死を見る令嬢は義弟に困惑しています

れもんぴーる

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愛玩犬から軍用犬に?

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 帰りの馬上で、
「ありがとう、シリル。」
「何?」
「子犬、私のためでしょう?ずっと家にいる私の為にハルメ様とお父様に頼んでくれたのでしょう?」
「そんなことないよ。僕もとても楽しみだ。」

 シリルはハルメから子犬の話を聞いた時にすぐにシャルロットのことを思い浮かべた。
 友人もおらず、家に引きこもることが多いシャルロットだが、家に子犬がきたらきっとその生活も賑やかさと癒しで彩られた楽しいものになるはずだ。
 シャルロットが犬に興味を示さなければ黙って帰るつもりだったが、とても幸せそうに子犬と遊んでいる姿を見て引き取ることに決めた。
「名前、決めないとね。」
「ええ!本当に楽しみだわ。」

 そしてシリルの予想通り、子犬が来てからの屋敷はたいそう賑やかになった。
 常に一人だったシャルロットの側にずっと寄り添う子犬たち。時には庭で一緒に走り回ることもある。この子たちが来てから、シャルロットは常に多幸感に包まれ、忙しさもあり様々な死の記憶に心を痛める時間もほとんどなくなった。
 そして時々ハルメが通ってきて、犬たちに躾をしてくれる。そしてしつけ方をシャルロットたちにも教えてくれた。ルーメとイルタと名付けられた子犬たちはすくすくと育ち、モーリア家のかけがえのない家族の一員になった。

「ちょっと・・・ルーメ。」
 シリルがシャルロットの部屋でお茶をしようとしたが、ルーメがソファーに座るシャルロットの膝にどっしりと乗り、ソファーにシリルの座るところがない。
 子犬たちは一年が経ち、すっかり成長して立つとシャルロットの肩に足が届くまでになっていた。
 二匹とも家にいるシャルロットに一番懐いていたが、ルーメは特にシャルロットが大好きでそばを離れない。シリルがいると特に邪魔をするようにくっつく。
 仕方なく、シリルは別に椅子をもってきて座った。イルタは我関せずで床で寝ている。

「こうしてゆっくりするの久しぶりね。シリル、いつも忙しいもの。」
 学院、ニコラの補佐それ以外にも剣術や領地経営の勉強など頑張っている。シャルロットも父に教えを請い、領地経営について少しづつ勉強しているところだ。
「うん、それで今度2週間ほど殿下の視察に同行させてもらえることになったんだ。」
「頑張っているのね。殿下はビシビシ教育するとおっしゃってたから。」
「本当に厳しいけれど、とても勉強になる。ニコラ様もとても親身になってくださるんだ。」
 きっとシャルロットのために。

「それで2週間の間シャルロットの事が心配で。」
「大丈夫よ。お父様もいらっしゃるし、家からも出る用事はないから。ルーメ達もいるしね。」
 シャルロットはルーメの頭をなぜるとルーメがウォンと返事する。
「私は・・・2週間も離れたくない。」
 エリックの下で学ぶようになってから、一人称を「私」に変えたシリルが心配そうに言う。
「本当に無理しないと約束してくれる?」
「はい、心配しないで。シリルがいないときに外に出ることはないから。」
「ルーメ、イルタ頼んだよ。」
 二匹は尻尾をフリフリしてくれた。

 シリルが旅立つとやはり寂しさを感じる。
 しかし、シリルのおかげで屋敷の使用人たちとも顔を合わせて付き合えるようになった。
 シリルが触れてくれながら対面し、何も見えないと安心して過ごすことが出来るようになったのだ。そこにルーメとイルタがやってきてくれたおかげで、使用人との関りは増えた。

 庭で二匹と遊んでいると、いつも二匹の世話をしてくれている庭師兼飼育係のトマスがやってきた。
「お嬢様、ルーメとイルタがまた新しい技覚えました、本当にこの子たち賢いですね。」
 トマスは二匹をとても可愛がり、二匹もトマスに懐いている。
「あら、本当?見せてもらっていいかしら?」
「はい!」

 使用人たちはやっと自分たちが勤める屋敷の令嬢と顔を合わせ、話をすることが出来た。それまで、姿を見せないシャルロットにいろいろ思うことがある者もいたし、傲慢でわがままなのではないかと囁かれてもいた。
 しかしいざ、対面してみると美しいだけではなく、優しくて穏やかな令嬢をすぐに受け入れた。競うように仕事を頑張り、自分の存在に気がついてもらうのを楽しみにしていた。

 トマスは自分の足に布や皮をぐるぐると巻き付けると、自分が走って離れたら「行け」と叫んでほしいとシャルロットにいい、その場から走り去った。 
「ルーメ、イルタ。行け!」
 シャルロットがそう叫ぶと二匹は姿勢を低く、庭を疾走しあっという間にトマスの追いついたかと思うと防護した足に齧り付いた。
 日頃の人懐こさはみじんも見えず唸り声をあげる姿は怖い位だった。
 シャルロットは慌てて駆け寄った。
「大丈夫?!」
「大丈夫ですよ。お嬢様、「止め」と言ってください。」
「や、止め!」
 すると二匹はトマスの足から口を外し、尻尾をフリフリシャルロットに寄ってきた。

 少し額に汗をかきながらトマスは嬉しそうに
「いかがですか、お嬢様。不審者がいればこの子たちが守ってくれますから。いざという時のために「行け」は覚えておいてくださいね。」
「あ、ありがとう。でもちょっと迫力ありすぎて驚いたわ。」
 賢い二匹が色々覚えてくれるのは嬉しいけれど、可愛い愛玩から軍用犬のように凛々しくなってかないかちょっとだけ心配になった。

しかしすぐに、トマスに感謝することになる。
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