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第1章 復讐の魔女
第30話 窮地
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中庭から兵舎を目指し、走る私とベレニス。
衛兵に出くわさないのは、街での捜索に重点を置いていたからか、それともオルタナさんがいたからか。
兵舎の入り口に兵士がいないことに違和感を覚えつつ、物陰で息を整える。
「夜中とはいえ静かね。みんな寝てるんじゃないの?」
「いや、巡回してる兵士がいてもおかしくない。油断しないで行こう」
警戒しながら兵舎に入り救護室を探す。
やはり物音一つしない。
この感覚は、10年前に両親の寝ている寝室に戻った時と同じだった。
音が全くしないで、私たちの息遣いだけが聞こえる静寂が支配する空間。
懐かしいのに、凄く恐ろしいこの感覚……
「遮音の魔法が使われてる。ベレニス、気をつけて」
この扉だ。ここから先は……
ゆっくりと扉を開けると、そこには椅子に腰掛ける人影……
月明かりが窓から差し込み、顔がはっきりと見え始める。
「あらあら、あっさりここに辿り着くなんて。……運が良いのね、あなたたち」
ディアナが私たちを見て、クスリと笑うのだった。
私とベレニスは互いに目を合わせて頷く。
ここで決着をつけよう!
私は杖を構え、ベレニスは風魔法を詠唱する。
だが、私たちの魔法が発動する前に、ディアナが手を上げ、部屋全体が照らされる。
ディアナの足元には魔法陣。
邪教跡地やビオレールの教会で見た以上の、より複雑で禍々しい魔法陣が浮かび上がる。
そしてディアナの頭上には、一冊の本が浮かんでいたのだった。
「私を殺したいのね? いいわ。殺しなさいな。そうすれば領主殺しの汚名は消え、元の暮らしに戻ることができるわ」
「ベレニス待って! あの魔法陣も贄を置くことで発動する!」
この贄の魔法陣は今まで見た以上に危険だ!
発動させたら何が起こるか想像もつかない!
「ふうん。要は、私たちに殺されて自分の死体で発動させるってこと? でも、あんたが死んでから発動するんじゃ、意味ないじゃない。てか、ローゼは別にディアナを殺さないって決めてたし、無意味なんじゃない?」
「あらあら、甘ちゃんなのね。でも無意味ではないわ。私の死体じゃなくて、貴女たちの死体でもいいのだから!」
空中に浮かぶ本がパラパラと音を立てて捲られ、強大な魔力の塊がディアナの頭上に集まる。
その時、ゾクリとする殺気が私を襲う!
キーンと金属音。
ベレニスのレイピアが火花を散らす。
「ヒャハ♥ 不意打ちを防ぐなんて、エルフちゃんのくせに生意気だねぇ。でも次はどうかなぁ?」
「ベッドに誰も寝てないし、あんたみたいな性格でしょ? 絶対こうしてくると思ってたわ」
ジーニアの剣をベレニスのレイピアが応戦し、ディアナの魔法が放たれる。
魔法障壁で防ぐも、兵舎の壁は音を立てて崩れていった。
ディアナからの魔力弾を、私は辛うじて杖で受け止めるのだった。
***
兵舎内で私たちの戦闘が始まったその頃、リョウはオルタナ相手に死闘を繰り広げていた。
互いに一歩も引かず、一進一退の攻防が続く。
「思っていた以上にやるね。私とここまで剣を交えてくれたのは父上と兄上以来だよ」
「……愉しそうだな。正直、冗談じゃない」
リョウは全身いたるところから血を流し、肩で息をしながら剣を構え続ける。
対峙するオルタナは無傷で呼吸一つ乱れていない。
リョウの疲労困憊ぶりは誰の目にも明らかである。
「その割には君も笑ってるな」
そりゃそうだ、とリョウは心の中で返答する。
強者との戦い以上に心躍ることはない。
己の腕がどの程度かを知る機会でもあるのだから。
「まだまだ愉しもうぞ」
交わる剣戟。
オルタナが必殺の剣を繰り出さないのは余裕か、はたまた遊び足りないのか。
バルドとヴィムの戦いも、剣の力量で当初はバルドが優勢だった。
だが、時間が経つにつれヴィムの体力の多さ、若さの勢いに押されつつあった。
バルドの剣が上空へ飛び、地に刺さる。
「やれやれ、一介の兵にやられるとはな。歳を取るもんじゃないな」
「そんじゃとどめを刺しますか。言い残したことはあるかい?」
「ないな。とっととやれ」
ヴィムの剣がバルドの胸を貫く。
……ように思われた刹那、ヴィムの身体が宙を舞い地面に叩きつけられた。
ヒュー♪ とオルタナの口から口笛が漏れる。
バルドは剣を避けヴィムの懐に入ると、その勢いを利用し一本背負いをかけたのだ。
「何だ……それ?……」
