死を見る令嬢は義弟に困惑しています

れもんぴーる

文字の大きさ
47 / 51

元男爵令嬢の行く末 1

しおりを挟む
 戻ってきたシリルはその事件を聞いて足元が崩れそうなほどの恐怖を覚えた。
 シャルロットの部屋に飛び込んだが、あれから三日たったのにもかかわらずシャルロットの意識は戻っていなかった。
「シャルロット・・・目を覚まして。帰ってきたよ?」
 シリルは涙をこぼしながら、頬を触った。血の気の通わない白い肌は冷たかった。
 冷たい頬を、冷たい手を、意識が戻るよう願いながら必死にさすった。

 そんなシリルを見ていたジェラルドは今後についての相談があると執務室に誘った。シャルロットのそばを離れたくないというシリルに
「シャルロットには聞かせたくないだろう?」
といい、シリルも了承した。

「父上、元ブトナ男爵令嬢は今どうなってるんですか?」
「地下牢で鎖につないである。今後の処理をシリルと相談しようと思ってな。」
 正直、感情に任せて元男爵令嬢を裁いてやりたかった。しかし、侯爵として感情の赴くままに手を下すわけにはいかないと踏みとどまった。

 シリルに相談をしたのは次期侯爵としての判断、決断を見極める意図もあった。
「そんなもの決まってます!私がこの手で処分します!あの時にもっときつい罰を与えておくべきだったんだ。」
「それではお前の手が汚れることになるぞ。」
「構いません!平民が貴族令嬢を悪意を持って傷つけたんだ、殺される所だったんですよ?!今だって・・・助かるかどうかわからないのに!」
 ジェラルドだって同じ気持ちなのだ。だがそれではいけない。

「シャルロットが元気になって事の顛末を聞いた時、お前にそんなことをさせてしまったわが身を責めるだろう。」
「シャルロットのせいではありませんよ。自業自得だ!」
「確かに貴族法で貴族を害した平民を個人で処罰しても良いとされている。だから我々が処分したからと言って罰される心配はない。」
「じゃあ!」
「しかし、そのことをシャルロットには言えないだろう?」
「当たり前です。」
「我々はシャルロットにどれだけ隠し事をするのだろうな。」
「・・・。」
「そしていくら隠していてもどこからか漏れる。今回は逃げた女を我が家の犬と護衛が追いかけて確保したところを皆が見ているから余計にだ。」

 貴族が真っ当な理由があれば平民を処罰することは罪に問われないとしても平民を処分したというのは世間に周知される。
 清廉潔白だけで貴族社会を渡っていけるわけがなく、きれいごとでは済まされないこともある。しかし事情の知らない世間に、あの侯爵家は気に入らないことがあれば平民を平気で処分する家だと認識されるのだ。
 理由を大々的に広報できれば納得もされるが、シャルロットの名誉のため昔のことを広めたくはなかった。
「では、どうすれば・・・私はあの女を絶対に許せません。」
「もちろんだ。よく考えてみろ。我々が出来ることを。」
「・・・・。騎士に連絡し、大々的に屋敷から連れ出してもらいます。」
「そうだ、そうすればもう事件は私たちの手を離れたことがわかるだろう。」
 平民が関わる事件の調査を司るのは第4騎士団。彼らが調査し、報告を上げ刑罰内容を決めるのは法官、そしてそれを決裁するのがジェラルドだ。

 爵位、王宮内での地位をフルに生かせば刑罰に私情をはさむことなど簡単だった。しかもおそらく極刑だ。死罪が決まっている相手にほんの少しだけ、希望と絶望を与えるだけだ。
「力の使いどころを誤るな。」
「わかりました、勉強になります。」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

【12月末日公開終了】婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る

たぬきち25番
恋愛
侯爵令嬢ビアンカは婚約破棄と同時に冤罪で投獄が言い渡された。 だが…… 気が付けば時を遡っていた。 この運命を変えたいビアンカは足搔こうとするが……?  時間を遡った先で必ず出会う謎の男性とは? ビアンカはやはり婚約破棄されてしまうのか? ※ずっとリベンジしたかった時間逆行&婚約破棄ものに挑戦しました。 短編ですので、お気楽に読んで下さったら嬉しいです♪ ※エンディング分岐します。 お好きなエンディングを選んで下さい。 ・ギルベルトエンド ・アルバートエンド(賛否両論お気をつけて!!) ※申し訳ございません。何を勘違いしていたのか…… まだギルベルトエンドをお届けしていないのに非公開にしていました……

【完結】断りに行ったら、お見合い相手がドストライクだったので、やっぱり結婚します!

櫻野くるみ
恋愛
ソフィーは結婚しないと決めていた。 女だからって、家を守るとか冗談じゃないわ。 私は自立して、商会を立ち上げるんだから!! しかし断りきれずに、仕方なく行ったお見合いで、好みど真ん中の男性が現れ・・・? 勢いで、「私と結婚して下さい!」と、逆プロポーズをしてしまったが、どうやらお相手も結婚しない主義らしい。 ソフィーも、この人と結婚はしたいけど、外で仕事をする夢も捨てきれない。 果たして悩める乙女は、いいとこ取りの人生を送ることは出来るのか。 完結しました。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

処理中です...