6 / 32
亀裂 2
しおりを挟む
アリエルはセドリックの言葉にショックを受けた。
いつの間に、セドリックはハルメ公爵令嬢の事を名前で呼ぶようになったのか。
しかも彼女の行動を咎めたことを謝罪しようという。
「彼女の行動は良識が欠けているとしか思えない」とセドリックもそういい、取り巻きの令息たちを諫めてくれていたのに。
「それは本当に誤解ですか?二人で出かけたり、腕を組んだり・・・そういうことをされていたと聞いております。」
「それは知らない街で危険がない様にエスコートをしていただいただけですの。二人で出かけていたのも理由がありますし護衛が付いておりましたわ。決してやましいことはありませんのに・・・皆さんわかってくださらなくて。」
「婚約者が他のご令嬢と二人きりで腕を組んでいると聞いて悲しまない者はいませんわ。」
先日街で見かけた二人の姿を思い出してまた胸が痛くなる。
「アリエル様のおっしゃる通りです。本当にごめんなさい。ご厚意に甘えてしまった私が悪かったのです。この国で自由に出歩けるのが嬉しくてはしゃぎ過ぎて・・・ご迷惑をおかけしてしまったのです。」
そう言ってサンドラが涙をハンカチで押さえる。
「アリエル。どうしたの?いつもの優しい君らしくないよ。彼女はそう言うつもりはないと言っているじゃないか。彼女は大変な事情を抱えてるんだ、知らないくせに周りがとやかく言うことではないよ。」
どんな事情があっても、彼女のしていることはおかしいと言っていたセドリックが手のひらを返したように彼女を擁護する。
「だからと言ってなぜ今日・・・」
あなたの屋敷に来ているの?私が来ると知っていてなぜ招いたの?そう言葉を続けようとした。
「彼女だって被害者なのに君の立場を憂いて何とかするためにわざわざ来てくれたんだよ・・・・感謝しないと。だからそんな不機嫌な顔をしないで、頼むよアリエル。」
セドリックはアリエルの言葉を遮ってそう言った。
「・・・わかりました。今日は・・・私の方がお邪魔のようですのでお暇します。」
これ以上話を聞きたくなかった。二人の間に自分は入れない、それだけはわかった。
全身が震えて崩れそうになるのを何とか堪え、溢れそうになる涙もがまんして立ち上がった。
それを聞いたサンドラも立ち上がり、
「そんな、アリエル様!お邪魔したのは私の方ですわ!申し訳ありません、私はなんて差し出がましいことを・・・お力になりたいと焦るあまりアリエル様のお許しも得ずにやってきてしまいました。アリエル様がそれほど私の事を嫌っているとは思わなかったのです。話をすれば分かり合えるものと・・・セドリック様もご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。本当にごめんなさい、すぐに帰りますのでどうかお許しくださいませ。」
オロオロと涙を浮かべてサンドラはそう言った。
それに対してセドリックは、
「アリエル、そんな嫌味な言い方失礼だよ。それにここは僕の屋敷なのだからアリエルの許しは必要ありませんよ、サンドラ嬢。」
とそう言った。そう言ってしまった。
そのひどくきつい冷たい言葉はアリエルの心を打ちのめした。
アリエルの中で、何か大切なものが壊れた音がした。
「ご、ごめん!そんな事言うつもりじゃ・・・。でも明日から学院が始まるのだし・・・君がずっと領地に行っていたから仕方がなくて。今日しか三人で会えなかったから。」
自分の言葉に焦ったようにセドリックが言い繕う。
「・・・領地に行ってた私が悪いと言いたいの?」
「そんなことは言ってない、今日のアリエルはおかしいよ。君のためだと言ってるじゃないか!」
「おかしいのはあなたよ!」
とうとうアリエルの瞳から我慢していた涙が転がり落ちてしまった。
「ち、違うんだ、そうじゃなくて・・・僕は・・・」
アリエルの涙を見たセドリックは動揺した様子でアリエルに近づき、アリエルに手を伸ばした。
しかし、アリエルはその手はバシッとはじき、
「クロウ・・・気分が悪いので帰ります。」
アリエルはセドリックをもう見ることもなくクロウに伝えた。
「かしこまりました、失礼します。」
控えていたクロウがアリエルを抱き上げた。
アリエルはクロウの行動に驚いたが、黙ってクロウの首に手をまわして顔を伏せた。
この惨めな場から連れ去ってくれるクロウの体温が温かかった。
「な、何をする!お前は護衛だろ!アリエルを放せ!僕の婚約者だぞ、触れるな!」
「どの口がほざく。ああ、でも感謝するよ。お前のおかげでお嬢はこっち側にきてくれるだろうよ。」
クロウがニヤリを口を歪める。
「お前!口の利き方を・・・それよりもアリエルを放せ。」
「聞こえなかったか?お嬢は体調がすぐれないんだ。ああ、心配ご無用。ここを出ればすぐに良くなるさ。」
セドリックはアリエルを取り返そうとしたが、クロウの視線に射抜かれ、体が動かなくなってしまった。
その間にクロウはさっさとアリエルを抱きかかえたまま馬車まで移動した。
馬車に乗った途端、アリエルは嗚咽をおさえられず涙をこぼして泣いた。
クロウは黙ってアリエルの背中を優しく撫でた。
外ではアリエルの涙のように雨がぽつぽつ落ち、馬車の屋根をたたき始めた。
