11 / 51
シャルロットとニコラの出会い 2
しおりを挟む
ニコラは部屋を飛び出て会場に戻った。そして娘を探している様子のモーリア侯爵にシャルロットの様子を耳打ちした。血相を変えてニコラを案内させるとジェラルドはシャルロットを抱き上げ、自分の膝に乗せると上半身を抱きしめて背中をゆっくりとさすった。
「医者をすぐに呼んできます!」
「いえ、必要ありません。娘が面倒をおかけして申し訳ありませんでした。もう大丈夫ですので会場にお戻りください。」
「しかし・・・」
「心配はありませんので。」
問答しているうちにシャルロットが身じろぎをした。
ルコント公爵令息に強く出て行けとは言えず、仕方がなさそうにジェラルドはニコラに声を出さないよう身振りでお願いをした。
「お父様・・・」
「すまなかった、お前を一人にしたために辛い目に合わせてしまったな。」
「・・・お父様」
ジェラルドの胸に顔を寄せ、シャルロットは涙を流して震える声で言った。
「ニコラ様と・・・おっしゃる方を助けてください」
「見えたのか?」
「おそらく・・・吹雪で遭難されて・・・凍死だと思います」
それを聞いてニコラは目をむいた。しかし何とか声は出さずに済んだ。
「わかった。大丈夫だ、ちゃんと知らせるよ」
「駄目なの!」
いつもと違う反応にジェラルドは驚いた。
「ニコラ様は先ほど私を助けてくださったの。ですから!いつものような手紙では嫌です。確実にニコラ様を助けてほしいの!」
「でもそうなるとお前のことを話さなければいけなくなるよ」
「・・・かまいません。私、うれしかったの。きちんとした挨拶も会話もできずつまはじきにされている私を助けてくれたんです。ですからニコラ様を死なせたくない。」
「・・・わかった。ではルコント公爵令息、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか。」
シャルロットははじいたようにこちらを向いた。
「あ‥お父様?!」
「お前のことを心配してくださったのだ。」
「私・・・勝手にお名前をお呼びしてしまって申し訳ございません!」
ニコラは凍死するといわれたことに驚き、名前のことなど気が付きもしなかった。
「どういう事でしょうか。」
「娘は人の死がわかるのです。」
「え?」
「その人を見ると死ぬ間近の様子が見え、それを我が事のように体験してしまう。それであのようになるのです。」
「では・・・先ほど彼女が寒いと言っていたのは」
「はい、貴方がそういう目に合うということです。」
「僕が死ぬと・・いうのですか?」
「大変失礼なことを申し上げていることは承知しております。いつもなら申し上げることはないのです。娘の正気を疑われるだけですから。しかし今回は・・・娘の願いですから。」
シャルロットは一瞬振り返ったものの、再びジェラルドの胸に顔をうずめてこちらを見ないようにしている。見えてしまうという事か。いつも俯いているのはそういうわけか。しかし信じられない。
「近々、そういうところに行くご予定はございますか?」
「いや・・・ない。父について視察で北の地方に行く予定はあるがもう暖かくなってきているし吹雪など起こる心配はないはずだ。」
「さようでございますか。では大丈夫でしょう。」
それで引き下がろうとする侯爵にシャルロットは
「お父様!」
悲鳴のように叫んだ。侯爵はシャルロットの背中をポンポンと叩いた。
「できましたら日程を変えるか、冬用の装備をしていくと安心でございます。信じてもらえるとは思えませんが、万が一に備えることは悪いことではございますまい」
「・・・。検討してみましょう。」
真偽はともかく、シャルロットが哀れでそう言った。
ジェラルドはニコラに礼を述べると、落ち着いたシャルロットをそのまま抱き上げて帰っていった。
結果、季節外れの猛吹雪がニコラの視察予定であった地域を襲った。
山間部の産業についての視察だったので山中に入る予定だったのだ。ニコラは殿下の予定が入った事にして、視察の日程を変更してもらっていた。
そしてどうなるのか楽しみにしつつ、半分以上は何も起こらないだろうと期待はしていなかった。
しかしその日程変更が、父と自分、そして随行予定だった使用人や領民たちの命をも救うことになったのだ。
直ちにモーリア家へと駆けつけ、事の次第を興奮気味に伝えた。ジェラルドは落ち着いた様子で頷き
