最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

文字の大きさ
215 / 258

~雪の姉弟編 第3章~

しおりを挟む
[雪が燃える日]

 私達は白く、寂しい白景色の中で生きてきた。

 寒波激しいロメスティルニア大陸の奥地・・・誰も寄り付かず、存在すら知らない廃街で私とヨーゼフは生まれた。元々遥か遠い昔では帝都・古都に並ぶ巨大都市だったらしいが、私達にとってその話は年寄りの妄言にしか思わなかった。

 確かに街はやたら大きく、街の中央に近づくたびに標高は高くなり、中心には所々崩落した廃城が寂しげに聳えている。昔はその城に王族が住み、街の人々を支配していたのだろうが、今となってはその城が私達姉弟の家で、住民は流れ着いた世捨て人・・・浮浪者達だけだ。

 父の話だと私達はかつてこの街を支配していた王族の末裔らしい。最も、それを証明する書物は無く、嘘と言われても反論は出来ないが・・・とにかく私達は王族の末裔ということらしい。

 じゃあ王族らしく振舞っていたのかと言われると、全くそうではなかった。寧ろ、盗賊に等しく、月に一度は大陸南部の街へ赴き、保存の効く缶詰をはじめとした食料の調達を主にした略奪行為を行っていた。別に先祖を哀れむ訳ではないが、末裔達が盗賊になり果てたと知ったならばどのような顔をするのだろうかと略奪を行う度に思っていた。

 だがそれはそれで街の統治は出来ていた様で、皆私達家族の号令には従順だった。彼らには食料や衣服を恵んでくれる『王様』で、自分達に生きる希望を与えてくれる『君主』だったようだ。そのおかげで無駄な争いは起こらず、比較的平和に過ごせていた。

 ・・・あの日までは。

 「ゲラルド!お前・・・一体何をするつもりだ⁉」

 私とヨーゼフと父が無駄にだだっ広い殺風景な玉座の間で食事をしていた時、兄、ゲラルドが私兵を連れて玉座の間に入ってきた。私兵達は皆武装しており、殺意の眼差しが私達に向けられているのを感じるのは直ぐだった。城外からは無数の悲鳴が聞こえ、雪に包まれ城に染まっていた城下町は血の如く燃え上がっていた。

 兄は非常に好戦的な性格かつ傲慢、貪欲であらゆる利益を我が物とするような人だった。自分が利を得るのならば家族すら差し出す・・・兄は私達一族の討伐、住民の殲滅を請け負い、大金と名声と名誉を手にして己だけの強大な国を作ろうとしていた。

 父は兄に話しかけた直後、額をマスケット銃で撃ち抜かれた。私は咄嗟に弟を寄せ、壁に掛けてあった槍を手に取って応戦した。

 小さい頃から我が家に代々伝わる槍術を本に書かれている範囲で真似して練習していた上に、略奪時にも幾らか戦闘を繰り返してそれなりに場数を踏んでいたおかげで、兄以外の私兵を殲滅し、兄を膝まつけることが出来た。兄は好戦的な性格の癖にそこまで強くはなく、彼のプライドを砕くことは容易だった。私達の平穏を壊した罪として、兄には苦しんで欲しかったから、このような真似をしてしまった。

 でもそれは・・・私が犯した痛恨の過ちだった・・・

 「ば・・・馬鹿な・・・」

 「・・・」

 「何だその目は?俺を馬鹿にしてんのか?・・・そうだ、そうだろう⁉お前はいつもそうだ・・・自分が上にいると思い込んでいる!もっと兄である俺を尊敬しろよ!」

 「・・・」

 「何とか言えよ・・・俺に話したくも無いってか?話す価値も無いっていうのかよ、ユリシーゼェェェェェェェェェッ!」

 兄の醜い叫び声と同時に、倒した2人の私兵が起き上がり、後ろから私に襲い掛かってきた。私は襲い掛かってきた者達を難なく倒したが、その際兄から一瞬目を逸らしてしまった。

 バンッ!

 「ぁ・・・」

 銃声を聞き振り返ると、兄は弟のヨーゼフの胸目掛けてマスケット銃を撃っていた。戦闘中、ヨーゼフには隠れているよう言っていたのだが、私が全部倒したと思って姿を現してしまった。

 ヨーゼフの胸に赤い斑点が現れ、どんどん広がっていく。崩れ落ちるヨーゼフに私は平常心を失ってしまった。

 「ヨーゼフッ!」

 私は槍を兄の首へと投げて、ヨーゼフへと駆け寄る。槍は兄の首に深々と刺さり、血がどくどくと湧き出てきた。兄は目を見開き、口をパクパクしていた。暫く苦しんだ後、兄は誰にも悲しまれることなく死んだ。

 私はその時、ただヨーゼフの胸元をハンカチで押さえていた。でも幾ら抑えても血は止まらず、ヨーゼフの顔は白くなり、唇が青く変色していく。生まれた時から分身のように愛し、いついかなる時も互いに身を寄せ合って生きてきた者が自分の腕の中で冷たくなっていくのは、耐えられなかった。

