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第3章 公爵令嬢の選択
第20話 王女生存説
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貴族街の区画の外周に位置し、兵士や騎士の住まう区画の1つに、ベルガー王国の準男爵位を賜ったアデル・アーノルドの住まう屋敷がある。
アデルは使用人も雇わず、息子と娘は遠地に配属され、妻とも死別しているため、1人暮らしをしている。
休日は自ら掃除洗濯に精を出し、傭兵時代から続けている剣の鍛錬にも余念なく、特に不具合を感じてはいない。
準男爵とは一代限りの貴族で、領地も持たないが、王国に忠誠を尽くすことを条件に貴族の身分を与えられる制度である。
アデルはアラン傭兵団に所属していた傭兵であった。
先王カエサル・ベルガーに請われ傭兵団を辞し、ベルガー王国親衛隊長に抜擢され、身命を賭して仕えた。
だが、先王は病で亡くなり、あろうことか王妃も王女も同日に病で亡くなった。
国葬後、平民であったアデルは職を辞し、郷里に帰ろうとしたが、フリッツ宰相と軍の元帥、それに新王サリウスに説得され、王国軍の部隊長職に就いた。
貴族主義への回帰が強まる空気の中、現宰相テスタ・シャイニングの暴政が続いている。
内心思うことは多々あったが、慎ましく暮らしながら、戦功を重ね、今に至る。
今や、アデルは王国に何も期待していない。
命じられた役目を果たすためだけに生きているようなものであった。
そんな彼が休日の雑務を終えて、一杯だけと晩酌をしていると、玄関にノック音が響いた。
こんな夜更けに誰だ? と思いながらも扉を開けるとそこには2人の男が立っていた。
「ルインズベリー家の公子様と、オルガか。一体何の用でしょう?」
ルインズベリーとは王国4大公爵家であり、現宰相職のシャイニング公爵家同様、汚職貴族の代表のような家であった。
オルガは、ルインズベリー家に仕える家柄の出身だった人物である。
「よお、久しぶりだなあ、アデルの旦那ァ。ベルンに里帰りしたんでちょいと顔を見せに来たぜ」
オルガは現在、アデルが所属していたアラン傭兵団に在籍している。
10年前にオルガへ紹介状を書いたのはアデルであった。
「こんな夜分遅くに失礼。お元気そうで何よりです」
ルインズベリー本家のポールが恭しく一礼する。
アデルは2人がここに来た理由を考える。
2人の様子から、怪しい動きや後ろめたい話はなさそうだと判断し、屋敷の中に招き入れた。
応接間に案内して椅子を勧めると、2人は礼を言い座った。
アデルは酒とツマミを3人分用意すると席につく。
「どうだ? アランの傭兵としての暮らしは? 団長のグレンは元気か?」
「暮らしはまあまあかな? まあ剣の腕だけで頼りにされるのは性に合っているねえ。貴族に仕えるなんて暮らしには、もう戻れねえってぐらいにな。団長は元気だよ」
オルガが以前の主の前で貴族を愚弄する発言に、アデルは苦笑した。
自分もそういえば一応貴族だったなと思うと、また笑いがこみ上げてきた。
それを見てオルガも苦笑いしつつ、本題に入った。
「ポールに顔を見せて、あんたに挨拶して団長のところに帰ろうと思ってたんだが、ちょいと気になる話を耳にしてな。アンタの耳にも入れておきたい話なんだ」
オルガはテーブルの上に一枚の紙を置いた。
アデルはその紙に目を通し、思わず唸り声を上げた。
『ローゼマリー王女生存疑惑、死んだと言われている王女について、各地で噂されているらしいことを複数人から聞き及んだ』
そして最後の文にはこう記されていた。
『ローゼマリー王女は魔女ローゼと名乗り、冒険者として現在王都ベルンに滞在している』
ふむ? とアデルは首を捻った。
アデルも軍の修練場で、兵士たちが噂話をしているのを耳にしている。
だが、対象者が冒険者としてベルンに滞在しているのは初耳だった。
さらに魔女ローゼの名には聞き覚えがあった。
娘のオルタナの手紙に記されていた、ビオレールの騒動解決の立役者の魔女ではないか。
「アデル殿は先王の信頼厚き親衛隊長だったお方。ローゼマリー姫殿下にも慕われていたと聞き及んでいます。よろしければ、我らが調べた人物の顔を見て、実際に会って確認して頂きたいのです。ローゼマリー姫殿下のご生存が確認出来次第、ルインズベリー公爵家として正式に保護するつもりでございます」
アデルは考える。
たしかに王女は病死したはずであった。
だが、それが何かの陰謀で、本当に生きているのなら、それは真に喜ばしいことだ。
だが、もし本当に生きているなら何故姿を隠していたのか?
