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11.王太子は破棄する
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「……助けて……助けて下さい……! お姉様が……!」
ドレスをボロボロに引き裂き、水を被り、王太子に泣きつく女は、いつものように嘘を吐く。
「王太子殿下に近寄るなって……わたくしを……」
「リリーめ……! ここまで酷い事をするなんて……! 今日はパーティーの予定なのに……!」
「お姉様は、わたくしが王太子殿下にエスコートされるのではないかと……誤解して……」
「……そうか……そんなに私の事を……。しかし、こんな酷い事をするなんて、リリーを懲らしめないといけないな」
「お姉様は、王太子殿下に婚約破棄される事を恐れています! お父様みたいに、婚約破棄を突きつけてやれば……きっと改心しますわ」
そんな事思っていない。
婚約破棄されれば、すぐに自分が後釜に収まるつもりだった。
「しかし……父上に止められているから……」
「今は国王陛下も王妃様もご不在です。王太子殿下をお止めする方はおりませんわ」
「ふむ。確かにそうだな。少し、リリーを懲らしめてやろう。婚約破棄を宣言すれば、泣いて縋ってくるに決まっている。そしたら城に監禁して、少し反省させてやろう」
ニヤリと笑う王太子は、確実に王妃の血を引いていた。気に入ったものを大事にするのではなく、傷つける事を喜ぶ気質は、王妃と同じだった。
いつものように会場の外で自分を待つリリーの元へ行き、いつものようにエスコートをする。会話はない。
しかし、この日だけは違っていた。
「リリー、お前との婚約を破棄する」
パーティーが始まってすぐ、大勢の貴族達の前でそう宣言したのだ。どうせなら派手に反省させれば良い。取り返しがつかなくなるようにと願った女の囁きは、王太子の心を揺さぶった。
王太子の予定では、ここでリリーは泣いて謝罪する……筈だった。
ところが、リリーは今まで見た事もないような嬉しそうな笑みを浮かべ、言った。
「承知しました。王太子殿下の御心のままに。婚約解消という事でよろしいですね? 間違いがないように、魔法契約を致しましょう」
この時のリリーは、嬉しさのあまり弾けるような笑顔を見せていた。会場中の男性が見惚れてしまうような笑みを浮かべ、自分との婚約がなくなる事を喜んでいる。
王太子は、頭に血が上った。
「反省はしないのか?」
「反省? なんの事でしょう?」
「貴様! 嫉妬のあまり妹のドレスを引き裂き、水まで浴びせて……!」
「まぁ、そんな事しておりませんわ。だって、嫉妬する理由がありませんもの」
ここで、時が止まった。
「おいリリー! せっかくのチャンスなのに喜んでどうすんだよ!」
騒ぎを聞きつけたフォッグが、息を切らしながら会場に駆け込んで来た。
「フォッグ! やったわ! わたくし、自由よ!」
嬉しそうにフォッグに抱きつくリリー。
「って! 可愛いけどこれは後だ! くっそ、どうなってんだよ! ありがたいけど、なんでこんなに人が居る所でリリーを貶めるんだ……!」
「そんなのどうでも良いじゃない! この国に未練なんて欠片もないわ! 要らないって言われたし、資料も残してあるし、さっさと出ていきましょう!」
「あーくそ! 可愛いな! じゃなくて! このままじゃ婚約破棄して貰えねぇぞ!」
「どうしてよ? さっきハッキリ言われたわ。婚約破棄だって。破棄は悔しいから、解消させようと思ったんだけど……」
「あのな! この馬鹿王太子は、本気で婚約破棄するつもりなんてねぇ!」
「え……? なんで?」
「旦那様と同じだ。婚約破棄だって言って、脅してるだけだ」
「はぁ?! 無理無理無理! やっと縁が切れると思ったのに!」
思わず言葉が乱れたリリーは、心底嫌そうに王太子を見た。
「ゴミクズを見る目じゃねーか。分かるけどよ。良いか、このままだと婚約破棄は無しだ! とか言い出す。だから、俺はここで隠れてる。ヤバそうだと思ったら時を止めるから、上手いこと婚約破棄をさせろ。破棄なんてリリーの名誉があるし避けたいと思っていたが……」
「破棄でも解消でもなんでも良いわ! じゃあ、わたくしは許してって縋れば良いの?」
「……そうだな。それでいこう。王太子殿下に好きな方が居るなら、身を引くのがいちばんだと思ったとか言え」
「分かったわ! もうちょっと、我慢するわね!」
こうして、王太子はリリーを反省させるためだと言って婚約破棄をした。側妃でも良いから側に置いてくれと縋ったリリーに優越感を刺激され、リリーの妹を正妃にすると宣言した。
リリーに劣等感を持っていた令嬢達は、王太子を支持し、リリーは公の場で散々馬鹿にされた。
しかしリリーにとっては友人のフリをした者達の言葉などどうでもよかった。上手く誘導して魔法契約を使い、撤回不可能な婚約破棄が成立した。内心は歓喜しながら、表向きは悲しんだフリをした。調子に乗った王太子は更にリリーを悲しませようと、妹と婚約をした。悲しいが今後は側妃として仕えると言ったリリーに、全て上手くいったと王太子は喜んだ。
しかし、王太子はそれでは済まさなかった。自分の正しさを証明する為にリリーの国外追放を宣言した。驚くリリーを見て、満足げに笑う。王太子は国外に出て行くリリーを捕まえ、一生働かせるつもりだった。
