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断罪 1
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広間は、先ほどの二人を褒めたたえ楽しそうにする者と、青ざめるもの達とに二分されていた。
そこに宰相の声が響く。
高位貴族で学院に籍を置く息子がいる数名の名前が読み上げられた。
呼ばれた者は子息とともに前に、という声に従い公爵や侯爵が前に進み出る。
子息たちは蒼白な顔をしてうつむき、その親たちの反応は青ざめたり、首をひねる者など様々だった。
そして国王から声がかけられる。
「今呼ばれた者たちは降爵の上、現在学院に籍のある子息を除籍するよう命じる。」
前に呼び出されたものばかりか、会場中にどよめきが走る。
言い渡された公爵や侯爵が
「陛下!どういうことですか!」
「私どもが何をしたと!」
口々に訴えるのを国王は黙らせる。
そして続いてまた宰相が貴族の名を呼び、今度は令嬢とともに前に出るよう告げた。
呼ばれた者たちはすでに顔が真っ青で、令嬢などは親に支えられないと立っていられない者もいた。
「今呼ばれたもの達は、一方的に婚約破棄をされたと聞いている。辛い思いをしたな。」
国王の優しい物言いに、自分たちも処罰を受けると思っていた令嬢とその親たちは
「左様でございます!」
と生気が戻ったように訴えた。
そして、会場にいるもの達も、令嬢たちは被害者で、令息側が一方的に婚約破棄をしたがゆえに罰を受けたのだと解釈した。
「して、多くの者は新しく婚約が決まったと聞いているが間違いないか?」
「さようでございます。娘の友人のおかげで新たな縁を結ぶことが出来ました。感謝しております。」
「うちもです、こちらのハルメ公爵令嬢が自国の貴族や知り合いの貴族を紹介してくださり、優秀な婿を迎えることが出来そうです。」
「そうか。ハルメ公爵令嬢、我が国の貴族の醜聞になるところを尽力の上収めてくれたこと礼を言う。」
国王はサンドラに向かい、礼を言った。
留学生のサンドラも外交の一環として本日のパーティに招かれていた。
「まあ、ありがたいお言葉をいただき恐れ多いことでございます。わたくしはご学友の皆様のお力になれればと微力ながら口添えをさせていただいただけですわ。」
サンドラは美しい顔に笑みを浮かべ、国王に礼を返した。
「さようか。では、沙汰を下す。今、名を呼ばれた者は領地の半分を国に返還、学院に籍をおく娘を退学させ婚姻は平民とのみ許可する。そしてハルメ公爵令嬢を拘束せよ。」
国王の言葉に騎士たちが動き、サンドラを拘束した。
「何をなさいます!」
サンドラが驚いたように叫び、ポロポロと涙を落とす。
そして力なく、されるがままに床に崩れ落ちる。
処罰を下された者達も自分たちの処遇に不満を訴える間もなく、目の前で起こっている騒ぎに驚き固まってしまっている。
国王が朗々とした声で、理由を述べていく。
「お前は自国で命を狙われて留学という名のもと逃げてきたと、我が国の高位貴族たちをたぶらかし、家門同士の関係を崩し、自国の者たちとの縁を結ばせた。」
「それはお力になれればと・・・善意からしたことでございます。なぜこのようなひどいことを・・・」
ポロポロとはかなげに泣くサンドラに同情する者もいる。
「ほう、そのようにして令息たちを手玉に取ったか。」
国王は冷ややかにサンドラを見据える。
「自分が婚約を壊しながら、親切めかして令息にも令嬢にも自国の貴族や自分の息のかかった相手を紹介する。婚約者が軒並みそなたの国の息がかかった者になると次代にはその国の意思が反映され、この国はじわじわと乗っ取られていく。お前たちが先頭に立って国を滅亡に導く売国奴となっていたのだ!」
後半は名を呼ばれた貴族たちに向けられて告げられた。
戦争も起こらず争いがないままにいつの間にか国が簒奪されていく。そんな危険性にいわれて初めて気がついた浅はかな者達は身を震わせた。
これがもし事実なら・・・本来なら家ごと取り潰しだ。降爵されたとはいえ、これでも温情をかけられたのだ。
