【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
189 / 314
第5章 籠の中の鳥

第25話 リョウvs双子の魔女

しおりを挟む
 漆黒のゴスロリドレスを夜風にはためかせ、冷然とリョウを見下ろすリリ。
 純白のドレスが月光に映え、無感情な瞳を向けるロロ。

 双子の魔女はリョウ・アルバースを排除すべき障害と断じ、その指先から練り上げられた闇色の魔力を撃ち放つ。
 それは単なる直線的な弾丸ではない。
 一つはリョウの直進を阻む壁のように広がり、もう一つは追尾するように螺旋を描いて迫る。
 爆音と衝撃波が石畳を砕き、リョウを巧みに死角へと追い詰めようとしていた。

「「老体に変化している魔女、何者? リョウ・アルバースの味方なら殺す」」

 回避運動を続けるリョウを一瞥し、攻撃の手を緩めぬまま、双子はなおも地上に佇む謎の存在に問いかける。
 その存在は杖を手に静観するのみで、リョウを助ける素振りも双子に敵対する意思も見せない。
 その瞳の奥には冷めた好奇心が揺らめいていた。

「フン! マツバに、こう伝えておくが良い。『マツバの回りくどい計画より、儂のやり方の方がよほど確実だ』とな」

 ディルの挑発的な言葉は、双子の無表情な仮面に明確な敵意を刻ませた。

「「マツバ様を侮辱する口、許さない。敵とみなす」」

 双子の魔力が再び高まる。
 だが、その瞬間をリョウは見逃さなかった。
 爆風を背に地を蹴り、漆黒の剣を構えて跳躍。
 双子の連携魔法陣が完成する寸前、その中心へと鋭く斬り込む。

 予測外の軌道からの強襲に、双子は陣形を乱して魔力弾の軌道を逸らす。
 空を切った剣閃。落下を始めるリョウの身体は空中において無防備な的となった。

「「もらった! 死ね、リョウ・アルバース。魔王復活のために!」」

 リリが放つ闇の槍がリョウの心臓を狙い、ロロが展開する重力の檻がその動きを封じようとする。
 絶対的な死角からの回避不能の挟撃。

 だが落下するリョウの身体は、常識ではありえない挙動を見せた。
 空中で独楽のように高速回転し、迫る闇の槍を剣で弾き逸らすと同時に、重力の檻が発生する座標からコンマ数秒早く離脱。
 そのまま回転の勢いを利用し、さらに加速して双子の懐へと肉薄する。

「「なっ……空中で、二段跳躍⁉ 馬鹿な⁉」」

 驚愕に見開かれた双子の瞳に、リョウの冷徹な視線が映る。
 物理法則を無視したかのような動き。
 それは彼が幾多の死線を越える中で培ってきた、純粋な技量と身体能力の極致だった。

 反応する間も与えず、リョウの剣の柄頭が寸分違わぬタイミングでリリとロロ、それぞれの鳩尾へと深く叩き込まれた。

「ぐっ……ぁ……!」

 短い呻きと共に双子の魔女は意識を失い、力なく地上へと落下する。
 リョウはそれを空中で巧みに受け止め、衝撃を殺しながら静かに着地した。

「……なるほどのう。これはこれは……たしかに厄介よ、この小僧は」

 一連の攻防を満足げに眺めていた魔女が、杖を軽く打ち鳴らす。
 その瞳は先ほどよりも強い輝きを放ち、リョウの実力を正確に測り終えたかのような深淵の色を滲ませていた。
 杖から漏れ出る黒いオーラが濃くなり、彼女の存在そのものが周囲の空間を歪ませているかのようだ。

「魔女殿……どうやら俺たちに敵意はないようだが、できれば戦いは避けたい。貴女の目的をお教え願えないだろうか?」

 気絶したリリとロロを地面に横たえ、リョウは警戒を解かぬまま、しかし礼を尽くして魔女に問いかけた。

「ふむ……小僧、少しは楽しませてもらった礼じゃ。双子が目覚めたらこう伝えるがいい。『クレマンティーヌ様、私をも若返らせるとは相変わらず凄い御方よ』とな」

 その名前にリョウの背筋に冷たいものが走る。
 クレマンティーヌ。魔王軍の宰相の名として、エルフの前女王フォレスタから聞いていた名だ。

 疑問が深まるリョウの前で、魔女の身体が淡い光に包まれる。
 しわくちゃの老人の姿は掻き消え、そこには金髪ウェーブのショートヘアの美少女が立っていた。

「落ち着け小僧。ローゼにもこう伝えておけ。『未熟者め、魔法の罠に簡単に引っかかりおって』とな」

「……まさか貴女は……」

 リョウは絶句する。
 ローゼにそのような口を聞く存在は、この世に1人しかいないから。

「魔女ディル……」

 ローゼを10年間鍛え、魔女にした存在。

「じゃあの。生き続けていれば、また相まみえようて」

 その言葉を最後に、ディルの姿は陽炎のように揺らめき、完全に掻き消えた。
 まるで最初からそこに誰もいなかったかのように、静寂だけが残された。

 その直後、けたたましい馬の蹄の音が静寂を破った。
 近衛隊長アレックスが息を切らして馬を駆り、その後ろには本物のガードン子爵がしがみつくように乗っている。
 もう一頭の馬には青い修道服姿のテレサが跨がり、鋭い視線を周囲に向けていた。
 彼らの背後からは王宮の兵士たちが隊列を組み、瞬く間に女子寮の前は包囲された。

