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第4章 竜は泉で静かに踊る
第7話 とこしえの森の泉
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エルフの里に滞在してから2週間が経過した。
エルフの里では、時間がゆっくりと流れているような感覚になる。
木々の間から差し込む光は柔らかく、まるで永遠の黄昏時のような雰囲気で空気は清々しく、かすかに甘い香りが漂っている。
冬が深まり、日に日に風が冷たくなる中で森の草木も枯れ、春に向けた準備をしているように思える。
とこしえの森に地図なんてないから、歩いて位置を把握していくしかない。
「まだ行ってない場所が多すぎて、どこから手を付けるべきか。う~ん。他の種族も非協力的だし、森の蠢きも強まっている気がするし、あ~どっから手を付けていいやら」
思わず頭を抱える私に、ヴィレッタが紅茶を淹れてくれた。
「昨日遭遇した、リザードマンさんたちとは危なかったです。フィーリアがいなければエルフとの全面戦争になって、わたくしたちもどうなっていたことやら……」
リザードマンというのは、とこしえの森に住む亜人種で、一口で説明すると二足歩行する大柄なトカゲのような見た目が特徴だ。
勇敢な戦士が多く、七英雄時代の魔王軍との戦いでは、人類側で戦っていたと記録に残っている。
近年はエルフやドワーフと同様に、人の文化に関与せずにひっそりと森で暮らしているので、私も初めて出会ったよ。
「ベレニスも喧嘩っ早いし、向こうはリョウを戦士として欲しがるし、フィーリアがいてよかったよ。さて、今日はどこを確認するか……」
そんな私とヴィレッタの賛辞に、当のフィーリアは瘴気の濃度を測定する魔導具『霧影探知器』をいじりながら小首を傾げている。
フィーリアは色々持っていて、いつも助かるよ~。
「自分は最後に交渉しただけっすからねえ。リザードマンたちは、リョウ様を取られる嫉妬心で魔法をブッパしようとしたローゼさんと、こっちの話を聞かずに一触即発になって憤慨したヴィレッタさんに恐怖していたんすから」
ん? 小声でフィーリアが何か言った気がするが、私もヴィレッタも聞き逃してしまったようだ。
「やはりこっちっすかねえ。瘴気が薄そうに見えるっすから後回しにしたんすが、考えてみれば何で今の状況で瘴気が薄まるんすかねえ?」
フィーリアは自身が書いた手書きの地図を広げて呟いた。
「ベレニスはまだ起きないか。こっちにどんな種族が棲息しているか、前情報がほしいかな」
「ベレニスさんだけじゃなく、ララノアさんも寝ているっすねえ。ていうか、エルフって朝弱いんすかねえ……まさかまさかの事実に自分もビックリっす」
「……最初の朝、リョウが鍛錬で剣をビュンビュンさせていたら、ブチギレたエルフたちに囲まれて追い出されそうになったよねえ。ララノアさんたちを宥めるの大変だったよ」
思い出すだけで頭が痛い。
リョウも凹んで、それ以降はわざわざ里の外にまで出て鍛錬している。
あんまり1人で行動してほしくないのだが、リョウだから仕方がない。
止めたところでリョウは、ならばと夜にやりそうだしなあ。
それはそれで、エルフたちが何こいつ? ってリョウを見るだろうし。
「みんな起きていたのか。まだ早いだろ」
扉が開き、一汗流したリョウが姿を見せた。
いや、リョウに言われたくないぞ。
どうせ今日も1時間は鍛錬していたんでしょ。
「おはよ。今日は少し遠出しようと思ってね。場所はここ」
「了解。……そういえば、昨日ザイルーガ殿が言っていたな。森には暗黙のルールがあって、どんな種族も踏み入れない地があるとかなんとか。たしかここがそうじゃないか?」
なぬ? それは初耳だぞ?
