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亀裂 1
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この一カ月、早く会いたいと待ちわびていた末のあの光景。
不安な思いで待っていると、たかだか一両日で色々なことを調べてきたクロウが戻ってきた。
その結果は、昨日のみならず学院が休みに入ってからの一カ月、なんども二人は会っていたらしい。
「・・・そう、昨日偶々というわけではなかったんだ。」
沈痛な面持ちで溜息をつくアリエルをクロウが慰める。
「お嬢、まだはっきりしたことはわかっておりませんから。」
「そうね。何か事情があると・・・思いたい。だってセドリックはハルメ公爵令嬢の行動を嗜めていたもの。」
アリエルはセドリックを信じたかった。
本当は、どんな事情があろうとも婚約者でもないあの二人が腕を組んで街歩きをすることなどありえないことはわかっている。
でもセドリックだけがこれまでどんなことがあっても自分を助け、側にいてくれたのだ。
不安に押しつぶされそうになるのを振り払い、
「明日、話してくれるかもしれないわ。疑っちゃ悪いわね。申し訳ないことしてしまったわ。クロウも嫌なことをさせてごめんね。」
と、笑った。
「いえ、辛い話をお聞かせして申し訳ありませんでした。」
言葉とは裏腹に今にも泣きそうなアリエルを見て、クロウの顔も申し訳なさそうに眉が下がるのだった。
翌日、セドリックの屋敷に馬車で向かい、もうすぐでその門に到着するという時、先に馬車が止まっているからと少し手前で御者は止めた。
そう声をかけられたアリエルは外に目を向けた。
そこにはセドリックに手を引かれて馬車から降りるサンドラ・ハルメ公爵令嬢の姿があった。
今日、屋敷を訪ねる約束をしていたのに・・・
胸の奥がズキズキと痛み、血を流す。
「どうしますか?馬車を戻しましょうか?」
クロウがそう言ってくれる。
「・・・。いいえ、いくわ。」
二人が一緒の所を見るのが怖い。二人で冷たい目で見られたら・・・
セドリックから別れを切り出されたら・・・
本音を言えばすぐに帰りたかった。会うのがとても怖かった。
それでも勇気を振り絞ってセドリックに会うことにした。
もしセドリックが心変わりをしたのなら・・・今後の事を考えなければならない。逃げて済む話ではないのだから。それに悪いのは自分ではない、怯えることなく毅然とした態度をとればいいのだ。・・・怖くてたまらないけど。
でもきっと理由があると説明してくれるはず。言い訳をして謝ってくれるはず。そう思って馬車を降りた。
「おかえり、アリエル!元気だった?ああ、今日はサンドラ嬢もいいだろうか。」
少し後ろめたそうな様子も見せながら、笑顔でアリエルを迎えたセドリック。
「セドリック・・・」
そんなセドリックを何とも言えない顔でアリエルは見た。
「アリエル様、ごめんなさい。せっかくお二人の久しぶりのお時間にお邪魔してしまって。私がアリエル様にお会いしたいとセドリック様にお願いしたの。ね、セドリック様?」
サンドラはセドリックに笑いかけ、セドリックも自然にうなづきを返し、二人の仲の良さが嫌でも伝わってくる。
「・・・なぜ私に?」
「私のことを誤解されていましたでしょう?セドリック様は誤解だと分かってくださいましたのよ。ですからアリエル様にも分かっていただきたくてお願いしましたの。」
「・・・。」
「それに学院でアリエル様は今、辛いお立場に・・・私が何かお力になれないかと思いましたの。私が異国の地で友人を作ろうと空回りして皆様にご迷惑をおかけしたのは確かなのです。それをアリエル様が親切にも教えて下さったのに、勘違いされた方々がおかしな噂を・・・申し訳ありません。わたくしのせいなのです。」
「サンドラ嬢が令息たちと過ごしていたのには事情があったんだよ。なのに勘違いをした男の方が勝手に婚約者を雑に扱い始めた挙句、保身の為にアリエルを貶めようとわざと悪評を流したようだ。」
「勝手に勘違い?」
「そうなんだ。彼女に事情があった事を知りながら勝手に好意を募らせて愚行を犯したのは彼ら自身の責任だよ。だから、事情を知らずにサンドラ嬢を責めた我々は謝った方がいいと思うんだ。それにサンドラ嬢と親しくすれば誤解も解けるし、噂などすぐに消えて君の学園での立場も良くなると思うよ。」