いつの間に、セドリックはハルメ公爵令嬢の事を名前で呼ぶようになったのか。
しかも彼女の行動を咎めたことを謝罪しようという。
「彼女の行動は良識が欠けているとしか思えない」とセドリックもそういい、取り巻きの令息たちを諫めてくれていたのに。
「それは本当に誤解ですか?二人で出かけたり、腕を組んだり・・・そういうことをされていたと聞いております。」
「それは知らない街で危険がない様にエスコートをしていただいただけですの。二人で出かけていたのも理由がありますし護衛が付いておりましたわ。決してやましいことはありませんのに・・・皆さんわかってくださらなくて。」
「婚約者が他のご令嬢と二人きりで腕を組んでいると聞いて悲しまない者はいませんわ。」
先日街で見かけた二人の姿を思い出してまた胸が痛くなる。
「アリエル様のおっしゃる通りです。本当にごめんなさい。ご厚意に甘えてしまった私が悪かったのです。この国で自由に出歩けるのが嬉しくてはしゃぎ過ぎて・・・ご迷惑をおかけしてしまったのです。」
そう言ってサンドラが涙をハンカチで押さえる。
「アリエル。どうしたの?いつもの優しい君らしくないよ。彼女はそう言うつもりはないと言っているじゃないか。彼女は大変な事情を抱えてるんだ、知らないくせに周りがとやかく言うことではないよ。」
どんな事情があっても、彼女のしていることはおかしいと言っていたセドリックが手のひらを返したように彼女を擁護する。
「だからと言ってなぜ今日・・・」
あなたの屋敷に来ているの?私が来ると知っていてなぜ招いたの?そう言葉を続けようとした。
「彼女だって被害者なのに君の立場を憂いて何とかするためにわざわざ来てくれたんだよ・・・・感謝しないと。だからそんな不機嫌な顔をしないで、頼むよアリエル。」
セドリックはアリエルの言葉を遮ってそう言った。
「・・・わかりました。今日は・・・私の方がお邪魔のようですのでお暇します。」
これ以上話を聞きたくなかった。二人の間に自分は入れない、それだけはわかった。
全身が震えて崩れそうになるのを何とか堪え、溢れそうになる涙もがまんして立ち上がった。
それを聞いたサンドラも立ち上がり、
「そんな、アリエル様!お邪魔したのは私の方ですわ!申し訳ありません、私はなんて差し出がましいことを・・・お力になりたいと焦るあまりアリエル様のお許しも得ずにやってきてしまいました。アリエル様がそれほど私の事を嫌っているとは思わなかったのです。話をすれば分かり合えるものと・・・セドリック様もご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。本当にごめんなさい、すぐに帰りますのでどうかお許しくださいませ。」
オロオロと涙を浮かべてサンドラはそう言った。
それに対してセドリックは、
「アリエル、そんな嫌味な言い方失礼だよ。それにここは僕の屋敷なのだからアリエルの許しは必要ありませんよ、サンドラ嬢。」
とそう言った。そう言ってしまった。
そのひどくきつい冷たい言葉はアリエルの心を打ちのめした。
アリエルの中で、何か大切なものが壊れた音がした。
「ご、ごめん!そんな事言うつもりじゃ・・・。でも明日から学院が始まるのだし・・・君がずっと領地に行っていたから仕方がなくて。今日しか三人で会えなかったから。」
自分の言葉に焦ったようにセドリックが言い繕う。
「・・・領地に行ってた私が悪いと言いたいの?」
「そんなことは言ってない、今日のアリエルはおかしいよ。君のためだと言ってるじゃないか!」
「おかしいのはあなたよ!」
とうとうアリエルの瞳から我慢していた涙が転がり落ちてしまった。
「ち、違うんだ、そうじゃなくて・・・僕は・・・」
アリエルの涙を見たセドリックは動揺した様子でアリエルに近づき、アリエルに手を伸ばした。
しかし、アリエルはその手はバシッとはじき、
「クロウ・・・気分が悪いので帰ります。」
アリエルはセドリックをもう見ることもなくクロウに伝えた。
「かしこまりました、失礼します。」
控えていたクロウがアリエルを抱き上げた。
アリエルはクロウの行動に驚いたが、黙ってクロウの首に手をまわして顔を伏せた。
この惨めな場から連れ去ってくれるクロウの体温が温かかった。
「な、何をする!お前は護衛だろ!アリエルを放せ!僕の婚約者だぞ、触れるな!」
「どの口がほざく。ああ、でも感謝するよ。お前のおかげでお嬢はこっち側にきてくれるだろうよ。」
クロウがニヤリを口を歪める。
「お前!口の利き方を・・・それよりもアリエルを放せ。」
「聞こえなかったか?お嬢は体調がすぐれないんだ。ああ、心配ご無用。ここを出ればすぐに良くなるさ。」
セドリックはアリエルを取り返そうとしたが、クロウの視線に射抜かれ、体が動かなくなってしまった。
その間にクロウはさっさとアリエルを抱きかかえたまま馬車まで移動した。
馬車に乗った途端、アリエルは嗚咽をおさえられず涙をこぼして泣いた。
クロウは黙ってアリエルの背中を優しく撫でた。
外ではアリエルの涙のように雨がぽつぽつ落ち、馬車の屋根をたたき始めた。
113
あなたにおすすめの小説
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる