婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり

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7. 気付いた気持ち

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フォッグは、焦っていた。
夜になってもリリーが帰らない。

家族も、使用人も、誰も心配しない。
妹はいつものように両親に我儘を言っている。両親は目を細めて妹の願いを叶える。幸せそうな家族。だがそこにリリーは居ない。

イライラしながらいつもの仕事をこなし、主人にチクリと嫌味を言えば解雇状を叩きつけられた。

この家では日常茶飯事だ。

フォッグは淡々と頭を下げて許しを乞う。すると、主人は満足気に許すと言って去って行った。

渡された解雇状を大事に懐に入れて、フォッグは仕事に戻った。

仕事が終わっても、リリーは帰らなかった。

リリーが侍女を連れて帰宅したのは、深夜。

フォッグの顔を見た途端リリーは顔を歪ませ、泣いた。

慌てて魔法を使い、誰も自分達の所業を見ていないと確認してから、フォッグはリリーを力強く抱き締めた。

「……もう無理……無理なの……」

「大丈夫です。誰も聞いてません。……だから……今だけは……」

自らの欲望を封じ込め、優しく抱き締めるとリリーの目からは涙が溢れた。

「わたくしは……何もしてない……してないの……それなのに……」

泣きじゃくるリリーは、フォッグに今日の出来事をポツポツと話し始めた。

必死で仕事をしていたリリーの元に、突然王太子が現れた。妹を虐める悪女だと罵り、暴れ、リリーが処理した全ての書類を魔法で燃やし尽くした。

その後王妃に叱責され、もう一度王太子の仕事を全て処理していた為、遅くなったのだ。供に付けられていた侍女は別室で待たされ、リリーの世話をする事は許されなかった。リリーは食事も休憩も取らずに働き、帰宅した。

「ごめんなさい……フォッグの顔を見たら……安心してしまって……」

そう言って泣くリリーを見て、腹が立つと同時に自分にだけ見せてくれる弱い姿に仄暗い喜びを感じるフォッグは、必死でリリーを守る方法を考えた。

「存分に泣いて下さい。大丈夫、明日からはオレが一緒に城に行きます。明日、旦那様に進言します。こんなに遅く帰って来たんですから、補佐を付ける理由になります。オレが側に居れば、魔法で助けられます」

「駄目!」

「オレは……邪魔ですか?」

「違うわ! わたくしはフォッグが大事なの! だから、フォッグの秘密を知られたくない。屋敷の中なら誤魔化せても、城で大掛かりな魔法を使うのは危険よ!」

「大掛かりじゃなきゃ、良いんですね?」

「今みたいに眠らせたりしたら絶対バレるわ!」

「今の魔法、何がダメなんですか?」

「まず、時間が進むから不自然よ。気が付いたら時間が経っていた事は深夜ならよくあるけど、昼間にそんな事したら、例え数分でも不審に思う者が現れる。屋敷の中だけなら、お父様が疑問に思わなければ誤魔化せるけど、城には魔法に詳しい学者も、魔導士も居るわ」

「眠らせるだけなら、バレちまうって事ですか」

「そうよ。時間を止められれば別だけど、今みたいに寝てるだけなら……って……あれ……?」

「やっぱりお嬢様は勘が良いですね。オレは今、時を止めてます。眠らせてるんじゃねぇんです」

「……時を止めるなんて……どうやって……」

「旦那様の隠し部屋に、大量の魔導書がありました。埃を被っておりましたし、掃除のついでに少し拝見したんです。おかげで、適当に使ってた魔法の制御が分かるようになりました。時を止める魔法も、膨大な魔力が必要なので使えないと記載されてましたから期待してませんでしたけど、試しに使ったら使えました。今のところ、10分くらいしか時は止められませんけど……これで、もっともっとお嬢様のお役に立てます」

「そんなに魔力が必要だなんて……フォッグの身体に負担はないの……?」

「ありませんよ。お嬢様は、優しすぎます。もっとオレをこき使って下さい。お嬢様の為なら、命を捧げても後悔はありません」

「やだ……やだぁ……フォッグが死ぬのだけは嫌……!」

「……なら……他の人が死んでも良いんですか?」

「ダメ……!」

「ねぇ、お嬢様。ダメと、嫌は違いますよね? オレが死ぬのは、ダメですか?」

「ダメだし、嫌!」

「他の人が死ぬのは?」

「ダメ……!」

「そう、オレの事だけは嬉しいとか嫌だとか、お嬢様自身の気持ちを教えて下さいますよね?」

「だって……フォッグは優しいし……暖かくて……」

自らの気持ちに気がついたリリーは、真っ赤な顔をした。フォッグは、リリーの口に人差し指を付けてニヤリと笑った。

「まだ言っちゃ駄目っす。けど、お嬢様が自由を求めるなら、オレが全力で叶えます。オレも、同じ気持ちですから」
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