「ご無事で何よりです、ご令息がこうして元気にいらっしゃることが娘を救うことにもなりますから。私たちの言葉に耳を傾けてくださってありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらです。どれだけの命が救われたのかわかりません。ただ・・・父には伝えておりません、あまり口外しない方がよいと思ったので。ですからお礼が十分にはできなくて申し訳ありません。」
「そんなものは必要ありません。シャルロットの言葉を信用してくれた、それで助かった命がある。このことが何よりもの褒美なのですよ。シャルロットはこんな自身を苦しめるような力を望んでいませんし、亡くなる人を想っては泣いております。自分の力で助かる人がいる、それがどれだけ彼女の心を救っていることか。」
ニコラは命を助けられ、素晴らしい力だとただ感心していた。しかしそんな美談ではないのだ。
侯爵令嬢としての生活を犠牲にし、他人の死に心を痛め、おまけにその苦痛をその身に受けるとはどんな辛いことか。
「僕にできることがあれば何でもおっしゃってください。」
このことがあってから、ニコラもシャルロットを見守るナイトの一人になったのだ。婚約者になってほしいと打診もしたが、人に会えないシャルロットでは公爵夫人は務まらない。モーリア侯爵にそう説得され、あきらめるしかなかった。その恋心が昇華され、今では友人として、心の騎士としてシャルロットを支えている。
「医者をすぐに呼んできます!」
「いえ、必要ありません。娘が面倒をおかけして申し訳ありませんでした。もう大丈夫ですので会場にお戻りください。」
「しかし・・・」
「心配はありませんので。」
問答しているうちにシャルロットが身じろぎをした。
ルコント公爵令息に強く出て行けとは言えず、仕方がなさそうにジェラルドはニコラに声を出さないよう身振りでお願いをした。
「お父様・・・」
「すまなかった、お前を一人にしたために辛い目に合わせてしまったな。」
「・・・お父様」
ジェラルドの胸に顔を寄せ、シャルロットは涙を流して震える声で言った。
「ニコラ様と・・・おっしゃる方を助けてください」
「見えたのか?」
「おそらく・・・吹雪で遭難されて・・・凍死だと思います」
それを聞いてニコラは目をむいた。しかし何とか声は出さずに済んだ。
「わかった。大丈夫だ、ちゃんと知らせるよ」
「駄目なの!」
いつもと違う反応にジェラルドは驚いた。
「ニコラ様は先ほど私を助けてくださったの。ですから!いつものような手紙では嫌です。確実にニコラ様を助けてほしいの!」
「でもそうなるとお前のことを話さなければいけなくなるよ」
「・・・かまいません。私、うれしかったの。きちんとした挨拶も会話もできずつまはじきにされている私を助けてくれたんです。ですからニコラ様を死なせたくない。」
「・・・わかった。ではルコント公爵令息、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか。」
シャルロットははじいたようにこちらを向いた。
「あ‥お父様?!」
「お前のことを心配してくださったのだ。」
「私・・・勝手にお名前をお呼びしてしまって申し訳ございません!」
ニコラは凍死するといわれたことに驚き、名前のことなど気が付きもしなかった。
「どういう事でしょうか。」
「娘は人の死がわかるのです。」
「え?」
「その人を見ると死ぬ間近の様子が見え、それを我が事のように体験してしまう。それであのようになるのです。」
「では・・・先ほど彼女が寒いと言っていたのは」
「はい、貴方がそういう目に合うということです。」
「僕が死ぬと・・いうのですか?」
「大変失礼なことを申し上げていることは承知しております。いつもなら申し上げることはないのです。娘の正気を疑われるだけですから。しかし今回は・・・娘の願いですから。」
シャルロットは一瞬振り返ったものの、再びジェラルドの胸に顔をうずめてこちらを見ないようにしている。見えてしまうという事か。いつも俯いているのはそういうわけか。しかし信じられない。
「近々、そういうところに行くご予定はございますか?」
「いや・・・ない。父について視察で北の地方に行く予定はあるがもう暖かくなってきているし吹雪など起こる心配はないはずだ。」
「さようでございますか。では大丈夫でしょう。」
それで引き下がろうとする侯爵にシャルロットは
