【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第7章 絶望の鐘

第17話 ディンレル王国滅亡 クレマンティーヌの半生(前編)

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 宮廷魔術師見習いたちが集う、王都リュンカーラの練兵場。
 今日は、いつものような活気も張り詰めた空気もない。

 主であるアリス姫が妹のアニス姫と、そして最近めっきり仲睦まじい夫のヒイラギを伴って、「少し羽を伸ばしてくるわ」とだけ言い残し、どこかへ出かけてしまったからだ。

 残された側近たちは、文字通り手持ち無沙汰となり、訓練用の的をぼんやり眺めたり、手慰みに小さな魔法を弄んだりしている。

「はてさて、アニスたちは一体どこへ行ったのかねえ?」

 チャービルが手にした炎の玉を弄びながら、隣にいたディルに尋ねた。

「さあ? アニスは朝、『あのバカップルのデート(?)のお邪魔なんて絶対嫌だ!』って駄々をこねてたけど、結局アリス姫様に引きずられていったみたいだから……十中八九、アニスのお見合いじゃない?」

 ディルは、やれやれと肩をすくめる。

「私たちにも内緒ってことは、きっと、アニスがまた何か騒ぎを起こさないように、アリス姫様がこっそりセッティングしたのよ。まったく、過保護なんだから」

「まあ、アニスも来年は15歳。そろそろそういう話の一つや二つ、あってもおかしくはないだろうねえ」

 少し離れた場所で、弟子たちの様子を眺めていたクレマンティーヌが穏やかな微笑みを浮かべて言う。
 先の宰相の事件以来、王国はようやく落ち着きを取り戻しつつある。
 アリスとヒイラギの関係も公然のものとなり、あとはアニスが良い相手と結ばれれば、ディンレル王国の安泰は盤石だろう。

「いやいや、先生、楽観視しすぎです!」

 ディルが慌ててクレマンティーヌに駆け寄った。

「相手が誰であれ、アニスのことですから、きっと何かやらかします! 下手したら、お見合い相手の屋敷が火の海、なんてことも……! もし火の手が上がったら、先生もアニス捕獲にご協力お願いしますね!」

「アニス様がお見合い……どんな方なのかなあ? 優しくて、アニス様の魔法にも驚かない人がいいなあ」

 タイムが、ぽわーんとした表情で空想にふける。

「うーん、想像できないよね。あのアニス様が誰か特定の相手にデレデレするなんて」

 フェンネルも、腕を組んで小首を傾げている。

「くぅぅ……アリス姫様……! なぜ私は男に生まれなかったのだ……! おのれヒイラギ、末代まで呪ってやる……!」

 紫髪のローレルは、先日教会で目撃してしまった、彼女にとっては許しがたいアリスとヒイラギの睦まじい姿を思い出し、地面に『ヒイラギ』と書いて魔法で燃やしている。

「……私も、あの時、未来から来た自分自身が止めに来てくれなかったことを、生涯後悔するでしょう……ああ、アリス姫様……」

 緑髪のアロマティカスも、遠い目をしながら深いため息をついている。

「おやおや、どうやら今日の君たちは、修練どころではないようだねえ」

 クレマンティーヌは弟子たちの様子を見て苦笑した。
 先の事件は彼女たちが思う以上に、その心に大きな影響を与えていたのかもしれない。
 あるいは、ようやく訪れた平和に、少し気が抜けているのかも。

「よし、今日の修練は中止にしよう。たまには休息も必要さね」

 クレマンティーヌはそう言うと、ふと、何かを思い立ったような表情になる。

「……代わりに、と言っては何だけど、少し、昔話をしようかねえ」

 その言葉に、魔女たちはきょとんとした顔を見合わせた。
 師であるクレマンティーヌが、自らの過去を語ることなど、今まで一度もなかったからだ。

「先生の……昔話、ですか?」

 マツバが、代表するように尋ねた。
 他の魔女たちも、興味津々な様子でクレマンティーヌを見つめている。

「まあ、面白いかどうかはわからないけどねえ」

 クレマンティーヌは、少し照れたように笑うと練兵場の隅にある大きな木の木陰へと歩き、腰を下ろした。

「……そうさねえ。どこから話そうか。まずは、私の母……フェロニア大神殿の大司祭だった、マリアンヌの話から始めようかねえ」

 クレマンティーヌは遠い過去を懐かしむように、ゆっくりと語り始めた。

 母マリアンヌは、代々大神殿の司祭を務める名家の生まれで、その血筋は女神フェロニアに最も近いとまで謳われた一族だったという。
 彼女自身も、幼い頃から類稀なる神聖魔法の才能を示し、若くして大司祭の位に就く。
 その慈愛に満ちた人柄と、女神の再来とも言われた美しさから、民衆の絶大な信仰を集めていたそうだ。

 だが、そんな聖女のような母に、ある日、大きな転機が訪れる。
 マリアンヌの腹が、次第に大きくなり始めたのだ。
 相手は誰なのか? 王族か、貴族か、それとも……様々な憶測が飛び交う中、マリアンヌはただ一言、「そのような覚えはありません」とだけ語ったという。
 いわゆる、処女懐妊である、と。

「……まあ、今となっては真偽を確かめる術はないけどねえ。母はもう、女神様の元へ還ってしまったから」

 クレマンティーヌは、少し寂しげに付け加えた。

「ただ……」

 彼女は言葉を続ける。

「私自身、父という存在を知らずに育った。母も、父については最後まで何も語らなかった。もしかしたら本当に、何か人知を超えた力が働いたのかもしれない……あるいは、母が、誰にも言えない秘密を抱えていたのか……それは、永遠の謎さね」

 クレマンティーヌの含みのある言い方に、魔女たちは息を呑んだ。

「先生は……その、お生まれになった時から、特別な力をお持ちだったのですか?」

 ディルが恐る恐る尋ねる。

「ああ。赤子の時から神聖魔法と魔女の魔法、その両方を無意識に使っていたらしいよ。母以外の神殿の誰もが、私の存在に度肝を抜かれ、そして恐れたそうだねえ」

 前代未聞の才能。それは祝福であると同時に、危険な力でもある。
 議論の末、クレマンティーヌは、外部の目に触れぬよう、大神殿の奥深く、聖域とされる場所で成人するまで秘密裏に育てられることになったのだ。
 
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