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クロウサイド
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クロウはアリエルの側で学院生活を楽しみながらも、アリエルに対する噂の出所と広がり方、生徒達の交友関係や派閥など、注意深く観察し、調査することで学院で起こっているおおよその事はすでに把握していた。
一時は、クロウの前でアリエルに嫌がらせをするものはいなくなっていたが、食堂でアリエルがサンドラの同席を断ったことが広まると、再びサンドラへの憐憫とアリエルへの悪感情が強まったようで、アリエルへの風当たりが強くなった。
貶めていたはずのアリエルが、皆の羨望を集めるクロウを独り占めしていることも余計に皆の不満、妬み、怒りを増幅しているようだ。
しかし、その根っこには彼女がいる。クロウが彼女に髪の毛一つも興味を示さないことに不満を持ったサンドラが、大いに煽っている。
だがもうすぐこんな異常な状況は終わる。
それまでせいぜい楽しむがいいと、クロウはひっそりと笑うのだった。
「クロウ様、たまには私たちと食事いたしませんか?」
婚約解消に至って、恨んでいたはずのサンドラの取り巻きとなった令嬢たちが、隣にいるアリエルを無視してクロウに声をかける。
クロウの冷たく、そっけない態度は、アリエルの告げ口のせいでクロウが騙されているからだと本気で思っている令嬢達は、何とかしてクロウと話してアリエルの本性を知って欲しいと考えているのだ。
「そうですわ、せっかく留学に来られているのですからもっと交流いたしましょう。個人的にどんな交流をされているのかは知りませんが、特定の方とばかりお付き合いされていてはせっかくの留学がもったいないですわ。」
数を頼りに、令嬢たちはクロウに言い寄る。
しかし、クロウは冷たい視線を返す。
「愚かな人間と交流を持つほど無駄な時間はない。手を差し伸べてくれた令嬢を見捨て嫌がらせをするその神経。婚約者を取られていながら尻尾を振る節操の無さ。いい餌でももらったか。たとえばいい縁談とかな。」
クロウの辛辣な言葉に数人の令嬢が真っ赤になり、言葉に詰まる。
それでも強者が
「クロウ様は何を聞いたか知りませんが騙されておりますわ。」
「そうですわ。アリエル様はとても冷淡で自分勝手な方ですのよ、そのせいで婚約者に捨てられたのです。ですからクロウ様に取り入ろうと必死なのですわ。騙されないでくださいませ。」
クロウは溜息をついて
「アリエル様は人を貶めるようなことは言わない。こうして目の前で人を貶めているのは誰だ。己の醜さをもっと自覚するがいい。恥を知れ。いい加減、己を知り、心あらば今からでも生き方を変えろ。それができないのであれば、二度と俺の前に顔を出すな。」
冷たく心底蔑んだ物言いに、流石に令嬢たちも逃げるように去っていった。
「クロウ、とてもかっこよかったけど、あのように言ってはあなたが悪く思われるわ。私は平気よ、ありがとう。」
クロウは以前とは少し変わったアリエルを見た。
少しの事では動じなくなったのだ。
学院での嫌がらせなど、小鳥のさえずりにしか感じないほど物事をもっと大きな目で見ている。
「俺がどう思われようと構いません。俺が許せないだけだから。勝手に俺の名を呼び、お嬢を傷つける輩など消してしまいたいくらいです。」
「やり過ぎないでね。今度は売られた喧嘩は自分で買うようにするわ。」
「かしこまりました。」
二人は顔を見合わせて笑っていると、数名の学生がおずおずと寄ってくる。
ほとんどが先日、学院の課題で仕方がなく、一緒のグループになった学生達だ。
その時も初めはそれこそ嫌な顔をされた。しかし、徐々に話をするようになり、それとともに挨拶くらいはしてくれるようになった子たちだった。
「あの、アリエル様・・」
「なんだ。」
クロウが視線で圧をかける。