ザイルーガはリザードマンのおっさんの1人で、なんか私たちにやいのやいの言っていたっけ。
騒がしい奴だったが、フィーリアと交渉していたから、リザードマンのお偉いさんだったのかも。
「リョウ様、そういう情報はすぐにお教えくださいませ。わたくしたちにとって必要不可欠な情報でございます」
ヴィレッタの当然の苦言に、リョウは頭をポリポリ掻いた。
「昨日リザードマンの酒盛りに引きずり回され、飲めない酒の臭いに当てられて早々に寝てしまったからな。言う機会がなかった。すまん」
まあそれは知っているし、ていうか誰がここまで運んだか想像して感謝してほしいぞ。
「ふわ~、みんなもう起きているの? あと5時間は寝ようよ」
寝ぼけ眼でベレニスが起きてきた。
「それ太陽が真上になっているから! ところでベレニス、ここへ行きたいんだけど、どんなところか知っている?」
起きてきたベレニスに地図を見せながら説明し終えると、彼女はピンときたようでポンと手を打つ。
「知らないわね。行ったことないわ」
ズコーと思わずコケる。
おにょれベレニス、期待させよって。
とにかく行ってみないとわからないってことで、私たちは朝食を摂り、準備を整えてから出立した。
巨大な木が根を張り、小動物が冬籠りに向けて木の実や木の芽などを探して食べている姿に癒されるなあ。
木漏れ日が照らす中、私たち5人は歩みを進める。
地元だから任せてよねと、先頭をとことこ歩くベレニスだが、てくてく歩く小動物にたまに反応して、ちょこちょこついて行こうとするから困ったもんだ。
ただそれがなぜか早道になるのだから、ベレニス恐るべし。
やがて、水の流れる音が聞こえてくる。
音のする方へ歩いて行くと、幅が数十メートルはあろうかという大きな泉が現れた。
泉は深い翠色を湛え、その周りには苔むした岩や、色とりどりの花々が咲いていた。
水面は鏡のように滑らかで、周囲の景色を完璧に映し出している。
水から立ち上る微かな湯気が、この場所の神秘性をさらに高めていた。
「へえ? こんなところがあったんだ。知らなかったわ」
ベレニスがそう呟いたが、私も思わず見とれてしまう。
陽の光が反射して、とても幻想的な雰囲気だったから。
ただすぐに水面が揺れて、何かが浮かび上がってくる気配がする。
とんでもない威圧感だ。
リョウが前に出て戦闘態勢に入った。
水しぶきがあがり飛び出てきたのは、なんと女の人。
水面から現れる瞬間、周囲の空気が一瞬凍りついたように感じる。
彼女の周りには、かすかに赤い霧のようなものが漂い、その存在感は圧倒的だった。
真っ赤な髪が腰まで伸びたスレンダーな肢体。
整った鼻筋と唇、そして胸は小さいが顔立ちはとても整っている。
肌は真珠のように輝き、水滴が滑り落ちる様子は絵画のよう。
彼女の真紅の瞳は、まるで燃える炎のように煌めいている。
首からぶら下げているペンダントが、木漏れ日でキラリと光った。
綺麗……思わず見惚れてしまう。
まるで神話に登場する女神のようで。
リョウもポカンと口を開けていた。
は⁉ 彼女全裸じゃん!
「リョウは見ちゃ駄目‼」
「リョウ様! 目を閉じてくださいまし‼」
ヴィレッタも同じ気持ちだったのか、私と同時にリョウの目を塞ぐ。
ベレニスとフィーリアは、全身に鳥肌を立たせて硬直していた。
この恐れを知らないエルフとドワーフがこうなるとは⁉
ベレニスは耳を尖らせ、フィーリアは口を大きく開けたまま動かない。
あれ? もしかして、これヤバい状況?
エルフの里では、時間がゆっくりと流れているような感覚になる。
木々の間から差し込む光は柔らかく、まるで永遠の黄昏時のような雰囲気で空気は清々しく、かすかに甘い香りが漂っている。
冬が深まり、日に日に風が冷たくなる中で森の草木も枯れ、春に向けた準備をしているように思える。
とこしえの森に地図なんてないから、歩いて位置を把握していくしかない。
「まだ行ってない場所が多すぎて、どこから手を付けるべきか。う~ん。他の種族も非協力的だし、森の蠢きも強まっている気がするし、あ~どっから手を付けていいやら」
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「昨日遭遇した、リザードマンさんたちとは危なかったです。フィーリアがいなければエルフとの全面戦争になって、わたくしたちもどうなっていたことやら……」
リザードマンというのは、とこしえの森に住む亜人種で、一口で説明すると二足歩行する大柄なトカゲのような見た目が特徴だ。
勇敢な戦士が多く、七英雄時代の魔王軍との戦いでは、人類側で戦っていたと記録に残っている。
近年はエルフやドワーフと同様に、人の文化に関与せずにひっそりと森で暮らしているので、私も初めて出会ったよ。
「ベレニスも喧嘩っ早いし、向こうはリョウを戦士として欲しがるし、フィーリアがいてよかったよ。さて、今日はどこを確認するか……」
そんな私とヴィレッタの賛辞に、当のフィーリアは瘴気の濃度を測定する魔導具『霧影探知器』をいじりながら小首を傾げている。
フィーリアは色々持っていて、いつも助かるよ~。
「自分は最後に交渉しただけっすからねえ。リザードマンたちは、リョウ様を取られる嫉妬心で魔法をブッパしようとしたローゼさんと、こっちの話を聞かずに一触即発になって憤慨したヴィレッタさんに恐怖していたんすから」
ん? 小声でフィーリアが何か言った気がするが、私もヴィレッタも聞き逃してしまったようだ。
「やはりこっちっすかねえ。瘴気が薄そうに見えるっすから後回しにしたんすが、考えてみれば何で今の状況で瘴気が薄まるんすかねえ?」
フィーリアは自身が書いた手書きの地図を広げて呟いた。
「ベレニスはまだ起きないか。こっちにどんな種族が棲息しているか、前情報がほしいかな」
「ベレニスさんだけじゃなく、ララノアさんも寝ているっすねえ。ていうか、エルフって朝弱いんすかねえ……まさかまさかの事実に自分もビックリっす」
「……最初の朝、リョウが鍛錬で剣をビュンビュンさせていたら、ブチギレたエルフたちに囲まれて追い出されそうになったよねえ。ララノアさんたちを宥めるの大変だったよ」
思い出すだけで頭が痛い。
リョウも凹んで、それ以降はわざわざ里の外にまで出て鍛錬している。
あんまり1人で行動してほしくないのだが、リョウだから仕方がない。
止めたところでリョウは、ならばと夜にやりそうだしなあ。
それはそれで、エルフたちが何こいつ? ってリョウを見るだろうし。
「みんな起きていたのか。まだ早いだろ」
扉が開き、一汗流したリョウが姿を見せた。
いや、リョウに言われたくないぞ。
どうせ今日も1時間は鍛錬していたんでしょ。
「おはよ。今日は少し遠出しようと思ってね。場所はここ」
「了解。……そういえば、昨日ザイルーガ殿が言っていたな。森には暗黙のルールがあって、どんな種族も踏み入れない地があるとかなんとか。たしかここがそうじゃないか?」
なぬ? それは初耳だぞ?
