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第十四話
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舞踏会へ来てよかった。王宮で働いていた時の同僚たちや、王女様とも顔を合わせて話しをすることができた。ジェームズ様は見知らぬ人たちに、握手を求められて大変そうに見えた。騎士団での活躍はこの国にも届いていうことに驚いた。もしくはただ元王子で、現在は公爵だから、挨拶をしに来ただけかもしれない。
様々な人に挨拶をしていると、珍しい人にも出会った。
「久しぶりだな。アンナ」
その聞きなれた声に反射的に顔を向けた。振り向いた先にはたった一人で立つエリックの姿があった。隣にはキャサリンの姿は無い。骨ばった顔つきになり、髪の毛も前よりうまく整えられていなかった。それに顎鬚が生えている。少年期のような満ち溢れる自信はどこかなくなってしまったようだった。
「お久しぶりです。エリック様」
「アシュフォード侯爵。結婚式以来ですね」
それ以外言葉が出てこなかった。どこからどう見ても、何かに失敗したのは目に見えている。キャサリンのことも、結婚のことも、子供のことも聞けない。
「少し、二人で話せないか?」
「え、」
私と腕を組み隣に立つジェームズの方を見た。目を細めてエリックの方を眺めている。これはやめておいた方が良い気がする。
「行ってきたらいい。積もる話もあるだろうし」
「いいのですか?」
「ああ」
「そうですか」
私の腕がジェームズ様の腕から離れた。そしてまっすぐ前だけ見るエリック様の背中を追いかけた。彼が向かったのはテラスだった。夜風が吹く中、腕をさすりながら背中を向け、髪を風で揺らすエリック様を見た。
「あの、彼女は?その、キャサリン」
「ああ、あいつなら離れた。つい最近な」
前よりずいぶんと覇気のない声だった。掠れ、暗く、気が付けばため息を吐いている。
「そうでしたか。失礼しました」
「笑いたければ笑えばいい。全部僕が間違っていたんだ。全く酷い女だった。浮気をしてたんだ。ぼくが働いている間に浮気をしていた」
「それは、大変でしたね」
他に言葉がでてこなかった。なんだか、本当にしおらしくなっている。快活で世界が自分中心に回っているような明るさが感じられない。せわしなく指を動かしながら、俯いている。なんだか嫌な感じがする。私の防衛反応がさっさとジェームズ様のところへ戻りなさいと警報を鳴らしている。
話をするわけでもなく、ただついて歩いているだけ。そして人のいないテラスまでやってきてしまった。
「そろそろ戻ってもよろしいですか?王女様と話をする予定なんです」
「ああ。だが一つ聞きたいことがある」
「何でも」
やっと顔を上げ、まっすぐと私の瞳を見つめてきた。その瞳に希望が見られず、一度だけ会ったことがあるホームレスの人とそっくりだった。ジェームズ様が運営している家のない人々への支援の施設での炊き出し中、持っていたフォークで殴りかかられた。
「僕は騎士団の次期団長になれるはずだった。それなのになれなかったんだ。なぜだか分かるか?」
分かる。たぶん私が筋肉増強と、防御力アップのサポート魔法を年がら年中かけていたから。でも今それを言ってしまってはまずい。
「分かりません」
「そうなったのはお前と婚約を破棄してからの話だ。お前が何かしたんじゃないのか?」
「何もしておりません」
突然一歩、また一歩とエリック様は私に近づいてきた。同じように私は後ずさりした。そしてエリック様は握りこぶしを作ると、眉を顰めた。どうにかここを切り抜けなければ。その時の昔の微か記憶が浮かび上がってきた。
「あ、そう言えば。子供お生まれになったんですよね。私も息子が二人いて。とてもかわいくて。どんなお名前ですか?」
結婚する前キャサリンが言っていた。子供がお腹の中にいるって。最近別れたなら、子供は生まれているはず。子供の話で盛り上がらないはずがない。大丈夫。
けれど予想に反してエリック様は眉を引閉めて、目を細めた。その表情には苛立ちが見えた。
「何の話だ」
「ですから、エリック様の子供。キャサリンの名前を出されるのも嫌だと思うのですが、私がジェームズ様と結婚してここを出る前、彼女に会って。お腹の中に子供がいるって。子供って可愛いですよね」
その話題がエリック様にとって地雷だったようだったことに気づいたときには遅かった。
「子供なんてあいつは産んでいない!妊娠さえも!あいつ、そんなウソまで言ってたのか。意味が分からん!」
「え、と。ど、どういうことです?」
「だから、妊娠も出産もしてないと言ってるだろうが!」
もう話は通じない。こうなってしまったら。
「俺が言いたいのはその話じゃない。お前が魔法を使って俺を陥れたんだろう!女のくせに!どうせ、呪いかなんかかけたんだろうが!婚約破棄された腹いせに!」
「何をおっしゃっているか、全く分かりません」
思わず私は後ろを振り向いて、大広間の方へ走り出した。それでもドレスを着ている私よりエリック様の方が随分とすばやく、私の腕を強くつかんだ。
「さっさとその呪いを解け!人を不幸に陥れて置いて、良くのうのうと幸せになれたものだな!」
「いや!やめて!私は何も」