リリーと結婚するより、捕まえてしまう方が楽しそうだ。パーティーの後でそう命令している王太子を見て、怒ったのはフォッグだ。彼はリリーに気付かれないように、王家を壊すと決めた。
ドレスをボロボロに引き裂き、水を被り、王太子に泣きつく女は、いつものように嘘を吐く。
「王太子殿下に近寄るなって……わたくしを……」
「リリーめ……! ここまで酷い事をするなんて……! 今日はパーティーの予定なのに……!」
「お姉様は、わたくしが王太子殿下にエスコートされるのではないかと……誤解して……」
「……そうか……そんなに私の事を……。しかし、こんな酷い事をするなんて、リリーを懲らしめないといけないな」
「お姉様は、王太子殿下に婚約破棄される事を恐れています! お父様みたいに、婚約破棄を突きつけてやれば……きっと改心しますわ」
そんな事思っていない。
婚約破棄されれば、すぐに自分が後釜に収まるつもりだった。
「しかし……父上に止められているから……」
「今は国王陛下も王妃様もご不在です。王太子殿下をお止めする方はおりませんわ」
「ふむ。確かにそうだな。少し、リリーを懲らしめてやろう。婚約破棄を宣言すれば、泣いて縋ってくるに決まっている。そしたら城に監禁して、少し反省させてやろう」
ニヤリと笑う王太子は、確実に王妃の血を引いていた。気に入ったものを大事にするのではなく、傷つける事を喜ぶ気質は、王妃と同じだった。
いつものように会場の外で自分を待つリリーの元へ行き、いつものようにエスコートをする。会話はない。
しかし、この日だけは違っていた。
「リリー、お前との婚約を破棄する」
パーティーが始まってすぐ、大勢の貴族達の前でそう宣言したのだ。どうせなら派手に反省させれば良い。取り返しがつかなくなるようにと願った女の囁きは、王太子の心を揺さぶった。
王太子の予定では、ここでリリーは泣いて謝罪する……筈だった。
ところが、リリーは今まで見た事もないような嬉しそうな笑みを浮かべ、言った。
「承知しました。王太子殿下の御心のままに。婚約解消という事でよろしいですね? 間違いがないように、魔法契約を致しましょう」
この時のリリーは、嬉しさのあまり弾けるような笑顔を見せていた。会場中の男性が見惚れてしまうような笑みを浮かべ、自分との婚約がなくなる事を喜んでいる。
王太子は、頭に血が上った。
「反省はしないのか?」
「反省? なんの事でしょう?」
「貴様! 嫉妬のあまり妹のドレスを引き裂き、水まで浴びせて……!」
「まぁ、そんな事しておりませんわ。だって、嫉妬する理由がありませんもの」
ここで、時が止まった。
「おいリリー! せっかくのチャンスなのに喜んでどうすんだよ!」
騒ぎを聞きつけたフォッグが、息を切らしながら会場に駆け込んで来た。
「フォッグ! やったわ! わたくし、自由よ!」
嬉しそうにフォッグに抱きつくリリー。
「って! 可愛いけどこれは後だ! くっそ、どうなってんだよ! ありがたいけど、なんでこんなに人が居る所でリリーを貶めるんだ……!」
「そんなのどうでも良いじゃない! この国に未練なんて欠片もないわ! 要らないって言われたし、資料も残してあるし、さっさと出ていきましょう!」
「あーくそ! 可愛いな! じゃなくて! このままじゃ婚約破棄して貰えねぇぞ!」
「どうしてよ? さっきハッキリ言われたわ。婚約破棄だって。破棄は悔しいから、解消させようと思ったんだけど……」
「あのな! この馬鹿王太子は、本気で婚約破棄するつもりなんてねぇ!」
「え……? なんで?」
「旦那様と同じだ。婚約破棄だって言って、脅してるだけだ」
「はぁ?! 無理無理無理! やっと縁が切れると思ったのに!」
思わず言葉が乱れたリリーは、心底嫌そうに王太子を見た。
「ゴミクズを見る目じゃねーか。分かるけどよ。良いか、このままだと婚約破棄は無しだ! とか言い出す。だから、俺はここで隠れてる。ヤバそうだと思ったら時を止めるから、上手いこと婚約破棄をさせろ。破棄なんてリリーの名誉があるし避けたいと思っていたが……」
「破棄でも解消でもなんでも良いわ! じゃあ、わたくしは許してって縋れば良いの?」
「……そうだな。それでいこう。王太子殿下に好きな方が居るなら、身を引くのがいちばんだと思ったとか言え」
「分かったわ! もうちょっと、我慢するわね!」
こうして、王太子はリリーを反省させるためだと言って婚約破棄をした。側妃でも良いから側に置いてくれと縋ったリリーに優越感を刺激され、リリーの妹を正妃にすると宣言した。
リリーに劣等感を持っていた令嬢達は、王太子を支持し、リリーは公の場で散々馬鹿にされた。
しかしリリーにとっては友人のフリをした者達の言葉などどうでもよかった。上手く誘導して魔法契約を使い、撤回不可能な婚約破棄が成立した。内心は歓喜しながら、表向きは悲しんだフリをした。調子に乗った王太子は更にリリーを悲しませようと、妹と婚約をした。悲しいが今後は側妃として仕えると言ったリリーに、全て上手くいったと王太子は喜んだ。
しかし、王太子はそれでは済まさなかった。自分の正しさを証明する為にリリーの国外追放を宣言した。驚くリリーを見て、満足げに笑う。王太子は国外に出て行くリリーを捕まえ、一生働かせるつもりだった。
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