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珠の記憶 1
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「ねえ、クロウ。どうしたらいいのかしら。前回もお断りしたのにルブラン侯爵は納得してくれないようなの。」
セドリックの父は社交の場で、まるで自分の息子こそがいまだにアリエルの婚約者であるかのように吹聴しているようだ。
当然婚約破棄にも解消にも応じない。
「どうあがこうとどうにもならないのに。こちらからあちら有責で婚約破棄を突き付けることは出来ますよ。サンドラから資金援助を受けていただけでも十分な罪なのだから。」
「ええ、わかっているわ。でも彼が少し可哀想で。なんだかいつも必死な様子で、こちらまで悲しくなるくらい。だからあまりひどい婚約破棄をしたくないの、彼のこれからの事があるでしょう?」
アリエルの優しさなのかもしれない、だが無意識にかばうほどのアリエルの想いからの言葉とすればこのままでいいのかともクロウは思う。
「あの男はあの親狸と違い、まっすぐだったから哀れだと思います。でもあの男は対処を間違えた。何かあった時に情に流され判断を誤るようではお嬢を守れない。それにもう住む世界は異なります、はっきりと言ってやる方があの男のためですよ。」
クロウが告げる。
「うん。最後にもう一度話をしてきちんとお別れをするわね。」
「はい、それがいいと思います。ですが・・・先日も申しましたが記憶はそのままでのお別れで後悔はありませんか?」
自分の記憶喪失はシャルルによるものだとアリエルは聞いていた。
アリエルが落ち着いたころ、シャルルが説明してくれたのだ。
コベール国で両親の事で心労があったうえに、学院でも人間関係が破綻し、婚約者の裏切りがあった。そのためアリエルは倒れ、食事もとれなくなったためアリエルを守るために記憶を一時預かったと。
アリエルが必要な時にその記憶は戻すことできるのだと。
「クロウの言うようにもう住む世界は違うし、珠の記憶は私にはもう必要ないのではなくて?私は・・・彼の事を思い出したくはないわ。」
アリエルはクロウを見つめてそう言った。
「記憶がないからそう思うだけかもしれません。」
「クロウは・・・私が彼を思い出した方がいいの?」
少し悲し気にアリエルはうつむく。
「いえ・・・そうではありません。本音ではそんな記憶など捨ててしまえばいいと思ってます。ただ・・・あの男といるときのお嬢は、そばで見ていて眩しいくらいに幸せそうでした。辛いこともありましたが、あの眩しく幸せだった記憶は大切なものだと思う。辛くてもお嬢を形つくった大切なものだから。」
アリエルは両手をぎゅっと握りしめながら、
「クロウ・・・でも私はあなたを・・・」
震える声でそう言った。
そんなアリエルをクロウは驚いたように見つめ、片手で口を覆った。
「お嬢・・・俺も。俺もお嬢を愛してます。ずっとずっと前から。」
「クロウ!」
アリエルはポロポロっと涙をこぼした。
「それなのに記憶を取り戻す方がいいというの?もし・・・もし・・・私が彼の方に行きたいと思ったらどうするの?お母さまのように種族を越える道を選ぶかもしれないじゃない!私の今の気持ちはどこへ行くの?偽物なの?」
アリエルは涙を落としながら、不安そうに俯く。。
「お嬢、落ち着いて。偽物なんかであるわけないでしょう。俺は今すごく嬉しい、幸せです。不要なことを申し上げたことお詫びします。ただ俺は・・・お嬢には真の幸せを掴んで欲しいから。」
記憶など思い出さない方が何の憂いもなくクロウと幸せになれると思うのに。クロウは思い出した方がいいようなことを言う。
クロウは私の事を愛していると言ってくれたけど、それは仕える者に恥をかかせてはいけないというクロウの配慮だったのかもしれない。
アリエルがそう落ち込んでいた時、
「クロウもな、記憶を失っているんじゃよ。」
重大な秘密を話すようにシャルルが打ち明けた。
「ええ!?」
「あいつにも大切な人がいたんじゃが・・・そんな記憶もすべて失ってしまってのう。だが記憶を失ったということは、初めからなかったに等しい。でもあいつはアリエルに会って幸せそうだろう?だから、アリエルも記憶を取り戻さずとも幸せには変わりはない。」
アリエルは思ってもみないことで驚いた。
そして自分の胸の中につきんとした痛みを感じたが、その正体はわからなかった。
「どうして・・・どうしてクロウはその方の記憶を失ったのですか?その方が今どうされているのですか?」
シャルルはふっと笑うと
「知らん。」
とのたまった。
「だって嘘じゃからな。」
「ええ?お爺様⁉」
「アリエルが悩んでいる様子じゃったから、反対の立場になれば進むべき道がわかるだろうと思っての。」
シャルルは優しく笑うとアリエルの頭を撫でた。
「お爺様・・・」
もし立場が反対なら?
クロウが心から愛していた人の記憶がないまま、私に求婚をしてくれたら・・・クロウが愛するのは、本当はその人で自分ではないのかもしれないとの不安が一生付きまとうだろう。それで心から幸せになれるのだろうか。
クロウの気持ちを考えたら珠の記憶を戻す方がいいのかもしれない。でももしそれでクロウへの気持ちが揺らいだら?
