【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第7章 絶望の鐘

第16話 ディンレル王国滅亡 ザックス追放(後編)

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 王都リュンカーラの正門前はザックスの旅立ちを見送る人々でごった返していた。
 王侯貴族から市井の民まで、多くの人々が彼の門出に集まっている。
 その光景は、ザックスがこの街でどれほど愛されていたかを物語っていた。

 群衆の最前列にはアリスとアニス、クレマンティーヌやヒイラギ、魔女たち、エルフ姉妹の姿がある。
 ザックスはいつもの神官服ではなく、旅装束である黒いローブを纏い、腰には剣を佩き、背には大きなリュックを背負っている。
 彼の姿は神官というよりも、むしろ冒険者のようだった。

「陛下……クレマンティーヌ様まで……このザックス、身に余る光栄、なんとお礼を申し上げればよいか……」

 ザックスが感極まった様子で頭を下げた。

「……礼を言うのはこちらの方だ、ザックス」

 アノス王が以前の険しさとは打って変わって、穏やかでどこか寂しげな声で言った。

「そなたの機転がなければ、先の騒動はより多くの血が流れる事態となっていたやもしれぬ。……大神殿の決定は覆せぬが、いずれ大司祭たちもそなたの真価を認め、この処分を取り消す日が来るだろう。その時は……また、このリュンカーラへ戻り、娘たちの力になってやってはくれぬか。……待っているぞ」

 王の言葉には、宰相の裏切りと自らの過ちを悔いる複雑な心情が滲んでいる。

「……陛下。もったいないお言葉、身に染みます」

 ザックスは深く最敬礼した。

「まあ、私は当分リュンカーラにいるつもりだからねえ。何か面白い情報でも掴んだら、書簡でも寄越すがいいさね。ただし、酒の催促はなしだよ」

 クレマンティーヌが悪戯っぽく笑いながら言うと、ザックスも笑って彼女と固い握手を交わす。

「ええ、必ずや。……頼りにさせていただきますよ、クレマンティーヌ様」

「ザックス殿。先の戦いでは貴殿の策に助けられました。感謝いたします」

 ヒイラギが、真摯に礼を述べた。

「ヒイラギ殿、それにマツバさん。心残りはやはりキルア族を襲わせた、あの竹簡の出所と、それを宰相に渡したという『男』の正体です。この旅の中で、何か手がかりが見つかれば、必ずやお知らせいたします」

 ザックスの言葉に、キルアの兄妹は改めて深く頭を下げた。

「うっ……うっ……ザックス様ぁ……! ご無事で……! うおおん!」

 ササスは、もう人目もはばからず号泣している。

「え? ササス、あんた、てっきりザックスについて行くのかと思ってた」

 アニスが、少し意外そうに尋ねる。

「リュンカーラに残って、私たちと遊ばないんだったら、また無職よねえ?」

「そうよそうよ、給料なしよ?」

 エルフ姉妹が、容赦なく追い打ちをかける。

「こ、こら! ササスには私が留守の間、この教会の管理をお願いしているのです! それに、彼にはリュンカーラに年老いたお母上がいらっしゃる。無責任に旅に同行させるわけにはいきませんよ! ……ササス、達者で。また、いつか必ず、一緒に旨いエールを飲みましょう」

「は、はいぃ……! 約束、ですよぉ……!」

 ササスは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、力なく頷いた。

 ザックスは最後に、アリスとアニスに向き直った。

「アリス様」

「……ええ。貴方の旅路に、女神様の御加護があらんことを。……楽しかったですわ。また、必ずお会いしましょう」

 アリスは寂しさを隠すように、優雅に微笑み、ドレスの両裾をつまんで淑女の礼をとる。

「アニス様」

「……うん。私からは一言だけ。……またね!」

 アニスは努めて明るく、軽く手を振った。

「……ふふ。アリス様、アニス様らしい、お言葉です」

 ザックスは微笑んだ。

「それで十分です。ディンレル王国の、女神フェロニアの再来と謳われる、偉大なる魔女の姉妹よ。貴女がたの未来に、幸多からんことを心よりお祈り申し上げます」

 ザックスは深々と一礼すると、集まった全ての人々に向かい、「それでは皆様、行ってまいります!」と高らかに告げた。
 割れんばかりの歓声と拍手の中、彼は1人、新たな旅へと歩き出す。
 背中は少し寂しげだったが、同時に希望に満ちているようにも見えた。

 遠ざかっていくザックスの後ろ姿を、じっと見つめるマツバの瞳に、不意に未来の断片が流れ込む。

 ……それは何年後のことだろうか。荒廃した土地で、ザックスが取り返しのつかない何かの前で、嗚咽し、号泣している姿だった。

(……断片的な、予知……いったい、何が……? でも……ザックス様なら、きっとどんな困難も乗り越えられるはず。私は……そう信じています)

 マツバは胸に込み上げる不安を押し殺し、自らにそう言い聞かせると、アリスたちと共に王宮へと戻るべく踵を返した。
 新たな困難な日々が、少女らを待っているのだから。
 
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