「いえ、あの・・よろしければ一緒にお食事をさせていただけませんか?お話をさせていただきたいのです。」
「断る。」
アリエルが答えるよりも早くクロウが返事をしてしまう。
「クロウ、お話だけでもお聞きしましょう。それで、急にどうされたのですか?」
「今更だと思われるでしょうが、アリエル様にお詫びをさせていただきたくて。」
一人の令嬢がそう言うと後ろの数人の令嬢令息がうなづく。
「何に対してかしら?」
「その・・・アリエル様にひどい態度をとり、心無い噂を信じそれを広めたことです。本当に申し訳ありませんでした。」
別の令息も、
「・・・私も後悔をしています。先日アリエル様と一緒に課題をさせていただいているうちに急に自分の愚かさを自覚いたしました。本来なら顔を出せる立場ではありませんが、お詫びを申し上げたくて。」
と頭を下げる。
「・・・そうなのですね。」
「アリエル様、耳を傾ける必要はありませんよ。」
アリエルを遠巻きにしていたくせに、クロウという強い味方ができたとたんに再びアリエルにすり寄ろうとする人間にクロウは不快感を隠さない。
「アリエル様・・・本当に申し訳ないと思っております。謝って済む問題ではないことも分かっております!ですが、私はアリエル様の人柄をお慕いしていたのです。」
「くだらない。彼女をないがしろにしていながら慕っていたというのか。相当厚顔だな。」
クロウが不機嫌に厳しい言葉を突き付ける。
「おっしゃる通りです。都合のいいことを言って、自分の保身だけを考えていると言われても仕方がありません。ですがやっと馬鹿なことをしたと、なんであのようなことを是と思っていたのか・・・本当に申し訳ありません。もう彼らが・・・サンドラ様と懇意にしている者達が恐ろしく思えるようになりました。」
周囲の状況を把握し、うまく立ち回らねばならないのが貴族。
彼女たちはこれまではその流れを掴み、上手くやっていたのだろう、アリエル一人を生贄にして。
誰かの悪意により上手く立ち回れなかった結果が今のアリエルだ。それも能力不足による自己の責任とされる貴族社会。
しかし何かのきっかけで彼女たちは自分の言動を省みた。
その途端自分の言動を恥じ、今の学園の空気に異変と不安を感じてしまったのだろう。
おそらく、きっかけは課題で長時間アリエルと過ごしたことだ。アリエルの清廉な気を浴びることで、歪んだ考えを改めることが出来たこの者どもはまあ・・・命拾いをしたな。
他の者も、アリエルと同じ教室にいた以上、助かるチャンスはあったのに、もともとの資質という奴か。自業自得だな。
自分たちを周囲から窺っている者達を見てクロウはそう思った。
「・・・謝罪は受け入れますわ。ですが、それだけです。学院内でお話する程度、学友以上の関係はありません。そしてそれに付随する結果は自己責任でよろしい?」
アリエルが彼女たちを受け入れたのなら、自分も文句はない。
これからはアリエルに敵意を見せることはないだろうから。
「はい!ありがとうございます!」
アリエルの許しを得た数人の令嬢、令息とともにアリエルとクロウは教室を出た。
しかし、クロウはすぐに教室に戻るとそれらを羨ましそうに見ていたセドリックの元へ行った。
急に話しかけられたセドリックは驚いていたようだが、クロウは言いたいことだけを伝えた。
「もうアリエルの事はあきらめろ」
それはクロウからの恩情。
不貞もどきの事をし、アリエルをひどく苦しめたセドリックを許すことは出来ないが、今はアリエルの為に何とかしようと動いているのは知っている。
それに不貞もどきに至った原因も気の毒と言えば気の毒なのだ。
だが、アリエルの事はもうあきらめてもらうしかない。彼女とセドリックはもう世界を違えてしまったのだから。
アリエルたちを見送っていたのはセドリックだけではなかった。
周りで見ていた令息令嬢達は苦々しい顔をしていた。自分たちが優位に立っていたはずが、一気に逆転された気分だったのだ。
心の奥底では自分たちの身勝手な言動を自覚している者もいた。
