婚約破棄は夜会でお願いします

編端みどり

文字の大きさ
22 / 28

第二十二話

しおりを挟む
「サブリナ様は、どうしてこちらに?」

現在、サブリナ様のお部屋に案内されております。場所は当然レオンにも伝えてありますわ。

「相変わらず察しが悪いわね。わたくし、ここで働いてるのよ」

やはりそうでしたか。ですが、ここの娼館の女性は未婚者限定ではありませんでしたか?

「はぁ……既婚者である事を隠して娼婦をしておりますの?」

一応、周りに人がいない事を確認して小声で聞きます。

「そうよ。一応黙っててくれる気はあるのね」

「サブリナ様がどこで働こうと興味ありませんけど、仕事を奪われたと絡まれては敵いませんもの」

「冷たいわねぇ、わたくしここの人気ナンバーワンなのよ!」

サブリナ様が人気ナンバーワンなんて、ここのお客様は見る目がありませんわ。だけど、今それを言って機嫌を悪くさせる訳にいきませんわよね。

「そうなのですね。さすがサブリナ様ですわ」

「ふふん! そうでしょ!」

あぁ、学園でもこんな感じでしたわよね。他の方には良い生徒会長なのに、わたくしだけ見下してきて、何故かライバル視しておられました。

「アルベルト様はご存知なんですか?」

「ええ! アルベルトの紹介だもの」

あのおバカ、なんてことしてますの! 

「アルベルト様はどうしてここを紹介されたのでしょう」

「元々常連だったんですって。お金が無くなってしまったから、わたくしが働いて取り戻せって言われたわ。わたくしが侯爵家を継げる筈だったのに、何故か急に養子を解消されたのはわたくしのせいだから。アルベルトも廃嫡されて、ずっと落ち込んでるの。だから、わたくしが支えて以前と同じくらいの暮らしをしないと」

貴族の贅沢さは、領地の物を売る為の広告費です。社交を行い、領民に富をもたらす為に華やかな服装やアクセサリーで武装するのですわ。

平民が貴族並みの贅沢をするには、商売で成功するしかありません。いくら人気のある娼婦が稼いでも貴族並みの暮らしは無理です。

「サブリナ様は賢いのですから、他にもお仕事はあったのではありませんか?」

サブリナ様のように教師を籠絡出来たなら娼婦は向いているでしょうけど、やっぱり既婚者がやるのは対抗がある仕事の筈です。そもそも、真っ先に反対する筈の夫が勧めるなんて信じられません。

……でも、サブリナ様はあのおバカと一生添い遂げるしかないのですわよね。なんだかものすごく罪悪感が湧いてきました。

「なかったわ。どこも雇ってくれなかった。ふしだらなわたくしが出来る仕事はこれだけよ」

そう、でしたか。自業自得だという気持ちと、哀れだと思う気持ちが交錯しております。おそらく、おふたりの噂はだいぶ広がっているのでしょう。まともな商会ならどんなに優秀でも雇いませんわね。

「ふん、相変わらず甘いわね。ここがわたくしの部屋よ。入ったら話をするわ」

「分かりました」

さて、どんな罠があるかしら。入った瞬間閉じ込められるとかありそうですね。まぁ、すぐカルロが来てくれますから問題ないですけど……。

「そんなに警戒しなくても、この部屋は今誰もいないわ」

なるほど、後から危機が来るのですね。そうなると、早めに聞き出さないといけませんわね。

「部屋にはだれもいませんわね。サブリナ様、シャナさんの話を聞かせてくださいな」

「ええ、シャナ姐さんが刺したエリックは無事?」

本当は、無事です。ですけど、それを伝えてはいけない気がします。

「ご自宅に運ばれましたが、残念ながら……」

「そう! アハハ! やったわ! なら全部話してあげる。刺したのは、姐さんじゃない。わたくしよ」

「……は?!」

シャナさんは、ナイフを持っており自分がやったと言った為拘束された筈です。

「エリックはボレッリ侯爵家の分家筋でね、わたくしと結婚する予定だったそうよ。留学から帰って来たら、わたくしが結婚したと知って探したんですって。わたくし、なぁんにも聞いてなかったけどね。ホント、貴族なんて自分勝手よ。勝手に養子にして、勝手に放り出す。誰も味方が居ないから、ちょっと色仕掛けするくらい良いじゃない。キスもダメなんて馬鹿なの?!」

「お固いのは確かですわね。それで、エリック様を何故刺したのですか?」

「最初に刺そうとしたのはエリックよ!」

……なるほど。エリック様はお話が出来るくらいには回復しておられますが、娼館に居たなど醜聞だからと取り調べが進んでおりません。本来はエリック様が加害者だったのですね。

「何故シャナさんが罪を被ったのですか?」

「シャナ姐さんは優しいの、夫に無理矢理働かされていると相談していたら、すっかりわたくしを哀れんでくれた。まるで貴方みたいにね。同情して罪を被ってくれたわ」

はぁ……なるほど。だからやったと言うばかりで動機も分からなかったのですね。

「ああ、わたくしがここで自白しても、証人は貴方だけ。姐さんも絶対わたくしがやったなんて言わないから、無駄よ。また、貴方が嘘つきになれば良い。真実を知っても何も出来ず苦しめば良いわ」

「あいにくですが、以前とは違います。騎士団の皆様はわたくしの話を信じてくれますわ」

「ナイフを持って自分がやったと言う姐さんがいるのよ。わたくし、自分でやったなんて絶対言わないわ。わたくしを捕まえるのは無理ではなくて?」

……やはりサブリナ様は賢いですわね。確かに、シャナさんが真実を話してくれないと無理です。

「それにね、貴方は今からそれどころじゃなくなるわ。騎士になるなんて、結婚は諦めたのよね? 絶対結婚出来ないようにトドメをさしてあげるわ」

「何を、する気ですか?」

だいぶ話していましたから、そろそろカルロが来る筈です。武器を持ち、最大限に警戒します。

「今からわたくしのお客様が来るの。貴方にお相手してもらうわ」

……サブリナ様は、賢いのにどこか抜けておられます。騎士が、そう簡単に襲われる訳ないではありませんか。

「噂が立つだけで、充分ダメージがあるわ。これから婚約者を探すのは難しいわよ」

「彼女はオレの婚約者だ。話は聞いていたから、エリックを刺した件について取り調べを受けてもらう。彼女を騎士団にお連れしろ」

「団長、お待ちしておりましたわ」

「突入しそうになる団長を抑えるの大変だったよ……」

「わたくし何もしてませんわよ! 証拠は?! 証人は?! シルヴィア様ひとりの話を信じるのですか?!」

「貴方がやったと仰った話はドアの外で聞いておりました。ここのドアは薄いですから、バッチリ聞こえましたよ。聞いていたのは、ここにいる騎士全員と、ここの従業員も何名か居ます。全員の聞き間違いだなんて仰いませんよね。少なくともその件のご説明はお願いします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? 2021/7/18 HOTランキング1位 ありがとうございます。 2021/7/20 総合ランキング1位 ありがとうございます

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

処理中です...