飾っていた髪を掴まれて、ジェームズ様から頂いた髪飾りが固い床に落ち金属と石がぶつかり合う、良く響くカンカンと音を鳴らした。けれどその儚げな音は消え去った。代わりにエリック様に強く踏まれて、バキ!という音が響いた。
「おい!私の妻に何をしている!!」
様々な人に挨拶をしていると、珍しい人にも出会った。
「久しぶりだな。アンナ」
その聞きなれた声に反射的に顔を向けた。振り向いた先にはたった一人で立つエリックの姿があった。隣にはキャサリンの姿は無い。骨ばった顔つきになり、髪の毛も前よりうまく整えられていなかった。それに顎鬚が生えている。少年期のような満ち溢れる自信はどこかなくなってしまったようだった。
「お久しぶりです。エリック様」
「アシュフォード侯爵。結婚式以来ですね」
それ以外言葉が出てこなかった。どこからどう見ても、何かに失敗したのは目に見えている。キャサリンのことも、結婚のことも、子供のことも聞けない。
「少し、二人で話せないか?」
「え、」
私と腕を組み隣に立つジェームズの方を見た。目を細めてエリックの方を眺めている。これはやめておいた方が良い気がする。
「行ってきたらいい。積もる話もあるだろうし」
「いいのですか?」
「ああ」
「そうですか」
私の腕がジェームズ様の腕から離れた。そしてまっすぐ前だけ見るエリック様の背中を追いかけた。彼が向かったのはテラスだった。夜風が吹く中、腕をさすりながら背中を向け、髪を風で揺らすエリック様を見た。
「あの、彼女は?その、キャサリン」
「ああ、あいつなら離れた。つい最近な」
前よりずいぶんと覇気のない声だった。掠れ、暗く、気が付けばため息を吐いている。
「そうでしたか。失礼しました」
「笑いたければ笑えばいい。全部僕が間違っていたんだ。全く酷い女だった。浮気をしてたんだ。ぼくが働いている間に浮気をしていた」
「それは、大変でしたね」
他に言葉がでてこなかった。なんだか、本当にしおらしくなっている。快活で世界が自分中心に回っているような明るさが感じられない。せわしなく指を動かしながら、俯いている。なんだか嫌な感じがする。私の防衛反応がさっさとジェームズ様のところへ戻りなさいと警報を鳴らしている。
話をするわけでもなく、ただついて歩いているだけ。そして人のいないテラスまでやってきてしまった。
「そろそろ戻ってもよろしいですか?王女様と話をする予定なんです」
「ああ。だが一つ聞きたいことがある」
「何でも」
やっと顔を上げ、まっすぐと私の瞳を見つめてきた。その瞳に希望が見られず、一度だけ会ったことがあるホームレスの人とそっくりだった。ジェームズ様が運営している家のない人々への支援の施設での炊き出し中、持っていたフォークで殴りかかられた。
「僕は騎士団の次期団長になれるはずだった。それなのになれなかったんだ。なぜだか分かるか?」
分かる。たぶん私が筋肉増強と、防御力アップのサポート魔法を年がら年中かけていたから。でも今それを言ってしまってはまずい。
「分かりません」
「そうなったのはお前と婚約を破棄してからの話だ。お前が何かしたんじゃないのか?」
「何もしておりません」
突然一歩、また一歩とエリック様は私に近づいてきた。同じように私は後ずさりした。そしてエリック様は握りこぶしを作ると、眉を顰めた。どうにかここを切り抜けなければ。その時の昔の微か記憶が浮かび上がってきた。
「あ、そう言えば。子供お生まれになったんですよね。私も息子が二人いて。とてもかわいくて。どんなお名前ですか?」
結婚する前キャサリンが言っていた。子供がお腹の中にいるって。最近別れたなら、子供は生まれているはず。子供の話で盛り上がらないはずがない。大丈夫。
けれど予想に反してエリック様は眉を引閉めて、目を細めた。その表情には苛立ちが見えた。
「何の話だ」
「ですから、エリック様の子供。キャサリンの名前を出されるのも嫌だと思うのですが、私がジェームズ様と結婚してここを出る前、彼女に会って。お腹の中に子供がいるって。子供って可愛いですよね」
その話題がエリック様にとって地雷だったようだったことに気づいたときには遅かった。
「子供なんてあいつは産んでいない!妊娠さえも!あいつ、そんなウソまで言ってたのか。意味が分からん!」
「え、と。ど、どういうことです?」
「だから、妊娠も出産もしてないと言ってるだろうが!」
もう話は通じない。こうなってしまったら。
「俺が言いたいのはその話じゃない。お前が魔法を使って俺を陥れたんだろう!女のくせに!どうせ、呪いかなんかかけたんだろうが!婚約破棄された腹いせに!」
「何をおっしゃっているか、全く分かりません」
思わず私は後ろを振り向いて、大広間の方へ走り出した。それでもドレスを着ている私よりエリック様の方が随分とすばやく、私の腕を強くつかんだ。
「さっさとその呪いを解け!人を不幸に陥れて置いて、良くのうのうと幸せになれたものだな!」
「いや!やめて!私は何も」
飾っていた髪を掴まれて、ジェームズ様から頂いた髪飾りが固い床に落ち金属と石がぶつかり合う、良く響くカンカンと音を鳴らした。けれどその儚げな音は消え去った。代わりにエリック様に強く踏まれて、バキ!という音が響いた。
「おい!私の妻に何をしている!!」
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