【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
303 / 314
第8章 砂漠の英雄

第23話 タブー視される話題

しおりを挟む
 斜陽が赤く染め上げている血と埃に汚れた執務室。
 数刻前に流れた血が、壁や床から滲み出して光を放っているかのように。
 砕けた机の木片が鋭い影を落とし、壁の亀裂が巨大な魔獣の爪痕のように口を開けている。
 風が吹き込むたび、焼け焦げた紙の残骸がカサリと虚しい音を立てて舞った。

 惨劇の中心に、クレバスはただ1人で佇んでいた。
 両手をズボンのポケットに深く突っ込み、背中は夕陽の光を浴びながらも、まるで光そのものを拒絶するかのように表情は険しい。
 やがて爆風で歪んだ窓枠から、一つの影がするりと室内に伸びる。
 夕陽が作り出した長い影の主は、最初からそこにいたかのように窓辺に腰を下ろしていた。

「キヒ♥ お姫様一行殺すの失敗してぇ、お仲間4人口封じで殺しちゃうってぇ、無能の極みじゃなぁい? 戦力甘く見過ぎぃ。あたしならぁ、恥ずかしくって死にたくなるかもぉ。任せろって言うから任せたけどぉ、あんたもあいつも力量不足かなぁ?」

 窓辺に腰掛けたシスター服の少女――ジーニアが、愉悦に満ちた声を響かせる。
 オレンジ色のおさげ髪が、血のような夕陽を吸って燃えるように輝いている。
 彼女は子供のように両足をぶらつかせながら、残酷な視線をクレバスの背中に突き刺していた。

「……ロメーロを、口先三寸だけで追いつめたのは想定外だった。奴が喋ろうとしたのもな。……それだけだ」

 クレバスの声は、砕けたガラスを踏むように乾いていた。

「キャハ♥ 強がり言っちゃってぇ。……いいか、隻眼。奇襲、乱戦、爆発魔法の三段構えが成功したって、あいつらに敗北していた結果しかねえ。仲間を死体にしてぇ、次の作戦乗ってくれるお仲間いるのかなぁ? ……そのくらいわからないとぉ、次に仕掛けても返り討ちに遭うだけだよぉ」

 ジーニアの嘲笑が廃墟と化した部屋に木霊する。
 彼女の挑発にクレバスは微動だにしない。ただ、不意に肩が小さく揺れた。

「クックック……」

 抑え殺したようで、腹の底から湧き上がるような笑い声だ。

「……あん? 何がおかしい?」

 ジーニアの眉がピクリと動く。

「いや、お前さんは所詮余所者だと思っただけさ」

「ああ、それがどうした?」

「俺たちエイエスの民が、何年この平和を守っていると思っている。……それに」

 クレバスの言葉が終わるか終わらないかの刹那。
 振り向きざまに抜いた剣が、赤い閃光となってジーニアを襲う。
 夕陽の光を吸い込んだ刃が空気を裂く。
 キィィン! と耳障りな音が響き渡り、二つの刃が交差した一点から激しい火花が散る。
 一閃は甲高い金属音と共に、漆黒の剣に阻まれた。

「俺とあの方が、あの場にいたんだ。乱戦になっていたら、勝っていたのは俺たちだ。奴らは姿を見せない魔女にばかり集中していたからな」

 隻眼に宿る憎悪の炎が、間近でジーニアを射抜く。

「はっ! 大した自信だなあ! まあ確かにぃ、爆発に紛れて4人を始末したのは見事だけどぉ。……リョウ・アルバースは気づいていたぜぇ。あのクリスって奴もなあ。だから始末する対象を瞬時に兵士にしたんだろ? ただそれだけの話だしぃ。自惚れが過ぎるんじゃなぁい?」

 ジーニアは唇の端を吊り上げ、クレバスの剣を容易く押し返す。
 互いの剣が弾かれ、間合いが空く。クレバスは流れるような動作で剣を鞘に納め、ジーニアもまた、つまらなそうに漆黒の剣を鞘に戻した。

「キヒ♥ 死んでもいいけどぉ、お姫様一行無傷ってのはやめてねぇ。期待してないで次のお手並み拝見して、あ・げ・る。キャハ♥」

「随分と舐められたもんだな。……教えてやるよ。エイエスの民の結束ってやつをな」

 クレバスはそう吐き捨てると、ジーニアに背を向けた。

「はいはい、頑張ってねぇ」

 ひらひらと手を振るジーニア。
 すると部屋を出ようとしたクレバスの足が止まる。

「……ジーニア」

 振り向きもせず、壁の染みに語りかけるような低い声だ。

「なんだよ」

「『影の魔女にもお伝えください。私の名は魔女ローゼ……私は、全ての罪を背負う覚悟がある、と』だとよ。てめえも邪教の魔女、影なる存在だ。よかったな。降伏すれば、罪を背負ってくれるそうだぜ?」

 クレバスはそれだけを言うと、今度こそ瓦礫を踏みしめながら闇の奥へと消えていった。
 残されたのは夕陽に照らされたジーニアと、死の匂いが満ちる静寂だけ。
 彼女はクレバスが消えた扉口を、信じられないものを見たかのように呆然と見つめていた。
 やがて彼女の唇から、絞り出すような声が漏れる。

「キャハ♥ ……くっだらねえ煽りしやがって。頭おかしいんじゃねえの? クレバスも、お姫様も!」

 激情が身体を突き動かす。
 ガッ! と鈍い音が響き、ジーニアの拳が叩き込まれた壁に、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
 パラパラと崩れ落ちる壁の破片を、彼女はただ、燃えるような瞳で見つめていた。

 ***

 一旦酒場に行き、食事をしながら次の一手を相談する私たち。
 夕飯時の酒場は昨日と同じく繁盛している。

「はい……ツケ」

「確かに。……どうしたんだい、シオン。顔真っ青じゃないか?」

 酒場には……いや、領民たちに城での騒ぎは伝わってないのか、シオンさんからお金を受け取ったマリーナさんは、キョトンとした顔をしている。

「今日はもう帰るね。食欲ないから」

「何だあ、珍しい。明日槍でも振るんじゃねえかあ?」

 すでに出来上がってるケントが囃し立てるも、シオンさんは項垂れて出ていってしまった。
 彼女から隻眼の衛兵クレバスについて、詳しく話を聞きたかったけど、あんな後じゃ無理もないか。
 私も見慣れてしまったとはいえ、死体を見て何も思わない人間でいたくない。しかもシオンさんにとっては同じ領に住む人間なのだ。今はそっとしておくのが正解だろう。

「どうしたんだい、王都からの御一行さんよお、このケント様に話してみな。取引失敗なら、俺が間を取り持ってやるぜ!」

「ぶわっはっは、ケントよお、おめえに城のツテなんてねえだろ!」

 エールの入ったジョッキを掲げながら、騒ぎ立てる酔っぱらいたち。

「ちょいとあんたたち! ローゼちゃんたちが困ってるじゃない! 商談の相談したいだろうから、もうちょい静かに酒を飲みな!」

 両手をくの字にして腰につけるマリーナさんの叱責に、私たちは「お構いなく」と告げていく。
 マスターのステイクさんの調理をする音、接客に駆けずり回るマリーナさん。2人の弟のケントは酔っぱらって客と口喧嘩。
 これが日常の風景。平和な日々の一幕。

「よお、ケント。お前さん、シオンと知り合いかい? 頼むぜ情報屋、彼女について教えてくれ」

 ヘクターさんがケントの肩に腕を組み、自分のジョッキに入ったエールを彼のジョッキに注いでいく。

「ん? シオン? おう、任せておけ! 彼女はなあ、俺を3回もフッたことがあるんだよ! エッチな身体してんのにそりゃねえだろ! でもよ、あいつ誰とも付き合ってないのは間違いねえんだ! だから俺、チャンスあると思ってるぜ!」

 100%ないと思うんだが。てか、3回もフラレたなら諦めろよ。

「ケント殿の前で、剣の腕を披露したことはありますか?」

「おう、あるぜ! 俺が質の悪い旅人に殺されそうになった時よ! バッ! ビュッ! って、感じで一撃で助けてくれたんだぜ!」

 リョウの質問に擬音で返すなよ。まあでも、強いってことは理解できる。
 それも相当に。

「それ以前、子供の頃の話はなんかあるか?」

 肩を組んだまま訊ねるヘクターさん。

「ちょいと俺、歳下だからねえなあ。義姉ちゃん歳近いけど、義姉ちゃんもここの産まれじゃないしな。なあ、兄貴! 兄貴はシオンの小さい頃のこと、なんか知ってるか!」

「知らん。親父が兵士だったってぐらいだ」

 ……私たちが直接本人から聞いた情報しか得られない、か。

「マリーナさんも、マーイン領出身じゃないんですね」

「出身はここだけど、育ちはオレンさ」

 私の問いに苦笑いしてマリーナさんは答えた。
 ということは、この酒場付近の出身じゃないってことかな? オレンか。シオンさんと同じ……。

「ちぇっ、じゃあ次の質問だ」

「おう、なんでも聞いてくれよ、ヘクターさん!」

「隻眼の衛兵、クレバスについて、詳しく教えてくれないか?」

 そうヘクターさんが口にした瞬間、酒場の喧騒が静まった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...