想像すると怖くなる。
このまま思い出さずにただクロウへの気持ちだけを持って前に進むのか、思い出して二人の間を揺れ動くことになってしまうのか、それとも前の婚約者の事しか思えなくなるのだろうか・・・
アリエルは選択を迫られることになった。
セドリックの父は社交の場で、まるで自分の息子こそがいまだにアリエルの婚約者であるかのように吹聴しているようだ。
当然婚約破棄にも解消にも応じない。
「どうあがこうとどうにもならないのに。こちらからあちら有責で婚約破棄を突き付けることは出来ますよ。サンドラから資金援助を受けていただけでも十分な罪なのだから。」
「ええ、わかっているわ。でも彼が少し可哀想で。なんだかいつも必死な様子で、こちらまで悲しくなるくらい。だからあまりひどい婚約破棄をしたくないの、彼のこれからの事があるでしょう?」
アリエルの優しさなのかもしれない、だが無意識にかばうほどのアリエルの想いからの言葉とすればこのままでいいのかともクロウは思う。
「あの男はあの親狸と違い、まっすぐだったから哀れだと思います。でもあの男は対処を間違えた。何かあった時に情に流され判断を誤るようではお嬢を守れない。それにもう住む世界は異なります、はっきりと言ってやる方があの男のためですよ。」
クロウが告げる。
「うん。最後にもう一度話をしてきちんとお別れをするわね。」
「はい、それがいいと思います。ですが・・・先日も申しましたが記憶はそのままでのお別れで後悔はありませんか?」
自分の記憶喪失はシャルルによるものだとアリエルは聞いていた。
アリエルが落ち着いたころ、シャルルが説明してくれたのだ。
コベール国で両親の事で心労があったうえに、学院でも人間関係が破綻し、婚約者の裏切りがあった。そのためアリエルは倒れ、食事もとれなくなったためアリエルを守るために記憶を一時預かったと。
アリエルが必要な時にその記憶は戻すことできるのだと。
「クロウの言うようにもう住む世界は違うし、珠の記憶は私にはもう必要ないのではなくて?私は・・・彼の事を思い出したくはないわ。」
アリエルはクロウを見つめてそう言った。
「記憶がないからそう思うだけかもしれません。」
「クロウは・・・私が彼を思い出した方がいいの?」
少し悲し気にアリエルはうつむく。
「いえ・・・そうではありません。本音ではそんな記憶など捨ててしまえばいいと思ってます。ただ・・・あの男といるときのお嬢は、そばで見ていて眩しいくらいに幸せそうでした。辛いこともありましたが、あの眩しく幸せだった記憶は大切なものだと思う。辛くてもお嬢を形つくった大切なものだから。」
アリエルは両手をぎゅっと握りしめながら、
「クロウ・・・でも私はあなたを・・・」
震える声でそう言った。
そんなアリエルをクロウは驚いたように見つめ、片手で口を覆った。
「お嬢・・・俺も。俺もお嬢を愛してます。ずっとずっと前から。」
「クロウ!」
アリエルはポロポロっと涙をこぼした。
「それなのに記憶を取り戻す方がいいというの?もし・・・もし・・・私が彼の方に行きたいと思ったらどうするの?お母さまのように種族を越える道を選ぶかもしれないじゃない!私の今の気持ちはどこへ行くの?偽物なの?」
アリエルは涙を落としながら、不安そうに俯く。。
「お嬢、落ち着いて。偽物なんかであるわけないでしょう。俺は今すごく嬉しい、幸せです。不要なことを申し上げたことお詫びします。ただ俺は・・・お嬢には真の幸せを掴んで欲しいから。」
記憶など思い出さない方が何の憂いもなくクロウと幸せになれると思うのに。クロウは思い出した方がいいようなことを言う。
クロウは私の事を愛していると言ってくれたけど、それは仕える者に恥をかかせてはいけないというクロウの配慮だったのかもしれない。
アリエルがそう落ち込んでいた時、
「クロウもな、記憶を失っているんじゃよ。」
重大な秘密を話すようにシャルルが打ち明けた。
「ええ!?」
「あいつにも大切な人がいたんじゃが・・・そんな記憶もすべて失ってしまってのう。だが記憶を失ったということは、初めからなかったに等しい。でもあいつはアリエルに会って幸せそうだろう?だから、アリエルも記憶を取り戻さずとも幸せには変わりはない。」
アリエルは思ってもみないことで驚いた。
そして自分の胸の中につきんとした痛みを感じたが、その正体はわからなかった。
「どうして・・・どうしてクロウはその方の記憶を失ったのですか?その方が今どうされているのですか?」
シャルルはふっと笑うと
「知らん。」
とのたまった。
「だって嘘じゃからな。」
「ええ?お爺様⁉」
「アリエルが悩んでいる様子じゃったから、反対の立場になれば進むべき道がわかるだろうと思っての。」
シャルルは優しく笑うとアリエルの頭を撫でた。
「お爺様・・・」
もし立場が反対なら?
クロウが心から愛していた人の記憶がないまま、私に求婚をしてくれたら・・・クロウが愛するのは、本当はその人で自分ではないのかもしれないとの不安が一生付きまとうだろう。それで心から幸せになれるのだろうか。
クロウの気持ちを考えたら珠の記憶を戻す方がいいのかもしれない。でももしそれでクロウへの気持ちが揺らいだら?
想像すると怖くなる。
このまま思い出さずにただクロウへの気持ちだけを持って前に進むのか、思い出して二人の間を揺れ動くことになってしまうのか、それとも前の婚約者の事しか思えなくなるのだろうか・・・
アリエルは選択を迫られることになった。
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