 「お姉・・・ちゃん・・・」

 「死なないでくれ、ヨーゼフ!私を1人にするなッ!」

 「・・・」

 「ヨーゼフ?ヨーゼフ!ヨーゼフッ!」

 「・・・」

 「あぁ・・・何てこと・・・私が・・・私があの時直ぐに兄を殺していればっ!」

 私は赤子のように泣き叫び、ヨーゼフを抱きしめる。城の外を取り囲む炎はより強まり、空をも焦がし始めていた。

 もういっそこのまま火に巻かれて死にたい・・・そう思っていた頃、『あの方』が現れた。
 
 「ユリシーゼ・ローゼンヴァーグだな?」
 
 玉座の間の入口からあの方の声がし、私は顔を上げた。視線の先には黒のジャケットに黒ネクタイ、黒のズボンに黒の革靴と黒づくめの服を着た勿忘草色の髪を逆立てている男と奇術師のようなフェイスペイントをしている黒コートを着た男がいた。勿忘草色の髪をした男の腰には細身でそれなりの長さのある双剣があった。
 
 「だ・・・誰だ?・・・お前達も兄に雇われた私兵か?」

 「いいや、違う。君達を導きたい者だ。」

 「私達を・・・導くだと?・・・そんなもの・・・どうでもいい。もう私には・・・もうそんなもの・・・」

 「話は最後まで聞いた方がいいぞ?・・・もし私達の元に来るのなら、君の弟を『蘇らせよう』。」

 「蘇らせる・・・だって?」

 私はその男の胡散臭い言葉を信用する気にはなれなかったが、一方で彼の発言を期待する自分もいた。私はあの方に問いかける。

 「どうやって蘇らせるんだ?もう弟の心臓は止まり、肉体は死んでいる・・・死人を蘇らせる術はこの世には・・・」

 「それは間違いだ。死人を蘇らせる術は3つ存在する。」

 あの方はゆっくりと私の元へと歩いてくる。

 「1つ目は純潔なる心臓を厳重に魔力で包み、移植するというものだ。成功率はあまり高くなく、血縁関係が近ければ近い程成功率は高まる。2つ目は奇跡の果実と言われている『黄金の葡萄』を摂取すること。これを食べれば、体が粉々になるか、酷く欠損していない限り絶対生き返らせることが可能だ。・・・だが、その黄金の果実は強力な魔物に寄生して生える上に魔物の個体数は絶望的に少なく、一度狩られてしまえば40年近く実をつけない。そのような奇跡を手に入れるのは、流石の我々でも困難を極める。」

 私はその選択肢を聞いた時、不可能だと悟った。ヨーゼフの親族はもう私しか残っていない・・・それにヨーゼフの体に他人の心臓を入れたいとも思わなかった。それに何時手に入るかもしれないものに縋る程、私の心に余裕はなかった。直ぐにでも蘇らせたかった・・・今思えばそれがどれだけ愚かな選択だったことか・・・

 あの方は私の目の前に立つと、2つ目の選択肢を提示した。

 「そして3つ目は・・・古代文明の遺物、ゴーレムに魂を入れ込み、生まれ変わること。運が良いことに、最近我々は非常に良品質の子供型ゴーレムを見つけた。この手法なら、100%間違いなく蘇生できる。・・・肉体は別になるが、記憶と意識はそのままだ。それに戦闘能力は未知数だ。先程のように銃弾を放たれても、避けることは容易になるだろう。最も、ゴーレムはある特定の攻撃でなければ殺せん。いくら銃弾を浴びても再生し、死ぬことはない。」

 「古代文明の遺物・・・本当に・・・そんなもの・・・」

 「別に信じたくなかったら、来る必要は無い。信じるのはお前の勝手だ、好きにすると言い。」

 「・・・」

 「ただ私達はお前達の能力を強く買っている。その戦闘能力、是非とも我が組織で活かして欲しい。」

 「組織?」

 「ああ・・・お前達と同じ、『ならず者組織』だ。だが規模は違う・・・こんな辺鄙な廃街だけではなく、世界規模の組織だ。」

 「・・・」

 「どうだ?仲間に加わる気になったか?」

 あの方は一切の笑みを浮かべず、淡々と私に尋ねる。私は正直、世界征服などには一切興味はなく、ただヨーゼフと過ごしたい・・・ただその一心だった。

 「分かった・・・貴方達の組織に加わろう。」

 「・・・良い返事だ。」

 「だが1つだけ、言わせてもらう。・・・私は弟と一緒に居られればそれでいい。いかなる任務の際も私が弟と共に行動することを許可して欲しい。」

 「分かった。その願い、聞き入れよう。」

 あの方はそう言うと、引き連れている奇術師と共に玉座の間から出ていった。私はヨーゼフの体を抱え、あの方の後ろを付いて行く。

 街を燃やす炎は激しさを増し、私が街を出た時には城を丸ごと覆い尽くしていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...