セドリックは少し誇らしげな様子を醸し出しながらアリエルに笑顔でそう言った。
不安な思いで待っていると、たかだか一両日で色々なことを調べてきたクロウが戻ってきた。
その結果は、昨日のみならず学院が休みに入ってからの一カ月、なんども二人は会っていたらしい。
「・・・そう、昨日偶々というわけではなかったんだ。」
沈痛な面持ちで溜息をつくアリエルをクロウが慰める。
「お嬢、まだはっきりしたことはわかっておりませんから。」
「そうね。何か事情があると・・・思いたい。だってセドリックはハルメ公爵令嬢の行動を嗜めていたもの。」
アリエルはセドリックを信じたかった。
本当は、どんな事情があろうとも婚約者でもないあの二人が腕を組んで街歩きをすることなどありえないことはわかっている。
でもセドリックだけがこれまでどんなことがあっても自分を助け、側にいてくれたのだ。
不安に押しつぶされそうになるのを振り払い、
「明日、話してくれるかもしれないわ。疑っちゃ悪いわね。申し訳ないことしてしまったわ。クロウも嫌なことをさせてごめんね。」
と、笑った。
「いえ、辛い話をお聞かせして申し訳ありませんでした。」
言葉とは裏腹に今にも泣きそうなアリエルを見て、クロウの顔も申し訳なさそうに眉が下がるのだった。
翌日、セドリックの屋敷に馬車で向かい、もうすぐでその門に到着するという時、先に馬車が止まっているからと少し手前で御者は止めた。
そう声をかけられたアリエルは外に目を向けた。
そこにはセドリックに手を引かれて馬車から降りるサンドラ・ハルメ公爵令嬢の姿があった。
今日、屋敷を訪ねる約束をしていたのに・・・
胸の奥がズキズキと痛み、血を流す。
「どうしますか?馬車を戻しましょうか?」
クロウがそう言ってくれる。
「・・・。いいえ、いくわ。」
二人が一緒の所を見るのが怖い。二人で冷たい目で見られたら・・・
セドリックから別れを切り出されたら・・・
本音を言えばすぐに帰りたかった。会うのがとても怖かった。
それでも勇気を振り絞ってセドリックに会うことにした。
もしセドリックが心変わりをしたのなら・・・今後の事を考えなければならない。逃げて済む話ではないのだから。それに悪いのは自分ではない、怯えることなく毅然とした態度をとればいいのだ。・・・怖くてたまらないけど。
でもきっと理由があると説明してくれるはず。言い訳をして謝ってくれるはず。そう思って馬車を降りた。
「おかえり、アリエル!元気だった?ああ、今日はサンドラ嬢もいいだろうか。」
少し後ろめたそうな様子も見せながら、笑顔でアリエルを迎えたセドリック。
「セドリック・・・」
そんなセドリックを何とも言えない顔でアリエルは見た。
「アリエル様、ごめんなさい。せっかくお二人の久しぶりのお時間にお邪魔してしまって。私がアリエル様にお会いしたいとセドリック様にお願いしたの。ね、セドリック様?」
サンドラはセドリックに笑いかけ、セドリックも自然にうなづきを返し、二人の仲の良さが嫌でも伝わってくる。
「・・・なぜ私に?」
「私のことを誤解されていましたでしょう?セドリック様は誤解だと分かってくださいましたのよ。ですからアリエル様にも分かっていただきたくてお願いしましたの。」
「・・・。」
「それに学院でアリエル様は今、辛いお立場に・・・私が何かお力になれないかと思いましたの。私が異国の地で友人を作ろうと空回りして皆様にご迷惑をおかけしたのは確かなのです。それをアリエル様が親切にも教えて下さったのに、勘違いされた方々がおかしな噂を・・・申し訳ありません。わたくしのせいなのです。」
「サンドラ嬢が令息たちと過ごしていたのには事情があったんだよ。なのに勘違いをした男の方が勝手に婚約者を雑に扱い始めた挙句、保身の為にアリエルを貶めようとわざと悪評を流したようだ。」
「勝手に勘違い?」
「そうなんだ。彼女に事情があった事を知りながら勝手に好意を募らせて愚行を犯したのは彼ら自身の責任だよ。だから、事情を知らずにサンドラ嬢を責めた我々は謝った方がいいと思うんだ。それにサンドラ嬢と親しくすれば誤解も解けるし、噂などすぐに消えて君の学園での立場も良くなると思うよ。」
セドリックは少し誇らしげな様子を醸し出しながらアリエルに笑顔でそう言った。
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