「リョウ殿! 無事か! ……むっ⁉ その倒れているのは……まさか、クラーク家の双子⁉ どういうことだ!」

「……リョウ、説明を求めます。この状況、そして……中の様子は?」

 アレックスの驚愕と、テレサの冷静ながらも緊迫した問いかけが飛ぶ。

「テレサさん、アレックス殿、それに本物のガードン子爵殿ですね。先ほど、この双子の魔女と交戦して制圧しました。身柄を引き渡します」

 リョウは簡潔に状況を報告する。

「おお! まさしくクラーク家の行方不明となっていた双子の令嬢じゃわい! これは……ありがたい! これで8年前のニーマイヤー家の反乱、そして先日のクラーク家の事件の真相に迫れるやもしれぬ!」

 興奮気味に語る本物のガードン子爵の様子に、リョウは内心で、先ほどの偽物との落差に僅かな安堵と、依然として残る大きな謎への警戒心を抱きながら、ホッと息をついた。

「王宮に立ち寄って、テレサ様に女子寮への立ち入りの許可をいただこうとしたら、テレサ様はガードン子爵家に向かわれた、とマーガレット妃殿下から伺ってな。行き違いになったかと邸宅へ馬を飛ばしたら、なんとガードン子爵がぎっくり腰で動けなくなっておられ、テレサ様が治療の最中だったのだ。いやはや、まるで悪質な魔女の悪戯に、キツネにつままれたような気分だ」

 アレックスが、やや疲れた表情で経緯を説明する。

「ホッホッホ、テレサ様の素晴らしい神聖魔法のおかげで、儂の腰痛もすっかり良くなったわい。ありがたや、ありがたや。……しかし古来より、突然の腰痛は魔女の一撃、とも申すが、一連の流れ、まさしく魔女の仕業じゃろう。気絶しておった儂に成り代わり、リョウ殿たちに接触した存在が、全ての元凶じゃろうのう」

 ガードン子爵は、すっかり元気になった様子で付け加えた。

「それで? ガードン子爵に化けていた魔女は、どうなったのです?」

 テレサが鋭く尋ねる。

「……姿を消しました。その正体については、後ほど詳しく報告します。それよりも、この女子寮のことです。偽ガードン子爵が言うには、この建物全体が強力な幻惑系の結界に覆われており、一度入ったら最後、術者の望む『偽りの現実』に囚われ、出られなくなる、と。フィーリアとベレニスとクリス、それに門番兵の方2名が中に入ったまま、戻ってきません」

 リョウの重い説明に、アレックス、テレサ、そしてガードン子爵の顔色が一変した。

「ふむう……なんと厄介な……」

「……精神誘導を伴う大規模な催眠魔法、ですか。そうなると、残念ながら外部からの物理的な干渉はほぼ無意味。内部から結界を破るか、術者を無力化する以外、対処しようがない状況を作られています。寮長であるモリーナ先輩がいながら、このような事態を許してしまうとは……信じたくはありませんでしたが……やはり、この状況を作り出した張本人は……」

 テレサは天を仰ぎ、悲しげに首を横に振った。かつての先輩への複雑な思いが窺える。

「……ところでリョウ殿。ガードン子爵から、さらに気になる情報を得たのだ。女子寮には、もう一つ……いや、もう1人、おかしな点がある、と」

 アレックスが、リョウに視線を向ける。
 リョウは聞きながら静かに頷く。
 その脳裏には、偽ガードン子爵(ディル)が去り際に残した言葉と、本物のガードン子爵が語った、とある寮生に関する不可解な情報が反芻されていた。

「リョウ殿、随分と落ち着いている様子だが……中の者たちが心配ではないのか?」

 アレックスが、リョウの冷静さに少し驚いたように尋ねる。
 リョウは女子寮の建物を見据え、静かに確信を込めて答えた。

「ローゼなら、きっと何とかするでしょう。ヴィレッタもレオノールもいます。俺はここで彼女たちが必ずやり遂げて戻ってくるのを、信じて待っているつもりです」

 そう語るリョウの声には、揺るぎない信頼と晴れやかな響きがあった。

「……わかりました。あなたの仲間への信頼、しかと受け止めました。万が一の事態に備え、私もこの場に残るとしましょう。アレックス様、ガードン子爵様、まずはこの邪教の魔女と思われる双子の身柄を確保し、王宮への連行をお願いできますか」

 テレサの迅速な判断に、アレックスとガードン子爵は力強く頷き、兵士たちに指示を出し始めた。

「承知した! 終わり次第、俺もすぐにここへ戻ってきましょう。リョウ殿、気を抜くなよ!」

「ホッホッホ、陛下と妃殿下にも、急ぎこの状況をご報告せねばなりますまい。いやはや、とんだ休日になったものじゃわい」

 アレックスとガードン子爵が、兵士たちと共に双子を連行すべく動き出す。
 その直後、凄まじい轟音と共に、女子寮の最上階付近で大規模な爆発が起こり、建物の壁が大きく崩落した。

 ラインハルト王とマーガレット妃が、この異常事態の報告を受けて現場に駆けつけるのは、それから間もなくのことであった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...