ザイルーガはリザードマンのおっさんの1人で、なんか私たちにやいのやいの言っていたっけ。
騒がしい奴だったが、フィーリアと交渉していたから、リザードマンのお偉いさんだったのかも。
「リョウ様、そういう情報はすぐにお教えくださいませ。わたくしたちにとって必要不可欠な情報でございます」
ヴィレッタの当然の苦言に、リョウは頭をポリポリ掻いた。
「昨日リザードマンの酒盛りに引きずり回され、飲めない酒の臭いに当てられて早々に寝てしまったからな。言う機会がなかった。すまん」
まあそれは知っているし、ていうか誰がここまで運んだか想像して感謝してほしいぞ。
「ふわ~、みんなもう起きているの? あと5時間は寝ようよ」
寝ぼけ眼でベレニスが起きてきた。
「それ太陽が真上になっているから! ところでベレニス、ここへ行きたいんだけど、どんなところか知っている?」
起きてきたベレニスに地図を見せながら説明し終えると、彼女はピンときたようでポンと手を打つ。
「知らないわね。行ったことないわ」
ズコーと思わずコケる。
おにょれベレニス、期待させよって。
とにかく行ってみないとわからないってことで、私たちは朝食を摂り、準備を整えてから出立した。
巨大な木が根を張り、小動物が冬籠りに向けて木の実や木の芽などを探して食べている姿に癒されるなあ。
木漏れ日が照らす中、私たち5人は歩みを進める。
地元だから任せてよねと、先頭をとことこ歩くベレニスだが、てくてく歩く小動物にたまに反応して、ちょこちょこついて行こうとするから困ったもんだ。
ただそれがなぜか早道になるのだから、ベレニス恐るべし。
やがて、水の流れる音が聞こえてくる。
音のする方へ歩いて行くと、幅が数十メートルはあろうかという大きな泉が現れた。
泉は深い翠色を湛え、その周りには苔むした岩や、色とりどりの花々が咲いていた。
水面は鏡のように滑らかで、周囲の景色を完璧に映し出している。
水から立ち上る微かな湯気が、この場所の神秘性をさらに高めていた。
「へえ? こんなところがあったんだ。知らなかったわ」
ベレニスがそう呟いたが、私も思わず見とれてしまう。
陽の光が反射して、とても幻想的な雰囲気だったから。
ただすぐに水面が揺れて、何かが浮かび上がってくる気配がする。
とんでもない威圧感だ。
リョウが前に出て戦闘態勢に入った。
水しぶきがあがり飛び出てきたのは、なんと女の人。
水面から現れる瞬間、周囲の空気が一瞬凍りついたように感じる。
彼女の周りには、かすかに赤い霧のようなものが漂い、その存在感は圧倒的だった。
真っ赤な髪が腰まで伸びたスレンダーな肢体。
整った鼻筋と唇、そして胸は小さいが顔立ちはとても整っている。
肌は真珠のように輝き、水滴が滑り落ちる様子は絵画のよう。
彼女の真紅の瞳は、まるで燃える炎のように煌めいている。
首からぶら下げているペンダントが、木漏れ日でキラリと光った。
綺麗……思わず見惚れてしまう。
まるで神話に登場する女神のようで。
リョウもポカンと口を開けていた。
は⁉ 彼女全裸じゃん!
「リョウは見ちゃ駄目‼」
「リョウ様! 目を閉じてくださいまし‼」
ヴィレッタも同じ気持ちだったのか、私と同時にリョウの目を塞ぐ。
ベレニスとフィーリアは、全身に鳥肌を立たせて硬直していた。
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