「お父様!」
悲鳴のように叫んだ。侯爵はシャルロットの背中をポンポンと叩いた。
「できましたら日程を変えるか、冬用の装備をしていくと安心でございます。信じてもらえるとは思えませんが、万が一に備えることは悪いことではございますまい」
「・・・。検討してみましょう。」
真偽はともかく、シャルロットが哀れでそう言った。
ジェラルドはニコラに礼を述べると、落ち着いたシャルロットをそのまま抱き上げて帰っていった。
結果、季節外れの猛吹雪がニコラの視察予定であった地域を襲った。
山間部の産業についての視察だったので山中に入る予定だったのだ。ニコラは殿下の予定が入った事にして、視察の日程を変更してもらっていた。
そしてどうなるのか楽しみにしつつ、半分以上は何も起こらないだろうと期待はしていなかった。
しかしその日程変更が、父と自分、そして随行予定だった使用人や領民たちの命をも救うことになったのだ。
直ちにモーリア家へと駆けつけ、事の次第を興奮気味に伝えた。ジェラルドは落ち着いた様子で頷き
「ご無事で何よりです、ご令息がこうして元気にいらっしゃることが娘を救うことにもなりますから。私たちの言葉に耳を傾けてくださってありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらです。どれだけの命が救われたのかわかりません。ただ・・・父には伝えておりません、あまり口外しない方がよいと思ったので。ですからお礼が十分にはできなくて申し訳ありません。」
「そんなものは必要ありません。シャルロットの言葉を信用してくれた、それで助かった命がある。このことが何よりもの褒美なのですよ。シャルロットはこんな自身を苦しめるような力を望んでいませんし、亡くなる人を想っては泣いております。自分の力で助かる人がいる、それがどれだけ彼女の心を救っていることか。」
ニコラは命を助けられ、素晴らしい力だとただ感心していた。しかしそんな美談ではないのだ。
侯爵令嬢としての生活を犠牲にし、他人の死に心を痛め、おまけにその苦痛をその身に受けるとはどんな辛いことか。
「僕にできることがあれば何でもおっしゃってください。」
このことがあってから、ニコラもシャルロットを見守るナイトの一人になったのだ。婚約者になってほしいと打診もしたが、人に会えないシャルロットでは公爵夫人は務まらない。モーリア侯爵にそう説得され、あきらめるしかなかった。その恋心が昇華され、今では友人として、心の騎士としてシャルロットを支えている。
76
あなたにおすすめの小説
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
【12月末日公開終了】婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る
たぬきち25番
恋愛
侯爵令嬢ビアンカは婚約破棄と同時に冤罪で投獄が言い渡された。
だが……
気が付けば時を遡っていた。
この運命を変えたいビアンカは足搔こうとするが……?
時間を遡った先で必ず出会う謎の男性とは?
ビアンカはやはり婚約破棄されてしまうのか?
※ずっとリベンジしたかった時間逆行&婚約破棄ものに挑戦しました。
短編ですので、お気楽に読んで下さったら嬉しいです♪
※エンディング分岐します。
お好きなエンディングを選んで下さい。
・ギルベルトエンド
・アルバートエンド(賛否両論お気をつけて!!)
※申し訳ございません。何を勘違いしていたのか……
まだギルベルトエンドをお届けしていないのに非公開にしていました……
【完結】断りに行ったら、お見合い相手がドストライクだったので、やっぱり結婚します!
櫻野くるみ
恋愛
ソフィーは結婚しないと決めていた。
女だからって、家を守るとか冗談じゃないわ。
私は自立して、商会を立ち上げるんだから!!
しかし断りきれずに、仕方なく行ったお見合いで、好みど真ん中の男性が現れ・・・?
勢いで、「私と結婚して下さい!」と、逆プロポーズをしてしまったが、どうやらお相手も結婚しない主義らしい。
ソフィーも、この人と結婚はしたいけど、外で仕事をする夢も捨てきれない。
果たして悩める乙女は、いいとこ取りの人生を送ることは出来るのか。
完結しました。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる