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第十二話
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産声を聞いたとき私は満身創痍だった。汗で前髪がべったりと顔について、目の前が白黒になってチカチカとして、まるで大きな事故に遭ったみたいに体中痛かった。音も耳に蓋をされてしまったみたいにこもって聞こえていた。しばらく私は生死の間をさ迷っていたのだと思う。
「元気な男の子ですよ!奥様!」
助産師が顔の近くまで清潔な白色の布で包まれた、赤子を近づけた。見何が何でもはっきりとその姿を見たくて、無い力で腕を伸ばした。頬を触ると、今まで触ったことがないぐらい柔らかかった。
「小さくて、柔らかい」
「これから、すくすく大きくなるんですよ」
顔を真っ赤にして泣いている。生きている。私のお腹の中から出てきたとは思えないほどに元気。本当に私とジェームズ様の子どもかしら。
私の隣に置かれたその子供の頬に、自分の頬をこすりつけた。柔らかくて、すぐに死んでしまいそうなほど脆い。何も不自由なく生きてほしい。何も背負わないですくすく育ってほしい。
「大好きよ」
本当なら、ジェームズ様も居て、私の両親も居て、義理のご両親もいらっしゃるはずだった。盛大に祝福されて生まれてくるはずだった。けれど、ジェームズ様が帰ってくるよりも前に産んでしまったし、両親は遠くてやってこられないし、義理の両親である元国王と元王妃は、ジェームズ様の兄にあたる国王の子供である王子と王女の方が可愛いらしい。
それからベッドに寝たまま、二日が経過すると、ジェームズ様はやっと帰ってきた。
「生まれたって?」
その時私は、ベッドに横になりながら、生まれた子供がいるベビービッドを覗き込んでいた。いつもなら穏やかなジェームズ様が小走りへ部屋の中へ入ってきて、ベビーベッドを覗き込んだ。
「男の子です。可愛い可愛い男の子」
「無事に生まれたなら、良かった。君は大丈夫か?」
「血が沢山出たけど、ちゃんと生きてるから」
息切れして、肩を大きく上下させるジェームズ様のぼさぼさの髪についていた木の葉を取った。手足を不器用に動かす赤子を眺めた。
「それなら、良かった。心配だった」
頭を撫でられて、額にキスされた。しばらくベビーベッドの子供を二人で眺めていた。顔が赤く、大きな青色の瞳で、不思議そうに私と彼を見ている。
「名前、どうしましょう」
「君が母親なのだから、君が決めればいい」
「うーん、どうしましょう」
私もジェームズ様も優柔不断で、きっぱりと物事を決めることが苦手なため、私達は子供の名前を義両親に託すことにした。あまりにも荒唐無稽な名前だった場合は却下して自分達でダーツで決めたかもしれない。けれど元国王と、元王妃だっただけあって、素晴らしい名前を提案してくれた。
「レオナルド。良い名前じゃない?品があって」
「別に君のご両親でもよかったのに。きっと君のご両親の方が喜んだ」
「いいえ、私の両親はきっと、自分たちで決めなさいと、言うはずだわ。それに名前なんて無難で、ヘンテコでなければなんだっていいのよ。私達が勝手にこの子に夢や希望を押し付けてもいいことはないわ」
腕の中で眠るレオナルドはもう私のことを母だと認識したようで、誰が抱っこしても泣き止まないというのに、私が抱くとピタリと泣き止む。それに私も母親スイッチが入ったようで、レオナルドが泣き出すと自然と抱き上げてしまうし、夜この子が泣くと目が覚める。
「自分たちで名前を付けたんだから、少しは会いに来るかもしれない。私の両親は兄の子供のことばかりですまない」
「そりゃ、この国を継ぐ王子の方が大切よ。でもその分私の両親が愛してくれるわ。父も母も子供が好きだもの。孫なんて可愛くて仕方がないんじゃない?」
