婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり

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6.決意

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「リリーお嬢様、30分だけ時間を作りました」

「ありがとう、フォッグ。今日は久しぶりに失敗をして王妃様に叱られてしまったから疲れていたの。助かるわ。ねぇ、本当に無理をしてない?」

フォッグがリリーを心配して魔法を使うようになってから、数ヶ月が経過した。フォッグは毎日魔法を使おうとしたが、露見する事を恐れたリリーが必死で頼み、月に数回だけ皆が寝静まった深夜に魔法を使い、フォッグが訪ねて来るようになった。定期的に魔法を使うと露見する危険が増すので、不定期に行われているが、何故かとても疲れていたり休みたいと思っている時にフォッグはリリーを訪ねる。

リリーの睡眠時間は短く、深夜まで様々な仕事や勉強をしている。少しでも居眠りをしたりすれば、すぐに王妃に報告されるから気が抜けない。

フォッグはリリーの専属ではない。リリーと話す機会は少ない。だが、リリーが限界になる前に、いつもフォッグが助けてくれる。魔法で屋敷中の人間を眠らせ、リリーが休んだり愚痴をこぼしたりする時間を作る。

最初は何も言わなかったリリーも、次第にフォッグにだけは心の内を話すようになった。

「30分以上魔法を継続する事も可能です。無理なんてしてませんよ」

「あまり長い時間だと、不審に思われてしまうわ。フォッグの正体がバレるのだけは駄目」

「別にバレても構いませんよ」

「嫌! バレたらフォッグは城に連れて行かれてしまうわ! 魔族の血を引いている者は我が国では迫害されるのよ。フォッグだって散々嫌な思いをしたでしょう?! 一生囚われて魔法を使わさせられるわ!」

リリーはフォッグの優しさに触れ、彼の前でだけは、感情を露わにするようになった。

「お嬢様だって、同じじゃないですか。国の為、婚約者の為、旦那様の為……お嬢様だって囚われてる」

「わたくしはどうでも良いわ!」

「良くねぇよ!」

「……フォッグ……?」

「なんでお嬢様は自分を大事になさらないんですか……! お嬢様は頑張り過ぎです! みんなおかしいっすよ……お嬢様がどれだけ努力してるか……どれだけ働いてるか……あのクソ王太子は馬鹿ですよ! オレだったら……もっと大事にするのに……」

「ありがとう。そんな事言ってくれるのはフォッグだけよ。わたくしは王妃になるのだから、頑張らないといけないとずっと言われていた。頑張りすぎだなんて言われたのは初めて。いつも努力が足りないと叱られていたから」

「オレ……まだまだ勉強中ですけど……お嬢様の努力が足りないなんて思えません。普通の人間は、睡眠時間を8時間は取っています。夜になったら普通寝るんです! お嬢様の睡眠時間は、3時間ですよ?! オレが執事になる時は夜も必死で勉強しましたけど、その時ですら睡眠を6時間は取ってました。みんなに聞いたけど、みんなそんなモンです。それに、お嬢様はずっと働いてる。結果だって残してる。みんなもっと、お嬢様を大事にするべきです」

「わたくしは、この家では邪魔者なの。両親に疎まれていて、いずれ出て行くわたくしに媚を売っても仕方ないじゃない?」

「なんでですか! お嬢様は王妃様になるんでしょう?!」

「……王太子殿下の寵愛がない王妃なんてお飾りよ。殿下は、わたくしがお嫌いなの。側妃狙いの令嬢達が毎日のように殿下に媚を売っているわ。その分、わたくしが殿下の仕事もしているの。だから、お母様にも叱られてるわ。まぁ、お母様の叱責は王妃様程厳しくないから……大丈夫だけどね」

「リリーお嬢様。オレがお嬢様の為に出来る事は、もっとありますよね?」

「今のままで充分よ。ありがとう、フォッグ」

「お嬢様ならそう言うと思ってました。だからオレは……勝手にお嬢様の為に働きます。コレ、オレからのプレゼントです」

「……なあにこれ?」

「街で流行りの菓子です。食べちまえばバレません」

「嬉しい! ありがとう。お金をお支払いするわね」

「そんな事したらバレちまいますよ。お金だって増減を調べられます。お嬢様はずっと監視されてるんですから」

「……そうだったわね……自由が欲しいわ……」

それは、初めてリリーが溢した自分の気持ちだった。フォッグは傷に触れないように、優しくリリーに笑いかける。

「コレはオレが初めて執事になって貰った給与で買ったんです。お嬢様の為に買ったんだから、受け取って下さい」

フォッグは、3つのマカロンを美しい皿に乗せて差し出した。

「味は間違いないそうです。どうぞ」

「美味しいわ……!」

「良かったです。これからは、毎回ちょっとだけ菓子を用意します。それくらい、良いっすよね?」

「でも……フォッグに迷惑をかけるわ。お金だって出せないし……」

「良いんです。恩返しですよ」

まだ言えない。
だけど、リリーが自由を求めるのなら……。

フォッグの野心に、火がついた瞬間だった。
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