しかしそれを省みることなく、まだアリエルが悪いと思う彼らと、先ほどアリエルに謝罪をした者達の未来を大きく分けることになった。
しばらくして、アリエルを助けた謎の貴族というのが、ドラゴナ神国の王族だという情報が回り始めた。
そして王族や高位貴族がこぞってその王族と交流し、アリエルとも親しくしているのを知る。
と同時に、自分たちの家門がいつの間にか社交界ではじかれていたのを知り、学院生達は顔を真っ青にするのであった。
一時は、クロウの前でアリエルに嫌がらせをするものはいなくなっていたが、食堂でアリエルがサンドラの同席を断ったことが広まると、再びサンドラへの憐憫とアリエルへの悪感情が強まったようで、アリエルへの風当たりが強くなった。
貶めていたはずのアリエルが、皆の羨望を集めるクロウを独り占めしていることも余計に皆の不満、妬み、怒りを増幅しているようだ。
しかし、その根っこには彼女がいる。クロウが彼女に髪の毛一つも興味を示さないことに不満を持ったサンドラが、大いに煽っている。
だがもうすぐこんな異常な状況は終わる。
それまでせいぜい楽しむがいいと、クロウはひっそりと笑うのだった。
「クロウ様、たまには私たちと食事いたしませんか?」
婚約解消に至って、恨んでいたはずのサンドラの取り巻きとなった令嬢たちが、隣にいるアリエルを無視してクロウに声をかける。
クロウの冷たく、そっけない態度は、アリエルの告げ口のせいでクロウが騙されているからだと本気で思っている令嬢達は、何とかしてクロウと話してアリエルの本性を知って欲しいと考えているのだ。
「そうですわ、せっかく留学に来られているのですからもっと交流いたしましょう。個人的にどんな交流をされているのかは知りませんが、特定の方とばかりお付き合いされていてはせっかくの留学がもったいないですわ。」
数を頼りに、令嬢たちはクロウに言い寄る。
しかし、クロウは冷たい視線を返す。
「愚かな人間と交流を持つほど無駄な時間はない。手を差し伸べてくれた令嬢を見捨て嫌がらせをするその神経。婚約者を取られていながら尻尾を振る節操の無さ。いい餌でももらったか。たとえばいい縁談とかな。」
クロウの辛辣な言葉に数人の令嬢が真っ赤になり、言葉に詰まる。
それでも強者が
「クロウ様は何を聞いたか知りませんが騙されておりますわ。」
「そうですわ。アリエル様はとても冷淡で自分勝手な方ですのよ、そのせいで婚約者に捨てられたのです。ですからクロウ様に取り入ろうと必死なのですわ。騙されないでくださいませ。」
クロウは溜息をついて
「アリエル様は人を貶めるようなことは言わない。こうして目の前で人を貶めているのは誰だ。己の醜さをもっと自覚するがいい。恥を知れ。いい加減、己を知り、心あらば今からでも生き方を変えろ。それができないのであれば、二度と俺の前に顔を出すな。」
冷たく心底蔑んだ物言いに、流石に令嬢たちも逃げるように去っていった。
「クロウ、とてもかっこよかったけど、あのように言ってはあなたが悪く思われるわ。私は平気よ、ありがとう。」
クロウは以前とは少し変わったアリエルを見た。
少しの事では動じなくなったのだ。
学院での嫌がらせなど、小鳥のさえずりにしか感じないほど物事をもっと大きな目で見ている。
「俺がどう思われようと構いません。俺が許せないだけだから。勝手に俺の名を呼び、お嬢を傷つける輩など消してしまいたいくらいです。」
「やり過ぎないでね。今度は売られた喧嘩は自分で買うようにするわ。」
「かしこまりました。」
二人は顔を見合わせて笑っていると、数名の学生がおずおずと寄ってくる。
ほとんどが先日、学院の課題で仕方がなく、一緒のグループになった学生達だ。
その時も初めはそれこそ嫌な顔をされた。しかし、徐々に話をするようになり、それとともに挨拶くらいはしてくれるようになった子たちだった。
「あの、アリエル様・・」
「なんだ。」
クロウが視線で圧をかける。
「いえ、あの・・よろしければ一緒にお食事をさせていただけませんか?お話をさせていただきたいのです。」