ただ私はレオナルドがすくすくと健やかに育ってくれればそれでよかった。子供がこんなに可愛いなんて思ってもみなかった。こういうものを幸せと呼ぶのかもしれない。
「元気な男の子ですよ!奥様!」
助産師が顔の近くまで清潔な白色の布で包まれた、赤子を近づけた。見何が何でもはっきりとその姿を見たくて、無い力で腕を伸ばした。頬を触ると、今まで触ったことがないぐらい柔らかかった。
「小さくて、柔らかい」
「これから、すくすく大きくなるんですよ」
顔を真っ赤にして泣いている。生きている。私のお腹の中から出てきたとは思えないほどに元気。本当に私とジェームズ様の子どもかしら。
私の隣に置かれたその子供の頬に、自分の頬をこすりつけた。柔らかくて、すぐに死んでしまいそうなほど脆い。何も不自由なく生きてほしい。何も背負わないですくすく育ってほしい。
「大好きよ」
本当なら、ジェームズ様も居て、私の両親も居て、義理のご両親もいらっしゃるはずだった。盛大に祝福されて生まれてくるはずだった。けれど、ジェームズ様が帰ってくるよりも前に産んでしまったし、両親は遠くてやってこられないし、義理の両親である元国王と元王妃は、ジェームズ様の兄にあたる国王の子供である王子と王女の方が可愛いらしい。
それからベッドに寝たまま、二日が経過すると、ジェームズ様はやっと帰ってきた。
「生まれたって?」
その時私は、ベッドに横になりながら、生まれた子供がいるベビービッドを覗き込んでいた。いつもなら穏やかなジェームズ様が小走りへ部屋の中へ入ってきて、ベビーベッドを覗き込んだ。
「男の子です。可愛い可愛い男の子」
「無事に生まれたなら、良かった。君は大丈夫か?」
「血が沢山出たけど、ちゃんと生きてるから」
息切れして、肩を大きく上下させるジェームズ様のぼさぼさの髪についていた木の葉を取った。手足を不器用に動かす赤子を眺めた。
「それなら、良かった。心配だった」
頭を撫でられて、額にキスされた。しばらくベビーベッドの子供を二人で眺めていた。顔が赤く、大きな青色の瞳で、不思議そうに私と彼を見ている。
「名前、どうしましょう」
「君が母親なのだから、君が決めればいい」
「うーん、どうしましょう」
私もジェームズ様も優柔不断で、きっぱりと物事を決めることが苦手なため、私達は子供の名前を義両親に託すことにした。あまりにも荒唐無稽な名前だった場合は却下して自分達でダーツで決めたかもしれない。けれど元国王と、元王妃だっただけあって、素晴らしい名前を提案してくれた。
「レオナルド。良い名前じゃない?品があって」
「別に君のご両親でもよかったのに。きっと君のご両親の方が喜んだ」
「いいえ、私の両親はきっと、自分たちで決めなさいと、言うはずだわ。それに名前なんて無難で、ヘンテコでなければなんだっていいのよ。私達が勝手にこの子に夢や希望を押し付けてもいいことはないわ」
腕の中で眠るレオナルドはもう私のことを母だと認識したようで、誰が抱っこしても泣き止まないというのに、私が抱くとピタリと泣き止む。それに私も母親スイッチが入ったようで、レオナルドが泣き出すと自然と抱き上げてしまうし、夜この子が泣くと目が覚める。
「自分たちで名前を付けたんだから、少しは会いに来るかもしれない。私の両親は兄の子供のことばかりですまない」
「そりゃ、この国を継ぐ王子の方が大切よ。でもその分私の両親が愛してくれるわ。父も母も子供が好きだもの。孫なんて可愛くて仕方がないんじゃない?」
ただ私はレオナルドがすくすくと健やかに育ってくれればそれでよかった。子供がこんなに可愛いなんて思ってもみなかった。こういうものを幸せと呼ぶのかもしれない。
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