「サンドラ・ハルメ。このような公爵令嬢は存在せぬ。これは隣国の者でもない。アギヨン国の工作員だ。お前たちが紹介された者達も隣国の者ではない、アギヨン国の手の者だ!」
広間中がざわめきに包まれる。
アギヨン国とは好戦的で知られている。今も他国と戦争中のはずだ。
「陛下、何かの間違いでございます!もう一度きちんとお調べくださいませ!」
サンドラがか弱い声で、震えながら精いっぱい訴える。
「ドラゴナ神国。かの国を敵に回したお前の負けだ。お前はワトー前侯爵を殺害するようその弟に工作を仕掛けて追い詰め、操ったのだろう。そしてアリエル嬢まで亡き者にしようと刺客を放ったのもわかっている。我々ではつかめなかったその事実をかの国が明らかにし、貴様の正体を見破り、証拠も証人も揃えて下さったのだ。」
ずいぶん前の事件にも拘らず、サンドラがいつどこで誰と会っていたのか。どのようにダニエルを追い詰めそそのかしたのか。他にも潜入していた仲間との連絡方法や、アジトなどなど詳細な調査報告書が提出された。どこでどう調べたのか、密室でしかわからないようなことまで記載されていた。
アリエルの事件においても同様に詳細な報告書があげられていた。
「そ、そんなものいくらでも偽造できるではありませんか!何の証拠にもなりません!」
「そうか、彼らをここへ!」
国王の声に騎士たちが連れてきたのは、サンドラと同じくこの国に入り込んでいた工作員たちだった。アリエルの父を殺した実行犯も含まれている。
そのうちの一人がガタガタと震えながら、サンドラが工作員であること、彼女がこの国の次世代の子供たちを取り込む一方、それを足掛かりにその親とも工作員が接触してゆき、信頼を得て中枢に入り込むことを告白した。
婚姻、就労、業務提携や取引を通して内情を把握して工作員を送り込み、国の内へ内へと入り込んでゆく。
緩やかな簒奪が頓挫しそうな場合は、同盟という名の併合を飲ませるか、受け入れられないというのなら侵攻しこの国を奪う計画も同時に進んでいたと白状した。
仲間の証言を聞き、サンドラは顔を歪めた。
サンドラは母国の密命を受けてこの国を簒奪する種をまきに来た。
サンドラは幼い時から人に頼って生きるしかなかった境遇だった。
その中で自分には人の好意を操り、自分に有利になるよう誘導できる力があることに気がついた。
もっとも心身ともに健康な大人には社交的好意を持ってもらう程度で、心が弱ったり、隙があったり、また思春期で心が不安定の者達を手玉に取るくらいの力に過ぎなかったが、ある男がその力に目を止め、引き取られて国の為に働くように教育された。
足りない部分を補うよう工作員として教育されたサンドラには、学院生を操るくらいたやすいことだった。
コベール国を内から崩していくのにまず国内外ともにその名が知られている優秀なアリエルの父が邪魔になった。
だからダニエルの事業を妨害し、兄の仕業だと思わせて、憎しみをあおりたきつけ殺意が湧くよう誘導した。
そして、アリエルを息子の嫁にと望むダニエルに、協力してセドリックを誘惑した。途中で我に返り、他の令息のようにサンドラに傾倒させることは出来なかったが、二人の間を引き裂くことは出来た。
しかし、サンドラはアリエルの存在が邪魔だった。
ワトー侯爵家には祖国の者を送り込むつもりだったし、アリエルとと仲良くしている人間は急に正気に戻って疑問を感じることもあったから、自分に傾倒しているもの達を使って噂をばらまき孤立させた。
いや、一番の理由は、気に入らなかったから。
自分に意見し、自分に傾倒しないアリエル。何の力も使わずに人から好意を寄せられ、頼りにされていたアリエルが憎かったのだ。
襲撃が成功し、死んだと思っていたのに。まさかドラゴナ神国の者達を引き連れて生還するとは思わなかった。
そして魅力的なクロウに嫌悪の目をむけられるのが、サンドラのプライドをますます傷つけた。
それもこれもすべてアリエルのせいだ。あの襲撃の時に死んでいればこんな屈辱を味あわされなくて済んだものを。
サンドラは奥歯を噛みしめた。
このまま、拘束されて拷問されるか、逃げることが出来たところで失敗の責任をとらされるだろう。
ぺらぺら話す仲間を軽蔑したまなざしで見る。
