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第2章 英雄の最期
プロローグ
しおりを挟む「英雄とは何か?」
この問いには様々な答えがあるだろう。
乱れた世を正す者。
敵を多く屠りし者。
弱き民を守りし者。
多くの民を導く者。
安寧をもたらす者。
財と名誉を持つ者。
しかし、これらだけでは不十分だ。
真の英雄とは、己のためではなく、他者のために戦う存在なのだ。
人々は古来より、己のために戦い多くの命を奪ってきた。
だがそれで世界は、良くなりはしなかった。
そんな時に立ち上がった者たちこそが英雄である。
それを、人々は歴史から学び後世に語り継ぐ。
現代にも名を残す英雄たちは皆、己のためではなく誰かのために力を振るった者たちなのだ。
さて、なぜ私がこのような記述をしているかというと、私は英雄を探しているのだ。
私にとって理想となる、大陸に住まう人々に光をもたらす希望となる人物を見つけ、支えるために。
私がこの旅をしている理由は、迫り来る危機に立ち向かう英雄を見出すためだ。その危機とは……
現代のファインダ王国国王ラインハルト・ファインダ。
彼は英雄王と称されている。
たしかにラインハルト王は英雄の器であろう。
ファインダ王国第二王女マーガレットに、アランの傭兵だったラインハルトが一目惚れされたのが伝説の始まりだ。
彼女の強引な後押しで王になった経緯があるが、その後の活躍は暗い話が多い昨今の大陸で、スカッとする話が多い。
ベルガー王国、南部諸国連合王国、ダーランド王国、レアード王国に囲まれ、連合軍を組まれた8年前、ラインハルト王は全てを撃退し、和睦の条件に不可侵条約まで結ばせている。
もっとも、薄っぺらい条約である。
特にマーガレット妃は、姉であるローラ妃と、その愛娘であり姪のローゼマリー王女を、不可解な病死と発表したベルガー王国に不信感を抱いている。
機が熟せば、両国間で大きな戦が起こるのは間違いない。
ラインハルト王のファインダでの治世が、現大陸で最も民に住みやすい国であるのはたしかだ。
だが国家のために戦場を駆け回っている姿は、私の英雄と呼ぶには少し違うと言わざるをえない。
かの王に私が期待するのは、大陸全土の未来の安寧への働き。
大陸全土に住まう人々の、希望になってもらいたいことであった。
直接会ってそう告げる機会があった。
だが王は、ファインダを護るのが俺の器量の限界よと、笑顔で告げられた。
たしかにその通りかもしれない。
いや、私が強引に彼を旅に誘えば、大陸全土に住まう人々の希望になったはずだ。
だがそれはファインダの民の不幸になる。
それを私は理解した。
以降、私は既に国家や身分に縛られている存在を、私の理想の英雄探しの候補から除外した。
7年前、南部諸国連合王国は突如奇襲のようにベルガー王国へ侵攻し、大敗を喫して連合王国は崩壊した。
大小100の部族による、権謀術数と血を血で洗う部族間の抗争は今なお続いている。
イリス・アーシャという若い部族長が奮闘し、大陸七剣神にも数えられている。
ラインハルト王謁見の時、偶然にも彼女もいて、色々語り合えたのは僥倖であった。
戦神戦姫の異名をもつ彼女だが、優しい性格であり政治能力にも長けており、南部の情勢も事細かに教えてくれた。
一応、南部だけではなく、大陸全土の英雄にならないかと誘った。
けれど逆に、財務卿の職を与えるから一緒に来ないかと誘われてしまった。
ラインハルト王まで、ズルいぞイリス、ファインダにこそ欲しいぞと言われたのには面食らってしまった。
冗談じゃなさそうだから始末に負えない。
本当に勿体ない。この2人が私の英雄にならなかったのが残念でならない。
七剣神といえばラインハルト王もそうだが、ベルガー王国の軍人にも1人いる。
南部諸国連合王国10万の大軍を、僅か千の騎兵で撃退した人物の名はアデル・アーノルド。
