【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第8章 砂漠の英雄

第6話 いざ、マーイン領へ

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 テシウスさんとオルタナさんが去り、ヘクターさんがディアナさんと旅装の支度をしている中、私は、はあ~っとため息つきながら、もっと別の説得方法なかったかと反省していた。

「協力してくれないけど、敵対もしないってことだよね~。なら、ローゼが頑張るしかないってことだよね~」

 暢気にクリスが言ってくるけど、その通りだ。
 ここからは結果で示すしかない。

「テシウス先生からすれば最大級の譲歩です。あの方は王侯貴族に対しても、民に対しても態度を変えたりしません。そのテシウス先生から、競争という提案を頂いたのです。これを活かすしかありません。妨害工作をしてくる方でもありませんから、純粋な勝負になります」

 ヴィレッタは王立学校でテシウスさんの教え子だったから、私たちの中で彼を一番熟知している。
 そんな彼女が断言して言うのだ。テシウスさんと直接戦う事態にはならないだろう。
 ……出し抜かれる可能性は高いけど。

「難しそうな人でしたね! ですが、うちのダリムのクソジジイは心の中で怒りながら笑ったりと、喜怒哀楽すら策に使うジジイですが、テシウスさんは誠実に話してくれましたね! その点は私もわかりました!」

 比較対象が千年以上生きている老獪な赤竜なのはテシウスさんに失礼だけど、レオノールの意見も間違ってない。
 そう、テシウスさんは誠実であり、現実的な穏健派なのだ。私の父カエサル王と母ローラ王妃、それと私の病死後に起きた貴族政治の復権の時、自身の母の病も理由だが職を辞して郷里に戻っている。
 母の死以降、各地を旅して、数年前にアデルに請われ……まあこれは背後にサリウス叔父さんが居たんだろうが、王立学校の教師としてベルンに戻ってから、慎重にテスタ宰相失脚の策を練っていた。

「私はダリムのほうが、冗談に乗ってくれるから接しやすいわ。あのデコおっさん、イジったら沈黙して気まずくなりそう」

 お~いベレニス? 頼むからテシウスさんの目の前で、デコおっさんって呼ぶなよ。短い髪なだけで禿げてないからね?

「ところでヘクターさん、テシウスさんが言っていたマーイン領に、何しに行くんすかあ? あそこは8年前の南部諸国連合王国との戦いの地っすよね? たしかエイエス領って名だったはずっす」

「土地の改名なんてすんの? 人間って時々変なことするわよね。長年使われてる言葉を大事にしないって信じられないわ」

 フィーリアの疑問に、ベレニスがエルフらしい感覚を口にする。

「ああ、ちょいと現地調査だ。領主であるテオ・マーインとその一族の姿を、何年も誰も確認していないらしい」

 旅装を整えながら、ヘクターさんは答えた。

「何年も? それはファインダ王国のように、魔女が絡んでいる可能性があるというでしょうか?」

 リョウがすかさず質問すると、ヘクターさんは無言で頷いた。
 てか、リョウめ。会話に混ざらなかったらあとでみんなから、「これだから駄目なのよ、傭兵って」「リョウ様、もっと毅然としてくださいまし」「ん~? リョウ、居たっけ?」「リョウ様の場合、沈黙は金じゃなく泥っすね」「師匠の無表情は、テシウスさんとまた違いますね!」なんて言われてるのを恐れているでしょ?
 話しやすいヘクターさんに、ここぞとばかりに発言したな?

「テオ・マーインですか……あまりいい噂を聞かない男でした」

「知ってるの? ヴィレッタ?」

 私が訊ねると、ヴィレッタは短く端的に、エイエス領が南部諸国連合王国に陥落して領主一族が自刃し、その後ベルガー王国が取り戻したあと、テスタ宰相に取り入って出世してその地の領主になった、テオ・マーイン伯爵という人物について語ってくれた。

「褒められた人物ではありません。賄賂を好み、民に慈悲の心を欠片も持たぬ男です。前宰相テスタに気に入られたのも、民から搾取した金銭があったからです」

「自分も砂漠地帯は巡ってないので又聞きっすが、マーイン領となった地は悲惨って話は耳にしてるっす。税を1割でも滞納すれば鞭、2割に至れば強制労役、3割に達したら見せしめとして首を刎ねられるって感じっす。他に領主一族が全員死んだら、土地が消滅する呪いがあるって噂があるっすね」