どんな拷問を受けたのかは知らないが、祖国をあっさり裏切るとは信じられない。もうあいつらには未来はない、
この国で拘束されたとて、必ず敬愛する皇帝陛下が殺すだろうから。
自分は裏切り者になるつもりはない。
そこに宰相の声が響く。
高位貴族で学院に籍を置く息子がいる数名の名前が読み上げられた。
呼ばれた者は子息とともに前に、という声に従い公爵や侯爵が前に進み出る。
子息たちは蒼白な顔をしてうつむき、その親たちの反応は青ざめたり、首をひねる者など様々だった。
そして国王から声がかけられる。
「今呼ばれた者たちは降爵の上、現在学院に籍のある子息を除籍するよう命じる。」
前に呼び出されたものばかりか、会場中にどよめきが走る。
言い渡された公爵や侯爵が
「陛下!どういうことですか!」
「私どもが何をしたと!」
口々に訴えるのを国王は黙らせる。
そして続いてまた宰相が貴族の名を呼び、今度は令嬢とともに前に出るよう告げた。
呼ばれた者たちはすでに顔が真っ青で、令嬢などは親に支えられないと立っていられない者もいた。
「今呼ばれたもの達は、一方的に婚約破棄をされたと聞いている。辛い思いをしたな。」
国王の優しい物言いに、自分たちも処罰を受けると思っていた令嬢とその親たちは
「左様でございます!」
と生気が戻ったように訴えた。
そして、会場にいるもの達も、令嬢たちは被害者で、令息側が一方的に婚約破棄をしたがゆえに罰を受けたのだと解釈した。
「して、多くの者は新しく婚約が決まったと聞いているが間違いないか?」
「さようでございます。娘の友人のおかげで新たな縁を結ぶことが出来ました。感謝しております。」
「うちもです、こちらのハルメ公爵令嬢が自国の貴族や知り合いの貴族を紹介してくださり、優秀な婿を迎えることが出来そうです。」
「そうか。ハルメ公爵令嬢、我が国の貴族の醜聞になるところを尽力の上収めてくれたこと礼を言う。」
国王はサンドラに向かい、礼を言った。
留学生のサンドラも外交の一環として本日のパーティに招かれていた。
「まあ、ありがたいお言葉をいただき恐れ多いことでございます。わたくしはご学友の皆様のお力になれればと微力ながら口添えをさせていただいただけですわ。」
サンドラは美しい顔に笑みを浮かべ、国王に礼を返した。
「さようか。では、沙汰を下す。今、名を呼ばれた者は領地の半分を国に返還、学院に籍をおく娘を退学させ婚姻は平民とのみ許可する。そしてハルメ公爵令嬢を拘束せよ。」
国王の言葉に騎士たちが動き、サンドラを拘束した。
「何をなさいます!」
サンドラが驚いたように叫び、ポロポロと涙を落とす。
そして力なく、されるがままに床に崩れ落ちる。
処罰を下された者達も自分たちの処遇に不満を訴える間もなく、目の前で起こっている騒ぎに驚き固まってしまっている。
国王が朗々とした声で、理由を述べていく。
「お前は自国で命を狙われて留学という名のもと逃げてきたと、我が国の高位貴族たちをたぶらかし、家門同士の関係を崩し、自国の者たちとの縁を結ばせた。」
「それはお力になれればと・・・善意からしたことでございます。なぜこのようなひどいことを・・・」
ポロポロとはかなげに泣くサンドラに同情する者もいる。
「ほう、そのようにして令息たちを手玉に取ったか。」
国王は冷ややかにサンドラを見据える。
「自分が婚約を壊しながら、親切めかして令息にも令嬢にも自国の貴族や自分の息のかかった相手を紹介する。婚約者が軒並みそなたの国の息がかかった者になると次代にはその国の意思が反映され、この国はじわじわと乗っ取られていく。お前たちが先頭に立って国を滅亡に導く売国奴となっていたのだ!」
後半は名を呼ばれた貴族たちに向けられて告げられた。
戦争も起こらず争いがないままにいつの間にか国が簒奪されていく。そんな危険性にいわれて初めて気がついた浅はかな者達は身を震わせた。
これがもし事実なら・・・本来なら家ごと取り潰しだ。降爵されたとはいえ、これでも温情をかけられたのだ。
「サンドラ・ハルメ。このような公爵令嬢は存在せぬ。これは隣国の者でもない。アギヨン国の工作員だ。お前たちが紹介された者達も隣国の者ではない、アギヨン国の手の者だ!」
広間中がざわめきに包まれる。