ヴィムは気絶し、バルドも力を出し切ったのか、そのまま地面に倒れ意識を失う。
「体術か。中々どうして、あのギルドマスターもやるじゃないか」
オルタナのそんな呟きを耳にしながら、リョウは渾身の一撃を繰り出していく。
その時だった。
ドゴーン! という凄まじい音と共に、兵舎の壁や天井が崩れる音が響き渡った。
「ローゼ! ベレニス!」
「よそ見をする余裕が君にあるのかね? まだまだこれからだろ!」
一瞬の隙をついて斬り込んでくるオルタナに、辛うじてリョウは反応するが……
ドンッ! という衝撃と共に、腹部に剣の柄頭がめり込み、そのまま吹っ飛ばされてしまう。
剣を床に突き刺し倒れることだけは回避したリョウだったが、その口からは鮮血が吐き出される。
オルタナの追撃を防ぎながら見る、兵舎の跡地に立つ四つの人影と二つの攻防。
こっちを気にさせるわけにはいかんな。
そう思いながらリョウは剣を構え、オルタナの剣を受け止めるのだった。
***
「ああ~残念。あたしもぉ傭兵と戦いたかったなぁ。でもぉ、あの化け物の獲物を横取りするのは無理だしぃ、ちびっ子エルフで我慢するとするわぁ♥」
「舐めないで! 我慢するのはこっちのセリフ! あんたなんかに負けない!」
ジーニアの剣戟を凌ぐベレニス。
重い剣の一撃が何度も襲いかかり、受け止める度にその衝撃が腕を痺れさせる。
風魔法を使おうにも詠唱する隙がなく、防戦一方だった。
「ヒャハ♥ お姫様に傭兵にエルフちゃん。この3人で一番のハズレってエルフちゃんだよねぇ。だってレイピアなんて弱っちい武器使って魔法の腕前も中途半端。魔女で剣士のあたしとじゃ勝負にならないじゃん」
「うるさいわね! だからってあんたに負けるわけにはいかないのよ!」
ベレニスは渾身の突きを繰り出すが、それを嘲笑うかのように躱される。
そして足元からドンッと衝撃が走り、気がつけば床に倒されていた。
「魔法……何が起こったの?」
ベレニスの手首に、金属の輪っかが嵌められていた。
「くっ!……このっ!」
「ヒャハ♥ 無駄な抵抗しちゃダメダメぇ。その輪っかは奴隷の首輪を改造したものさ。安心しなって♥ 希少種のエルフだ。あたしがすんごい良い所へ高く売ってあげるからさぁ♥」
「このお! 外れろ外れろ外れろおおおお!」
ジーニアに戦闘不能にされた以上、ベレニスの敗北は決まったも同然だった。
「キヒ♥ ヒャッーハッハッハ♥」
ジーニアの高嗤いが月明かりの大地に響いていった。
衛兵に出くわさないのは、街での捜索に重点を置いていたからか、それともオルタナさんがいたからか。
兵舎の入り口に兵士がいないことに違和感を覚えつつ、物陰で息を整える。
「夜中とはいえ静かね。みんな寝てるんじゃないの?」
「いや、巡回してる兵士がいてもおかしくない。油断しないで行こう」
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音が全くしないで、私たちの息遣いだけが聞こえる静寂が支配する空間。
懐かしいのに、凄く恐ろしいこの感覚……
「遮音の魔法が使われてる。ベレニス、気をつけて」
この扉だ。ここから先は……
ゆっくりと扉を開けると、そこには椅子に腰掛ける人影……
月明かりが窓から差し込み、顔がはっきりと見え始める。
「あらあら、あっさりここに辿り着くなんて。……運が良いのね、あなたたち」
ディアナが私たちを見て、クスリと笑うのだった。
私とベレニスは互いに目を合わせて頷く。
ここで決着をつけよう!
私は杖を構え、ベレニスは風魔法を詠唱する。
だが、私たちの魔法が発動する前に、ディアナが手を上げ、部屋全体が照らされる。
ディアナの足元には魔法陣。
邪教跡地やビオレールの教会で見た以上の、より複雑で禍々しい魔法陣が浮かび上がる。
そしてディアナの頭上には、一冊の本が浮かんでいたのだった。
「私を殺したいのね? いいわ。殺しなさいな。そうすれば領主殺しの汚名は消え、元の暮らしに戻ることができるわ」
「ベレニス待って! あの魔法陣も贄を置くことで発動する!」
この贄の魔法陣は今まで見た以上に危険だ!
発動させたら何が起こるか想像もつかない!
「ふうん。要は、私たちに殺されて自分の死体で発動させるってこと? でも、あんたが死んでから発動するんじゃ、意味ないじゃない。てか、ローゼは別にディアナを殺さないって決めてたし、無意味なんじゃない?」
「あらあら、甘ちゃんなのね。でも無意味ではないわ。私の死体じゃなくて、貴女たちの死体でもいいのだから!」
空中に浮かぶ本がパラパラと音を立てて捲られ、強大な魔力の塊がディアナの頭上に集まる。
その時、ゾクリとする殺気が私を襲う!
