あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる

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亀裂 2

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 アリエルはセドリックの言葉にショックを受けた。
 いつの間に、セドリックはハルメ公爵令嬢の事を名前で呼ぶようになったのか。
 しかも彼女の行動を咎めたことを謝罪しようという。
 「彼女の行動は良識が欠けているとしか思えない」とセドリックもそういい、取り巻きの令息たちを諫めてくれていたのに。

「それは本当に誤解ですか?二人で出かけたり、腕を組んだり・・・そういうことをされていたと聞いております。」
「それは知らない街で危険がない様にエスコートをしていただいただけですの。二人で出かけていたのも理由がありますし護衛が付いておりましたわ。決してやましいことはありませんのに・・・皆さんわかってくださらなくて。」
「婚約者が他のご令嬢と二人きりで腕を組んでいると聞いて悲しまない者はいませんわ。」
 先日街で見かけた二人の姿を思い出してまた胸が痛くなる。
「アリエル様のおっしゃる通りです。本当にごめんなさい。ご厚意に甘えてしまった私が悪かったのです。この国で自由に出歩けるのが嬉しくてはしゃぎ過ぎて・・・ご迷惑をおかけしてしまったのです。」
 そう言ってサンドラが涙をハンカチで押さえる。

「アリエル。どうしたの?いつもの優しい君らしくないよ。彼女はそう言うつもりはないと言っているじゃないか。彼女は大変な事情を抱えてるんだ、知らないくせに周りがとやかく言うことではないよ。」
 どんな事情があっても、彼女のしていることはおかしいと言っていたセドリックが手のひらを返したように彼女を擁護する。
「だからと言ってなぜ今日・・・」
 あなたの屋敷に来ているの?私が来ると知っていてなぜ招いたの?そう言葉を続けようとした。
「彼女だって被害者なのに君の立場を憂いて何とかするためにわざわざ来てくれたんだよ・・・・感謝しないと。だからそんな不機嫌な顔をしないで、頼むよアリエル。」
 セドリックはアリエルの言葉を遮ってそう言った。
「・・・わかりました。今日は・・・私の方がお邪魔のようですのでお暇します。」

 これ以上話を聞きたくなかった。二人の間に自分は入れない、それだけはわかった。
 全身が震えて崩れそうになるのを何とか堪え、溢れそうになる涙もがまんして立ち上がった。
 それを聞いたサンドラも立ち上がり、
「そんな、アリエル様!お邪魔したのは私の方ですわ!申し訳ありません、私はなんて差し出がましいことを・・・お力になりたいと焦るあまりアリエル様のお許しも得ずにやってきてしまいました。アリエル様がそれほど私の事を嫌っているとは思わなかったのです。話をすれば分かり合えるものと・・・セドリック様もご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。本当にごめんなさい、すぐに帰りますのでどうかお許しくださいませ。」
 オロオロと涙を浮かべてサンドラはそう言った。
 それに対してセドリックは、
「アリエル、そんな嫌味な言い方失礼だよ。それにここは僕の屋敷なのだからアリエルの許しは必要ありませんよ、サンドラ嬢。」
 とそう言った。そう言ってしまった。

 そのひどくきつい冷たい言葉はアリエルの心を打ちのめした。
 アリエルの中で、何か大切なものが壊れた音がした。

「ご、ごめん!そんな事言うつもりじゃ・・・。でも明日から学院が始まるのだし・・・君がずっと領地に行っていたから仕方がなくて。今日しか三人で会えなかったから。」
 自分の言葉に焦ったようにセドリックが言い繕う。
「・・・領地に行ってた私が悪いと言いたいの?」
「そんなことは言ってない、今日のアリエルはおかしいよ。君のためだと言ってるじゃないか!」
「おかしいのはあなたよ!」
 とうとうアリエルの瞳から我慢していた涙が転がり落ちてしまった。
「ち、違うんだ、そうじゃなくて・・・僕は・・・」
 アリエルの涙を見たセドリックは動揺した様子でアリエルに近づき、アリエルに手を伸ばした。
 しかし、アリエルはその手はバシッとはじき、
「クロウ・・・気分が悪いので帰ります。」
 アリエルはセドリックをもう見ることもなくクロウに伝えた。

「かしこまりました、失礼します。」
 控えていたクロウがアリエルを抱き上げた。
 アリエルはクロウの行動に驚いたが、黙ってクロウの首に手をまわして顔を伏せた。
 この惨めな場から連れ去ってくれるクロウの体温が温かかった。

「な、何をする!お前は護衛だろ!アリエルを放せ!僕の婚約者だぞ、触れるな!」
「どの口がほざく。ああ、でも感謝するよ。お前のおかげでお嬢はこっち側にきてくれるだろうよ。」
 クロウがニヤリを口を歪める。
「お前!口の利き方を・・・それよりもアリエルを放せ。」
「聞こえなかったか?お嬢は体調がすぐれないんだ。ああ、心配ご無用。ここを出ればすぐに良くなるさ。」
 セドリックはアリエルを取り返そうとしたが、クロウの視線に射抜かれ、体が動かなくなってしまった。

 その間にクロウはさっさとアリエルを抱きかかえたまま馬車まで移動した。
 馬車に乗った途端、アリエルは嗚咽をおさえられず涙をこぼして泣いた。
 クロウは黙ってアリエルの背中を優しく撫でた。

 外ではアリエルの涙のように雨がぽつぽつ落ち、馬車の屋根をたたき始めた。
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