死を見る令嬢は義弟に困惑しています

ジェラルドとシャルロットの出会い 1

　ジェラルドは妻のアメリーと孤児院に来ていた。月に一度、各地の孤児院を訪れ寄付をしている。
　あれは少し足を延ばし、初めて訪れる孤児院に行った時だった。院長に挨拶をして建物の中に入った。子供たちは興味津々で見ている者や、少し遠巻きにしているものなど、様々だった。しかしすぐにお菓子や絵本などにつられて自然と笑顔になり近寄ってきてくれた。

　しかし一人の女の子だけ、壁際の柱の陰に隠れるようにしてうつむいて座ったままだった。アメリーが声をかけても顔を上げなかった。院長が困ったように
「ひどい人見知りでして・・・せっかくお声掛けくださっているのに申し訳ありません。」とわびた。
「いいえ、無理もないですわ。初めて会うのですから怖くて当たり前です。お名前は？」
「シャルロットです。」
　院長が代わりに答える。
「シャルロット、美味しいお菓子を買ってきたの。一緒にいただきましょう？」
「・・・」
　ますます俯いてしまってますます引きこもってしまう。
「シャルロット、返事しなさい！」
　院長が咎める。
「よろしいのよ。少し二人にして下さらない？」
　人払いをした後、あらためてシャルロットの側にしゃがんだ。
「シャルロット、素敵なお名前ね。今日は絵本とお菓子を持ってきたの、後でいいから楽しんでね？」
　微かにシャルロットがうなづいた。
　アメリーはシャルロットの髪を撫でた。
「また来るわね、その時はお話ししましょうね。」
　すっとアメリーが離れるのを感じ、しばらくしてシャルロットは顔を上げた。

　アメリーは後ろから叫び声が聞こえ、慌てて振り返った。
　シャルロットが自分の体を払うようなしぐさでもだえ苦しみ、悲鳴を上げていた。
「どうしたの？！」
　アメリーが駆け寄ってすぐ、ジェラルドもやってきた。
「どうした？」
「それが・・・急に苦しみだして。」
「大丈夫か？」
　ジェラルドはシャルロットを抱き上げるとよしよしと背中をさすった。
　余計にシャルロットは、痛い、熱い、と泣き叫んだ。

　孤児院の院長がため息をつきながらやってきて、
「大人の気を引きたいのでしょう。時々こういうことをするんですよ。すぐに何でもなかったようになるので放っておいてください。」
「こんなに苦しんでるんですよ？医者に見せたほうが・・・」
「孤児院にいる子は寂しんです。こうすることで特別扱いしてもらえると思ってるんですよ。お手数をお掛けして申し訳ありません」
　ぐったりと気を失ってしまったシャルロットを引き取った。

　院長の言い草に眉をひそめたものの、そういうこともあるだろう。何より毎日世話をしているのだから彼女のことを良く分かっているのだろう。
「あなた・・・」
　アメリーがシャルロットのことをひどく気にしているのがわかる。
　しかし出来ることはないのだ。
「また来週来ようか。」
　そう提案するジェラルドにアメリーは嬉しそうに笑った。

　そしてば馬車に乗って帰ろうとしたとき、
「き、貴族様！」
　振り返るとシャルロットが頭にベールのように布をかぶり、顔を隠したまま立っていた。
　院長が慌てたように
「シャルロット！下がりなさい！余計なことを言ってはなりません！」
「でも！でも！貴族様が死んじゃう！」
「え？」
「シャルロット！黙りなさい！モーリア侯爵様、申し訳ありません！」
「・・・いや。」
　気を悪くするも何も訳が分からず呆然と布をかぶった少女を見るだけだった。