キーンと金属音。
ベレニスのレイピアが火花を散らす。
「ヒャハ♥ 不意打ちを防ぐなんて、エルフちゃんのくせに生意気だねぇ。でも次はどうかなぁ?」
「ベッドに誰も寝てないし、あんたみたいな性格でしょ? 絶対こうしてくると思ってたわ」
ジーニアの剣をベレニスのレイピアが応戦し、ディアナの魔法が放たれる。
魔法障壁で防ぐも、兵舎の壁は音を立てて崩れていった。
ディアナからの魔力弾を、私は辛うじて杖で受け止めるのだった。
***
兵舎内で私たちの戦闘が始まったその頃、リョウはオルタナ相手に死闘を繰り広げていた。
互いに一歩も引かず、一進一退の攻防が続く。
「思っていた以上にやるね。私とここまで剣を交えてくれたのは父上と兄上以来だよ」
「……愉しそうだな。正直、冗談じゃない」
リョウは全身いたるところから血を流し、肩で息をしながら剣を構え続ける。
対峙するオルタナは無傷で呼吸一つ乱れていない。
リョウの疲労困憊ぶりは誰の目にも明らかである。
「その割には君も笑ってるな」
そりゃそうだ、とリョウは心の中で返答する。
強者との戦い以上に心躍ることはない。
己の腕がどの程度かを知る機会でもあるのだから。
「まだまだ愉しもうぞ」
交わる剣戟。
オルタナが必殺の剣を繰り出さないのは余裕か、はたまた遊び足りないのか。
バルドとヴィムの戦いも、剣の力量で当初はバルドが優勢だった。
だが、時間が経つにつれヴィムの体力の多さ、若さの勢いに押されつつあった。
バルドの剣が上空へ飛び、地に刺さる。
「やれやれ、一介の兵にやられるとはな。歳を取るもんじゃないな」
「そんじゃとどめを刺しますか。言い残したことはあるかい?」
「ないな。とっととやれ」
ヴィムの剣がバルドの胸を貫く。
……ように思われた刹那、ヴィムの身体が宙を舞い地面に叩きつけられた。
ヒュー♪ とオルタナの口から口笛が漏れる。
バルドは剣を避けヴィムの懐に入ると、その勢いを利用し一本背負いをかけたのだ。
「何だ……それ?……」
ヴィムは気絶し、バルドも力を出し切ったのか、そのまま地面に倒れ意識を失う。
「体術か。中々どうして、あのギルドマスターもやるじゃないか」
オルタナのそんな呟きを耳にしながら、リョウは渾身の一撃を繰り出していく。
その時だった。
ドゴーン! という凄まじい音と共に、兵舎の壁や天井が崩れる音が響き渡った。
「ローゼ! ベレニス!」
「よそ見をする余裕が君にあるのかね? まだまだこれからだろ!」
一瞬の隙をついて斬り込んでくるオルタナに、辛うじてリョウは反応するが……
ドンッ! という衝撃と共に、腹部に剣の柄頭がめり込み、そのまま吹っ飛ばされてしまう。
剣を床に突き刺し倒れることだけは回避したリョウだったが、その口からは鮮血が吐き出される。
オルタナの追撃を防ぎながら見る、兵舎の跡地に立つ四つの人影と二つの攻防。
こっちを気にさせるわけにはいかんな。
そう思いながらリョウは剣を構え、オルタナの剣を受け止めるのだった。
***
「ああ~残念。あたしもぉ傭兵と戦いたかったなぁ。でもぉ、あの化け物の獲物を横取りするのは無理だしぃ、ちびっ子エルフで我慢するとするわぁ♥」
「舐めないで! 我慢するのはこっちのセリフ! あんたなんかに負けない!」
ジーニアの剣戟を凌ぐベレニス。
重い剣の一撃が何度も襲いかかり、受け止める度にその衝撃が腕を痺れさせる。
風魔法を使おうにも詠唱する隙がなく、防戦一方だった。
「ヒャハ♥ お姫様に傭兵にエルフちゃん。この3人で一番のハズレってエルフちゃんだよねぇ。だってレイピアなんて弱っちい武器使って魔法の腕前も中途半端。魔女で剣士のあたしとじゃ勝負にならないじゃん」
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そして足元からドンッと衝撃が走り、気がつけば床に倒されていた。
「魔法……何が起こったの?」
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「くっ!……このっ!」
「ヒャハ♥ 無駄な抵抗しちゃダメダメぇ。その輪っかは奴隷の首輪を改造したものさ。安心しなって♥ 希少種のエルフだ。あたしがすんごい良い所へ高く売ってあげるからさぁ♥」
「このお! 外れろ外れろ外れろおおおお!」
ジーニアに戦闘不能にされた以上、ベレニスの敗北は決まったも同然だった。
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