この者もアラン傭兵団出身で、先王カエサル・ベルガーにその才能を見出され、親衛隊長をしていた人物である。
先王の死後に在野に下ったアデルだが、実力を知る者に慌てて強引に軍に仕官させられた、異色の経歴の持ち主だ。
だが彼もまた、働くはベルガー王国のためである。
現状、宰相のテスタ・シャイニングによる暴政を悪化させている歯車の一つと言えよう。
英雄とは言い難い。
大陸中央北部にある大国ダーランド王国。
昨年表面化した、評議会メンバーの三割が、麻薬の商売に加担していたことから端を発した麻薬戦争。
黒幕であった将軍ヒューイット・マインは戦死した。
商業ギルドでも、麻薬を扱っていた商人や商会を厳しく取り締まったことで、終息の兆しは見える。
だが腐敗は根が深く、ヒューイットが死んだ今なお、貴族や豪族と民との間に、深い溝が生じているようだった。
戦争を早期終結させたのは、アラン傭兵団が介入したからだ。
かの傭兵団を雇った人物の情報が、まだ手元に届かぬのが残念だ。
ただ私個人の見解を言うのであれば、アラン傭兵団を雇った人物は、貴族でも商業ギルドでもなく、王だと考えている。
ヒューイットは、クーデターを計画していたのだろうと想像している。
だが、その計画にダーランド王が気づき、恐れ慄き国庫を傾けてでも大量の傭兵を雇ったのでは? と推察できる。
ただ没収されたであろう麻薬組織の金さえあれば、ダーランドの国庫が傾くのは当面ないとも結論づけた。
商人や豪族共が足を引っ張り合って国の財政も乱れ、ヒューイットも利用されただけだろうと私は推測している。
もし私の想像通りなら……邪教の魔女共が黒幕なのではなかろうか?
最後に大陸において最強の軍と呼ばれている、アラン傭兵団について述べよう。
アラン傭兵団は数百年前に、魔王を倒した七英雄の1人、アラン・アルバースの理念に則り設立された傭兵団だ。
規模が大きくなったのはここ100年ぐらいだ。
各地の紛争や戦争で弱者を護るために戦う姿勢は、アラン傭兵団の理念であり、多くの人々から感謝や尊敬の念を集めている。
先述したファインダ王国のラインハルト王や、ベルガー王国のアデル準男爵など、多くの人材をも輩出する傭兵団だ。
私自身もアラン傭兵団の大ファンであると公言しよう。
アラン・アルバースの理念を未だに守り続けるアラン傭兵団。
腐敗し政情不安が続く今の大陸において、最も必要な存在だと考えるが……如何だろうか?
英雄とは己のために力を振るう者ではなく、誰かのために力を振るい続けてきた者のことを指すのだ。
現団長であるグレン・アルバースも、七剣神の1人に数えられる英傑だ。
戦争とは国家間の争いや地域紛争を指す。
アラン傭兵団は、国が介入することで起きる勢力バランスの偏りを緩和し、非力な民衆を守ってきた。
ちなみにアルバースという姓は、アラン・アルバースから取っているが血縁ではない。
名無しの孤児や奴隷だった者たちへ、アラン傭兵団所属時に、便宜上姓を名乗らせているのである。
ダーランドに入国した私は、グレン団長に一目お目にかかれればと願ったが、パルケニアでゴタゴタが発生したとかですれ違ったようだ。
残念無念である。
強力な軍を率いて、弱者を護る理念で動くグレン団長。
彼が現代で、私が理想とする英雄と呼ぶに相応しい人物の候補なのは間違いない。
ただ彼にも守るべき部下が大勢いる。
自由行動は厳しかろう。
グレン団長の英雄としての器は素晴らしいとは思うが、もう1人、どうしても会っておきたい人物がいる。
その人物の名前はリョウ・アルバース。
現在17歳である彼の噂については、ダーランド入国以前に耳にしていた。
麻薬戦争では最年少のアランの傭兵でありながら、ヒューイット・マイン将軍の首を討ち取る活躍をし、護衛として守っていた民たちを無傷で守り抜いた。
まさに英雄の鑑のような振る舞いではないか!