 ヴィレッタの説明と商人として各地を旅していたフィーリアの補足説明に、私たちの顔が曇る。

「うへえ、気分悪い話ね。そんな奴の治める住民になんて、絶対なりたくないわ」

「でも今はサリウス王、それに実権はテシウスさんが握っているんですよね? 租税に関しても、テスタ時代の半分にも満たぬと聞いています! その地もすでに民が安心して暮らしているんじゃないのでしょうか⁉」

 舌を出して心底嫌そうな顔をするベレニスと、希望的観測を口にするレオノール。
 たしかにそこも気になるが、問題は魔女の有無だ。

「租税に関しては、現在の王国の指示通りに為されているそうだ。先に派遣された視察官の話によると、今現在不当な搾取もないらしい」

「ていうか、テスタって人が処刑された時、その人はどういう反応したの~?」

「多くの宰相派の領主はサリウス王に恭順の意を示して忠誠を誓っている。マーインからも恭順の使者が来たそうだ。この時恭順を拒んだ何人かは追放されている。南部は戦乱、南東はファインダ。だから追放された連中は北東のダーランドに亡命しているな」

 クリスの純粋な疑問に、ヘクターさんが答え、続ける。

「マーインに取り入って、呪いをかけたのはヴィルマという名らしい。フィーリア、知っているか?」

「ヴィルマ……う~ん、知らないっす。ただ、流れ者の魔女で権力者に取り入る。典型的な自分本意の魔女って感じがするっすね」

 フィーリアだけではなく、私たちの誰も知らない名前。

「……ヘクターさん、私たちも同行していいでしょうか?」

 意を決して告げる私に、ヘクターさんもディアナさんも驚かない。
 予想されていたというより、ディアナさんの占いがあったなこれ。

「クスクス、ローゼちゃんたちは本当の砂漠地帯、南部諸国群のアネクネーメ遺跡に向かっているのではなくて?」

「ええ、七英雄に倒された魔族五大将軍で、はっきり討滅場所がわかっているのが、イフリートをアネクネーメの街ごと消滅させた、そこだけですから」

 邪教『真実の眼』によって、千年以上前の魔王軍宰相クレマンティーヌの眠る封印が解かれ、大陸各地に古代の迷宮が突如として大地に姿を現し、魔獣の数も日に日に増している。
 ファインダ王国の北の地にて、魔王軍五大将軍の1人バアフィンも復活し、私たちは死闘の果てに何とか倒すことができた。
 残る将軍は4人。復活を防ぐか倒すかの二択しか私たちにはない。

「ですが、邪教の魔女の関与が疑われる場所を放置もできません。マーイン領なら南部諸国群の近くです。一旦ファインダのオレンまで転移魔法で一緒に飛び、そこからマーイン領に向かいたいと思います。……それにヘクターさんも私たちを連れていけば、行きの道中が短縮されるメリットがあります。……ディアナさんが妊娠しているんです。早めに帰りたいですよね?」

 ヘクターさんとディアナさん夫婦は、顔を見合わせ、それから私に向かって「「頼む(わ)」」と頭を下げてくる。

 なんだか背中がこしょばゆい感じ。この2人とは、それぞれ敵対したし、策略に利用されたことあるから感慨深いよ。

「ヘクターさん、盟約の指輪、解除するっすか?」

 フィーリアの視線の先はヘクターさんの指にある、かつて彼女と約束した二度と剣を手にしない誓いの証に向かう。

「いや、俺を商人一本にしたのはこいつだ。なあに、剣が持てなくても魔石でなんとかするさ」

 ヘクターさんは力強く答えた。

「それじゃあ! みんな捕まって。オレンへ行くから」

「待て、ローゼ。王城に預けているフタエゴとバラオビを迎えに行くぞ」

 リョウがちょっと慌てて私を止める。
 おっとそうだった。ムカつく馬だけど仲間だもんね。それにこれからもっと暑くなる砂漠地帯で馬車無しはキツい。

「コホン……それじゃあ気を取り直して……。ディアナさん、ヘクターさんは心配しないで、元気なお子さん産んでくださいね! また会いに来ます!」

「クスクス、ええ、また会いに来てちょうだい。ローゼちゃん」

 今まで見たことなかった、穏やかなディアナさんの笑顔に心を満たされながら、私は白銀の杖に魔力を込めて全身を淡く光らせる。

「王城へ『転移』!」
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