あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる

文字の大きさ
4 / 32

留学生

しおりを挟む
 隣国から留学してきたサンドラ・ハルメ。

 公爵令嬢だが気取ることもなく、すぐに学生たちと仲良くなった。
 しかし、身分が高く美しい高嶺の花である公爵令嬢の、友人というには近しい距離の取り方に令息たちは惹かれていき、行動を共にすることが増え、それぞれの婚約者をないがしろにする事態が続発した。
 しかし相手は他国の公爵令嬢、騒ぎ立ててその令嬢を咎めることもできず、泣き寝入りで関係がぎくしゃくしたり、婚約破棄をする者たちまで出たのだ。

 当時、まだ父が健在で、当人も優秀な侯爵令嬢のアリエルは皆から頼りにされていた。
 令嬢たちに懇願されたアリエルは、公爵令嬢の立場も慮りつつ、配慮を願い出た。
 すると、
「そんなつもりはなかったの。ただ異国の地で心細くて不安で不安で・・・皆が優しく手助けしてくれるのに甘えてしまってつい・・・ごめんなさい。早く馴染みたいとただ必死で周りが見えておりませんでした。・・・これからはアリエル様がご不快にならないように気を付けますのでお許しくださいませ。本当に申し訳ありませんでした。」
 サンドラは涙をハラハラと落としてハンカチで押さえた。
 アリエルは何も不快になど思っておらず、サンドラのためにも婚約者がいる令息とは二人きりで出かけない方が良いのではと、提案をしただけだった。
 しかしその儚く心細げに泣く姿は、身分が自分より上の令嬢に対してアリエルが言いがかりをつけたような印象を周囲に与えてしまった。

 そういうことがあり、当該の令息たちの中には、心細い思いをしている留学生に対して薄情・冷淡だとか、自分より身分の高い令嬢に文句を言うなど傲慢ではないか、嫉妬ではないかなどと陰口をたたく者も出始めた。
 人など単純で、ずるいものであり、当事者でもないのに日頃のやっかみや面白半分にそれに同調するものも出てくる。
 国で重用されている立派な侯爵家で、アリエルが優秀であればあるほど些細なことをあげつらうことで留飲を下げる愚か者たちのせいで、大げさに歪んだ噂として広まってしまった。
 あまり積極的に言い返したり、もめ事を好まない性格も災いしたのか、留学生とほとんど接触していないにも関わらず噂が消えることはなかった。

 ただ父のワトー侯爵の地位のおかげで、アリエルは直接表面だって口撃されることも嫌がらせをされることもなかった。
 そして婚約者のセドリックも噂に対して反論し、もう少しこの国を背負う貴族としての矜持を持った品性のある行動をとれと諫めてもくれていた。
 それでも高位の貴族令息ほど耳を貸すことなくサンドラの取り巻きになり、学院の外でも親しく付き合うようになっていった。

 そんなか、アリエルの父が死去し、母親が行方不明。叔父が家督を継ぐとくだらない噂だけでは済まなくなってきたのだ。
 ワトー侯爵の威光がなくなり、爵位を将来受け継ぐこともないと判ると、アリエルと関係を結ぶ必要がないと、特にサンドラの取り巻きの令息たちが中心となって、アリエルと距離を置き始めた。
 するとそれに同調し倣う者たちが出てきてしまい、アリエルは学院内で孤立し始めた。メリットのない者との付き合いをする必要がないとみなされたアリエルは自分自身が何も変わっていないにも関わらず、周りの容赦ない言動に深く傷つけられた。

 辛いことばかりが続いて酷く落ち込んでいたアリエルだったが、セドリックが嫌な言葉が耳に入らないよう気を配り、孤独にならないよう常に側にいてくれるようになった。
 彼がいなければ学院に通い続けることが出来なかったかもしれない。

 セドリックだけがアリエルの味方、心の支えになっていたというのに。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

その結婚、承服致しかねます

チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。 理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。 グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。 誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。 アイラの未来は、フィルの気持ちは…

処理中です...