「断る。」
アリエルが答えるよりも早くクロウが返事をしてしまう。
「クロウ、お話だけでもお聞きしましょう。それで、急にどうされたのですか?」
「今更だと思われるでしょうが、アリエル様にお詫びをさせていただきたくて。」
一人の令嬢がそう言うと後ろの数人の令嬢令息がうなづく。
「何に対してかしら?」
「その・・・アリエル様にひどい態度をとり、心無い噂を信じそれを広めたことです。本当に申し訳ありませんでした。」
別の令息も、
「・・・私も後悔をしています。先日アリエル様と一緒に課題をさせていただいているうちに急に自分の愚かさを自覚いたしました。本来なら顔を出せる立場ではありませんが、お詫びを申し上げたくて。」
と頭を下げる。
「・・・そうなのですね。」
「アリエル様、耳を傾ける必要はありませんよ。」
アリエルを遠巻きにしていたくせに、クロウという強い味方ができたとたんに再びアリエルにすり寄ろうとする人間にクロウは不快感を隠さない。
「アリエル様・・・本当に申し訳ないと思っております。謝って済む問題ではないことも分かっております!ですが、私はアリエル様の人柄をお慕いしていたのです。」
「くだらない。彼女をないがしろにしていながら慕っていたというのか。相当厚顔だな。」
クロウが不機嫌に厳しい言葉を突き付ける。
「おっしゃる通りです。都合のいいことを言って、自分の保身だけを考えていると言われても仕方がありません。ですがやっと馬鹿なことをしたと、なんであのようなことを是と思っていたのか・・・本当に申し訳ありません。もう彼らが・・・サンドラ様と懇意にしている者達が恐ろしく思えるようになりました。」
周囲の状況を把握し、うまく立ち回らねばならないのが貴族。
彼女たちはこれまではその流れを掴み、上手くやっていたのだろう、アリエル一人を生贄にして。
誰かの悪意により上手く立ち回れなかった結果が今のアリエルだ。それも能力不足による自己の責任とされる貴族社会。
しかし何かのきっかけで彼女たちは自分の言動を省みた。
その途端自分の言動を恥じ、今の学園の空気に異変と不安を感じてしまったのだろう。
おそらく、きっかけは課題で長時間アリエルと過ごしたことだ。アリエルの清廉な気を浴びることで、歪んだ考えを改めることが出来たこの者どもはまあ・・・命拾いをしたな。
他の者も、アリエルと同じ教室にいた以上、助かるチャンスはあったのに、もともとの資質という奴か。自業自得だな。
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アリエルが彼女たちを受け入れたのなら、自分も文句はない。
これからはアリエルに敵意を見せることはないだろうから。
「はい!ありがとうございます!」
アリエルの許しを得た数人の令嬢、令息とともにアリエルとクロウは教室を出た。
しかし、クロウはすぐに教室に戻るとそれらを羨ましそうに見ていたセドリックの元へ行った。
急に話しかけられたセドリックは驚いていたようだが、クロウは言いたいことだけを伝えた。
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だが、アリエルの事はもうあきらめてもらうしかない。彼女とセドリックはもう世界を違えてしまったのだから。
アリエルたちを見送っていたのはセドリックだけではなかった。
周りで見ていた令息令嬢達は苦々しい顔をしていた。自分たちが優位に立っていたはずが、一気に逆転された気分だったのだ。
心の奥底では自分たちの身勝手な言動を自覚している者もいた。
しかしそれを省みることなく、まだアリエルが悪いと思う彼らと、先ほどアリエルに謝罪をした者達の未来を大きく分けることになった。
しばらくして、アリエルを助けた謎の貴族というのが、ドラゴナ神国の王族だという情報が回り始めた。
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