最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~雪の姉弟編 第8章~

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[撤退]

 「お姉ちゃん!」

 ヨーゼフは古都の中央へ顔を向け呟く。今戦ってるラグナロックの事など気にも留めず、ただ真っ直ぐ同じ方を見つめ続けていた。

 「行かなきゃ・・・お姉ちゃんの所に行かなきゃ!」

 ヨーゼフはラグナロックに背を向けて古都の内側へ走り始める。ラグナロックが隙を見せたヨーゼフの背中へ一気に近づく。

 「逃がさん!」

 ラグナロックがヨーゼフの背後を取り、拳を振りかぶった。だがヨーゼフは後ろに振り返ることなく、手元に出現させたマスケット銃を後ろに向けて発砲する。

 魔弾はラグナロックの脳天目掛けて飛んでいき、ラグナロックはスレスレで回避する。直後、無数のマスケット銃がヨーゼフの周囲に現れ、一斉に火を噴く。

 ラグナロックが後ろへ退くと、ヨーゼフが振り返った。ヨーゼフの顔は少しウザったらしそうに眉間に皴を寄せる。

 「邪魔しないでよ、おじさん。僕急いでるんだからさ?」

 ヨーゼフは再び無数の魔銃を展開し、絶えずラグナロックがいる方へ発砲する。ラグナロックは身を隠しながら魔弾を躱し続ける。

 ヨーゼフは奥に見えるフォルトに視線を向ける。フォルトの傍にはレイアが蒼炎の結界を張って守っていた。

 「・・・それじゃあね、フォルト。本当ならすぐにでも殺してあげたいけど、急用が入っちゃったから見逃してあげるよ。今度会った時は絶対に殺すから楽しみに待っててね~!」

 ヨーゼフは満面の笑みを浮かべながら大きく手を振り、その場から姿を消した。ヨーゼフがいなくなった後も展開されているマスケット銃からは魔弾が射出され続け、弾幕が途絶えたのはヨーゼフが消えてから1分後の事だった。

 「・・・くそッ、逃がしたか。」

 ラグナロックはゆっくりと立ち上がり、物陰からでてヨーゼフがいた方に顔を向ける。既にヨーゼフの姿はなく、魔力が尽きて形を維持できなくなり崩れ始めているマスケット銃が散乱しているだけだった。ラグナロックは静まり返った空間に只佇むだけしか出来なかった。

 「ラグナロック大隊長!」

 そんな中、港で戦っていた部下達がラグナロックの元へ駆け寄ってきた。皆疲労が溜まっているのか、非常にくたびれた顔をしている。

 「無事だったか。」

 「はい、問題ありません!それよりも大隊長、その傷・・・大丈夫ですか?」

 「私の傷の事はどうでもいい。それより戦況報告だ。沖にいた奴らはどうした?」

 「全船沈めました。今頃海の藻屑と化しているでしょう。」

 「乗組員は?乗っていた奴らはどうした?」

 「海に浮いていた奴らの中で生きている者は全て引き揚げ拘束、現在船内にある簡易留置所に武装を解除させた状態で勾留しています。」

 「ご苦労だ。被害は?」

 「第一艦隊は全滅しましたが、第二・第三艦隊はあの後ほぼ損害在りません。・・・生存者がいないか捜索しましたが、今のところ誰一人として生存者を見つけることが出来ていません・・・」

 「・・・そうか。引き続き捜索を頼む。」

 ラグナロックはヨーゼフが逃げたであろう古都中央方面に顔を向ける。そして顔をしかめてから下唇を噛むと、反対に位置するフォルト達がいる倉庫へ体ごと向ける。

 「・・・救護班を直ぐに手配できるか?」

 「はい!もう間もなくここへ到着します!」

 「救護班が到着したらそこの倉庫内にいる女性と少年の治療を行え。2人共重傷だ。」

 「はい、了解です!・・・しかし大隊長の怪我は・・・」

 「私のことはどうでもいいと先程言ったろう。それに私はあの小僧を追う。嫌な予感がするからな・・・とにかくあの2人の治療を最優先で行え。・・・特に少年の方をな。後で聞きたいことがあるのでな。」

 「しょ、承知しました。」

 兵士達がラグナロックに返事をする。彼らの返事を聞いたラグナロックは小さく頷くと、とても60代半ばとは思えない程の速さでヨーゼフが向かったと思われる古都中央へ姿を消した。

 「・・・凄いな、大隊長。体中怪我してるのにあっという間に姿が見えなくなった・・・」

 「あれで俺らの2倍以上年取ってるんだからな。・・・八重紅狼の連中も人間じゃねぇけどあの人達も人間じゃねぇよ・・・何食ったらあんな動き出来るんだろうな?」

 「さぁ・・・食ってるものは俺らと変わらないと思うけどな・・・ていうかあの人達痛くないのかな?」

 「痛覚なんか無いんじゃねぇの?知らねえけど。」

 兵士達はラグナロックが消えていった方をまるで化け物を見るかのような眼つきで見ながら互いに言葉を交わす。

 この時古都全域から聞こえていた喧騒はほぼ聞こえなくなっており、気味が悪い程周囲は静寂に包まれていた。兵士達の真上では1匹のワイバーンが少し悲しそうな鳴き声を出しながらグルグルと旋回していた。
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