アギヨン国とは好戦的で知られている。今も他国と戦争中のはずだ。
「陛下、何かの間違いでございます!もう一度きちんとお調べくださいませ!」
サンドラがか弱い声で、震えながら精いっぱい訴える。
「ドラゴナ神国。かの国を敵に回したお前の負けだ。お前はワトー前侯爵を殺害するようその弟に工作を仕掛けて追い詰め、操ったのだろう。そしてアリエル嬢まで亡き者にしようと刺客を放ったのもわかっている。我々ではつかめなかったその事実をかの国が明らかにし、貴様の正体を見破り、証拠も証人も揃えて下さったのだ。」
ずいぶん前の事件にも拘らず、サンドラがいつどこで誰と会っていたのか。どのようにダニエルを追い詰めそそのかしたのか。他にも潜入していた仲間との連絡方法や、アジトなどなど詳細な調査報告書が提出された。どこでどう調べたのか、密室でしかわからないようなことまで記載されていた。
アリエルの事件においても同様に詳細な報告書があげられていた。
「そ、そんなものいくらでも偽造できるではありませんか!何の証拠にもなりません!」
「そうか、彼らをここへ!」
国王の声に騎士たちが連れてきたのは、サンドラと同じくこの国に入り込んでいた工作員たちだった。アリエルの父を殺した実行犯も含まれている。
そのうちの一人がガタガタと震えながら、サンドラが工作員であること、彼女がこの国の次世代の子供たちを取り込む一方、それを足掛かりにその親とも工作員が接触してゆき、信頼を得て中枢に入り込むことを告白した。
婚姻、就労、業務提携や取引を通して内情を把握して工作員を送り込み、国の内へ内へと入り込んでゆく。
緩やかな簒奪が頓挫しそうな場合は、同盟という名の併合を飲ませるか、受け入れられないというのなら侵攻しこの国を奪う計画も同時に進んでいたと白状した。
仲間の証言を聞き、サンドラは顔を歪めた。
サンドラは母国の密命を受けてこの国を簒奪する種をまきに来た。
サンドラは幼い時から人に頼って生きるしかなかった境遇だった。
その中で自分には人の好意を操り、自分に有利になるよう誘導できる力があることに気がついた。
もっとも心身ともに健康な大人には社交的好意を持ってもらう程度で、心が弱ったり、隙があったり、また思春期で心が不安定の者達を手玉に取るくらいの力に過ぎなかったが、ある男がその力に目を止め、引き取られて国の為に働くように教育された。
足りない部分を補うよう工作員として教育されたサンドラには、学院生を操るくらいたやすいことだった。
コベール国を内から崩していくのにまず国内外ともにその名が知られている優秀なアリエルの父が邪魔になった。
だからダニエルの事業を妨害し、兄の仕業だと思わせて、憎しみをあおりたきつけ殺意が湧くよう誘導した。
そして、アリエルを息子の嫁にと望むダニエルに、協力してセドリックを誘惑した。途中で我に返り、他の令息のようにサンドラに傾倒させることは出来なかったが、二人の間を引き裂くことは出来た。
しかし、サンドラはアリエルの存在が邪魔だった。
ワトー侯爵家には祖国の者を送り込むつもりだったし、アリエルとと仲良くしている人間は急に正気に戻って疑問を感じることもあったから、自分に傾倒しているもの達を使って噂をばらまき孤立させた。
いや、一番の理由は、気に入らなかったから。
自分に意見し、自分に傾倒しないアリエル。何の力も使わずに人から好意を寄せられ、頼りにされていたアリエルが憎かったのだ。
襲撃が成功し、死んだと思っていたのに。まさかドラゴナ神国の者達を引き連れて生還するとは思わなかった。
そして魅力的なクロウに嫌悪の目をむけられるのが、サンドラのプライドをますます傷つけた。
それもこれもすべてアリエルのせいだ。あの襲撃の時に死んでいればこんな屈辱を味あわされなくて済んだものを。
サンドラは奥歯を噛みしめた。
このまま、拘束されて拷問されるか、逃げることが出来たところで失敗の責任をとらされるだろう。
ぺらぺら話す仲間を軽蔑したまなざしで見る。
どんな拷問を受けたのかは知らないが、祖国をあっさり裏切るとは信じられない。もうあいつらには未来はない、
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