パルケニアの王都アルキリアの冒険者ギルドで、その一報を聞いた。
さらにパルケニア出身と知り、彼の過去を耳にして私は心が踊った。
彼こそが、今後訪れる未曾有の危機を打ち破る、私の理想の英雄となるべき人物と直感したからだ。
ダーランドに入国した私は、ハンセン商会にお世話になっている。
そこで幸運にも、サラ・ルーカスというアランの傭兵の少女を雇う機会を得た。
彼女から麻薬戦争の様子を詳細に聞いた。
それとリョウ・アルバースの、見習い傭兵時代の過去についても聞くことができた。
サラ・ルーカスも、竹を割ったような性格で非常に好感が持てる女性であり、人となりに疑う余地はない。
一つ残念なのが女性好きな点であったが、そこは私には関係ないので深く掘り下げないでおこう。
麻薬戦争は、王宮内やダーランド軍、商業ギルドが真っ二つとなった。
民間人にも多くの廃人や犠牲者を出した、悲惨で最悪な戦争だった。
アラン傭兵団の介入がなければ、長きにわたる騒乱の予感さえあったという。
それ程の混乱を、早期に終結させた立役者がリョウ・アルバースなのだ。
ヒューイット将軍は戦端が開かれても、王側で活躍していた。
だがそれを八百長と見抜き、疑念を抱いた最初の人物こそ彼だったという。
直感だったらしいが、アラン傭兵団はそうだと前提して行動した。
金の流れで麻薬の流通に関わっていた証拠を集め、追い詰められたヒューイット将軍は、王と宰相を殺害すべく動こうとしたのだった。
なぜリョウ・アルバースの疑念を、傭兵団は信じたのかとサラに尋ねた。
すると、こんな返答を得た。
『そりゃあいつは、敵かそうでないかを見分けるのに集中してる馬鹿だからだよ』
と笑いながら。
サラから彼の過去を聞いてから暫くして、リョウ・アルバースの新たなエピソードが私の耳に届いた。
隣国ベルガー王国のビオレールの街で、教会の悪事を暴き、魔女騒動を解決した、と。
さらにアデル準男爵の次子にして、すでに剣技は父以上と噂されている麒麟児オルタナ・アーノルドと、一騎討ちをして引き分けたという。
共に協力した仲間に、美少女魔女と可愛いエルフがいたらしいが果たして?
剣士に魔女にエルフの組み合わせ。
まるで七英雄のレインとアニスとフォレスタのようではないか。
運命を感じはするが、これはまだ断を下すには早計だろう。
ただ鼓動は早まる。
直接会って、一晩でも二晩でも語り尽くしたい想いが溢れる!
リョウ・アルバース、彼は英雄と呼ぶに相応しい人物だ。
ダーランドの麻薬戦争、ベルガーの魔女騒動。
短期間で、二つの大きな事件を解決した立役者なのだから。
けれど、それは万人から認められるかと言えば難しいかもしれない。
彼の性格は一言で言えば無口だそうで、人との関わり合いをあまり好まないという。
だが一度仲間と認めると、どのような困難が立ち塞がろうとも守ろうとする男気を示すという。
現在の彼は傭兵団本隊を離れ、とある目的と使命を帯びて旅をしているらしい。
その目的と使命を教えてくれなかったのは残念だ。
果たして彼はこの大陸において、今後どう動くのか非常に興味深い。
まだ彼とは直接会ったことはないが、彼の英雄としての器は私が思う以上に大きいと感じている。
なにせ、多くの悲劇を体験しても悪辣な行動を一切していないのだから。
丁度お世話になっているハンセン商会が、ビオレールに出立する。
私も一緒に行って会ってみようと思う。
ただ私の旅の期限も迫っているので、時間があればではあるが……
願わくば、彼が私の想像通り以上の男であることを祈る。
魔王を討滅し、七英雄と称された偉大なる英雄たちのように。
その最期が、アランのような悲劇で終わらぬことを願いつつ。
私はそう祈らずにはいられないのだ。
時間の猶予はもうない。
魔の輝きは日に日に力を増しているのだから。
―大陸暦1117年6月。フィーリア・メルトダの手記より抜粋―
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