まで到達し襲いかかる。
荷台にはスズネとラーニャの魔法師しかいないが、そんなことお構いなしに五人の野盗が剣を片手に攻撃してきた。
まさに絶体絶命と思われたが、次の瞬間攻撃したはずの野盗たちが逆に弾き飛ばされたのだった。
何が起こったのか理解出来ず唖然した表情を見せる野盗たち。
そして、その視線の先には荷台の上で腕を組み仁王立ちしているクロノの姿があった。
どうやらスズネたちが護衛する荷馬車には、元々クロノの魔法によって結界が張られていたようである。
そんなクロノによる事前準備によって難を逃れたスズネたち。
しかし、荷台に立つクロノは明らかに機嫌が悪そうである。
スズネたちの杜撰な警護に対してかなりお怒りの様子。
「風刃」
クロノによって放たれた魔法により残っていた漆黒の狼と巨大なトロールの首が一瞬の内に斬り落とされる。
ドシーーーン。
「うわぁぁぁ」
「一体どうなってんだ!?」
倒されるはずがないと思っていたトロールの首が斬り落とされ、その巨体が無惨にも大地に倒れ込む様を見せられ野盗たちが慌てだす。
「お…お前、何者だ」
「黙れ!!今俺は機嫌が悪いんだ。お前ら全員殺すぞ?」
唐突に現れた一人の男によって一気に戦局が塗り変えられ、瞬く間に従えていた最大戦力の魔物を殺されたことにより、ずっと余裕を見せていた野盗団のリーダーもパニックとなり声を荒げる。
しかし、その叫びはクロノに一喝され、虚しくも消し去られてしまったのだった。
─────── ドサッ、ドサッ、ドサッ。
怒りを滲ませたクロノの殺気が一帯を包み込む。
そのあまりのプレッシャーと息苦しさに野盗たちが次々と絶望しながら膝をついていく。
この場からは逃げられない。
自分たちは触れてはならないモノに触れてしまった。
そんな思いを胸に野盗たちは生きることを諦めたのだった。
「な…な…なんでお前みたいな化け物がこんな新米パーティにいるんだよ。ふざけんな、クソが!!」
絶対的強者を前にし、もはやどうすることも出来ないと悟った野盗団のリーダーが最後の虚勢を張る。
しかし、そんなものは目の前にいる男には何の効果もない。
「俺は黙れと言ったんだ。貴様らもそこに転がっているゴミ同様に皆殺しにしてやろうか?」
「待っ…待ってくれ。金なら言い値で払う。だから、命だけは ───── 」
野盗団のリーダーが震えを抑えながら懸命に懇願する。
「まさかとは思うが、貴様らは殺される覚悟もなく襲ってきたわけじゃないだろうな。それに、俺がわざわざその願いを聞いてやる義理がどこにあんだよ。もう目障りだから死んどけ」
そう言うと、クロノはゆっくりと右手を前に伸ばした。
「クロノ!!」
ガシッ ─────── 。
一連のやり取りを見ていたスズネが後方からクロノに抱きつく。
力の限り目一杯にクロノを抱き締める。
クロノにとっては何の障害にもならない小さな力。
振り払おうと思えばいつでも振り払える。
しかし、クロノはそうしようとはしない。
そして、瞳を閉じ俯き加減で首を左右に振ると、大きく溜息を吐いた後に魔法を発動させた。
「麻痺」
こうして残っていた野盗は全員捕縛され、冒険者ギルドへ引き渡されることとなった。
「いや~助かったわ、クロノ」
「クロノ、本当にありがとね」
「マジで助かったっす」
「さすがは旦那様なのじゃ」
「・・・・・」
一先ず目の前の脅威が無くなり安堵の表情を見せる“宿り木”のメンバーたち。
しかし、マクスウェルだけは悔しさを滲ませ、口を開こうとはしなかった。
「黙れ、役立たずの愚図ども」
事の重大さを理解していないような振る舞いを見せるスズネたちに対して吐き捨てるように言い放つクロノ。
その言葉に反論する者はなく、一様にして押し黙ったが、クロノは口撃を止めない。
「お前ら全員学校だか何だか知らんがそこで一から鍛え直してこい!!」
これまでにない強い口調でスズネたちを叱責するクロノ。
しかし、それはまだまだ終わらない。
「相手が同族になった途端に役立たずになる剣士、あんなただデカいだけの魔物一体まともに止められない大盾使い、近接戦闘になったら何も出来ない魔法師。 ───── お前らなんかには何ひとつ守れやしね~よ」
クロノから浴びせられる言葉にただただ沈黙を返すしか出来ないスズネたち。
そんな重苦しい雰囲気を振り払うかのようにゴルザが助け舟を出す。
「まぁまぁ少しは落ち着けよ兄ちゃん。今回は何事もなかったんだ。みんな反省もしてるし、その辺にしといてやんな」
「フンッ」
こうして何とか野盗の襲撃を退けたスズネたちは、重苦しい空気感を残しつつ、再びモアへと出発したのだった。
─────── モアに到着 ───────
「お父さん、今回は本当にすみませんでした」
「まぁまぁ今回は初めてだったんだし何事もなかったんだから、あんまり気にし過ぎんなよ。次もお願いするからよ、その時はまた頼むな」
「はい。ありがとうございます」
気落ちしているスズネたちを気遣うゴルザ。
しかし、その言葉をそのまま受け取れる者は一人としていなかった。
ゴルザと別れた後、スズネたちはその足で今回のクエスト報告をするためにギルドへ向かう。
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ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。
この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。
戦闘力ゼロ。
「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」
親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。
「感謝するぜ、囮として」
嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。
そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。
「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」
情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。
かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。
見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
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異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
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解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
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「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
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