それは王女としての身分を、不要としているからなのか?
それとも、何かやむを得ない事情があってのことか?
「その王女様らしき人物は、俺と同じアラン傭兵団の男とエルフのガキの女。もう1人ちっこい少女と組んで冒険者稼業をしている。連中が魔女ローゼの素性を知っているかは知らねえ」
「アランの傭兵はリョウ・アルバースだな。儂も聞いたことのある名だ」
「へえ? アデルの旦那に覚えてもらってるとはリョウの野郎も出世したもんだな」
「もし偽物だったり、抵抗されたりしたらどうするつもりだ?」
「その時はその時さ。俺はローゼマリー姫殿下だと信じているがな。まあ、あの連中が抵抗するなら王女を残して他は殺す。アランの傭兵の同士討ちなんてよくある話さ」
「あ、いやアデル殿。オルガの今の発言は極論です。ですが、万が一本物だった場合、宰相様が何をしでかすかわかりますよね?」
オルガとポールの発言に、眉間に皺を寄せるアデル。
言われていることははっきりわかる。
宰相のテスタが知れば必ずや王女を始末すべく動くであろう。
ルインズベリー家は宰相派閥の筆頭に位置しているが、それは当主の話。
世継ぎのポールに悪い話は聞かない。
今の発言は自分は宰相の傀儡にはならないと宣言したように思えた。
王女を利用しようとする野心はあるのだろう。
だが果たして、テスタの政権を倒す可能性はあるのであろうか?
ローゼマリー王女が本物か偽物かを見定めてから判断しよう。
ポールが私利私欲のために、王女を利用する腹づもりなら見限ればいいだけだ。
「御安心を。陛下の玉座をどうこうしようという意図はございません。アデル殿、オルガ、よろしいですな?」
「その言葉に安心しました。喜んで魔女ローゼに会いに行きましょう」
アデルは右手を差し出した。
アデルとポールが右手を交わす中、酒の入ったグラスを手にしたオルガはニヤリと笑った。
アデルは使用人も雇わず、息子と娘は遠地に配属され、妻とも死別しているため、1人暮らしをしている。
休日は自ら掃除洗濯に精を出し、傭兵時代から続けている剣の鍛錬にも余念なく、特に不具合を感じてはいない。
準男爵とは一代限りの貴族で、領地も持たないが、王国に忠誠を尽くすことを条件に貴族の身分を与えられる制度である。
アデルはアラン傭兵団に所属していた傭兵であった。
先王カエサル・ベルガーに請われ傭兵団を辞し、ベルガー王国親衛隊長に抜擢され、身命を賭して仕えた。
だが、先王は病で亡くなり、あろうことか王妃も王女も同日に病で亡くなった。
国葬後、平民であったアデルは職を辞し、郷里に帰ろうとしたが、フリッツ宰相と軍の元帥、それに新王サリウスに説得され、王国軍の部隊長職に就いた。
貴族主義への回帰が強まる空気の中、現宰相テスタ・シャイニングの暴政が続いている。
内心思うことは多々あったが、慎ましく暮らしながら、戦功を重ね、今に至る。
今や、アデルは王国に何も期待していない。
命じられた役目を果たすためだけに生きているようなものであった。
そんな彼が休日の雑務を終えて、一杯だけと晩酌をしていると、玄関にノック音が響いた。
こんな夜更けに誰だ? と思いながらも扉を開けるとそこには2人の男が立っていた。
「ルインズベリー家の公子様と、オルガか。一体何の用でしょう?」
ルインズベリーとは王国4大公爵家であり、現宰相職のシャイニング公爵家同様、汚職貴族の代表のような家であった。
オルガは、ルインズベリー家に仕える家柄の出身だった人物である。
「よお、久しぶりだなあ、アデルの旦那ァ。ベルンに里帰りしたんでちょいと顔を見せに来たぜ」
オルガは現在、アデルが所属していたアラン傭兵団に在籍している。
10年前にオルガへ紹介状を書いたのはアデルであった。
