あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる

文字の大きさ
12 / 32

アリエル生還

しおりを挟む
 アリエルの行方が分からなくなり二ヶ月が経過した。

 アリエルの生存は絶望視され、捜索も終了された。
 また、襲撃者についても何の情報もなく、これに関して調査は続けられるというものの期待は出来なかった。


   学院でもアリエルの事は、皆の口に上ることがほとんど無くなっていた。
 アリエルがいないことが当たり前になった学院では、令息たちは相変わらずサンドラに侍り、サンドラを敵視していた令嬢たちの多くもいつの間にかサンドラの取り巻きになっていた。
 アリエルという異分子がいなくなった学院は、一見平和に和やかな空気に包まれ、その中心にいるサンドラは学院で一大勢力を築いていた。

 セドリックはそれを遠巻きに眺めていた。
 今でもサンドラやその取り巻きがアリエルを失って失意のどん底にいるセドリックを慰めようとお茶会やお出かけを誘ってくるも応じることはなかった。
 アリエルのいない人生に何の意味があるのかわからない。そしてこのような事態を引き起こした自分を許せず、遠因になったサンドラや級友にも好意的な感情を向けることが出来るはずもなかった。

 セドリックは自責の念に苛まれ、取り返しのつかない後悔を胸にただアリエルへの贖罪の日々を過ごした。
 しかし、父の事故死、母の行方不明に引き続き、学院での不当な扱い、そして自分への不信。
 散々傷ついていたアリエルに、さらに追い打ちをかけるように盗賊にあうなど神はどこまでアリエルに辛辣なのかと恨まずにはいられなかった。




 しかし、神はアリエルに慈悲の手を伸ばしてくれたのだ。
 アリエルは奇跡的に生還した。
 

 川に転落し、海のかなたまで流されたアリエルは奇跡的にも島に漂着し、倒れていたところを発見され保護されていたという。

 セドリックは、アリエルが無事に戻ってきたとの知らせを父から聞いた。それは彼女の捜索に関わった者への王宮からの事務的な連絡だった。
 セドリックは安堵の涙を流したが、婚約者だというのに、直接ワトー家から連絡が来なかったことにはひどくショックを受けた。

 セドリックはすぐさまアリエルの屋敷に向かったが、不在だと会わせてもらえなかった。手紙を送っても返信はなく、届いているかどうかさえ不明。
 襲撃現場を見ているセドリックは、アリエルがあの崖から落ちて無傷で済むとは思えなかった。
 もしかしたらひどい傷を負い、精神的にも苦しんでいるのかもしれない。ずっと側について慰めたかった。
 反面、こんなことになったのは自分のせいだと慙愧の念に堪えず、合わせる顔がないのも確かだった。


 セドリックが会いたくてもアリエルに全く会えず、アリエルからも手紙一つもらえないことに落ち込み、焦っていると、
「アリエル様がご無事でよかったですわね。心配しておりましたの。もうお会いになられまして?」
 関わらないで欲しいと言ったにもかかわらす、こうしてサンドラは取り巻きを引き連れてはセドリックに何かと近づいて来る。
「・・・いえ。」
「やはりあれは本当なのかしら?アリエル様はワトー侯爵家には戻らず、異国の方と暮らされているようですよ。ワトー侯爵でさえ自由に会えないそうですわ。」
「え?!どういうことですか?!」

 そんなことは聞いていない。何度もワトー家へ行ったが門前払いをされるだけで、不在であるなんて教えてくれなかった。
「アリエル様を保護されていた貴族の御方がこの国にしばらく滞在されるそうで、その方の希望でアリエル様と別邸で過ごされていると聞いたのですが・・・セドリック様には報告されていると思っていましたの。」
 サンドラは申し訳なさそうに言った。
「・・・そう・・・ですか。」
 見も知らぬ男と一緒にいると聞いて、胸をえぐられる。婚約者の自分には連絡一つくれないのに。
 それまでも二ヶ月一緒にいたというその貴族との関係は・・・考えるだけで恐ろしかった。

 それに気をとられていたセドリックは、何故サンドラが自国の貴族たちでさえ知らない情報をいち早く知っていたのか疑問に思うことはなかった。
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

その結婚、承服致しかねます

チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。 理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。 グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。 誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。 アイラの未来は、フィルの気持ちは…

処理中です...