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第8章 砂漠の英雄
エピローグ
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私たちが宿に戻ってから一夜が明け、街は変化の時を迎えていた。
これからマーイン領がどうなるのかをヘクターさんに訊ねると、彼は腕を組み、難しい顔をして答えてくる。
「しばらくは王都直轄領になるだろう。南部諸国との国境だし、王国側には渡りに船だな。統治と防衛を一度に行える」
彼の言葉はどこまでも現実的だ。
私たちが願うのはただ一つ。この街の民に寄り添える、全うな人間が領主として就任してくれること。
それと、8年前にこの地を守るために散ったアルベルト・エイエス一族と、自らの罪を贖うために死んでいったクレバスたち、その両方に敬意を払える人物であること。
私たちはそう願うしかない。けれどテシウスさんの顔を思い浮かべれば、不思議と不安はなかった。あの人なら、きっと間違った人事はしない。そう信じられる。
「ヘクターさん。転移魔法で王都までお送りします。ディアナさんも待っているでしょう」
私の申し出に、彼はゆっくりと首を横に振った。
ヘクターさんの目は王都ではなく、この街の未来を見据えている。
「いや、その必要はない。近隣の領主に報告と支援を要請しないとな。この街を孤立させるわけにはいかん」
彼は商人であり、今は国のための役目を負う男でもあるのだ。
「それにあんたらを付き合わせて南部行きを遅らせるわけにいかん。ジーニアやノイズが居るんだろ?」
彼の言葉に私とリョウは力強く頷いた。私たちの戦いは、まだ終わっていない。
「ヘクターさん、それ以外にも販路拡大の基礎を固める気っすね。ちゃっかりしてるというか、抜け目ないっす」
フィーリアが呆れたように言うと、ヘクターさんは悪戯っぽく笑う。
「そう言うなフィーリア。これも仕事さ。未来への投資ってもんだ」
「ディアナさんの出産までには王都へ帰るんすよ。父親になる自覚も持たないと駄目っすからね」
「はいはい、分かってるよ」
そんな2人のやり取りを見て、ベレニスがクスクスと笑う。
「縮れ毛とフィーリア、後ろ姿は親子みたいよ。微笑ましいわ」
「「冗談言うな(っす)」」
ハモった否定の声が、少しだけ軽くなった空気に響いた。
街の中心では、クリスとレオノールが住民たちと共に焦土と化した盛り土の場所を掘り返す手伝いをしていた。
憎しみの対象であったはずのテオ・マーイン一族の骨を、丁重に正規の墓地へと移すのだという。
それは過去の罪と向き合い、乗り越えるための、この街の人々の最初の儀式だった。
ヴィレッタは傍らで静かに祈りを捧げている。彼女の澄んだ声が失われた全ての魂への鎮魂歌となり、今を生きる人々の心に希望の光を灯していく。
彼女の祈りと共に、この街の人々がこれからも生を育んでいってほしい。
宿の庭ではリョウが相変わらず剣の修行に余念がなかった。
ビュン、と空気を裂く彼の剣先が、この土地に淀む過去の怨念を一振りごとに斬り裂いているかのように。
夕暮れ時、私たちは再びあの酒場を訪れた。
「明日、出立します」
料理を食べ終え、私たちがそう告げると、ステイクさんとケント、そしてマリーナさんが深々と頭を下げた。
「ありがとう。ローゼちゃん。……この街の、あたしたちの闇を払ってくれて」
マリーナさんの瞳は少しだけ赤く腫れていたけれど、声にもう迷いはなかった。
彼女のその言葉が、私にとって何よりも温かい報酬となって、心の空洞をそっと満たしていく。
翌朝、相も変わらず「けっ!」と歯茎を見せてくるフタエゴとバラオビが引く馬車に私たちは乗り込んだ。
朝日が砂漠の地平線を黄金色に染め上げ、私たちの行く先を照らし出している。
戦乱渦巻く南部諸国で、ジーニア、ノイズ、部族たちが私たちへどう動いて来るのだろうか。
命がけの日々になるのは間違いないはず。
それでも私はもう迷わない。
希望を信じる。言葉は言霊。私の言葉が、私の想いが、いつか誰かを救うと信じて。
***
作者あとがき
第9章までSee you again
これからマーイン領がどうなるのかをヘクターさんに訊ねると、彼は腕を組み、難しい顔をして答えてくる。
「しばらくは王都直轄領になるだろう。南部諸国との国境だし、王国側には渡りに船だな。統治と防衛を一度に行える」
彼の言葉はどこまでも現実的だ。
私たちが願うのはただ一つ。この街の民に寄り添える、全うな人間が領主として就任してくれること。
それと、8年前にこの地を守るために散ったアルベルト・エイエス一族と、自らの罪を贖うために死んでいったクレバスたち、その両方に敬意を払える人物であること。
私たちはそう願うしかない。けれどテシウスさんの顔を思い浮かべれば、不思議と不安はなかった。あの人なら、きっと間違った人事はしない。そう信じられる。
「ヘクターさん。転移魔法で王都までお送りします。ディアナさんも待っているでしょう」
私の申し出に、彼はゆっくりと首を横に振った。
ヘクターさんの目は王都ではなく、この街の未来を見据えている。
「いや、その必要はない。近隣の領主に報告と支援を要請しないとな。この街を孤立させるわけにはいかん」
彼は商人であり、今は国のための役目を負う男でもあるのだ。
「それにあんたらを付き合わせて南部行きを遅らせるわけにいかん。ジーニアやノイズが居るんだろ?」
彼の言葉に私とリョウは力強く頷いた。私たちの戦いは、まだ終わっていない。
「ヘクターさん、それ以外にも販路拡大の基礎を固める気っすね。ちゃっかりしてるというか、抜け目ないっす」
フィーリアが呆れたように言うと、ヘクターさんは悪戯っぽく笑う。
「そう言うなフィーリア。これも仕事さ。未来への投資ってもんだ」
「ディアナさんの出産までには王都へ帰るんすよ。父親になる自覚も持たないと駄目っすからね」
「はいはい、分かってるよ」
そんな2人のやり取りを見て、ベレニスがクスクスと笑う。
「縮れ毛とフィーリア、後ろ姿は親子みたいよ。微笑ましいわ」
「「冗談言うな(っす)」」
ハモった否定の声が、少しだけ軽くなった空気に響いた。
街の中心では、クリスとレオノールが住民たちと共に焦土と化した盛り土の場所を掘り返す手伝いをしていた。
憎しみの対象であったはずのテオ・マーイン一族の骨を、丁重に正規の墓地へと移すのだという。
それは過去の罪と向き合い、乗り越えるための、この街の人々の最初の儀式だった。
ヴィレッタは傍らで静かに祈りを捧げている。彼女の澄んだ声が失われた全ての魂への鎮魂歌となり、今を生きる人々の心に希望の光を灯していく。
彼女の祈りと共に、この街の人々がこれからも生を育んでいってほしい。
宿の庭ではリョウが相変わらず剣の修行に余念がなかった。
ビュン、と空気を裂く彼の剣先が、この土地に淀む過去の怨念を一振りごとに斬り裂いているかのように。
夕暮れ時、私たちは再びあの酒場を訪れた。
「明日、出立します」
料理を食べ終え、私たちがそう告げると、ステイクさんとケント、そしてマリーナさんが深々と頭を下げた。
「ありがとう。ローゼちゃん。……この街の、あたしたちの闇を払ってくれて」
マリーナさんの瞳は少しだけ赤く腫れていたけれど、声にもう迷いはなかった。
彼女のその言葉が、私にとって何よりも温かい報酬となって、心の空洞をそっと満たしていく。
翌朝、相も変わらず「けっ!」と歯茎を見せてくるフタエゴとバラオビが引く馬車に私たちは乗り込んだ。
朝日が砂漠の地平線を黄金色に染め上げ、私たちの行く先を照らし出している。
戦乱渦巻く南部諸国で、ジーニア、ノイズ、部族たちが私たちへどう動いて来るのだろうか。
命がけの日々になるのは間違いないはず。
それでも私はもう迷わない。
希望を信じる。言葉は言霊。私の言葉が、私の想いが、いつか誰かを救うと信じて。
***
作者あとがき
第9章までSee you again
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