「こんな夜分遅くに失礼。お元気そうで何よりです」
ルインズベリー本家のポールが恭しく一礼する。
アデルは2人がここに来た理由を考える。
2人の様子から、怪しい動きや後ろめたい話はなさそうだと判断し、屋敷の中に招き入れた。
応接間に案内して椅子を勧めると、2人は礼を言い座った。
アデルは酒とツマミを3人分用意すると席につく。
「どうだ? アランの傭兵としての暮らしは? 団長のグレンは元気か?」
「暮らしはまあまあかな? まあ剣の腕だけで頼りにされるのは性に合っているねえ。貴族に仕えるなんて暮らしには、もう戻れねえってぐらいにな。団長は元気だよ」
オルガが以前の主の前で貴族を愚弄する発言に、アデルは苦笑した。
自分もそういえば一応貴族だったなと思うと、また笑いがこみ上げてきた。
それを見てオルガも苦笑いしつつ、本題に入った。
「ポールに顔を見せて、あんたに挨拶して団長のところに帰ろうと思ってたんだが、ちょいと気になる話を耳にしてな。アンタの耳にも入れておきたい話なんだ」
オルガはテーブルの上に一枚の紙を置いた。
アデルはその紙に目を通し、思わず唸り声を上げた。
『ローゼマリー王女生存疑惑、死んだと言われている王女について、各地で噂されているらしいことを複数人から聞き及んだ』
そして最後の文にはこう記されていた。
『ローゼマリー王女は魔女ローゼと名乗り、冒険者として現在王都ベルンに滞在している』
ふむ? とアデルは首を捻った。
アデルも軍の修練場で、兵士たちが噂話をしているのを耳にしている。
だが、対象者が冒険者としてベルンに滞在しているのは初耳だった。
さらに魔女ローゼの名には聞き覚えがあった。
娘のオルタナの手紙に記されていた、ビオレールの騒動解決の立役者の魔女ではないか。
「アデル殿は先王の信頼厚き親衛隊長だったお方。ローゼマリー姫殿下にも慕われていたと聞き及んでいます。よろしければ、我らが調べた人物の顔を見て、実際に会って確認して頂きたいのです。ローゼマリー姫殿下のご生存が確認出来次第、ルインズベリー公爵家として正式に保護するつもりでございます」
アデルは考える。
たしかに王女は病死したはずであった。
だが、それが何かの陰謀で、本当に生きているのなら、それは真に喜ばしいことだ。
だが、もし本当に生きているなら何故姿を隠していたのか?
それは王女としての身分を、不要としているからなのか?
それとも、何かやむを得ない事情があってのことか?
「その王女様らしき人物は、俺と同じアラン傭兵団の男とエルフのガキの女。もう1人ちっこい少女と組んで冒険者稼業をしている。連中が魔女ローゼの素性を知っているかは知らねえ」
「アランの傭兵はリョウ・アルバースだな。儂も聞いたことのある名だ」
「へえ? アデルの旦那に覚えてもらってるとはリョウの野郎も出世したもんだな」
「もし偽物だったり、抵抗されたりしたらどうするつもりだ?」
「その時はその時さ。俺はローゼマリー姫殿下だと信じているがな。まあ、あの連中が抵抗するなら王女を残して他は殺す。アランの傭兵の同士討ちなんてよくある話さ」
「あ、いやアデル殿。オルガの今の発言は極論です。ですが、万が一本物だった場合、宰相様が何をしでかすかわかりますよね?」
オルガとポールの発言に、眉間に皺を寄せるアデル。
言われていることははっきりわかる。
宰相のテスタが知れば必ずや王女を始末すべく動くであろう。
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ポールが私利私欲のために、王女を利用する腹づもりなら見限ればいいだけだ。
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